【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅱ 五年後の王宮

6 ニコラスの決意

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 カルリスタ王国第三王子ニコラス二十歳。王族としての威厳を持ち、賢く優秀な美しい王子。しかし、彼の胸を締めつける問題が、今まさに王宮にもたらされた。

――

 隣国、海洋国家アルマディス公国からの使者が訪れ、公国のオーデリア公女との同盟を目的とした婚姻の申し入れがあったのだ。

 カルリスタ王国の南西、群青色のアズール海に面した半島国家アルマディス公国。かつて、大陸南部を支配していたヴァローレ帝国の属州のひとつだったが、
港湾総督であったレオニス公爵家が中心となり、血を流さずに自治を勝ち取った。その後、彼が初代アルマリス公となり、公国の礎を築いてきた。

 カルリスタ王国との関係は、海洋資源を主とした交易と軍事での協力を続けており、今回のニコラス第三王子との婚姻は、その繋がりをさらに確固たる同盟へと深めるための政治的布石だった。

 オーデリア・ド・レオニス公女は、同盟のために選ばれた十九歳の聡明な令嬢。外交上の大切な提案であり、ニコラスにとって断ることは難しい。

 だが、心の奥では十五歳のマーガレット・レーヴェン伯爵令嬢への想いが燻っていたーー。

 彼女が十歳の頃から五年の親交がある…… 清らかで無垢だった少女が、今ようやく大人の女性へと成長している。何気ない笑顔や、仕草、甘いその声まで、彼女の全てがニコラスをとらえて離さない…… 真剣に本を読む姿さえ、日常のすべてに彩りを添えるほどに。



 王宮の執務室で、ニコラスは書簡を前に指先を絡めた。

 「”婚姻による同盟“か……それこそが王族に生まれた“三男”の務めだよな、ふっ」

 ニコラスに似合わない、どこか自嘲めいた呟き。深く息を吐き窓の外の庭園を見やる。光が差し込む中、マーガレットの笑顔がふと脳裏に浮かんだ。

◇◇◇

 翌日、アルマディス公国の使者団を、ニコラスは王子然として格式高く迎え、執務室にて話し合う。
 
 アルマディス公国との交易とそれに伴う関税、今後の軍事協力について協議する。我がカルリスタ王国にとって外交上の利点は明らかだ ……. わかってはいるのだ。有益な婚姻であることは…… だが、心の奥底で、マーガレットへの想いが強く疼く。

 王族としての義務と、自らの恋心の板挟み。ニコラスの心は、嵐の海のように揺れていたーー

 悩みが深まる中、王宮を移動するマーガレットとすれ違う。

 『ニコラス殿下? お痩せになったようにお見受けします…… お元気もないような?…… 大丈夫ですか?』
 マーガレットは穏やかに尋ねるが、瞳には純粋な心配の色が見え隠れしていた。
 
 ニコラスは驚いたように一瞬瞳を動かす。
 ( 王族として、どちらかと言えば“冷静”と揶揄されてきた完璧な王子だったはずだがな…… 情けないな、ふっ)

 「ありがとう、マーガレット。最近、少し忙しかったからそのせいかな…… 心配いらないよ。」
 ニコラスの顔には切なさが滲んでいた。

◇◇◇

 ニコラスはひとり決意を固める。
 
 「マーガレット……君が好きだ……。
  しかし、僕は王族としての責務を果たさねばならない。それが王家に生まれた者の宿命だ。全てはカルリスタ王国のために。それは、君のためにもなるはずだ。」 
  
 ”ソルフェニアの炎に誓って“
 僕の命は、セレスト王国のために!

 (うっ….うっうっ….)
 声を殺して涙を流すニコラスを、月だけが見ていた。

◇◇◇

 隣国アルマディス公国オーデリア公女との同盟による婚姻は、カルリスタ王国の将来のために有益な決断だった。
 
 十五歳の初恋の相手、マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢への想いを胸に秘め、ニコラスは婚姻による同盟強化を決意する。

◇◇◇

 決意を固めたニコラスは、エルンスト陛下と、エマニュエル王妃へと面会を申し入れた。
 
 ほどなくして……
 “晩餐をともに”との返答が届く。

つづく

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