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第二章
第八十二話 天使の素材
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「──コレがお目当てのアイテムですか?」
リリアが天使系モンスター〈射光の下位天使〉の死体から1つのアイテムを取り上げる。
死んだことで肉体の質感は粘土のようになっており、簡単に素材を採取することが可能になっていた。
リリアが見せてきたアイテムの名称は〈天威の結晶〉と言う。
天使系モンスターからのみ獲得できる消費型のマジックアイテムであり、使用すると覚醒者の能力値の一部を永続的に増大させてくれる効果があるため、覚醒者等級に関わらず人気のあるアイテムだ。
そんな画期的な効果があるだけあって販売価格は非常に高く、俺も回帰前では2回しか購入したことがない。
等級の高い天威の結晶であれば増大する能力値の数値も大きくなるが、下位天使であるエンジェルシューターから獲得できる天威結晶だと大体1~5ほどしか上がらず、1度に増大する能力値の種類も1つだけだ。
今の俺には【魔喰ノ精霊王】の【魔喰ノ王権】があるため必要性は低いが、【魔喰ノ王権】の発動は確定ではないため、少し惹かれる。
「いや、目的は天威の結晶じゃないよ。まぁ、高く売れるし有用だから回収はするけど。この天使達自体が目的というわけでもないが、一応コレは必要だな」
そう言って足元に散らばっている天使系モンスターの死体から天使の翼をもぎ取って見せる。
身体の方は粘土質になっていたが、背中から生える一対の白翼は透明のガラスへと変化していた。
粘土の中にガラスが刺さっているような状態であるため、こちらのアイテムも簡単に採取することが可能だ。
「確か〈結晶翼〉というアイテムでしたっけ? 頑丈なガラス細工や装身具系のマジックアイテムの素材に使えるアイテムだった気がします」
「そう、その結晶翼だ。目的のモノを手に入れるにはコレがセットで必要なんだ」
「目的のモノ……幾つ必要なんですか?」
「うーん、2人だから2セット必要なんだが、コレを使う場所に向かうには俺達だけだと厳しそうなんだよな」
「えっと、どういうことでしょうか?」
情報漏洩を気にして詳しく説明せずに話を進めていたが、流石にこれだけだと分かり難いか。
まぁ、周りには誰もいないし、リリアとは守秘義務の契約を結んでいるから大丈夫かな?
「この〈堕天の回廊〉には結晶翼を使う場所があるんだ。その場所で使用した結晶翼のセット数と同じ人数まで特別な報酬が得られる。だから本来なら2人分だけなんだが、そこまでの道中は大変危険でな。俺達2人の戦闘力では若干厳しそうだから、パーティーメンバーの増員も考えている」
「先ほどのクロヤさんのワンちゃんがいてもですか?」
ワンちゃん……あの巨大な闇の狼をワンちゃん呼ばわりできるあたり、リリアの肝は据わっているな。
「いてもだな。目的地に辿り着くまでに遭遇する可能性がある天使系モンスターは、たった今俺達が倒した雑魚天使よりも高位だ。数はここまでではないが、単純に1体あたりの強さが強いし、先に進むに連れて橋の上でも襲ってくるから、今後は下の方も警戒する必要がある。だから、戦闘中の敵意管理が重要なんだが、クロウの回避力では最後まで保たないから無駄に魔力を消費するだけだ」
「敵の数を半分まで減らしていましたけど、集中放火を避け切れていませんでしたものね。この天使達よりも強い天使なら尚更保ちませんか……」
「そういうことだ。俺がその役割を担う手もあるが、回避に集中することになるから殲滅力は大幅に下がる。火力は主にリリア頼りになるわけだが、敵が何体出てくるか分からない状況下で魔法使いのリリア1人に頼るのはリスキーだ」
「そうですね。〈魔女〉クラスは魔力量が多いですし、高額ですが魔力回復アイテムもありますから魔力については問題ないと思います。ですが、魔法行使によって摩耗する精神を回復させる手段がないので、そちらの面で不安があります」
「天使系は魔法耐性もあるから、そういう意味でも余計に精神が擦り減るだろうな」
魔法という力は強力ではあるが、発動エネルギーである魔力以外でも、集中力やストレスといった精神的な要因によって性能が左右される。
とはいえ、戦士だって体調や怪我によって戦闘力が変わるため、これは何も魔法使いに限った欠点というわけではない。
人数が少なければ少ないほど、長時間の戦闘や強敵との戦いにおける1人あたりの負担が大きくなるのは必然だ。
ダンジョンの攻略において、複数人のパーティーやより大人数のギルドでの挑戦が推奨されている1番の理由がこれだった。
使い捨て可能な具現体のクロウで代用できるのが理想だったが、摩天楼ダンジョンであることを考えると流石に無理があったか。
「となると、新メンバーが必要ですね」
「そうなるな。だから、その増やすメンバー分の結晶翼も確保しておく必要があるんだが、何人増やすかが問題だ」
「話の流れから、増やすのは頑丈な盾役ですよね? なら、全部で3セット分だと思いますけど」
「もしかすると、2人以上見つかるかもしれないだろ?」
「……摩天楼ダンジョンで戦えるレベルかつ、ギルド無所属の少人数パーティーが都合良くいないと思いますよ」
「そうかな? 探せばいると思うけど、そこまでする時間的余裕はないか」
いつ覚醒者のランク制度と、そのランクによるダンジョンの入場制限が定められるか分からないから、あまり時間はかけられない。
だから、最低限の盾役が見つかったら目的地に向かった方がいいだろう。
最悪の場合は、レイカ先輩のガーベラギルドから盾役のギルメンを借りることも考えるべきか。
不必要な情報は渡したくないから、これは最終手段だな。
「取り敢えず、探索者コミュニティのサイトで探してみるか。マトモな人格の奴がいるといいんだけど」
「……一応、知り合いにいるじゃないですか、盾役の探索者が」
初対面だと人格の良し悪しが分からないのが問題だ、と考えていると、リリアが渋々といった様子で候補者がいることを告げてきた。
「……誰かいたっけ?」
「マリヤです。鞠川マリヤ。この間助けたじゃないですか」
「ああ……そういえば盾役っぽい感じだったな」
肉感的なスタイルの長身美女という印象が強すぎて、能力的に最適だというのにパーティーメンバー候補に結び付かなかった。
能力的にも敵意を集めるのは得意そうだな……ある意味では外見的にもな。
「無事に仮入団していたギルドは脱退できたのか?」
「出来たみたいですよ。なので今はフリーだそうです」
「そうか。それなら連絡をとってもらっていいか?」
「分かりました」
マリヤと連絡先を交換していたリリアに連絡を取るよう頼むことにしたのだが、何故か彼女は複雑そうな表情を浮かべていた。
「気乗りしないなら別の人にするか?」
「いえ、マリヤ個人に思うことはありません。良い子ですから。ただ、まぁちょっと色々ありまして……」
「そうか? まぁ、それなら任せた」
仲が悪いわけじゃないなら大丈夫かな?
言葉を濁すリリアの反応が気になるが、問い質すほどのことではないので気にしないことにした。
さて、後は彼女が承諾してくれるかどうかだな。
リリアの時は運命属性魔力絡みの問題の解決の流れであっさりパーティーを組むことになったが、マリヤは何と言って勧誘すべきか……ま、なるようになるか。
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