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婚姻の儀から2ヶ月が経った。
王城はすっかり普段の様子を取り戻して平穏だ。
ただ、私は一つ問題を抱えてる。
侍女達は毎日御物の手入れをする。
磨き布で丁寧に磨き上げ、目録と照らし合わせ数を確認する。一つでも欠けていたら大事になる。
その日は陛下の使わなくなった御物を普段使う室内の宝物庫から、城の地下にある宝物庫に納めた。
地下宝物庫に運搬中、1人のアイラという侍女が誤って石畳に、先々代アウグスト様のブレスレットを落として破損させてしまった。
私はその件について宝物官のサロモン・ウッコ・リュオサと向かい合っていた。
「御物に関しては我々宝物官に権があります。いくら王妃陛下とは言え処罰に関し、口出しは無用です」
私はリュオサをジッと見据える。
「もちろん、私は宝物官の権に濫りに口出ししようと言うのではありませんよ?
ただ、この件に関しては後宮内で起こった事です。こちらで処理するのが筋ではないのですか?と申しているのです」
「しかし破損したのは国宝です。『ロイヤルブルー』を使った逸品ですよ? こんなものを破損させて何のお咎めもないという訳にはいきません!」
私はにこりと笑う。
「そうですね、私もそう思いますよ? ですから、この後宮で起こった事は私の権の内にある事ですから、私が処罰を与えます。それで宜しいでしょう?」
「しかしですね、これは御物に関する破損、我々宝物官が法務に報告し法に則り処罰する種類の問題です。王妃陛下のお手を煩わせる様なものではありません」
こうしてずっと、堂々巡りを繰り返している。
だけど国宝を傷つけたのであれば、法に則ると宝物官の口添え次第では下手をすれば死罪になる。
物を破損させた程度の事で人の命が失われるなんて絶対にダメだ。
ここはどうしても譲らない。
そもそも、宝物官達はこの件を大事にして騒ぎ過ぎだと思う。
確かに『ロイヤルブルー』はサファイアの中でも超が付くほど貴重な物らしい。
その透明度と色の濃さは見惚れるほどだ。
でも、私には人間の命より大切だとはどうしたって思えない。
それに大体、『ロイヤルブルー』自体は全然破損なんてしてない。壊れたのは留め具の一部で直せば済む話だ。
なのに宝物官、特にこのリュオサはアイラの厳罰を強く望んでいる。
彼の部下である、補佐のヘンリク・ブロル・ヴィーベリは口を添える。
「我々宝物官の権に関しては場所の委細は言及されていませんね」
リュオサはそれを受け、更に言い重ねる。
「そういう事です、王妃陛下。この件に関しては我々にお任せ下さい」
「あら? 私の権も物に関しての言及は一切ありませんよ。そして人に関する言及はしっかりされています。アイラは後宮の侍女ですもの。後宮の人間が起こした、後宮で起こった事は、私の管轄で宜しいでしょう?」
私はこういう時、お母様の聖女の様な笑顔を思い出して微笑む。そうして笑う時のお母様は何とも言えない凄みがあった。
私にもそれが備わっていると信じて真似をする。
「何やら揉めておるようだな」
私達の均衡を動かすお声がかかった。
私は振り返ってそのお声に応える。
「陛下」
リュオサとヴィーベリは頭を下げる。
「陛下にご挨拶申し上げます」
「頭を上げよ」
「はっ」
「で? 何の騒ぎだ?」
私は陛下に笑って答えた。
「件の御物の破損について管轄の所在を話し合っていただけですよ」
「ほう?」
リュオサは陛下に訴える。
「この件に関しては我々宝物官に一任して頂きたく。宝物に関しては我々の管轄です」
「でも、破損事故は後宮の侍女が後宮で起こした事ですから、処罰は私の権で行います、と申し上げた所です」
陛下は腕を組んで私とリュオサを交差に見た。
「ふむ……。わかった。この件は儂が預かる」
「陛下が、ですか⁈」
リュオサは驚きの表情を浮かべている。
私は軽く陛下に向かい頭を下げる。
「互いの権が重複しておりました。それでどちらが処置するか、決め兼ねておりましたので、陛下にお任せできるなら私達も安心です。
ね、リュオサ宝物官?」
私は頭を上げてリュオサに笑いかけた。
「そ、そうですな」
それに応えてリュオサは愛想笑いを見せた。
多分不服なのだろう。
けれど陛下預かりになった時点でもう私達には手出しは出来ない。
陛下は物を壊してしまったぐらいで死罪にするなんて言わない。
お互いの面子も潰れずに済んだだろう。
私としてはこれで一安心だ。
「さて、ではお前達は下がれ」
陛下はリュオサとヴィーベリに命じる。
「はっ!」
二人は頭を下げ最敬礼をした後持ち場に戻る。
「これでよかったか? レイティア」
「はい、ありがとうございます。陛下。とても助かりました」
「だが、何の咎めもなく許す事は流石に国宝だけに出来んぞ? アイラ・エメリ・ヤーデルードには暇を出す」
私は溜息を吐く。
「そうですか……それは残念ですけれど、仕方ありませんね。死罪になるよりはずっといいでしょう。寛大な処分をありがとうございます」
陛下はそっと私の手を取る。
「ならば儂に褒美を与えよ」
そして手の甲に優しくキスを落とした。
私はその様子に頬を染めてしまう。
陛下は唇を手の甲に当てたまま、チラリと私を覗き見た。
目が合うと恥ずかしくなって目を逸らす。
だって、陛下の仰る御褒美は……
「さあ、儂も政務は終えた。お前も今日は何もなかろう?」
まだ、夕方にはならない位の昼と夕方の間の様な時間。
こんな時間から御所望されては、身体が保つだろうか……?
それに…皆が忙しく働いてる時間に、いいの……?
色々考えていると、陛下は私の手を引いて王の間へ歩き出した。
「……あの……夜ではダメなのでしょうか……?」
「お前は儂のものだ。いつ何時好きにしてもよかろう?」
陛下が意地悪に笑う。
こんな顔をしてる陛下は絶対に手加減はして下さらない。
泣いても縋っても、もう何も抵抗出来なくなるくらい、私を望まれる。
私は今から始まるだろう甘い時間に恥ずかしくなって俯いた。
王城はすっかり普段の様子を取り戻して平穏だ。
ただ、私は一つ問題を抱えてる。
侍女達は毎日御物の手入れをする。
磨き布で丁寧に磨き上げ、目録と照らし合わせ数を確認する。一つでも欠けていたら大事になる。
その日は陛下の使わなくなった御物を普段使う室内の宝物庫から、城の地下にある宝物庫に納めた。
地下宝物庫に運搬中、1人のアイラという侍女が誤って石畳に、先々代アウグスト様のブレスレットを落として破損させてしまった。
私はその件について宝物官のサロモン・ウッコ・リュオサと向かい合っていた。
「御物に関しては我々宝物官に権があります。いくら王妃陛下とは言え処罰に関し、口出しは無用です」
私はリュオサをジッと見据える。
「もちろん、私は宝物官の権に濫りに口出ししようと言うのではありませんよ?
ただ、この件に関しては後宮内で起こった事です。こちらで処理するのが筋ではないのですか?と申しているのです」
「しかし破損したのは国宝です。『ロイヤルブルー』を使った逸品ですよ? こんなものを破損させて何のお咎めもないという訳にはいきません!」
私はにこりと笑う。
「そうですね、私もそう思いますよ? ですから、この後宮で起こった事は私の権の内にある事ですから、私が処罰を与えます。それで宜しいでしょう?」
「しかしですね、これは御物に関する破損、我々宝物官が法務に報告し法に則り処罰する種類の問題です。王妃陛下のお手を煩わせる様なものではありません」
こうしてずっと、堂々巡りを繰り返している。
だけど国宝を傷つけたのであれば、法に則ると宝物官の口添え次第では下手をすれば死罪になる。
物を破損させた程度の事で人の命が失われるなんて絶対にダメだ。
ここはどうしても譲らない。
そもそも、宝物官達はこの件を大事にして騒ぎ過ぎだと思う。
確かに『ロイヤルブルー』はサファイアの中でも超が付くほど貴重な物らしい。
その透明度と色の濃さは見惚れるほどだ。
でも、私には人間の命より大切だとはどうしたって思えない。
それに大体、『ロイヤルブルー』自体は全然破損なんてしてない。壊れたのは留め具の一部で直せば済む話だ。
なのに宝物官、特にこのリュオサはアイラの厳罰を強く望んでいる。
彼の部下である、補佐のヘンリク・ブロル・ヴィーベリは口を添える。
「我々宝物官の権に関しては場所の委細は言及されていませんね」
リュオサはそれを受け、更に言い重ねる。
「そういう事です、王妃陛下。この件に関しては我々にお任せ下さい」
「あら? 私の権も物に関しての言及は一切ありませんよ。そして人に関する言及はしっかりされています。アイラは後宮の侍女ですもの。後宮の人間が起こした、後宮で起こった事は、私の管轄で宜しいでしょう?」
私はこういう時、お母様の聖女の様な笑顔を思い出して微笑む。そうして笑う時のお母様は何とも言えない凄みがあった。
私にもそれが備わっていると信じて真似をする。
「何やら揉めておるようだな」
私達の均衡を動かすお声がかかった。
私は振り返ってそのお声に応える。
「陛下」
リュオサとヴィーベリは頭を下げる。
「陛下にご挨拶申し上げます」
「頭を上げよ」
「はっ」
「で? 何の騒ぎだ?」
私は陛下に笑って答えた。
「件の御物の破損について管轄の所在を話し合っていただけですよ」
「ほう?」
リュオサは陛下に訴える。
「この件に関しては我々宝物官に一任して頂きたく。宝物に関しては我々の管轄です」
「でも、破損事故は後宮の侍女が後宮で起こした事ですから、処罰は私の権で行います、と申し上げた所です」
陛下は腕を組んで私とリュオサを交差に見た。
「ふむ……。わかった。この件は儂が預かる」
「陛下が、ですか⁈」
リュオサは驚きの表情を浮かべている。
私は軽く陛下に向かい頭を下げる。
「互いの権が重複しておりました。それでどちらが処置するか、決め兼ねておりましたので、陛下にお任せできるなら私達も安心です。
ね、リュオサ宝物官?」
私は頭を上げてリュオサに笑いかけた。
「そ、そうですな」
それに応えてリュオサは愛想笑いを見せた。
多分不服なのだろう。
けれど陛下預かりになった時点でもう私達には手出しは出来ない。
陛下は物を壊してしまったぐらいで死罪にするなんて言わない。
お互いの面子も潰れずに済んだだろう。
私としてはこれで一安心だ。
「さて、ではお前達は下がれ」
陛下はリュオサとヴィーベリに命じる。
「はっ!」
二人は頭を下げ最敬礼をした後持ち場に戻る。
「これでよかったか? レイティア」
「はい、ありがとうございます。陛下。とても助かりました」
「だが、何の咎めもなく許す事は流石に国宝だけに出来んぞ? アイラ・エメリ・ヤーデルードには暇を出す」
私は溜息を吐く。
「そうですか……それは残念ですけれど、仕方ありませんね。死罪になるよりはずっといいでしょう。寛大な処分をありがとうございます」
陛下はそっと私の手を取る。
「ならば儂に褒美を与えよ」
そして手の甲に優しくキスを落とした。
私はその様子に頬を染めてしまう。
陛下は唇を手の甲に当てたまま、チラリと私を覗き見た。
目が合うと恥ずかしくなって目を逸らす。
だって、陛下の仰る御褒美は……
「さあ、儂も政務は終えた。お前も今日は何もなかろう?」
まだ、夕方にはならない位の昼と夕方の間の様な時間。
こんな時間から御所望されては、身体が保つだろうか……?
それに…皆が忙しく働いてる時間に、いいの……?
色々考えていると、陛下は私の手を引いて王の間へ歩き出した。
「……あの……夜ではダメなのでしょうか……?」
「お前は儂のものだ。いつ何時好きにしてもよかろう?」
陛下が意地悪に笑う。
こんな顔をしてる陛下は絶対に手加減はして下さらない。
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