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二十五回目は、『はい』
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学園を卒業して一年。フェリシア・オタワ侯爵令嬢は、今や社交界でも注目の的となっていた。才色兼備で、誰に対しても分け隔てない慈愛に満ちた彼女には、国内外から数多くの求婚が舞い込んでいる。
けれど、彼女はそれらすべてを「まだやりたいことがありますから」と、淑女の微笑みでかわし続けてきた。
そして今年も、あの季節がやってくる。
アルバン侯爵家とオタワ侯爵家、両家合同のバカンス。十四年前、運命が交差したあの別荘の庭。
フェリシアは、クローゼットの奥から一着のドレスを取り出した。
あの日、泥だらけにしてしまったドレスに、驚くほどよく似た水色のシルクのドレス。成長した今の彼女の曲線に合わせ、より優雅に、より美しく仕立て直された「特別な一着」だ。
庭園に足を踏み入れると、むせ返るような薔薇の香りが彼女を迎えた。
赤。白。黄色。色とりどりの薔薇が競うように咲き誇る中、フェリシアはある異変に気づき、小さく独り言を漏らした。
「不思議ね。今年はピンクの薔薇が、一輪も咲かなかったのね……」
それは、ここ数年ではなく、もっと遠い昔。五歳の少女が迷子になり、一人の少年に出会ったあの夏と同じ光景だった。
「ああ、本当に不思議だな。……まるで、時間が巻き戻ったみたいだ」
背後から響いたのは、かつてよりもずっと深く、落ち着いた低音。
フェリシアが振り返ると、そこには銀髪を風に遊ばせた、軽装のステファンが立っていた。
「……ステファン様。ごきげんよう。今年で、数えるのも何度目かしら?」
「六回目だ。君が『諦める』と言ってから、俺が心を入れ替えて、今日で六度目の正直だよ」
ステファンは自嘲気味に笑いながら、フェリシアの前に歩み寄った。
かつての彼は、この庭で「運命の妖精」という虚像を追い求めていた。けれど今の彼の瞳に映っているのは、陽光を浴びて輝く茶色の髪と、自分を真っ直ぐに見つめるエメラルドの瞳だけだ。
「随分、遠回りしたものだ。……僕が馬鹿だったせいで、君の十年間を無駄にして、さらにこの数年も待たせてしまった」
ステファンは、フェリシアの前にゆっくりと膝を突いた。
それは、これまでの「追いかけっこ」としてのパフォーマンスではない。魂の底からの、行動だった。
「フェリシア。あの日、君を助けたつもりでいた僕を、本当の意味で救ってくれたのは、君の真っ直ぐな言葉だった」
彼はフェリシアの細い指先を取り、壊れ物を扱うように、けれど力強く握りしめた。
「君の瞳の色が変わっても、俺を叱るその声が変わっても。君という存在そのものが、僕にとって唯一無二の、真実の運命だ。……フェリシア・オタワ嬢。君が好きだ。この命が尽きるまで、俺の隣で笑っていてほしい。どうか、僕と結婚してください」
静寂が、庭園を包み込む。風が吹き抜け、赤と白の薔薇の花びらが雪のように二人の周りを舞った。
フェリシアは、彼の手の温もりをじっと感じていた。五歳の頃に差し出された、あの大きな手。十年間、追いかけても追いかけても、すり抜けていったあの指先。
それが今、震えながら自分の答えを待っている。
――十九回の拒絶と、六回の求愛。合わせて二十五回。
ようやく、パズルの最後のピースがはまる音が聞こえた。
「……ふふふ」
フェリシアの唇から、こらえきれないといった風に可愛らしい笑い声が漏れた。
彼女は握られた手を優しく引き上げ、ステファンの頬にそっと触れる。
「ええ。喜んで。……ステファンお兄さま」
その瞬間、ステファンの顔が、これ以上ないほどに輝いた。
安堵と、歓喜と、熱い情愛が混ざり合った表情で、彼はフェリシアを力一杯抱き寄せた。
「フェリシア……! ありがとう、本当に、ありがとう……!」
「あら、苦しいわ。……それと、ステファン様。お礼を言うのは、私の方ですわ」
フェリシアは、彼の肩に顔を埋めながら、幸せそうに目を細めた。
「私を見つけてくれて、ありがとう。……本当の意味で、私という人間を見てくれて、ありがとう」
テラスの遠くからは、やはり両親たちの呆れ顔と、どこか誇らしげな笑い声が聞こえてくる。
「やっとか」「遅すぎるわよ」なんて言葉が、風に乗って届く。
けれど、そんな野次はもう、二人には届かない。ピンクの薔薇が咲かなかったその年に、かつての少女と少年は本当の恋を実らせた。
遠回りをした分だけ、積み上げた想いは誰よりも深い。
これから始まる長い歳月をかけて、ステファンは彼女に「二十五回分」以上の幸福を捧げ続けることを、静かに誓うのだった。
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📢✨🌹【魔力のない私と、呪われた騎士の「甘くない」恋の約束】
けれど、彼女はそれらすべてを「まだやりたいことがありますから」と、淑女の微笑みでかわし続けてきた。
そして今年も、あの季節がやってくる。
アルバン侯爵家とオタワ侯爵家、両家合同のバカンス。十四年前、運命が交差したあの別荘の庭。
フェリシアは、クローゼットの奥から一着のドレスを取り出した。
あの日、泥だらけにしてしまったドレスに、驚くほどよく似た水色のシルクのドレス。成長した今の彼女の曲線に合わせ、より優雅に、より美しく仕立て直された「特別な一着」だ。
庭園に足を踏み入れると、むせ返るような薔薇の香りが彼女を迎えた。
赤。白。黄色。色とりどりの薔薇が競うように咲き誇る中、フェリシアはある異変に気づき、小さく独り言を漏らした。
「不思議ね。今年はピンクの薔薇が、一輪も咲かなかったのね……」
それは、ここ数年ではなく、もっと遠い昔。五歳の少女が迷子になり、一人の少年に出会ったあの夏と同じ光景だった。
「ああ、本当に不思議だな。……まるで、時間が巻き戻ったみたいだ」
背後から響いたのは、かつてよりもずっと深く、落ち着いた低音。
フェリシアが振り返ると、そこには銀髪を風に遊ばせた、軽装のステファンが立っていた。
「……ステファン様。ごきげんよう。今年で、数えるのも何度目かしら?」
「六回目だ。君が『諦める』と言ってから、俺が心を入れ替えて、今日で六度目の正直だよ」
ステファンは自嘲気味に笑いながら、フェリシアの前に歩み寄った。
かつての彼は、この庭で「運命の妖精」という虚像を追い求めていた。けれど今の彼の瞳に映っているのは、陽光を浴びて輝く茶色の髪と、自分を真っ直ぐに見つめるエメラルドの瞳だけだ。
「随分、遠回りしたものだ。……僕が馬鹿だったせいで、君の十年間を無駄にして、さらにこの数年も待たせてしまった」
ステファンは、フェリシアの前にゆっくりと膝を突いた。
それは、これまでの「追いかけっこ」としてのパフォーマンスではない。魂の底からの、行動だった。
「フェリシア。あの日、君を助けたつもりでいた僕を、本当の意味で救ってくれたのは、君の真っ直ぐな言葉だった」
彼はフェリシアの細い指先を取り、壊れ物を扱うように、けれど力強く握りしめた。
「君の瞳の色が変わっても、俺を叱るその声が変わっても。君という存在そのものが、僕にとって唯一無二の、真実の運命だ。……フェリシア・オタワ嬢。君が好きだ。この命が尽きるまで、俺の隣で笑っていてほしい。どうか、僕と結婚してください」
静寂が、庭園を包み込む。風が吹き抜け、赤と白の薔薇の花びらが雪のように二人の周りを舞った。
フェリシアは、彼の手の温もりをじっと感じていた。五歳の頃に差し出された、あの大きな手。十年間、追いかけても追いかけても、すり抜けていったあの指先。
それが今、震えながら自分の答えを待っている。
――十九回の拒絶と、六回の求愛。合わせて二十五回。
ようやく、パズルの最後のピースがはまる音が聞こえた。
「……ふふふ」
フェリシアの唇から、こらえきれないといった風に可愛らしい笑い声が漏れた。
彼女は握られた手を優しく引き上げ、ステファンの頬にそっと触れる。
「ええ。喜んで。……ステファンお兄さま」
その瞬間、ステファンの顔が、これ以上ないほどに輝いた。
安堵と、歓喜と、熱い情愛が混ざり合った表情で、彼はフェリシアを力一杯抱き寄せた。
「フェリシア……! ありがとう、本当に、ありがとう……!」
「あら、苦しいわ。……それと、ステファン様。お礼を言うのは、私の方ですわ」
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「私を見つけてくれて、ありがとう。……本当の意味で、私という人間を見てくれて、ありがとう」
テラスの遠くからは、やはり両親たちの呆れ顔と、どこか誇らしげな笑い声が聞こえてくる。
「やっとか」「遅すぎるわよ」なんて言葉が、風に乗って届く。
けれど、そんな野次はもう、二人には届かない。ピンクの薔薇が咲かなかったその年に、かつての少女と少年は本当の恋を実らせた。
遠回りをした分だけ、積み上げた想いは誰よりも深い。
これから始まる長い歳月をかけて、ステファンは彼女に「二十五回分」以上の幸福を捧げ続けることを、静かに誓うのだった。
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