旦那様に学園時代の隠し子!? 娘のためフローレンスは笑う-昔の女は引っ込んでなさい!

恋せよ恋

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アデルがもたらす静寂

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 フローレンスが意識を回復したことで、パーシバル侯爵夫妻家族には安堵の空気が漂っていた。

  パーシバル侯爵家とハワード伯爵家は、ジファール伯爵家に帰省中のカサンドラ嬢に対し、正式に面会を申し入れた。
 その結果、本日――三家による話し合いの場が、ジファール伯爵家にて設けられることとなった。

「子息エリオットは、いったい誰の子なのか……」
 当時の関係を時系列に説明するという、ジョシュアとカサンドラにとっては地獄の時間。話に耳を傾けるのは、嫁であるフローレンスの家族と、ジョシュアとカサンドラの家族たち。

 フローレンスの両親であるパーシバル侯爵夫妻と、その兄夫婦は、当時フローレンスとジョシュアがまだ婚約前であったことから、あえて表立って語らず、ただ“静かに見守る”という姿勢を貫いていた。

 一方で、カサンドラの両親であるジファール伯爵夫妻と、次期当主である姉夫婦は――最初は打ちひしがれたような 絶望の表情 を浮かべ、それがやがて 羞恥に染まり、そして最後には、抑えきれない 怒り へと顔色を変えていった。

 話し合いは、“エリオットの出生“に及び、カサンドラの母ジファール伯爵夫人が衝撃のあまり倒れ、興奮した姉、次期ジファール伯爵夫人が体調の不調を訴え一時中断していた。

 ――バタバタッ、バタンッ!

 慌ただしい足音とともに扉が開き、伯爵家の家令が駆け込んできた。
 息を整える間もなく告げられたのは――カサンドラの夫、アデル・ハワード侯爵の来訪 であった。

 カサンドラの父オスカーは、ついに離縁状を突きつけられる覚悟を固めた。
 張りつめた沈黙が広間を満たす中――アデル・ハワード侯爵閣下が、まるで嵐を鎮めるかのような悠然たる歩みで姿を現した。

「愛する妻がなかなか帰って来てくれなくてね。迎えに来ちゃったよ、カサンドラ。」
 侯爵家嫡男としての威厳を漂わせる整った顔立ちのアデル。

「大変なことになっているようだけれど、エリオットは”僕の息子“だよ。」

 声音はどこまでも軽く、表情にはにこやかな微笑みさえ浮かべている――はずなのに。
 言葉のひと言ひと言には、「正解は一つだけだ」とでも言うような、不思議と逆らえない強さが宿っていた。

 アデルはさらに、にっこりと微笑みを深めて続けた。

「公開はできないが、ハワード侯爵家の直系には判別する基準が身体に現れるんだ。これは托卵を防ぐために、嫡男だけに語り継がれていく。」

 そして優しい笑みを浮かべ、息子エリオットに手を差し伸べる。
「我が家の優秀な嫡男を、勝手によその子にしないでくれるかな。おいで、エリオット。さあ、一緒に家へ帰ろう。」

「お父様!」

 エリオットが、涙に濡れた瞳のままアデルの胸へ飛び込んだ。どれほど不安だったのかが手に取るように伝わり、アデルは小さな身体を迷いなく強く抱きしめた。

 カサンドラは、安堵と緊張が入り混じった表情でアデルの言葉を聞いた。

「アデル……迎えに来てくれて、ありがとう......。」
 胸の奥に重くのしかかっていた不安が、少しずつほどけていくのを感じる。

 エリオットは、まだ小さな手で父の手を握り返し、照れたように笑った。
「お父様、ぼくは早くハワード侯爵家に帰りたいです!」その笑顔に、場の緊張は一気に和らぐ。

 ジファール伯爵家の使用人や親族も、胸をなで下ろし、場内には安堵の空気が満ちた。

 パーシバル侯爵夫妻も、アデル侯爵の話を聞き、ほっとした表情を浮かべる。

 アデルはエリオットの肩を優しく叩き、微笑んだ。
「さあ、一緒に我が家に帰ろう。」

 三歳のバネッサもまた、アデルに抱き上げられて満面の笑みを浮かべていた。
 その微笑ましい光景は――まるで”本当の家族“のようだった。

◇◇◇

「ねえ、本当に、我が子とわかるような身体的な特徴ってあるのかしら……」
 フローレンスの兄バーナードの妻、ソフィア夫人が誰にともなく呟いた。

「さあ、どうかしらね。実際に聞いたことはないけれど、小説でなら見るわね」
 母のダフネ夫人が静かに答える。

「んん……まあ、アデル殿が場を納めたんだ。それでいいじゃないか……。」
 ラーク侯爵が、難しい表情のまま口を開いた。

 事実がどうであれ、収まるべきところに収まった──。
 真実よりも、今この場の“現実”が優先されたのだ。



 伯爵邸に戻ったジョシュアは、少し肩を落としながら、ことの顛末をフローレンスに報告する。

「そう。カサンドラ様の旦那様が、場を納めてくださったのね。エリオット君にとっては……良い結果になったわ」

 そう言ったフローレンスは、まっすぐな眼差しでジョシュアを見つめた。
 前日にアデル侯爵が伯爵邸を訪問したことは伝える気はない。
 使用人たちも、今回の騒動を受け、全員がフローレンスの味方だ。

「それで、ジョシュ。あなたに“隠し子”はいたの?いないの?」
 フローレンスの直球の質問に、ジョシュアの胸はざわつく。視線を落とし、言葉を詰まらせた。

「……可能性はゼロではない……です。ただ!“いない”という結論が出た......。だからフローレンス!僕の子はローズマリーだけだ。」
 歯切れの悪い声に、彼の緊張と罪悪感が滲む。

 フローレンスは、静かに彼を見つめた。その瞳には、優しさと信頼、そして小さなからかいが混じっていた。
 ゆっくりと微笑むと、その微笑みはまるで温かい光のようにジョシュアの胸を満たす。

 寝台の上で報告を受け、深く息をつきながら、皆の幸福を祈るように微笑んだ。その微笑みには、安心と穏やかさがにじんでいた。
 じっとジョシュアの顔を見つめ、やがて小さく口元を緩める。
「ふふふ。そうね。そういうことにしましょうか」

 その微笑みには、許しと信頼、そしてわずかなからかいが含まれていた。
「もし、また“隠し子”が現れたら、次は絶対に許さないんだからね。覚えておいて」

 ジョシュアは、少しばつの悪そうな顔をしながらも答える。
「それは絶対にないよ。もう間違えたりしないから」

 その表情には穏やかさと、フローレンスへの深い愛情がにじんでいた。

 ローズマリーが走り込んできて、ジョシュアのお腹にしがみついた。
「お父たま!お母たまと仲良し?」
 その無邪気な声に、ジョシュアは自然と微笑み、そっと抱き上げる。

「ああ、もちろんさ。お父様は、お母様とも、ローズとも仲良しだよ。」

 ローズマリーの小さな手を握りしめ、フローレンスの手と重ねるその瞬間、三人の間には言葉以上の絆が流れた。
 過去の不安や緊張はすべて消え去り、ただ安心と愛情が柔らかく包み込み、陽だまりのように温かい時間が部屋に満ちた。
 
 微笑む二人、母と父に、ローズマリーも笑顔で応え、三人の笑い声が優しく重なり合う。

 心なしか、フローレンスの笑い声には、いつもよりも貫禄があった......。

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