【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅱ 五年後の王宮

4 幼馴染との再会

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 王立セレスト学院では、新入生を歓迎する歓声があちらこちらであがり、桜の花びらが祝福するように風に舞っていた。

 マーガレットは静かに立ち止まり、
人混みの向こうから歩いてくる青年の姿に目を見開いた。

 『えっとぉ……ル、ルース?』

 振り向いた少年は、一瞬驚いた後、
五年前と変わらぬ優しい笑みを浮かべた。

 「マーガレット!――久しぶり!」

 陽光の中で、ブルネットの癖っ毛が揺れる。昔は小さかった背が、今ではマーガレットを見下ろすほどに伸びていた。

 『まぁ……すっかりカッコよくなって……. ルースじゃないみたいだわ!』
      マーガレットは微笑む。その瞳は懐かしさに揺れていた。

 ルースは照れくさそうに頬を掻いた。
 「いつか、君の護衛としてふさわしくなれるよう、ずっと鍛えてきたんだ。騎士科はトップ入学だったんだぜ。あぁ…….マーガレット、やっと、やっと君に会えたよ……。」

 『ルース…… あなた、頑張ったのね。すごいわ!ルース!』
 マーガレットが心から嬉しそうに手を叩く。

 ルースは少し頬を赤くして笑った。
 「……マーガレットのそばに立てるようになるのが、ずっと目標だったからさっ」

 彼の言葉は純粋で、まっすぐで。まるで少年の頃、庭で剣を振っていたあの日の続きのようだった。

 その時――後ろから静かな声が響く。

 「……ずいぶん楽しそうだな」

 振り返れば、藍色のマントを羽織ったニコラス第三王子が立っていた。
 周囲の学生が一斉にざわめく。

 『殿下……!?どうして学院に?』
マーガレットが慌てて一礼する。

 「王家の代表として祝辞を述べに来た」
 ニコラスは軽く手を上げて応え、ルースをじっと見つめ声をかけた。
 「君が……ダン男爵家の子息か……」

 ルースは緊張しながらも、凛とした声で名乗った。
 「王国の太陽ニコラス第三王子殿下にダン男爵が三男ルースがご挨拶申し上げます!」

 「ルース男爵令息、君は騎士課か?」

 ルースは殿下の質問に緊張しながら返答する。
 「はい……. マーガレット嬢の護衛騎士を目指しております。」

 「ふむ……護衛、か」
 ニコラスの目が細くなる。その表情は穏やかに見えて――どこか、棘がある。

 マーガレットはすぐに口を開いた。
 『ルースは本当に努力家なんです!
 いずれ王宮でご一緒できるかもしれませんね、殿下』

 ニコラスは少しだけ視線を逸らし、低く、わずかに拗ねたような声で呟いた。

 「……そうだな。だが――君のそばに立つ者は、慎重に選ばねばならない」

 『殿下?』
 「“護衛として”、という意味だ。」

 ルースが一歩引いて頭を下げる。
 「もちろんです、ニコラス殿下。身を賭してお守りいたします!」

 ニコラスは短く頷き、そのままマーガレットに向き直った。

 「授業の前に、少し話がある。……あとで、来い」

 それだけ言い残し、マントを翻して歩き去る。その後ろ姿を見送りながら、ルースが小さく笑った。

 「殿下って……ずいぶん、分かりやすいんだね、ハハっ」

 マーガレットは苦笑いを浮かべた。
 『……ええ。でも、そんな殿下が少し可愛いと思うのは、内緒よ』

 五年の時を経て、マーガレットとルースの二人は、五年前の“兄妹”のようだった懐かしい感覚を思い出していた。

 春風が二人の間を抜け、花びらを散らした。やがてそれは王城へと流れ、新たな三人の運命を静かに結び始めていた。

つづく
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