【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅲ アルマディス公国との婚姻

13 男二人の恋バナ

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 休憩室を出ていくエレンヌの足音が遠ざかると、残された二人――ローレンスとニコラスは、同時にふぅ、と息を吐いた。

 「……ったく、エレンヌ公女って、見た目はああでも、根はいい子だったんだな」
 ローレンスが苦笑しながらベットに腰を下ろす。
 
 壁にもたれたニコラスも軽くうなずいた。
 「ああ。正直、驚いた。あんなにも……姉思いだったとは」

 沈黙。
 そして、ワインの香りが漂う中――ローレンスがぽつりと口を開いた。

 「なあ、ニコラス…… って、あぁ~もう呼び捨てでいいよな?な? もし俺が……リアに告白して、もし、だ。
もし両想いになったら……お前、どうする?」

 一瞬、空気がぴたりと止まった。ニコラスは目を細め、ニヤリと少し笑った。

 「……どうするもなにも。君とオーデリア公女が幸せになれるなら、それでいいさ」

 「…… そんな簡単に言うなよ」
 ローレンスが苦笑する。
 「王子様のくせに、譲るとか簡単に言われると、こっちが悪者みたいじゃないか、ったく」

 ニコラスは静かにワインを飲み始めた。
 「……僕には、カルリスタに想う人がいるんだ」

 「….. ほう?…… で?」
 ローレンスが眉を上げる。

 「白き塔の中――王宮で暮らす女性だ。名は……マーガレット。彼女は、まるで白薔薇のように凛としていて……だけど、笑うとガーベラみたいに可愛いいんだ、はぁ、マーガレット……. 会いたいな…… 」
 ニコラスの声がほんの少し震えていた。
 
 その横顔には、遠くの空を見つめるような切なさが漂っている。

 「……ニコラス、めちゃくちゃ惚れてんな」
 ローレンスが、口の端をあげて言った。

 「惚れてるさ、骨抜きだよ」
 ニコラスは即答した。
 「国を出る前に、約束はできなかったけど…… いつか、もう一度あの塔に戻って、彼女に会いたい」

 ローレンスはしばらく黙ってから、くっと笑った。

 「ったく、なんだよ……ニコラスも結構、難儀な恋愛だっな……. まあ、王族だもんな。思いのままには生きられないか」
 オーデリア公女を思い浮かべているのか、ローレンスの顔が切なく歪んだ。

 ローレンスは目をそらしながら、頭をかいた。
 「……リアは、昔っから太陽みたいなやつなんだ。辛い環境で育ったのに、あいつが笑うと、周りまで明るくなって、
でも泣かせたら……世界ごと曇りそうでさ」

 ニコラスがわずかに微笑む。
 「君の目は、彼女のことを語る時だけ、真剣になるな」

 「バカ、やめろ、そういうこと言うな!……. あっ王族にバカって言っちゃったけど大丈夫だよな?」
 顔を赤くしたローレンスが慌てて立ち上がる。

 ニコラスはそんな彼を見上げ、静かに笑った。
 「……君も骨抜きにされてるな、ローレンス」

 ローレンスは顔を背けたまま、ぼそっと言う。
 「うるさいな。人の心を見透かすな!」

 二人の間に流れる、照れくさい沈黙。
 それでも――夜風がカーテンを揺らし、どこか心地よい空気が流れる。

 「……なあ、ニコラス」
 「ん?」
 「お互い、惚れた女のために頑張ろう」

 「――ああ」
 ニコラスが笑い、グラスを軽く掲げる。

 「オーデリアのために」
 「マーガレットのために」

 「「そして――真っ直ぐな自分たち愛のために」」
 ローレンスも笑って、二人のグラスが小さく触れ合った。

 カラン、と澄んだ音が、夜の静寂に溶けていった。

つづく

_______________

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