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Ⅰ 王宮での生活
1 王家からの勅命
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カルリスタ王国の北西、豊穣な大地と青い海に面したレーヴェン伯爵領。
この地を治めるのは、この王国でも有数の富豪であり清廉な領主――ダニエル・レーヴェン伯爵。
春の風が柔らかく吹き抜ける午後。
庭園では、十歳になる二女マーガレット・レーヴェンが、薄桃色のリボンを揺らしながら笑い声を響かせていた。
彼女の隣には、少し背の高い少年――ルース・ダン。レーヴェン伯爵家の寄子貴族家であるダン男爵家の三男でありマーガレットの同い年の幼馴染。学院へ通うまでの間、マーガレットの遊び相手兼従僕として伯爵家に滞在していた。
「マーガレット!そんなに走ると転んじゃうよっ!」
『だって、ルースが先に逃げたのよ!』
「僕は逃げたんじゃないよ!誘ったんです!」
二人の声が、噴水の水音に溶ける。
幼い二人に、身分の差など関係はなかった。
手をつなぎ、泥にまみれ、笑い合う――
それが、彼らにとっての“友情”であり、“絆”だった。
屋敷のバルコニーからその様子を見つめるのは、マーガレットの父、ダニエル伯爵。隣に立つ妻、イザベラ伯爵夫人がそっと微笑んだ。
「まあ……仲の良いこと。まるで本当の兄妹のようね」
「そうだな。だが、ルースが大きくなったとき――兄妹のように思えるかどうか……」
ダニエルはそう呟き、手すりに目を落とす。
ダン男爵家はレーヴェン産の小麦の一大産地だ。王国内の小麦の8割を担っている。そしてレーヴェン伯爵家は、この王国でも屈指の富豪で、諸外国にも支店を持つワイス商会を運営し、ワインと小麦の輸出、海産物や諸外国からの輸入品までを手広く取り扱っている。王家より度々、侯爵への叙爵の打診を受けるも、面倒だと断り続けている状態だ。
マーガレットが望むのであれば、男爵令息とはいえ、ルースと婚約させても構わない。二人が幸せならば悪くない話だ。子煩悩な両親なのである。
父として、領主として――彼はすでにその未来を思い描いていた。
だが、その静かな願いを打ち砕く知らせが、まもなく届くことになる。
──王都より勅使来たる。
第三王子ニコラス殿下(15歳)が、レーヴェン伯爵家二女マーガレットとの縁談を望まれる、とのこと。
「 ( は?) ……娘、とは?」
「それが……マーガレット様、とのことでございます。」
瞬間、室内の空気が止まった。
他にも歳の見合った上級貴族家の令嬢がいる中、まだ十歳の少女に王家からの見合いの申し出。
それは名誉でもあり、同時に断りがたい束縛でもあった。
その知らせを聞いた長女リリアーナ(17歳)は、サロンの窓辺で深くため息をつく。
妹の笑顔を思い浮かべ、幼馴染のルースの真っ直ぐな眼差しを思い出す。
彼らの未来に、王家という巨大な影が差そうとしている――
「…… マーガレット。あなたはいいの?」
リリアーナの声は、春風に紛れて誰にも届かなかった。
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この地を治めるのは、この王国でも有数の富豪であり清廉な領主――ダニエル・レーヴェン伯爵。
春の風が柔らかく吹き抜ける午後。
庭園では、十歳になる二女マーガレット・レーヴェンが、薄桃色のリボンを揺らしながら笑い声を響かせていた。
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「まあ……仲の良いこと。まるで本当の兄妹のようね」
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ダニエルはそう呟き、手すりに目を落とす。
ダン男爵家はレーヴェン産の小麦の一大産地だ。王国内の小麦の8割を担っている。そしてレーヴェン伯爵家は、この王国でも屈指の富豪で、諸外国にも支店を持つワイス商会を運営し、ワインと小麦の輸出、海産物や諸外国からの輸入品までを手広く取り扱っている。王家より度々、侯爵への叙爵の打診を受けるも、面倒だと断り続けている状態だ。
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父として、領主として――彼はすでにその未来を思い描いていた。
だが、その静かな願いを打ち砕く知らせが、まもなく届くことになる。
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妹の笑顔を思い浮かべ、幼馴染のルースの真っ直ぐな眼差しを思い出す。
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「…… マーガレット。あなたはいいの?」
リリアーナの声は、春風に紛れて誰にも届かなかった。
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