【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

Ⅰ 王宮での生活

10 家族との再会

　「「「「マーガレット！」」」」

　突然、庭園の向こうから懐かしい声が響いた。
　
　振り向くと、走り寄る懐かしい姿――

　そこには、レーヴェン伯爵家の家紋を刻んだ馬車と、二週間ぶりに会う懐かしい家族がいた。

　『お父さま！お母さま！リリアーナお姉さま！ 』

　そして、その背後に少し照れくさそうに立つ少年。

　『ルース！』

　「マーガレット！…… 元気そうで安心した…… 」

　マーガレットは胸の奥が熱くなり、けれど淑女らしく裾をつまんでお辞儀をした。

　『ごめんなさい…… 心配をかけてしまって。みんなに会えて、本当に嬉しいわ！』

　イザベラ伯爵夫人は堪えきれず、娘を抱きしめ涙を流す。
　「まぁまぁ！…… こんなにしっかりして……. お城で辛いことはない？」

　『ええ、お母さま。みなさん親切にしてくださいます。』マーガレットは微笑んだ。

　『ここでは毎日が学びです。ニコラス殿下の先生方は厳しいけれど、とても刺激的で……』

　「刺激的？」と、父ダニエル伯爵が眉を上げる。

　マーガレットは小さく笑った。

　『はい。殿下はいつも、“それで君はどう思う？”とお尋ねになるのです。教えられるより、自分で考えることの方がずっと難しくて……でも楽しいのです』

　その言葉に、父母は目を見合わせた。
わずか十歳で王宮に連れ去られた娘が、
こんなにも強く、環境の変化に順応している――。

⸻

　「……すっかり、お姫様だな」
　ルースがぽつりと呟いた。

　マーガレットは微笑みながら、首を横に振った。

　『ルース、寂しいの？ 私はレーヴェン伯爵家の娘で、あなたの幼馴染で、一番の友人のマーガレットよ」

　たった1週間前は、庭を駆け回り、泥だらけになって笑っていたあの日々――。

　「うん！そうだよね、ごめん…… 」

　二人は空を見上げた。
　柔らかな光の中で、城の尖塔に不死鳥の旗が翻っていた。

　『私の心はずっと変わらない…… どんなに高い塔の中にいても、レーヴェンの娘であることを、誇りに思っているわ！」

　その言葉に、父母の胸に静かな安堵の想いがこみ上げた。奪われた日から続いた喪失の痛みが、ようやく少しだけ癒えるようだった。

⸻

　リリアーナがマーガレットの手を取り、笑った。
　「勉学ばかりで疲れたら、いつでも帰って来るのよ」

　『はい、姉さま。でも――』
マーガレットは尖塔の不死鳥の旗に目をやった。

　『今はここで学ぶべきことが、まだたくさんあるのです』

　その瞳に、迷いはなかった。少女はもう、ただの令嬢ではない。光を宿した未来の淑女として、王国の中心で歩み始める決意をもっていた。イザベラ夫人は堪えきれず、娘をギュッと抱きしめた。
　
　『いつでも面会していいと許可は出ています。伯爵邸へ帰ることは叶いませんが、寂しくなったら文を出しますね….. 。今日は、みんなに会えて本当に嬉しいわ。』

　温かな時間が家族の間に流れていくーー

◇◇◇

　王城からの帰路、レーヴェン伯爵家の馬車の中では安堵の空気で満たされていた。
ダニエル伯爵が小さく呟いた。
「マーガレットの表情を見たかい？まるで……. ルースと庭を駆け回っている時と同じだったよ。ふっ…… 」

イサベラ夫人も微笑む。
「ええ…… 本当に。優しい顔でした。」
リリアーナとルースは大きく頷いた。

「「「「 …… 良かった(わ)…… 」」」」 

つづく

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