【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅱ 五年後の王宮

8-白き才女のモテ期到来

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 白いカーテンがゆるやかに揺れるレーヴェン伯爵邸の居間には、陽だまりのような温もりが満ちている。

 刺繍の籠を手にしたイザベラ伯爵夫人が、ため息をひとつ。
 「ねぇ……またお見合いのお話が届いたわよ、ダニエル」

 「はぁ~…… またかい?」
 書類に目を通していたダニエル伯爵が顔を上げた。
 机の上にはすでに、数十通の封蝋付きの書簡が積み重なっている…… 全てが上級貴族からだ。

 「今度はどこから?」
 「…… カンテミール公爵家。オーギュスタン公子殿下からよ」
 「カンテミール家とは……これまた大物だね(はぁ~)。王弟フィリップ殿下の御二男ではないか…… 王位継承者ホイホイなのか?…… (ブツブツ)」

 レーヴェン伯爵夫妻はしばらく無言で目を閉じたーー

 「それにしても、ずいぶん急ね。マーガレットが“独り身”になったと知るやいなや……」
 「おいおい、誤解を招く表現はやめなさい!マーガレットは誰かのものになったことなどないよ!」
 
 イザベラが苦笑すると、ソファの上で遊んでいたレオが「マギー姉のお婿さん?」 と可愛いく首をかしげた。

 「そうよ、レオ。マーガレットにお婿さんのお話がきているの」
 レーヴェン伯爵家の跡取りで長女のリリアーナが三歳になる息子レオポルドの髪をなでながら微笑む。
 その隣では、夫となり騎士を辞めたユリウスが生後半年のジュリアンを抱き、あやしていた。

 「だが、カンテミール公爵家だけではないんだよ….. 」
 ダニエルがため息をつきながら眉尻を下げ、次の書簡を手に取り、封を切る。
 ( あら、困り顔も変わらず美形だわ…… などと、思考だけでも問題から現実逃避するイザベラ伯爵夫人)

 「ん?イザベラ、どうかしたかい?」
 「えっ(ビクっ)、何でもないわ!頭の痛いことだと思っただけよ、ええ。」

 「本当に、頭が痛いよ……。こちらは……エルネシア公国のロートリンゲン公爵家からだ。どうやら、隣国でも“白き塔の才女”の噂が届いているようだな。
 おい!こちらも王位継承権を有していらっしゃるではないか……あぁ、やっぱり王位継承者ホイホイなのか!?…… (ブツブツ)」

 「まあ、うちの娘を褒めてくださるのは嬉しいけれど……」
 イザベラは少し困ったように笑い、視線をソファの端に向けた。

 そこには、普段着のドレスのはずなのに凛とした気品を纏って座るマーガレットがいた。彼女は膝の上で手を組み、静かに話を聞いている。

 『……お父様。わたしくは、まだ学院の一年生です。学問も半ばですし、それに……」
 マーガレットの声は柔らかく、それでいて芯のある響きだった。
 『ニコラス殿下がアルマディス公国へ旅立たれた今、カルリスタ王国のためにできることを探したいのです。…… せめてニコラス殿下の婚姻の儀が済むまでは、今のままでいたいのです。』

 リリアーナが目を細めた。
 「……まあ、なんて気高く健気なのかしら。私の妹ながら誇らしいわ」

 「けれど、放っておくと、求婚者の列ができそうよ」
 イザベラが苦笑すると、ユリウスが「学院の正門が渋滞するな」と冗談を言い、居間に笑いが広がった。

ーーー

 その時、使用人が紅茶を運んできた。
窓の外では春の鳥がさえずり、ジュリがその声に合わせて笑う。

 ダニエルは、そんな家族の笑顔を見つめながら、静かに言った。
 「まあ、焦ることはない。良縁というものは、急ぐほど遠ざかるものだ」

 『ありがとうございます、お父様』
 マーガレットは胸の奥に悲しさを隠し微笑んだ。

――そしてその日、レーヴェン伯爵家の午後はいつものように穏やかに過ぎていった。見合いの話題は尽きぬけれど、家族の笑い声は春の陽だまりよりあたたかかった。

つづく

< 解説>
愛称: マーガレット→マギー

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