【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅶ マーガレットのいない世界

5 ニコラスの悲しみ

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――その報せを最も重く受け止めたのは、二人の青年であった。

大国ローゼンタールのナザレフ王太子は、報告を受けた瞬間、深い沈黙に沈んだ。
やがてその蒼き瞳に宿ったのは、焦燥と理知の炎である。
彼は直ちに諜報機関および各国領事館に命じ、国家の威信を懸けて捜索にあたらせた。

「――彼女は必ず生きている。私が見つけ出す」

ナザレフにとってマーガレットは、恋ではなく、学問と理想を共有する“精神の友”であった。
互いの知を高め合い、時に論を戦わせ、時に微笑み合った。
ゆえにその不在は、彼の中の理性の一角を失うに等しかった。
だからこそ、彼は静かに、そして烈しく、彼女の生存を信じて行動したのである。

そしてカルリスタ王国第二王子ニコラスは、報せを受けても表情を崩さず、王族としての威厳を保った。
胸の奥には鋭い痛みと焦燥を抱えていたが、それを顔や声に出すことはなかった。
むしろ彼は淡々と指示を飛ばし、捜索隊の動きを的確に管理し、資金や物資の手配も迅速に行った。

それでも、彼の心はマーガレットへの思いで満ちていた。
誰よりも彼女を想い、遠くからその笑顔を守りたいと願う気持ちは、理性と責務の裏で燃え続けていた。

「――無事で戻るんだ。必ず、あの笑顔のまま」

 その祈りは、決して声には出さずとも、行動の一つひとつに現れていた。
理性で動くナザレフと、愛情を胸に秘めつつ毅然と行動するニコラス。
二人の青年は、それぞれの想いを胸に、同じ一人の女性のために夜を駆けていた。

 マーガレットが消息を絶ってから、既に一週間が経過していた。
 ニコラス殿下は、ほとんど眠ることなく、昼夜を問わず捜索活動を続けていた。
 周囲の家臣たちは心配し、少しでも休むよう何度も勧めたが、彼は頑として耳を貸さなかった。

「眠れないんだ。目をつぶっていると――マーガレットが泣いているんだ……」
 ニコラスの声は、普段の王族然とした威厳を保った口調とは違い、かすれた震えを帯びていた。
「そんなの、寝られるわけがないだろう……」

 そのとき、カルリスタ王国から第二王子アルベルトがアルマディス公国に到着した。
 ローゼンタール王国とルナリア王国の協力のもと、転移門を数ヶ所使用し、わずか一週間で到着したのである。

 アルベルト王子は静かにニコラスに声をかけた。
「ニコ、大変だったね。お前は、大丈夫かい?」
 その瞬間、王族としての毅然とした態度で緊張を張り詰めていたニコラスの心は、ふと弾けた。

「マーガレットに会いたい!マーガレット!マーガレット!...... ああああぁ」

 抑えていた感情が一気に溢れ、ニコラスはアルベルトに抱きしめられて号泣した。
 涙と嗚咽にまみれ、疲れ切った身体をアルベルト王子に支えられながら、ついに安堵の眠りに落ちた。

 その夜、ニコラスは初めて目を閉じ、深く眠った。
 眠りの中で、マーガレットの笑顔が彼の夢に穏やかに現れ、心をそっと癒していったのである。

つづく

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