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Ⅰ 王宮での生活
12 友情の誓いの三華
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ロクサーヌ一行が王妃の不興をかい、王城を去った日から数週間。白亜の学習塔には、穏やかな空気が戻っていた。
ニコラス第三王子の婚約者候補たちは、いまや三人だけになっていた――
・レーヴェン伯爵家マーガレット十歳
・ハワード侯爵家のロレンヌ十五歳
・サボイア侯爵家のマグノリア十六歳
誰もが異なる色の花のように、個性が咲き誇っている。
◇◇◇
ロレンヌは淡々と筆を走らせる。
黒髪を束ね、静かな声でラテン語の条文を読み上げた。
「“Res publica populi est.”……国家とは民のものである、ですわね」
その理知的な声音に、マグノリアが感嘆の息を漏らす。
「さすがロレンヌ。ほんと、いつも完璧なんだから!」
「完璧ではありません。ただ努力しているだけです!」
彼女の謙虚な言葉に、マーガレットは微笑んだ。
『ロレンヌ様の努力は尊敬に値します。でも、マグノリア様の朗らかさがなければ、この勉強部屋は息が詰まりますわ』
マグノリアは照れたように頬を染める。
「まぁ……マーガレットまでそんなこと言うなんて。でもね、王子殿下も、最近は少し優しくなったと思わない?」
◇◇◇
三人は顔を見合わせ、同時に小さく笑った。
確かに。
以前のニコラス殿下は、常に退屈そうで、言葉に棘を忍ばせていた。けれど最近では、議論のあとに必ず三人へ感想を求めるようになった。
特にマーガレットに対しては――。
「君の考えを聞かせてくれ」
「君なら、どう導く?」
そう言って、真剣なまなざしを向けてくる。十五歳の王子と十歳の少女。
そこに上下ではない、知と知の対話が生まれていた。
◇◇◇
夕暮れ、塔の窓辺から見える空が朱に染まる。三人は書物を閉じ、マーガレットがそっとつぶやいた。
『こうして一緒に学べるのは、奇跡のようです。立場も家も違うけれど……。私はお二人と出会えて幸せです』
ロレンヌは静かに頷き、マグノリアは笑って手を伸ばした。
「じゃあ、これからは“誓いの三華”ってことでどう?」
『誓いの……三華?』と、マーガレットが目を瞬かせる。
「ええ! 三人で支え合って、誰がどんな未来を選んでも、友達でいようって」
マーガレットは少し考え、やがて微笑んだ。
『はい!約束しましょう!“三華”として』
三人の手が重なった瞬間、白亜の塔の上に風が流れ、不死鳥の旗が音を立ててはためいた。
それはまるで――
フェニックスが、彼女たちの未来を祝福しているかのようだった。
つづく
________________________
いいね❤️&応援ありがとうございます🌿
皆さまのひと押しが執筆の力になります✨
ニコラス第三王子の婚約者候補たちは、いまや三人だけになっていた――
・レーヴェン伯爵家マーガレット十歳
・ハワード侯爵家のロレンヌ十五歳
・サボイア侯爵家のマグノリア十六歳
誰もが異なる色の花のように、個性が咲き誇っている。
◇◇◇
ロレンヌは淡々と筆を走らせる。
黒髪を束ね、静かな声でラテン語の条文を読み上げた。
「“Res publica populi est.”……国家とは民のものである、ですわね」
その理知的な声音に、マグノリアが感嘆の息を漏らす。
「さすがロレンヌ。ほんと、いつも完璧なんだから!」
「完璧ではありません。ただ努力しているだけです!」
彼女の謙虚な言葉に、マーガレットは微笑んだ。
『ロレンヌ様の努力は尊敬に値します。でも、マグノリア様の朗らかさがなければ、この勉強部屋は息が詰まりますわ』
マグノリアは照れたように頬を染める。
「まぁ……マーガレットまでそんなこと言うなんて。でもね、王子殿下も、最近は少し優しくなったと思わない?」
◇◇◇
三人は顔を見合わせ、同時に小さく笑った。
確かに。
以前のニコラス殿下は、常に退屈そうで、言葉に棘を忍ばせていた。けれど最近では、議論のあとに必ず三人へ感想を求めるようになった。
特にマーガレットに対しては――。
「君の考えを聞かせてくれ」
「君なら、どう導く?」
そう言って、真剣なまなざしを向けてくる。十五歳の王子と十歳の少女。
そこに上下ではない、知と知の対話が生まれていた。
◇◇◇
夕暮れ、塔の窓辺から見える空が朱に染まる。三人は書物を閉じ、マーガレットがそっとつぶやいた。
『こうして一緒に学べるのは、奇跡のようです。立場も家も違うけれど……。私はお二人と出会えて幸せです』
ロレンヌは静かに頷き、マグノリアは笑って手を伸ばした。
「じゃあ、これからは“誓いの三華”ってことでどう?」
『誓いの……三華?』と、マーガレットが目を瞬かせる。
「ええ! 三人で支え合って、誰がどんな未来を選んでも、友達でいようって」
マーガレットは少し考え、やがて微笑んだ。
『はい!約束しましょう!“三華”として』
三人の手が重なった瞬間、白亜の塔の上に風が流れ、不死鳥の旗が音を立ててはためいた。
それはまるで――
フェニックスが、彼女たちの未来を祝福しているかのようだった。
つづく
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