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Ⅲ アルマディス公国との婚姻
14 白き塔の才女伝説
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休憩室の静けさが戻ると、ローレンスはワインをくいっと飲み、ニコラスの言葉を反芻した。
「……ニコラスの言うマーガレットって、“白き塔の才女”のレーヴェン伯爵嬢のことだよな?」
ニコラスは少し照れながら頷いた。
「うん。彼女は……その、白い塔にいた頃、いつも真剣に――」
だがローレンスは急に目を丸くした。
「ニコラス……知らないのか? その子、めちゃくちゃ有名だぞ?」
「え? そんなに?」
ニコラスは心底驚いた顔をした。
ローレンスはニヤリと笑い、急に語り出した。
「“白き塔の才女”はな――薬草学だけで村ひとつ救ったって話があるんだぞ?」
「……は?」ニコラスが目を見開き、ピキッと固まった。
ローレンスは指を折りながら続ける。
「ひとつ、飢饉の年に、食べられる雑草や保存できる作物を見抜いて、村人の飢えを救ったって噂!」
「えっ……そんなことを……?」(本当にやってそうだな)
「ふたつ、辺境の森で暴れ狂った野生動物の暴走を、たったひとりで“解毒煙”を作って鎮めた、とか!」
「……まさか、とても危険なことしたんじゃ……?」
(※実際マーガレットは、煙管に詰める薬草を渡しただけ)
ローレンスは止まらないーー
「さらに三つ目!
疫病が流行ったとき、治癒薬がなくて皆泣いてると――“なら私が作ります”って一晩で代替薬を完成させたって噂!」
「ま、待て、その話は絶対に誇張だろ!?」ニコラスが慌てる。
(※実際には、医師が作った薬の分配法を整備しただけ)
ローレンスは笑いをこらえながら続ける。
「まあ噂は噂だが……どれも“白き塔の才女は国を救った”って大騒ぎになったやつだ」
「……………」ニコラスは銅像になった(動かない)
「ど、どうした、ニコラス?」
「…………そんなことになっているのか!?」ニコラスの顔が真っ赤になった。
ローレンスは大笑いしながら肩をすくめた。
「ニコラスの好きな子、国民からしたら半分“聖女扱い”だな。王子様が惚れるのもわかる気がする」
「いや、だから――そういうつもりでは……」
「いやいや、ニコラス、顔! 顔が真っ赤だ!」
ニコラスはあわてて顔を伏せる。
「マーガレットがその……そんなふうに噂されているとは思わなかった……」
ローレンスはニヤニヤしながら言う。
「“国を救った才女”に惚れる王子……絵になるじゃないか!」
「ローレンス、もう、やめてくれ……(真っ赤)」
だが口元は、どこか誇らしげにゆるんでいた。
「まあ、いろいろな噂があるけども――」
ローレンスはワインのグラスを回しながら、少し真面目な顔になった。
「一つだけ、さすがに“まゆつば”だと思ってる話があるんだよ」
「まゆつば?」ニコラスが目を上げる。
「ローゼンタール王国のナザレフ・ジャン・ローゼンタール王太子って知ってる?
古代語と魔導言語に精通してて、外交官の間じゃ“歩く叡智”って呼ばれてる大人物だ」
「……ああ、知っている。彼は手強い」
「で、そのナザレフ王太子が、カルリスタ王国に滞在していた時――“白き塔の才女”に古代語で話しかけたって噂があってさ」
ローレンスは身を乗り出して、声をひそめた。
「曰く、“この国に古の薬学を理解する者はおるか”って質問されたとき、彼女がすらすらと答えた、って言うんだ。しかもその古代語が“神聖文字”のレベルだったって話だ」
「ほう……」
「で、さらに!」
ローレンスは身振りを交えて熱を帯びる。
「そのあと“古の調合式”を即興で翻訳して、“現代薬草ではこの三種が対応します”って答えたんだそうだ!」
ニコラスは黙って聞いている。
ローレンスは大げさに肩をすくめて言った。
「さすがにそれはないよな。そんなの、ただの伝説だ。……僕もいろんな秀才を見てきたが、古代語でナザレフとやり合う人間なんて、聞いたことがない」
ニコラスは、少しだけ間を置いて――
静かに笑った。
「……それは、本当だ」
「………………は?」ローレンスが固まる。
ニコラスはワインを傾け、グラスの縁を指でなぞる。
「その場に、私もいた。」
「お、おま……マジで!?」
「ナザレフが“古代帝国の草名典”の一節を引用した時、マーガレットがすぐに“その草は今の分類では《リュシアの花》に相当します”と答えた。
私でも翻訳に手間取るのに、彼女は迷いなく言い切ったよ。しかも、その時、彼女は、十歳だった…….」
ローレンス「…………………………」
「彼女はただの才女ではない。まさに天才だ」
ニコラスがそう言うと、ローレンスは頭をがしがし掻いて笑った。
「おいおい……どんな才女だよ。“神聖文字”の会話をこなして、薬草の知識まで国宝級って。――ニコラスも、そりゃ本気で惚れちゃうね?」
「……ああ」
わずかに頬を染め、ニコラスは素直に答えた。
ふたりは顔を見合わせ、ふっと笑い合った。ここに確かな友情が生まれた…..。
つづく
_______________
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「……ニコラスの言うマーガレットって、“白き塔の才女”のレーヴェン伯爵嬢のことだよな?」
ニコラスは少し照れながら頷いた。
「うん。彼女は……その、白い塔にいた頃、いつも真剣に――」
だがローレンスは急に目を丸くした。
「ニコラス……知らないのか? その子、めちゃくちゃ有名だぞ?」
「え? そんなに?」
ニコラスは心底驚いた顔をした。
ローレンスはニヤリと笑い、急に語り出した。
「“白き塔の才女”はな――薬草学だけで村ひとつ救ったって話があるんだぞ?」
「……は?」ニコラスが目を見開き、ピキッと固まった。
ローレンスは指を折りながら続ける。
「ひとつ、飢饉の年に、食べられる雑草や保存できる作物を見抜いて、村人の飢えを救ったって噂!」
「えっ……そんなことを……?」(本当にやってそうだな)
「ふたつ、辺境の森で暴れ狂った野生動物の暴走を、たったひとりで“解毒煙”を作って鎮めた、とか!」
「……まさか、とても危険なことしたんじゃ……?」
(※実際マーガレットは、煙管に詰める薬草を渡しただけ)
ローレンスは止まらないーー
「さらに三つ目!
疫病が流行ったとき、治癒薬がなくて皆泣いてると――“なら私が作ります”って一晩で代替薬を完成させたって噂!」
「ま、待て、その話は絶対に誇張だろ!?」ニコラスが慌てる。
(※実際には、医師が作った薬の分配法を整備しただけ)
ローレンスは笑いをこらえながら続ける。
「まあ噂は噂だが……どれも“白き塔の才女は国を救った”って大騒ぎになったやつだ」
「……………」ニコラスは銅像になった(動かない)
「ど、どうした、ニコラス?」
「…………そんなことになっているのか!?」ニコラスの顔が真っ赤になった。
ローレンスは大笑いしながら肩をすくめた。
「ニコラスの好きな子、国民からしたら半分“聖女扱い”だな。王子様が惚れるのもわかる気がする」
「いや、だから――そういうつもりでは……」
「いやいや、ニコラス、顔! 顔が真っ赤だ!」
ニコラスはあわてて顔を伏せる。
「マーガレットがその……そんなふうに噂されているとは思わなかった……」
ローレンスはニヤニヤしながら言う。
「“国を救った才女”に惚れる王子……絵になるじゃないか!」
「ローレンス、もう、やめてくれ……(真っ赤)」
だが口元は、どこか誇らしげにゆるんでいた。
「まあ、いろいろな噂があるけども――」
ローレンスはワインのグラスを回しながら、少し真面目な顔になった。
「一つだけ、さすがに“まゆつば”だと思ってる話があるんだよ」
「まゆつば?」ニコラスが目を上げる。
「ローゼンタール王国のナザレフ・ジャン・ローゼンタール王太子って知ってる?
古代語と魔導言語に精通してて、外交官の間じゃ“歩く叡智”って呼ばれてる大人物だ」
「……ああ、知っている。彼は手強い」
「で、そのナザレフ王太子が、カルリスタ王国に滞在していた時――“白き塔の才女”に古代語で話しかけたって噂があってさ」
ローレンスは身を乗り出して、声をひそめた。
「曰く、“この国に古の薬学を理解する者はおるか”って質問されたとき、彼女がすらすらと答えた、って言うんだ。しかもその古代語が“神聖文字”のレベルだったって話だ」
「ほう……」
「で、さらに!」
ローレンスは身振りを交えて熱を帯びる。
「そのあと“古の調合式”を即興で翻訳して、“現代薬草ではこの三種が対応します”って答えたんだそうだ!」
ニコラスは黙って聞いている。
ローレンスは大げさに肩をすくめて言った。
「さすがにそれはないよな。そんなの、ただの伝説だ。……僕もいろんな秀才を見てきたが、古代語でナザレフとやり合う人間なんて、聞いたことがない」
ニコラスは、少しだけ間を置いて――
静かに笑った。
「……それは、本当だ」
「………………は?」ローレンスが固まる。
ニコラスはワインを傾け、グラスの縁を指でなぞる。
「その場に、私もいた。」
「お、おま……マジで!?」
「ナザレフが“古代帝国の草名典”の一節を引用した時、マーガレットがすぐに“その草は今の分類では《リュシアの花》に相当します”と答えた。
私でも翻訳に手間取るのに、彼女は迷いなく言い切ったよ。しかも、その時、彼女は、十歳だった…….」
ローレンス「…………………………」
「彼女はただの才女ではない。まさに天才だ」
ニコラスがそう言うと、ローレンスは頭をがしがし掻いて笑った。
「おいおい……どんな才女だよ。“神聖文字”の会話をこなして、薬草の知識まで国宝級って。――ニコラスも、そりゃ本気で惚れちゃうね?」
「……ああ」
わずかに頬を染め、ニコラスは素直に答えた。
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