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Ⅹ カルリスタ王国
3 褒賞の授与
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謁見が終わると同時に、侍従長が前に進み出た。
「これより、マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢に対する褒賞授与を執り行います。」
格式張った声が謁見の間に響く。
マーガレットは思わず姿勢を正した。
チロル宰相の手には、宝石がちりばめられた箱がある。
「マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢。
転移門の恒久的使用び魔導理論の革新、ならびに各国との親善に多大な功績を挙げられたことを讃え──」
玉座の前にひざまずくと、陛下が立ち上がり、直々に宝飾を授けた。
「──王国特別功労章《蒼銀の冠章》を授与する。」
ざわ、と謁見の間にどよめきが起こる。
《蒼銀の冠章》──これは
“国王が直接認めた者”にだけ授与される、半ば騎士勲章に等しい名誉だった。
王妃が優しく祝福する。
「マーガレット、本当に誇りよ。」
マーガレットは胸に手を当て、静かに頭を垂れた。
「……身に余る光栄にございます。」
その日の午後。
王立セレスト学院の院長と教授陣が、特例として王宮を訪れた。
「マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢。
あなたの提出した魔導理論は、これまでの常識を覆すものでした。」
「特に、“魔導回路不全の改善と転移魔術の安全確保”は、
我が国の魔導医学における歴史的転換点となるでしょう。」
「よって、学院はあなたを──
《名誉研究官》に任命することを決定いたしました。」
「え……?」
名誉研究官──それは貴族身分の有無に関係なく、“研究者として国に大きく貢献した者”だけが得られる称号である。
すでにマーガレットの学術的価値は、
多くの研究者を飛び越え “第一線の才女” として扱われていた。
「あなたの論文はすでに学会史上、例外的な速度で翻訳が始まっています。
数年以内に、各国の学術院で引用されるでしょう。」
院長の誇らしげな声に、マーガレットの胸が熱くなる。
「……ありがとうございます。」
その後、宮廷内でも評価は急速に変わった。
「ローゼンタール王国、ヴァルディア王国、ルナリア王国、アルマディア公国……
この短期間にどれだけの国と繋がりを作ったのだ……!」
廷臣たちの会話が、彼女の凄まじい影響力を物語っている。
“白き塔の才女”は、いまや世界級の才女として認識された。
そして、その中心にいる少女はただ静かに、
「……やりすぎてしまったかしら?」
と、控えめに首をかしげていた。
そんな様子に、王妃はそっと微笑んだ。
「あなたは誇りよ、マーガレット。
遠慮する必要などないわ。」
◇◇◇
マーガレットとの会話が終わり、彼女が部屋を退出した後──
王妃エマニュエルは侍女に「誰も通さぬように」と指示し、そっと窓外の庭を見下ろす。
窓の向こうでは、表彰を受けて嬉しそうなマーガレットが、レーヴェン伯爵家の使者と談笑していた。
王妃は静かに息をつき、独り言のように呟く。
「……素直で、賢く、よく働き、そして謙虚。あれほど扱いやすく、かつ能力の高い娘は、そう多くないわね」
侍女が控えめに問いかける。
「レーヴェン伯爵令嬢を、今後も宮廷にお引き留めになるお考えで……?」
王妃エマニュエルは頬に指を添え、答えるというより“見透かしたように微笑む”。
「ええ。宮廷には、純粋に学を好み、己の利益より“国”を優先できる者が不足していますもの。
あの娘は──育てれば、宮廷の顔にも、刃にもなりうる」
「刃……でございますか?」
「外交にも内政にも、柔らかい切っ先は必要なのですよ。
血を流さず、笑顔で道を切り開ける者。あの娘は、その資質を持っている」
王妃は目を細め、薄く微笑んだ。
「何より──王家に忠義を抱く者は、重宝されるべきでしょう?」
その視線は、まるでマーガレットを“未来の配置する駒”として眺めているかのよう。
「今はまだ、白き塔の才女というだけ。でも……」
王妃は紅茶の残りを揺らし、静かに言葉を落とした。
「いずれ、カルリスタ王国のために動く
”王家の手“となってもらうつもりよ」
夕陽が窓を染め、王妃の横顔に影を落とした。
その陰影は、優しさと同時に、
王妃エマニュエルの──冷静な政治家の顔を確かに浮かび上がらせていた。
つづく
_______________
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「これより、マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢に対する褒賞授与を執り行います。」
格式張った声が謁見の間に響く。
マーガレットは思わず姿勢を正した。
チロル宰相の手には、宝石がちりばめられた箱がある。
「マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢。
転移門の恒久的使用び魔導理論の革新、ならびに各国との親善に多大な功績を挙げられたことを讃え──」
玉座の前にひざまずくと、陛下が立ち上がり、直々に宝飾を授けた。
「──王国特別功労章《蒼銀の冠章》を授与する。」
ざわ、と謁見の間にどよめきが起こる。
《蒼銀の冠章》──これは
“国王が直接認めた者”にだけ授与される、半ば騎士勲章に等しい名誉だった。
王妃が優しく祝福する。
「マーガレット、本当に誇りよ。」
マーガレットは胸に手を当て、静かに頭を垂れた。
「……身に余る光栄にございます。」
その日の午後。
王立セレスト学院の院長と教授陣が、特例として王宮を訪れた。
「マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢。
あなたの提出した魔導理論は、これまでの常識を覆すものでした。」
「特に、“魔導回路不全の改善と転移魔術の安全確保”は、
我が国の魔導医学における歴史的転換点となるでしょう。」
「よって、学院はあなたを──
《名誉研究官》に任命することを決定いたしました。」
「え……?」
名誉研究官──それは貴族身分の有無に関係なく、“研究者として国に大きく貢献した者”だけが得られる称号である。
すでにマーガレットの学術的価値は、
多くの研究者を飛び越え “第一線の才女” として扱われていた。
「あなたの論文はすでに学会史上、例外的な速度で翻訳が始まっています。
数年以内に、各国の学術院で引用されるでしょう。」
院長の誇らしげな声に、マーガレットの胸が熱くなる。
「……ありがとうございます。」
その後、宮廷内でも評価は急速に変わった。
「ローゼンタール王国、ヴァルディア王国、ルナリア王国、アルマディア公国……
この短期間にどれだけの国と繋がりを作ったのだ……!」
廷臣たちの会話が、彼女の凄まじい影響力を物語っている。
“白き塔の才女”は、いまや世界級の才女として認識された。
そして、その中心にいる少女はただ静かに、
「……やりすぎてしまったかしら?」
と、控えめに首をかしげていた。
そんな様子に、王妃はそっと微笑んだ。
「あなたは誇りよ、マーガレット。
遠慮する必要などないわ。」
◇◇◇
マーガレットとの会話が終わり、彼女が部屋を退出した後──
王妃エマニュエルは侍女に「誰も通さぬように」と指示し、そっと窓外の庭を見下ろす。
窓の向こうでは、表彰を受けて嬉しそうなマーガレットが、レーヴェン伯爵家の使者と談笑していた。
王妃は静かに息をつき、独り言のように呟く。
「……素直で、賢く、よく働き、そして謙虚。あれほど扱いやすく、かつ能力の高い娘は、そう多くないわね」
侍女が控えめに問いかける。
「レーヴェン伯爵令嬢を、今後も宮廷にお引き留めになるお考えで……?」
王妃エマニュエルは頬に指を添え、答えるというより“見透かしたように微笑む”。
「ええ。宮廷には、純粋に学を好み、己の利益より“国”を優先できる者が不足していますもの。
あの娘は──育てれば、宮廷の顔にも、刃にもなりうる」
「刃……でございますか?」
「外交にも内政にも、柔らかい切っ先は必要なのですよ。
血を流さず、笑顔で道を切り開ける者。あの娘は、その資質を持っている」
王妃は目を細め、薄く微笑んだ。
「何より──王家に忠義を抱く者は、重宝されるべきでしょう?」
その視線は、まるでマーガレットを“未来の配置する駒”として眺めているかのよう。
「今はまだ、白き塔の才女というだけ。でも……」
王妃は紅茶の残りを揺らし、静かに言葉を落とした。
「いずれ、カルリスタ王国のために動く
”王家の手“となってもらうつもりよ」
夕陽が窓を染め、王妃の横顔に影を落とした。
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