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光の中にいた少年 ジュリアン
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オッティ子爵家の跡取り息子として生まれたジュリアンは、幼い頃からその恵まれた容姿と愛嬌で、周囲の大人たちを魅了して育った。
茶色の柔らかな髪に、涼やかな茶色の瞳。その少年らしい明るさは、厳格な父親と慈愛に満ちた母親の間で、素直に、そしていささか「楽天的」に育まれた。
彼にとって、人生とは常に輝かしいものだった。
子爵家という、高すぎず低すぎない心地よい地位。不自由のない暮らし。そして、何より彼を形作ったのは、寄宿学校で出会った同じ歳の一人の少年――ジャッカス侯爵家の嫡男、チャーチルとの出会いである。
ジャッカス侯爵家は、国内でも屈指の名門であり、チャーチルはその次期当主として、幼い頃から帝王学を叩き込まれていた。
初対面のチャーチルは、その体格の良さと鋭い眼光で周囲を威圧していたが、ジュリアンだけは違った。
「君がチャーチル・ジャッカス侯爵令息? 僕はジュリアン・オッティ。仲良くしてくれると嬉しいな」
物怖じせず、天真爛漫な笑みを向けるジュリアンに、チャーチルは毒気を抜かれた。二人は瞬く間に意気投合し、身分を超えた親友となったのである。
チャーチルにとってジュリアンは、張り詰めた公務の合間に息を抜ける「唯一の理解者」であり、ジュリアンにとってチャーチルは、憧れと頼もしさを象徴する「兄のような存在」だった。
二人は共に馬を駆り、夜更けまで将来の夢を語り合った。
「俺が侯爵家を継いだら、ジュリアン、お前を俺の右腕として迎える。俺たちの友情は、一生変わらない」
「光栄だよ、チャーチル。僕も、君を支えられる立派な男になってみせるよ」
その誓いに、嘘はなかったはずだ。やがて少年から青年へと成長したジュリアンは、社交界でも注目の的となった。
華やかな容姿に、チャーチル譲りの洗練された立ち居振る舞い。多くの令嬢が彼に秋波を送ったが、ジュリアンはどこか冷めていた。
彼は女性に対して、一種の「理想」を抱いていた。それは、激しく燃え上がる情熱ではなく、日向のような穏やかさと、自分の未熟さを包み込んでくれるような包容力。
そんな折、チャーチルの婚約が決まった。相手は、気高く美しいセシリア・ランバン侯爵令嬢。
その婚約祝賀の夜会で、ジュリアンはセシリアの親友として紹介された一人の女性と出会う。それが、メラニア・ゴードン伯爵令嬢だった。
豪華なシャンデリアの下、着飾った令嬢たちの中で、彼女は静かに咲く一輪の野の花のようだった。
ブルネットの巻き毛を慎ましくまとめ、優しげなヘーゼルアイを伏せている。派手さはないが、一言言葉を交わせば、その聡明さと奥ゆかしさが深く染み渡ってくる。
「……綺麗な人だ」
ジュリアンは、自分の心の中に、これまでにない穏やかな波が立つのを感じた。
チャーチルとセシリアという、輝かしい「光」の傍らにいる二人は、互いに共通の空気を感じ取ったのかもしれない。
「ジュリアン様、お噂はかねがね。セシリアから、とても明るく素晴らしい方だと伺っておりますわ」
メラニアの少し照れたような、控えめな微笑み。
その瞬間、ジュリアンの「理想」は形を成した。
(この人だ。この人なら、僕の生涯を預けられる)
ジュリアンの恋は、真夏の太陽のように輝かしく始まった。
彼はメラニアを喜ばせるために花を贈り、彼女の好きな詩集を読み込み、彼女が少しでも微笑んでくれるなら何でもした。
チャーチルもまた、親友の恋を面白がりつつも、後押ししてくれた。
「お似合いじゃないか。真面目すぎるお前ら二人は、きっと国内で一番堅実な家庭を築くぜ」
チャーチルのその言葉を、ジュリアンは最大の賛辞として受け取った。
ゴードン伯爵家からも、ジュリアンの誠実な人柄と、ジャッカス侯爵家嫡男との深い繋がりが歓迎され、二人の結婚はトントン拍子に進んでいった。
結婚式の朝、ジュリアンは鏡の中の自分を見つめ、固く誓った。
「メラニアを悲しませるようなことは、一生しない。彼女は僕にとっての、唯一無二の、理想の妻なんだ」
その時のジュリアンに、悪意など一片もなかった。彼は純粋に、メラニアを愛し、大切にしようとしていたのだ。
ただ、彼はまだ知らなかった。
自分の中にある「明るさ」が、困難に直面したときに「弱さ」に変わることを。
そして、メラニアという女性を「完璧な理想」として崇めすぎた結果、彼女を同じ血の通った一人の女性として見られなくなっていくという、歪んだ愛の形に堕ちていくことを――。
__________
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茶色の柔らかな髪に、涼やかな茶色の瞳。その少年らしい明るさは、厳格な父親と慈愛に満ちた母親の間で、素直に、そしていささか「楽天的」に育まれた。
彼にとって、人生とは常に輝かしいものだった。
子爵家という、高すぎず低すぎない心地よい地位。不自由のない暮らし。そして、何より彼を形作ったのは、寄宿学校で出会った同じ歳の一人の少年――ジャッカス侯爵家の嫡男、チャーチルとの出会いである。
ジャッカス侯爵家は、国内でも屈指の名門であり、チャーチルはその次期当主として、幼い頃から帝王学を叩き込まれていた。
初対面のチャーチルは、その体格の良さと鋭い眼光で周囲を威圧していたが、ジュリアンだけは違った。
「君がチャーチル・ジャッカス侯爵令息? 僕はジュリアン・オッティ。仲良くしてくれると嬉しいな」
物怖じせず、天真爛漫な笑みを向けるジュリアンに、チャーチルは毒気を抜かれた。二人は瞬く間に意気投合し、身分を超えた親友となったのである。
チャーチルにとってジュリアンは、張り詰めた公務の合間に息を抜ける「唯一の理解者」であり、ジュリアンにとってチャーチルは、憧れと頼もしさを象徴する「兄のような存在」だった。
二人は共に馬を駆り、夜更けまで将来の夢を語り合った。
「俺が侯爵家を継いだら、ジュリアン、お前を俺の右腕として迎える。俺たちの友情は、一生変わらない」
「光栄だよ、チャーチル。僕も、君を支えられる立派な男になってみせるよ」
その誓いに、嘘はなかったはずだ。やがて少年から青年へと成長したジュリアンは、社交界でも注目の的となった。
華やかな容姿に、チャーチル譲りの洗練された立ち居振る舞い。多くの令嬢が彼に秋波を送ったが、ジュリアンはどこか冷めていた。
彼は女性に対して、一種の「理想」を抱いていた。それは、激しく燃え上がる情熱ではなく、日向のような穏やかさと、自分の未熟さを包み込んでくれるような包容力。
そんな折、チャーチルの婚約が決まった。相手は、気高く美しいセシリア・ランバン侯爵令嬢。
その婚約祝賀の夜会で、ジュリアンはセシリアの親友として紹介された一人の女性と出会う。それが、メラニア・ゴードン伯爵令嬢だった。
豪華なシャンデリアの下、着飾った令嬢たちの中で、彼女は静かに咲く一輪の野の花のようだった。
ブルネットの巻き毛を慎ましくまとめ、優しげなヘーゼルアイを伏せている。派手さはないが、一言言葉を交わせば、その聡明さと奥ゆかしさが深く染み渡ってくる。
「……綺麗な人だ」
ジュリアンは、自分の心の中に、これまでにない穏やかな波が立つのを感じた。
チャーチルとセシリアという、輝かしい「光」の傍らにいる二人は、互いに共通の空気を感じ取ったのかもしれない。
「ジュリアン様、お噂はかねがね。セシリアから、とても明るく素晴らしい方だと伺っておりますわ」
メラニアの少し照れたような、控えめな微笑み。
その瞬間、ジュリアンの「理想」は形を成した。
(この人だ。この人なら、僕の生涯を預けられる)
ジュリアンの恋は、真夏の太陽のように輝かしく始まった。
彼はメラニアを喜ばせるために花を贈り、彼女の好きな詩集を読み込み、彼女が少しでも微笑んでくれるなら何でもした。
チャーチルもまた、親友の恋を面白がりつつも、後押ししてくれた。
「お似合いじゃないか。真面目すぎるお前ら二人は、きっと国内で一番堅実な家庭を築くぜ」
チャーチルのその言葉を、ジュリアンは最大の賛辞として受け取った。
ゴードン伯爵家からも、ジュリアンの誠実な人柄と、ジャッカス侯爵家嫡男との深い繋がりが歓迎され、二人の結婚はトントン拍子に進んでいった。
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ただ、彼はまだ知らなかった。
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そして、メラニアという女性を「完璧な理想」として崇めすぎた結果、彼女を同じ血の通った一人の女性として見られなくなっていくという、歪んだ愛の形に堕ちていくことを――。
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