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(二十二)老母無残
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翌朝。
半年にわたって閉ざされ続けていた佐和山城の大手門が、静かに開かれた。
(これで仕舞いか。終わってみれば、呆気ないものよ)
人質に出される美緒を載せた女駕籠に付き添いながら、員昌は泣きたくなる気持ちをこらえて門外へと踏み出す。
「よくご決断なされました」
供を連れて出迎えに現れた丹羽長秀が、慇懃に頭を下げた。
員昌は言葉少なに応じ、その場で証人を交換する手続きに移る。
員昌は娘を送り出し、入れ違いに長秀からは織田於菊丸を引き渡される。
「道中、よろしくお願いいたします」
於菊丸は物怖じしないにこやかな表情で頭を下げた。
上背があり、信長に似た細面の面貌は、幼名から員昌が想像していたよりも随分年上に見えた。
聞けば、今年で十四歳だと言う。
元服も間近の凛々しい若武者を前に、員昌はつい、表だった場所に顔を出せない我が子との差を感じてしまう。
証人を交換した後、丹羽勢に護送される形で員昌はおよそ五百の手勢と親族衆を連れて小谷城に向けて出立する。
気持ちとしては足取りが軽やかなはずもないが、心とは裏腹に歩みは早い。
皮肉にも、武具を取り上げられて、身体の方は軽いためであった。
騎乗を許された員昌も、愛用の「無銘」の鑓を長秀に託している。
「無銘」も、小谷城への入城にあたって返還される約定であった。
久しぶりに城の外に出たが、景色を楽しむ気持ちなどないまま、一行は東山道を北上する。
馬上の員昌は、長政にどのように報告すべきか考えを巡らせていた。
城を開いたことで長政からの叱責は必至であるが、それも覚悟のうえだ。
これまで直接の意思疎通ができなかったことで、行き違いも多々あるだろう。
弁明の機会が与えられたなら、どのように申し開きをするべきか。
(いや、言葉ではなく軍功を以て忠誠を示すべきであろう。手勢は少なくなっても、殿の馬前でもうひと働きする自信はある)
員昌は心中深く、そう思い定めていた。
しかし。
「これ以上は進めませぬ」
先ぶれとして小谷城に派遣していた使者が、顔面を蒼白にして戻ってきて員昌に報告した。
「それはいかなる意味じゃ。仔細を申せ」
ただならぬ使者の様子に嫌な予感を感じつつ、馬上の員昌は厳しい表情で説明を促す。
「殿は、我等が織田に通じたと申され、入城を拒絶されました」
使者は、顔をゆがめて両目から涙をあふれさせた。
「馬鹿なっ」
絶句する員昌に、追い打ちをかけるように使者は言葉を継ぐ。
「申し上げにくことながら、丁野にて、殿の御母堂様の骸が磔にされておりまする」
「なんじゃと」
呻き声を漏らした員昌は、その後の言葉が続かない。
夫を亡くして以来、形ばかりの人質として小谷城で暮らしていた母が処刑されるなど、まったく想像すらしない事態だった。
熱を帯びた頭が働かず、鞍から転げ落ちそうになるのをかろうじてこらえる。
ただ「謀られた」との言葉だけが繰り返し繰り返し、ぐるぐると回っているだけだ。
ともかく、受け入れを拒否された以上、このまま小谷城に向かって進むことはできない。
最悪の場合、城内から討手が出ようものなら、丸腰の磯野勢は一方的に殺されることになる。
員昌は行軍を止めさせると、主だった家臣を、街道沿いにうち捨てられた小さな社の境内に集めた。
事情を聴き知った者たちは皆、言葉もなく押し黙っている。
「さて、これからどうしたものか」
そう問いかけてはみたものの、誰も答えらしい答えなど返せるはずもない。
床几に腰を下ろした員昌が天を仰いで途方に暮れていると、護送を指揮していた長秀が沈痛な面持ちで員昌の元にやってきた。
「なんとも、見込み違いでござった。母者人が処刑されたとのよし、お悔やみ申し上げる」
敵味方の間柄であるが、長秀は自分が説得して城を開かせた責任を感じている様子であった。
主君に裏切者として見捨てられ、敵であるはずの長秀に慰められているのは、いっそ滑稽ですらあった。
「思いもよらぬとは、まさにこのこと。我等、向後の身の振り方を考えねばならぬ故、しばしお待ち願えぬか」
精いっぱいの虚勢を張って、員昌は応じた。
「承知つかまつった。当家に仕えるおつもりがござれば、我が名にかけてお屋形様に取り次ぎますぞ」
長秀はそう請け合って、その場を離れた。
残された員昌たちは、二月の寒空の下、主だった将が車座になって身の振り方を協議する格好になった。
「若狭の武田でも頼るかのう」
員昌の口から、自嘲の軽口が漏れる。
かつて十三代将軍足利義輝が討たれ、僧籍から還俗した足利義昭が最初に頼った大名が若狭国の武田であった。
恃むに足らずと見切った義昭は越前の朝倉義景の元に行き、そして信長に担がれて京に戻ることになった。
義昭の逃避行の経緯が頭をよぎったので深い意味もなくなぞらえてみたのだが、状況が状況だけに、誰も笑わなかった。
それどころか「殿は若狭に伝手がござるのか」などと嶋秀淳に真顔で問われてしまったので、冗談だとも言えなくなってしまう。
「まあ、手勢を引き連れて若狭まで向かうなど、認められまいて。いずれにせよ、一度は軍勢を解散せねばなるまい」
「解散、にございまするか」
今井家の井戸村光慶が首をかしげる。
武器を取り上げられた一軍が、行軍の途上で瓦解して四散するなど、そうある話ではない。
想像がつかない、というのが正直なところだろう。
「殿の真意は計りかねるところなれど、責めはひとえにそれがしが受けるものであろう。儂はともかく、今井の皆々方におかれては、小谷入城も認められよう」
員昌としては、せっかく同心してついてきてくれた以上、磯野家の家臣はともかく、今井の家臣団は小谷に送り届けたかった。
員昌自身は、己の在所である宮沢城への帰還が認められるはずもないため、別行動をとるしかない。
しかし、今井の家中を代表する形で嶋秀安は首を左右に振った。
「あいや、磯野殿。お言葉なれど、浅井様が磯野殿をお見捨てになられた以上、我等今井の者も同様に浅井から見捨てられたも同然」
それに気づかぬような浅井様であれば、そのような主君は主君として仰ぐに足らず、と嶋秀安は語気を強めて言葉を続けた。
員昌も頷くほかない。
「承知した。『国衆においては在所に戻るも苦しからず』との約定はまだ生きておる筈。丹羽殿にそう掛けあうとしよう」
味方である浅井家から見捨てられ、織田の家臣を頼らざるを得ない状況にあって、長秀の篤実な立ち居振る舞いだけが、今の員昌にとっては頼みの綱であった。
「父上がなんと申されようと、それがしは殿についてまいりますぞ」
嶋秀淳が身を乗り出す。
どういう訳か、その声は場違いなまでに明るかった。
忠節を有り難く思いつつも、員昌としては安易に歓迎できる状況ではない。
「ついていくと申しても、儂の身がどうなるか判らぬぞ。もはや、織田に体よく腹を切らされたとしても文句は言えぬ」
「その折は、それがしが介錯を務めまする」
秀淳に真面目な顔で返されて、員昌は思わず苦笑する。
「磯野殿。それがしからも御頼み申す。愚息は粗忽者なれど、お連れ下され。我等はまだ、磯野殿と縁を切るつもりはございませぬゆえ、お傍におかせていただければ幸いにござる」
傍らから、嶋秀安も言葉を添えてくる。
今井定清を同士討ちで死なせてしまったツケは、まだ払い終わっていない。
嶋秀安は言外にそう訴えていた。
「うむ。一蓮托生が望みであれば好きにせよ」
わずかにほおを緩ませた員昌の返事に、秀淳が喜色を浮かべる。
「して、磯野様は如何なされますので。やはり、若狭にございますか」
岩脇定政に問われた員昌は、かつて叔父・員清がしたように家を捨てていずこかに旅立ちたい衝動にふとかられる。
しかし、それは今この場なすべき身の振り方ではないだろう、と思いなおす。
「さて。ひとまずは織田にこの身を委ねる他はないと思うておる。仕官が認められるか、放逐されるか、それとも腹を切らされるか判らぬがな」
嘘偽りのない、員昌の本心であった。
「申し訳ござりませぬ、殿。お傍を離れますこと、どうかお許しいただきたい」
それまで無言であった小堀正房が、不意に平伏する。
その横で正房の嫡子・正次は歯を食いしばって涙をこらえていた。
正次が員昌の女婿である一方、正房は浅井一門の浅井新兵衛亮頼の娘を娶っている。
言葉には出さないが、浅井を敵に回せない正房の苦衷を察せないほど、員昌も鈍くはない。
「構わぬ。儂とともにおれば、そのために死ぬることになるやもしれぬ。その方の決断のおかげで、儂の血が後世に残ることになるやもしれぬでな。何もしてやれぬこと、こちらこそ許してもらいたい」
員昌は声を荒げることなく応じた。
員昌は、立場の異なる二人の娘を相次いで遠いところに手放すことになった。
二人のうち、どちらがよりつらい思いをすることになるのか、などと考えると、さしもの員昌も胸が痛んだ。
その後、それぞれの身の振り方について取り決めた後、員昌は境内の外に待つ長秀の元に足を運んだ。
「お待たせいたした、丹羽殿」
「なんの。急なこととて、御心も揺れておりましょう。話はまとまりましたかな」
長秀は嫌な顔もせずに問うてくる。
「手前勝手な申し出と承知してはおるが……」
そう前置きをした員昌は、手勢は解散させ、なお随身を望む者以外は在所に戻ることを条件に、自身は織田に身を寄せたい旨を伝えた。
「よくぞご決断なされた。全て、この丹羽五郎左が承ったゆえ、安心なされよ」
長秀は真剣な口調で請け合ってくれた。
空手形に終わるかもしれないが、今はこの男に身を委ねる他はなかった。
「おお、お聞きしましたぞ磯野殿。この度はもう、なんと申してよいやら」
そこへ、大音声を響かせて小柄な将が陣羽織をはためかせて駆け寄ってきた。
横山城を預かる木下秀吉だった。
これまでゆっくり言葉を交わしたことこそないものの、員昌は伊勢討ち入れの援軍として派遣された時に同陣している。
秀吉にとっては、姉川の戦いで員昌の指揮下にあった赤田姓にこっぴどく陣を打ち破られた相手でもあるが。
「磯野殿ほどの勇将が、このような場所で夜をお過ごしになってはいけませぬでな。ひとまず宿所を用意させていただきましたゆえ、どうぞお越しくだされ」
秀吉は満面の笑みである。
あけすけな得意面であるが、この小男がみせると不思議と嫌味にならない。
「このような不甲斐ない姿をみせておきながら、勇将など申されては面はゆいことにござる」
員昌が顔をしかめるが、秀吉はさらに笑みを深めるばかりだった。
「なんの。磯野殿の強さは、儂は身に染みて知っておりますからな。磯野殿の処遇がお決まりになるまで、ゆるりとお待ちくだされ」
最早両者に証人の意味はなくなったため、預かっていた於菊丸は、長秀の元から美緒が返されるのとあわせて引き渡された。
思いもよらず早い再会となったが、員昌親子に喜びの表情などある筈がない。
員昌と、美緒を含めた一族には、横山城の南にある大原観音寺が宿舎として用意された。
最後まで員昌に付き従うと決めた秀淳ら家臣にも、屋根のある場所での寝泊まりが許された。
僧侶や寺男達は敬意をもって員昌達の世話をしてくれたが、その敬意は員昌や浅井家に対してというよりも、横山城の城主である秀吉に対して向けられているように感じられた。
秀吉が横山城の城主となったのは姉川の合戦の直後であるから、員昌が佐和山城に立てこもっていた期間とほぼ同一である。
半年余りで人心を帰服させているあたり、秀吉が領内の統治をそつなくこなしている様子がうかがわれた。
(翻ってこの儂は、いったい何をしていたのか。城を捨て、母を死なせて、何もかも失うてしもうた)
用意された床についても詮無い思考に悩まされ、員昌は眠ることができなかった。
半年にわたって閉ざされ続けていた佐和山城の大手門が、静かに開かれた。
(これで仕舞いか。終わってみれば、呆気ないものよ)
人質に出される美緒を載せた女駕籠に付き添いながら、員昌は泣きたくなる気持ちをこらえて門外へと踏み出す。
「よくご決断なされました」
供を連れて出迎えに現れた丹羽長秀が、慇懃に頭を下げた。
員昌は言葉少なに応じ、その場で証人を交換する手続きに移る。
員昌は娘を送り出し、入れ違いに長秀からは織田於菊丸を引き渡される。
「道中、よろしくお願いいたします」
於菊丸は物怖じしないにこやかな表情で頭を下げた。
上背があり、信長に似た細面の面貌は、幼名から員昌が想像していたよりも随分年上に見えた。
聞けば、今年で十四歳だと言う。
元服も間近の凛々しい若武者を前に、員昌はつい、表だった場所に顔を出せない我が子との差を感じてしまう。
証人を交換した後、丹羽勢に護送される形で員昌はおよそ五百の手勢と親族衆を連れて小谷城に向けて出立する。
気持ちとしては足取りが軽やかなはずもないが、心とは裏腹に歩みは早い。
皮肉にも、武具を取り上げられて、身体の方は軽いためであった。
騎乗を許された員昌も、愛用の「無銘」の鑓を長秀に託している。
「無銘」も、小谷城への入城にあたって返還される約定であった。
久しぶりに城の外に出たが、景色を楽しむ気持ちなどないまま、一行は東山道を北上する。
馬上の員昌は、長政にどのように報告すべきか考えを巡らせていた。
城を開いたことで長政からの叱責は必至であるが、それも覚悟のうえだ。
これまで直接の意思疎通ができなかったことで、行き違いも多々あるだろう。
弁明の機会が与えられたなら、どのように申し開きをするべきか。
(いや、言葉ではなく軍功を以て忠誠を示すべきであろう。手勢は少なくなっても、殿の馬前でもうひと働きする自信はある)
員昌は心中深く、そう思い定めていた。
しかし。
「これ以上は進めませぬ」
先ぶれとして小谷城に派遣していた使者が、顔面を蒼白にして戻ってきて員昌に報告した。
「それはいかなる意味じゃ。仔細を申せ」
ただならぬ使者の様子に嫌な予感を感じつつ、馬上の員昌は厳しい表情で説明を促す。
「殿は、我等が織田に通じたと申され、入城を拒絶されました」
使者は、顔をゆがめて両目から涙をあふれさせた。
「馬鹿なっ」
絶句する員昌に、追い打ちをかけるように使者は言葉を継ぐ。
「申し上げにくことながら、丁野にて、殿の御母堂様の骸が磔にされておりまする」
「なんじゃと」
呻き声を漏らした員昌は、その後の言葉が続かない。
夫を亡くして以来、形ばかりの人質として小谷城で暮らしていた母が処刑されるなど、まったく想像すらしない事態だった。
熱を帯びた頭が働かず、鞍から転げ落ちそうになるのをかろうじてこらえる。
ただ「謀られた」との言葉だけが繰り返し繰り返し、ぐるぐると回っているだけだ。
ともかく、受け入れを拒否された以上、このまま小谷城に向かって進むことはできない。
最悪の場合、城内から討手が出ようものなら、丸腰の磯野勢は一方的に殺されることになる。
員昌は行軍を止めさせると、主だった家臣を、街道沿いにうち捨てられた小さな社の境内に集めた。
事情を聴き知った者たちは皆、言葉もなく押し黙っている。
「さて、これからどうしたものか」
そう問いかけてはみたものの、誰も答えらしい答えなど返せるはずもない。
床几に腰を下ろした員昌が天を仰いで途方に暮れていると、護送を指揮していた長秀が沈痛な面持ちで員昌の元にやってきた。
「なんとも、見込み違いでござった。母者人が処刑されたとのよし、お悔やみ申し上げる」
敵味方の間柄であるが、長秀は自分が説得して城を開かせた責任を感じている様子であった。
主君に裏切者として見捨てられ、敵であるはずの長秀に慰められているのは、いっそ滑稽ですらあった。
「思いもよらぬとは、まさにこのこと。我等、向後の身の振り方を考えねばならぬ故、しばしお待ち願えぬか」
精いっぱいの虚勢を張って、員昌は応じた。
「承知つかまつった。当家に仕えるおつもりがござれば、我が名にかけてお屋形様に取り次ぎますぞ」
長秀はそう請け合って、その場を離れた。
残された員昌たちは、二月の寒空の下、主だった将が車座になって身の振り方を協議する格好になった。
「若狭の武田でも頼るかのう」
員昌の口から、自嘲の軽口が漏れる。
かつて十三代将軍足利義輝が討たれ、僧籍から還俗した足利義昭が最初に頼った大名が若狭国の武田であった。
恃むに足らずと見切った義昭は越前の朝倉義景の元に行き、そして信長に担がれて京に戻ることになった。
義昭の逃避行の経緯が頭をよぎったので深い意味もなくなぞらえてみたのだが、状況が状況だけに、誰も笑わなかった。
それどころか「殿は若狭に伝手がござるのか」などと嶋秀淳に真顔で問われてしまったので、冗談だとも言えなくなってしまう。
「まあ、手勢を引き連れて若狭まで向かうなど、認められまいて。いずれにせよ、一度は軍勢を解散せねばなるまい」
「解散、にございまするか」
今井家の井戸村光慶が首をかしげる。
武器を取り上げられた一軍が、行軍の途上で瓦解して四散するなど、そうある話ではない。
想像がつかない、というのが正直なところだろう。
「殿の真意は計りかねるところなれど、責めはひとえにそれがしが受けるものであろう。儂はともかく、今井の皆々方におかれては、小谷入城も認められよう」
員昌としては、せっかく同心してついてきてくれた以上、磯野家の家臣はともかく、今井の家臣団は小谷に送り届けたかった。
員昌自身は、己の在所である宮沢城への帰還が認められるはずもないため、別行動をとるしかない。
しかし、今井の家中を代表する形で嶋秀安は首を左右に振った。
「あいや、磯野殿。お言葉なれど、浅井様が磯野殿をお見捨てになられた以上、我等今井の者も同様に浅井から見捨てられたも同然」
それに気づかぬような浅井様であれば、そのような主君は主君として仰ぐに足らず、と嶋秀安は語気を強めて言葉を続けた。
員昌も頷くほかない。
「承知した。『国衆においては在所に戻るも苦しからず』との約定はまだ生きておる筈。丹羽殿にそう掛けあうとしよう」
味方である浅井家から見捨てられ、織田の家臣を頼らざるを得ない状況にあって、長秀の篤実な立ち居振る舞いだけが、今の員昌にとっては頼みの綱であった。
「父上がなんと申されようと、それがしは殿についてまいりますぞ」
嶋秀淳が身を乗り出す。
どういう訳か、その声は場違いなまでに明るかった。
忠節を有り難く思いつつも、員昌としては安易に歓迎できる状況ではない。
「ついていくと申しても、儂の身がどうなるか判らぬぞ。もはや、織田に体よく腹を切らされたとしても文句は言えぬ」
「その折は、それがしが介錯を務めまする」
秀淳に真面目な顔で返されて、員昌は思わず苦笑する。
「磯野殿。それがしからも御頼み申す。愚息は粗忽者なれど、お連れ下され。我等はまだ、磯野殿と縁を切るつもりはございませぬゆえ、お傍におかせていただければ幸いにござる」
傍らから、嶋秀安も言葉を添えてくる。
今井定清を同士討ちで死なせてしまったツケは、まだ払い終わっていない。
嶋秀安は言外にそう訴えていた。
「うむ。一蓮托生が望みであれば好きにせよ」
わずかにほおを緩ませた員昌の返事に、秀淳が喜色を浮かべる。
「して、磯野様は如何なされますので。やはり、若狭にございますか」
岩脇定政に問われた員昌は、かつて叔父・員清がしたように家を捨てていずこかに旅立ちたい衝動にふとかられる。
しかし、それは今この場なすべき身の振り方ではないだろう、と思いなおす。
「さて。ひとまずは織田にこの身を委ねる他はないと思うておる。仕官が認められるか、放逐されるか、それとも腹を切らされるか判らぬがな」
嘘偽りのない、員昌の本心であった。
「申し訳ござりませぬ、殿。お傍を離れますこと、どうかお許しいただきたい」
それまで無言であった小堀正房が、不意に平伏する。
その横で正房の嫡子・正次は歯を食いしばって涙をこらえていた。
正次が員昌の女婿である一方、正房は浅井一門の浅井新兵衛亮頼の娘を娶っている。
言葉には出さないが、浅井を敵に回せない正房の苦衷を察せないほど、員昌も鈍くはない。
「構わぬ。儂とともにおれば、そのために死ぬることになるやもしれぬ。その方の決断のおかげで、儂の血が後世に残ることになるやもしれぬでな。何もしてやれぬこと、こちらこそ許してもらいたい」
員昌は声を荒げることなく応じた。
員昌は、立場の異なる二人の娘を相次いで遠いところに手放すことになった。
二人のうち、どちらがよりつらい思いをすることになるのか、などと考えると、さしもの員昌も胸が痛んだ。
その後、それぞれの身の振り方について取り決めた後、員昌は境内の外に待つ長秀の元に足を運んだ。
「お待たせいたした、丹羽殿」
「なんの。急なこととて、御心も揺れておりましょう。話はまとまりましたかな」
長秀は嫌な顔もせずに問うてくる。
「手前勝手な申し出と承知してはおるが……」
そう前置きをした員昌は、手勢は解散させ、なお随身を望む者以外は在所に戻ることを条件に、自身は織田に身を寄せたい旨を伝えた。
「よくぞご決断なされた。全て、この丹羽五郎左が承ったゆえ、安心なされよ」
長秀は真剣な口調で請け合ってくれた。
空手形に終わるかもしれないが、今はこの男に身を委ねる他はなかった。
「おお、お聞きしましたぞ磯野殿。この度はもう、なんと申してよいやら」
そこへ、大音声を響かせて小柄な将が陣羽織をはためかせて駆け寄ってきた。
横山城を預かる木下秀吉だった。
これまでゆっくり言葉を交わしたことこそないものの、員昌は伊勢討ち入れの援軍として派遣された時に同陣している。
秀吉にとっては、姉川の戦いで員昌の指揮下にあった赤田姓にこっぴどく陣を打ち破られた相手でもあるが。
「磯野殿ほどの勇将が、このような場所で夜をお過ごしになってはいけませぬでな。ひとまず宿所を用意させていただきましたゆえ、どうぞお越しくだされ」
秀吉は満面の笑みである。
あけすけな得意面であるが、この小男がみせると不思議と嫌味にならない。
「このような不甲斐ない姿をみせておきながら、勇将など申されては面はゆいことにござる」
員昌が顔をしかめるが、秀吉はさらに笑みを深めるばかりだった。
「なんの。磯野殿の強さは、儂は身に染みて知っておりますからな。磯野殿の処遇がお決まりになるまで、ゆるりとお待ちくだされ」
最早両者に証人の意味はなくなったため、預かっていた於菊丸は、長秀の元から美緒が返されるのとあわせて引き渡された。
思いもよらず早い再会となったが、員昌親子に喜びの表情などある筈がない。
員昌と、美緒を含めた一族には、横山城の南にある大原観音寺が宿舎として用意された。
最後まで員昌に付き従うと決めた秀淳ら家臣にも、屋根のある場所での寝泊まりが許された。
僧侶や寺男達は敬意をもって員昌達の世話をしてくれたが、その敬意は員昌や浅井家に対してというよりも、横山城の城主である秀吉に対して向けられているように感じられた。
秀吉が横山城の城主となったのは姉川の合戦の直後であるから、員昌が佐和山城に立てこもっていた期間とほぼ同一である。
半年余りで人心を帰服させているあたり、秀吉が領内の統治をそつなくこなしている様子がうかがわれた。
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それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
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