【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅱ 五年後の王宮

5 ニコラスの嫉妬

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 砂埃のあがる学院の訓練場で、新入生のルースは汗をぬぐいながら稽古を終えた。
 そこへ、周囲の生徒たちが一斉に姿勢を正したーー

 「…… 第三王子、ニコラス殿下だ」
 「殿下が……学院の訓練場にいらっしゃるとは…… 」

 ルースも驚き、すぐに頭を下げた。

 ニコラスは軽く頷き、近くの剣を手に取る。
 「ルース男爵令息。噂は聞いている。学院の一年で優勝をさらったそうだな」

 「はっ、僥倖にございます」

 「ふむ……僥倖、か」
 ニコラスは口元にわずかに笑みを浮かべ、そのまま木剣をひと振りした。

 「――構えを見せてみろ」

 ルースは一瞬ためらったが、すぐに真剣な眼差しで剣を構える。

 真剣な打ち合いが始まった。
 木剣のぶつかる音が鈍く響き、
 最後にルースが息を整えて膝を折る。

 「見事だ。力もあるが……何より、無駄がない」
 ニコラスは剣を戻し、静かに言った。

 「ルース。学院にいる間、マーガレットの護衛を任せたい」

 ルースは驚きに目を見開いた。
 「護衛……でございますか?」

 「そうだ。彼女は優秀だが、何かと目立つ。余計な注目を集めやすいだろう?羽虫がうろつくのは我慢ならん……。」

 「……はい。身命を賭してお守りいたします」

 その言葉に、ニコラスはほんのわずか目を細めた。一瞬の間を置き、低く問いかける。

 「……ルース。君は――彼女をどう思っている?」

 ルースはまっすぐにニコラス殿下の目を見て答えた。
 「尊敬しています。……ですがそれは、誓って、殿下が"気にされるような類の感情“ではございません。小さな頃から共に過ごした、大切な兄妹感情としての感情です。」

 静寂ーー

 ニコラスの瞳が、ほんの少し柔らかくなった。

 「そうか…… “兄妹“か……. 」

 ルースは首を傾げる。
 「殿下?」

 「……いや、よい」
 ニコラスは小さく笑った。
 いつもの冷静な微笑とは違う、少し安堵を含んだ笑顔だった。

 「王宮騎士団に推薦しておく。正式な訓練を受けておけ。いずれ本当に、彼女を守る立場になるかもしれない。」

 ルースは胸に手を当て、深く頭を下げた。
 「光栄に存じます、殿下」

 ニコラスは背を向け、訓練場を歩き出す。
 去り際、ふと振り返り、どこか少年っぽい表情で呟いた。

 「――ただし、勘違いするな。
 彼女を守るのは、君だけではない」

 ルースはきょとんとしたあと、微笑を浮かべた。
 「承知しております、殿下。」
 ( “殿下こそ”が、マーガレットの守護者ですから) 

 ニコラスは言葉を返さず、ただ静かに背を向けた。
 その頬が、ほんのりと赤く染まっていることに――誰も気づかなかった。

つづく
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