【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅲ アルマディス公国との婚姻

4 婚約者の幼馴染

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 王城居室のテラスに立ち、ニコラスは海を見下ろしていた。今日の海は穏やかで、陽光を受けた波が柔らかく煌めいている。澄んだ青空は少しの雲が浮かんでいる。
 
 ザバーンっ___ザバーンっ
 ___ザザザザ___ザっバーンっ

 潮風が金の髪を揺らし、遠くでカモメが鳴く。彼はその鳴き声に耳を傾けながら、ふと目を細めた。

――この空の青は、あの瞳の色に似ている

 心に浮かぶのは、マーガレットの顔。
澄んだ青の瞳が、まっすぐに自分を見つめていたあの日々…… 彼女の瞳はこの空のように青く美しく澄んでいた。

 ニコラスは小さく笑った…… ( 重症だな、ふっ )
 「……君も、この空の下にいるんだね、マーガレット」
 そう呟いた声は、波音に溶け、カモメの翼に乗って遠くへ消えていった。
_____

 「――ニコラス殿下、オーデリア公女がお越しです」
 カルリスタ王国から随伴した側近アドリアンの声に、ニコラスは振り返る。

 扉が静かに開き、淡い深緑色のドレスがふわりと揺れた。陽光を浴びたオーデリアの髪は銀砂のようにきらめき、深みのあるオリーブ色の瞳は上品な知性を感じさせる。

 (……美しく聡明な女性だ)
 ニコラスはそう感じながらも、ふとオーデリア公女の背後に目を向けた。

 オーデリアの後ろに立つ護衛の青年――
 その存在感が、まるで部屋の空気を重く変えたようだった。

 栗色の髪を無造作に流し、魅力的なアンバーの瞳。制服の襟をわずかに崩したその青年は、片手を胸に当てて軽く頭を下げる。

 「オーデリア公女の護衛騎士、サンナ公爵家二男 ローレンス・サンナと申します。
 ニコラス殿下のお噂はかねがね。ようこそ、アルマディスへ」

 ―― なんだか…… 軽い
 第一印象がそれだった

 けれど、人好きのする美しい笑みの奥に、一瞬だけ見えた鋭い瞳。それは、訓練された騎士特有の警戒心の光だった。

 (なるほど……見た目よりは、ずっと慎重な男だ)

 「ローレンスは、幼いころから私の護衛を務めているのです」
 オーデリアがやわらかく微笑む。

 「私が二歳の頃に母が亡くなってから、サンナ公爵家の方々には本当にお世話になって。バレッタ公爵夫人は、母の学院時代のご友人なのです」

 その言葉に、ローレンスは照れたように頭を掻いた。
 「いや、そんな大げさな。リアは、うちの家族で妹みたいなもんですから」

 「妹……. ですか?」とニコラスの問いに、ローレンスは軽く笑って肩をすくめた。

 「まあ……そういうことに“しておかないと”、父上に後で怒られますので。
 あ~、え~と、”妹“という発言が不敬でしたら、謝罪いたしますが…… 」

 (ん? “しておかないと”?)
 ニコラスの眉がわずかに動く。
 冗談めかした言葉の裏に、ほんの少しの本音が滲んだ気がした。

 オーデリアがローレンスを軽く睨んで言う。
 「ラリー!また軽口を…… ニコラス殿下に失礼ですよ」

 「おっと、失礼(ニヤ)」
 ローレンスは軽く頭を下げたが、その目尻には悪戯っぽい笑みが浮かんでいた。

 ――その笑顔を見た瞬間、ニコラスの胸の奥に、何か小さな違和感が走った。

 親しすぎる距離感。
 目を合わせた時の、自然すぎる呼吸のタイミング。
 オーデリア公女は慌てて無意識に出たのであろうが、ローレンスの愛称(リア)呼びは…… わざとだろうな。
 
 幼なじみというには、どこか“互いの心を読み合っている”ような――そんな空気感。

( ……まさか、とは思うが…… イヤ、マーガレットとルースも 幼馴染だが、本当に"兄妹“のような関係だったしな.....。えっ!違うのか!? 嘘だろ!?…… )

 そのとき――
 窓の外、海を渡る風がカーテンを大きく揺らした。
 
つづく

〈 解説 〉
愛称 :  オーデリア→リア
   ローレンス→ラリー
______________

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