人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 その後陛下ともう少し物見遊山を楽しんで、少し遅いお昼にしようと飲食店や出店の多い大通りに出た。

 何がいいか物色していると横から声がかかる。
「よお! ティアちゃん!」
「あら、風見鶏のご主人!」
「こないだはありがとなぁ~~! 連れてた背の高い姐さんがあっという間に強盗捕まえてくれたよ。あの姐さん、めちゃくちゃ強いね! ティアちゃんに頼まれたって言ってたよ」
「私は何もしてないわ。お礼は彼女に言ってあげて」
「あの姐さんにも同じ事言われたよ。所で今日はえらい色男連れてるじゃないか。なんだ? いい人かい?」
「俺はこいつの夫だ」
「へぇ! ティアちゃんあんた人妻だったのか!」
 私は顔が火照るのを感じながら答える。
「……ええ。つい最近結婚したの」
「おうおう、ウブだねぇ。あんたら飯がまだならうちに来な? 結婚祝いだ。今日はタダでいいよ!」
「……いいの?」
「ああ! その代わり色々と聞かせてくれよ?」
 ご主人は冗談めかして言った。
 私は陛下をチラリと見る。
 陛下と目が合うと心得た様に小さく頷いてくれた。
「じゃあ、ご馳走になります。嬉しいわ」
 何度か断っていたので今日はご馳走になった方がいいかなぁと思っていたので、助かった。
 ご主人に連れられて六辻を過ぎたらすぐに『風見鶏』はあった。
『風見鶏』は昼は飲食店、夜は酒場になる。
 ウルリッカ様は主に夜訪れると言っていた。
 この店はご主人のお人柄もあって良いお客さんが多いらしくて、肴もとても美味しいし、楽しく呑みたい時はここに限ると太鼓判だった。
「何にする? 今日は肉のいいのが入ってるぞ?」
「じゃあ私はおススメで」
「俺も同じものを」
「おう! ちょっと待ってな!」
 ご主人は厨房に入っていく。

「ティアに城下の知り合いがいるとはな」
 陛下がジッと私を見つめる。
「元はウルリッカ様の知り合いですよ? 私の事、よろしくって紹介してくれて以来、本当に良くしてくれてるんです。いいご主人でしょ?」
 私は笑って陛下に言った。
「お前は目を離すと知らぬ間にどんどん世界を広げるな」
「……そうでしょうか?」
「……いっそあの塔にでも閉じ込めてしまおうか……」
 私を見つめてぽそりと陛下は言った。
「……あの塔は……怖いです……」
 あの薄暗く、陰鬱な塔を思い出すとやっぱり怖かった。
「夜、一緒にいてやるなら良いのだろう?」
「……本当に一緒にいて下さいますか?」
「今と変わらない。毎夜お前を所望する」
 私は陛下の顔をジッと見つめる。夜は一緒にいて下さっても、あの塔は昼間も日も射さず暗くて怖い……。
 私が真剣に思い詰めていると、陛下は笑った。
「戯言だ」
「……お、お戯れ……ですか?」
「あぁ。そう真剣に悩むな」
 陛下は可笑しそうに笑いながら私の頭を撫でた。
 私はホッとする。
 私は多分、陛下があの塔に閉じ込めると仰ったら、それに従う。
 私に不審があった時そういう決断をしなきゃいけない時もあるかも知れない。
 ただ、私は意気地が無いので、出来れば別の場所にして欲しいとはちょっぴり思う。

「おお? やっぱり新婚さんだね~? 仲のいいこって!
 ほら、うちのサイコロステーキ、美味いよ!」
 ご主人が二つサイコロステーキのプレートを運んで来てくれた。
「わぁ! 美味しそう!」
「だろ? さ、食べてくれ」
 陛下と私の前にプレートが置かれてカトラリー入れからフォークを取り出す。
 ご主人は一回厨房に戻ってパンを持って来てくれた。
 陛下と私はその間に一口頂く。
「ロカモアから仕入れた肉なんだよ。他の領のと比べたら肉質が全然違うんだ」
「そうなの? 確かにホントに美味しいわ!」
 柔らかくて臭みが少ない。ご主人の調理の腕が良いせいかもしれないけど、本当に美味しいお肉だった。
「所でいつ頃結婚したんだ?」
「つい2ヶ月くらい前よ」
「2ヶ月前って言やぁ王様と王妃様が結婚した時期じゃないか」
「そうなの」
「豪勢な結婚式だったよな」
「そうよね、ホント豪勢だった」
「王様と言やぁさ? うちの妹が宮仕えしてたんだけどさ、御物を壊したらしくてさ、クビになっちまったんだよな」
 ご主人は頭を掻いた。
「……そうなの?」
 ……それって

「兄さん、買い出ししてきたわよ」
 そう言いながら厨房のお勝手口から一人の女の子が出てきた。

「あ、あなたさっきの……」
「あ……」
 その女の子はさっき路地裏で襲われていた例の彼女だった。
 でも、女の子はなんだか歯切れが悪い。
「こりゃ俺の妹のアイラってんだが、……なんだ?知り合いか?」
 ご主人が訊ねる。
 アイラさんはこっちを見て困った様な顔をしたのを察したので、有耶無耶な言い方をすることにした。
「さっきちょっとアイラさんが困ってた事があって、少しだけ手助けしたの」
「そうだったのか。そりゃありがとうな」

 ……襲われた事はお兄さんには黙っていて欲しいみたいね……
 何故かしら?

「しかし世間は狭いな」
 ご主人が笑う。
「ホントに」
 このアイラさんが、例の御物を壊してしまった人だったのね……。
 私も陛下も直接会った事はなかったので今初めて知った。
「ほら、アイラ、ちゃんと礼言うんだ」
「ありがとうございます。本当に助かりました」

 私は慌てて首を横に振る。
「さっきお礼は言ってもらったから大丈夫よ? こちらこそご馳走になってるのにたくさんお礼言われたんじゃ申し訳ないわ。だから終わりにしましょ?」
「そうか? じゃあお言葉に甘えるか」
 ご主人はニカっと笑ってこの話は終わりとなった。
「アイラさんは王城に勤めていたんでしょ? 御物を壊してしまったって聞いたけど」
「……そうなんです…陛下の御物のブレスレットを落として壊してしまって……。本当なら極刑だと思っていたんですけど……暇を下さる事でお許し下さったんです……」
「ブレスレットを壊した位で極刑はないわよ」
 私は笑ってアイラさんに言った。
「……なんだかとても貴重なお品らしくて、国宝だとか……」

 アイラさんの顔はどんどん暗くなっていく。

 私は慌ててアイラさんを慰める。
「でも、お暇を頂いた事でもうお叱りは受けた事になるんでしょ? そんなに落ち込まないで?」
「……ありがとうございます」
 アイラさんは力無く笑う。

 ご主人がアイラさんに発破をかける。
「せっかく許して貰えたんだから、そうしけた面してんなよ!」
 ご主人が私達を見て困った顔で笑った。
「こいつ帰って来てから、ずっとこんな調子なんだよ。ホント困ったもんだ」
「……せっかく兄さんに紹介してもらって王城に勤められたのに……ごめんなさい」
「それはもういいって言ってんだろうが。気にすんな」
 なんだかとても落ち込んでる様子のアイラさんをもう一度励ます。
「本当に気にしなくていいわよ? 許して貰えたんだから」

 それでも、アイラさんの顔が晴れる様子はなかった。

 陛下と私は食事を済ませて『風見鶏』を出た。
 私はポツリと呟いた。
「アイラさん、気にしてるんだなぁ……」
 陛下もそれに答える様にポツリと呟く。
「それだけでもないかもしれんがな……」
 私は陛下を仰ぐ。
「……アナバス様は何かお気付きになったのですか?」
「いや。……狙われていただろう?何か秘しておきたい事がありそうではあるな」
「……大丈夫かしら……アイラさん……」
 陛下は握る手に少しだけ力を込めた。
「今悩んでも仕方ない。置いておけ」
「はい」

 大通りを抜けて、ペレス通りという職人さんの工房が多く集まる通りにやって来た。

 御用宝石彫刻工房、『工房巌』を訪ねる。
 陛下の用事だ。
 工房の入り口に入ると、何故か鎮まり返っている。
 何かおかしいと感じた陛下は、剣の柄に手をかけた。
 小さくチャキリと音が鳴った。
 陛下の後ろに庇われながら、工房の中へと進むと、
 部屋の真ん中で一人の男性が倒れてる。
「……! 大丈夫ですか⁈」
 私がそう声をかけて駆け寄ろうとしたら、陛下に肩を掴まれて止められる。
「待て」
 陛下は警戒して死角になりそうな場所を確認している。
 工房の奥の部屋の作業場の机に、突っ伏した男性が一人座っている。

「……誰もいない様だな」
「大丈夫ですか⁈」
 今度こそ駆け寄って横たわる男の人の顔を見た。
 男の人からは返事がない。目は虚空を見つめている……。
 もう亡くなっている様だ。

「……ダメだな。死んでいる」
 陛下は机に突っ伏した男性の首元を触って脈を確認した。
 ご遺体の足元には血溜まりが出来ている。

 よく見てみると私が確認した男性のご遺体の下も血溜まりがある。
 二人とも刃物で殺傷されたんだろう。

 陛下は腰に手を当てて薄く笑った。
「……ふむ。どうやらブレスレットが無くなっている様だな……」

 私が口を開こうとした瞬間、
「オロフ~⁈   いるかい?」
 入り口の方から女性の声がかかる。
 そしてズカズカとその声の主は工房に入って来た。

 私達を見咎めて一瞬の間を置いて、その女性は大声を上げた。
「ぎゃーーっ! 人殺しだよっ!」
「ちょっ……」
 私は女性に声をかけるけど全然話を聞いてくれず、大騒ぎしながら大慌てで工房を出て人を呼ぶ。
「誰か~~っ! 来ておくれ! 人殺しだよっ!」
 工房の玄関先にどんどん人が集まって人垣が出来る。
 そこに4人の衛士達が人垣をかき分け私達の元にやって来た。
「何の騒ぎだ」
「ちょっと! 衛士の旦那方! 人殺しがいるよ!」
 女性は陛下を指差して騒ぎ立てる。
「落ち着いてください! 私達は用事があってこの工房を訪ねただけです!」
 私は必死に自分達の潔白を言い募る。
「その男は剣を持ってるじゃないか!」
 その言葉を受けて衛士は陛下の腕を掴む。
「来てもらおうか」
「ちょっと!私 達はたまたま居合わせただけよ! どうして連れていかれるの⁈」
 私が衛士に詰め寄ると陛下が静かに声をかける。
「ティア、構わん。この事をあいつらに伝えろ」
「でもっ……!」
「あいつらがどうにでもする。それからアイラを見張る様に言え」
「……アイラを、ですか?」
「ああ」
 陛下は私に不敵に笑った。
 私はいつも通りの陛下の様子に幾許かは安堵して、連れて行かれる陛下を見送った。
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