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花街のシンボル、大花門を通り抜ける。
普段はこの大花門の脇にある通常のサイズの出入り門を通過して花街に入るが、今日は一際大きなこの大花門を全開にして多くの客を招き入れる。
今日の花街は普段眠る昼間に店を開け、各店の裁量で催しものを開く。
この時ばかりは王都の女達も花街に繰り出し催しを楽しむ。
儂は歩を進めながらレイティアに話しかける。
「ティア、人がごった返している。俺から…」
振り返ってもレイティアはいない。
どうやら早速はぐれてしまったらしい。
今日に限ってしっかり手を繋いでおかなかった儂の大失態だ。
辺りを見渡しレイティアを探してみるが見当たらない。
儂は大花門へと踵を返す。
大きな目印に戻るのが定石だろう。
遠くで何か騒ぎがあった様だが、儂はとにかくレイティアと合流すべく大花門へ急いだ。
門に戻るがレイティアはいない。
しばらく待ってみるが影も形も表さない。
先程の騒ぎが気になり始め、そちらに向かうが騒動は終わった後のようだった。
野次馬をしていたと思われる者を捕まえて訊ねる。
「何があった?」
捕まえた男が言う。
「ああ、足抜けだってよ。何でも二人逃げて両方捕まったみたいだぞ」
二人?疑問に思い、更に質問を重ねる。
「示し合わせて女が二人で逃げたのか?」
「いや、一人は見物人だと騒いでたらしいが、地の民の娘だったから、足抜けだろ」
「その店はわかるか?」
「いや、わかんねえな」
「そうか。足止めして悪かったな」
男は去って行く。
恐らくその見物人だと言った女がレイティアだろう。
さて、どうしたものか…
更に野次馬をしていたであろう人間を物色しようと脚を一歩踏み出そうとした時、声がかかった。
「アナバス様」
聞き覚えのある声に振り返ると、テームがいた。
「ティアの居場所は?」
テームはレイティアに付けておいた。居場所を知っているだろう。
「はい、紫陽花屋という娼館に連れて行かれました」
「案内しろ」
テームに案内されて紫陽花屋まで足速に歩く。
紫陽花屋はこの界隈の娼館の割には少し豪奢で品の乏しい印象だ。
華美な建物に入るとやはり娼館独特の麝香の香りが鼻腔を刺激した。
鼻が慣れる前にその麝香以上に香油の香りがキツい香車が愛想良くやって来た。
「あら、お客さん、男前だね、サービスするよ?どの子が好みだい?」
「妻がここに足抜けと間違えられて連れ込まれていると聞いて来た」
「あんたの妻?あんたが高貴な身分?本当かね?」
「高貴かどうかは知らんが、とにかく妻を返せ」
「…待ってな」
香車はさっきの態度とは打って変わって不機嫌な顔で去る。しばらく待つと店の奥からレイティアの声がする。
「アナバス様!」
「無事だったか、ティア」
レイティアの様子を見て何事もなかった様で安堵する。
レイティアは男に取り押さえられたままだ。
どうやらこの店の香車は難癖をつけようという気らしい。
「で?お前の要求はなんだ?香車よ」
「この子の証文はここにあるんだよ。これを返して欲しけりゃ勝負しな」
香車が何やらヒラヒラと書きつけられた紙を見せつける。
レイティアが儂に訴える。
「アナバス様!私証文なんて書いてません!」
この様な悪辣な娼館はさっさと取り締まらねばならんなと心の中で毒づく。
レイティアがそんな物を書く筈がない。
「ああ、わかっている、ティア。その勝負とはなんだ、香車」
香車はニヤリと笑い、腕を組んだ。
「今日の催しで飲み比べをするんだ。あんたに相手になってもらおうか」
儂もまた笑って見せる。
「ああ、いいだろう」
店の前に櫓を組んで、飲み比べを見せ物にし、どっちが勝つか賭けるのだろう。
実に古式ゆかしい、海賊の賭け事だ。
と、なると酒は恐らく糖酒だろう。
儂の得意分野だ。問題無い。
店の前に簡易の櫓が手早く設置される。
色とりどりの垂れ幕が人目を引くように飾られている。
それにさっさと登り、胡座を組んで座る。
儂が座る櫓の席は白色に塗られている。
空いた相手の席は朱色だ。
その席には儂と同じ様な歳だろう、体躯の良い男が座った。
互いに硝子杯を手渡され、それに並々と糖酒が注がれる。
「さぁさ、お立ち会い!飲み比べが始まるよ!どっちに賭けるんだい!」
香車が大声を張り上げて客引きを始め、櫓の周りには人がどんどん押し寄せる。
賭券を買い求める客の相手を始め、櫓から見渡しているとゾロゾロと人が増えていくのが一目瞭然だった。その人の群れの中から口々に歓声が上がる。
「白の兄ちゃん!頼むぞっ!」
「朱色の兄ちゃん、俺ぁあんたに全財産賭けたからな!頼むぞ!」
レイティアも男に取り押さえられながらも外に出る。
「アナバス様!」
儂に呼びかけるその声を聞き、レイティアの方を見て軽く笑って見せてやった。
普段はこの大花門の脇にある通常のサイズの出入り門を通過して花街に入るが、今日は一際大きなこの大花門を全開にして多くの客を招き入れる。
今日の花街は普段眠る昼間に店を開け、各店の裁量で催しものを開く。
この時ばかりは王都の女達も花街に繰り出し催しを楽しむ。
儂は歩を進めながらレイティアに話しかける。
「ティア、人がごった返している。俺から…」
振り返ってもレイティアはいない。
どうやら早速はぐれてしまったらしい。
今日に限ってしっかり手を繋いでおかなかった儂の大失態だ。
辺りを見渡しレイティアを探してみるが見当たらない。
儂は大花門へと踵を返す。
大きな目印に戻るのが定石だろう。
遠くで何か騒ぎがあった様だが、儂はとにかくレイティアと合流すべく大花門へ急いだ。
門に戻るがレイティアはいない。
しばらく待ってみるが影も形も表さない。
先程の騒ぎが気になり始め、そちらに向かうが騒動は終わった後のようだった。
野次馬をしていたと思われる者を捕まえて訊ねる。
「何があった?」
捕まえた男が言う。
「ああ、足抜けだってよ。何でも二人逃げて両方捕まったみたいだぞ」
二人?疑問に思い、更に質問を重ねる。
「示し合わせて女が二人で逃げたのか?」
「いや、一人は見物人だと騒いでたらしいが、地の民の娘だったから、足抜けだろ」
「その店はわかるか?」
「いや、わかんねえな」
「そうか。足止めして悪かったな」
男は去って行く。
恐らくその見物人だと言った女がレイティアだろう。
さて、どうしたものか…
更に野次馬をしていたであろう人間を物色しようと脚を一歩踏み出そうとした時、声がかかった。
「アナバス様」
聞き覚えのある声に振り返ると、テームがいた。
「ティアの居場所は?」
テームはレイティアに付けておいた。居場所を知っているだろう。
「はい、紫陽花屋という娼館に連れて行かれました」
「案内しろ」
テームに案内されて紫陽花屋まで足速に歩く。
紫陽花屋はこの界隈の娼館の割には少し豪奢で品の乏しい印象だ。
華美な建物に入るとやはり娼館独特の麝香の香りが鼻腔を刺激した。
鼻が慣れる前にその麝香以上に香油の香りがキツい香車が愛想良くやって来た。
「あら、お客さん、男前だね、サービスするよ?どの子が好みだい?」
「妻がここに足抜けと間違えられて連れ込まれていると聞いて来た」
「あんたの妻?あんたが高貴な身分?本当かね?」
「高貴かどうかは知らんが、とにかく妻を返せ」
「…待ってな」
香車はさっきの態度とは打って変わって不機嫌な顔で去る。しばらく待つと店の奥からレイティアの声がする。
「アナバス様!」
「無事だったか、ティア」
レイティアの様子を見て何事もなかった様で安堵する。
レイティアは男に取り押さえられたままだ。
どうやらこの店の香車は難癖をつけようという気らしい。
「で?お前の要求はなんだ?香車よ」
「この子の証文はここにあるんだよ。これを返して欲しけりゃ勝負しな」
香車が何やらヒラヒラと書きつけられた紙を見せつける。
レイティアが儂に訴える。
「アナバス様!私証文なんて書いてません!」
この様な悪辣な娼館はさっさと取り締まらねばならんなと心の中で毒づく。
レイティアがそんな物を書く筈がない。
「ああ、わかっている、ティア。その勝負とはなんだ、香車」
香車はニヤリと笑い、腕を組んだ。
「今日の催しで飲み比べをするんだ。あんたに相手になってもらおうか」
儂もまた笑って見せる。
「ああ、いいだろう」
店の前に櫓を組んで、飲み比べを見せ物にし、どっちが勝つか賭けるのだろう。
実に古式ゆかしい、海賊の賭け事だ。
と、なると酒は恐らく糖酒だろう。
儂の得意分野だ。問題無い。
店の前に簡易の櫓が手早く設置される。
色とりどりの垂れ幕が人目を引くように飾られている。
それにさっさと登り、胡座を組んで座る。
儂が座る櫓の席は白色に塗られている。
空いた相手の席は朱色だ。
その席には儂と同じ様な歳だろう、体躯の良い男が座った。
互いに硝子杯を手渡され、それに並々と糖酒が注がれる。
「さぁさ、お立ち会い!飲み比べが始まるよ!どっちに賭けるんだい!」
香車が大声を張り上げて客引きを始め、櫓の周りには人がどんどん押し寄せる。
賭券を買い求める客の相手を始め、櫓から見渡しているとゾロゾロと人が増えていくのが一目瞭然だった。その人の群れの中から口々に歓声が上がる。
「白の兄ちゃん!頼むぞっ!」
「朱色の兄ちゃん、俺ぁあんたに全財産賭けたからな!頼むぞ!」
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