完璧令嬢の『誰にでも優しい婚約者様』

恋せよ恋

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独占の代償、理性の終焉

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 午後の中庭。白大理石が陽光を照らし返し、柔らかな風が吹き抜けていた。

 リリアーナは書類の束を抱え、生徒会の後輩である男子生徒に応対していた。

「リリアーナ様、こちらの資料、確認をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、構いませんわ。……まあ、とても丁寧にまとめられていますのね。助かりますわ」
 リリアーナが浮かべたのは、汚れなき白薔薇がほころぶような、慈愛に満ちた微笑。

 向けられた男子生徒の頬が、見る間に朱に染まっていく。

 その光景を、遠くから射抜くような眼差しで見つめる影があった――ユリウス・エルンスト。
 訓練帰り、手に持った模擬剣の柄を、彼は無意識に白くなるほど握り締めていた。

(……なんだ、その笑顔は。俺は、いつからリリアーナのそんな顔を見ていない?)

 喉の奥で、どろりとした苛立ちが渦を巻く。

 彼女が他の誰かに微笑むたび、心臓の奥がじりじりと焼かれるような錯覚に陥る。
 男子生徒が去り、リリアーナが独りで回廊を歩き出す。

 逃がさない。ユリウスは静かな足取りで、彼女との距離を詰めた。
 すれ違いざま、逃げ場を奪うような低い声が彼女の鼓膜を震わせる。

「……随分と、楽しそうだったな」
「えっ……?」
 リリアーナが驚いて振り返ると、そこには淡い怒りと、隠しきれない切なさを瞳に宿したユリウスが立っていた。

「人前で、あんなに無防備に笑いかける必要があるのか?」
「な……何を仰っているのですか? 私はただ、生徒会の務めを果たしていただけで……っ」

「そうか。俺の見間違いならいい」
 突き放すような、淡々とした言葉。
 けれど、その声音には隠しようのない嫉妬の棘が含まれていた。

 リリアーナは込み上げる感情を抑え、腕の中の資料をぎゅっと抱きしめる。
「……それを、貴方が仰るのですか? 誰にでも分け隔てなくお優しいユリウス様が」

 嫌味が口を突いて出た。だが、ユリウスはその言葉を遮るように、彼女との距離をゼロにする。
 彼の体温が、訓練後の荒い吐息が、リリアーナの肌を叩いた。
「ああ。……君が他の男に笑うのが、我慢ならないほど気に食わない」

 短い沈黙。

 吹き抜けた風が、白薔薇の花弁を乱舞させ、二人の世界を外界から遮断する。

「っ……な、何をっ、突然……っ!?」
 リリアーナは顔を真っ赤にし、裏返った声を漏らす。

 ユリウスは、絶望的なまでに美しい苦笑を浮かべ、彼女の耳元に唇を寄せた。
「……あいにく、君の前では。……俺の理性は、もう、利かないんだ」

 去っていく足音。

 残されたリリアーナは、その場に崩れ落ちそうになるのを堪え、書類で燃えるような顔を覆い隠した。

(……どっ、どうされたというの? ……そんなの、卑怯ですわ……!)

 風に揺れる白薔薇が、熱を帯びた彼女の頬を優しく、秘めやかに隠し続けていた。
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