【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

文字の大きさ
87 / 107
Ⅹ カルリスタ王国

8 殿下と側近たち

しおりを挟む
 レーヴェン伯爵邸から戻ったニコラスは、どこか切迫したような厳しい表情を浮かべ、足早に自室へと向かっていた。

「おい、殿下……何かあったのか?」
「いや、帰り道は幸せそうだったんだけどな……」
「でも、今の顔つき、めちゃくちゃ怖かったぞ」
「ああ、なんだかわかんねぇよ……」

 同行していた護衛たちは、王城勤務の同僚から声を掛けられていた。
 それほどまでに、ニコラスの表情には“鬼気迫るもの”があったのだ。

 ___バタンッ
  ___タッタッタッタッ
       ___バタンッ
 「…っ、はぁ……あぁぁ……」

   チーン!( 賢者タイム )___

 そう。
 ニコラスは“私用”で個室へ急いでいたのである。
 頭の中はすでに “マーガレット一色”。
 どうしようもなく胸がいっぱいで、気持ちの整理がつかず、切羽詰まっていたのだ。

 まもなくして、自室から出てきたニコラスの顔は驚くほど晴れやかだった。

 つい先ほどまでの張りつめた表情はどこへやら、絵に描いたような爽やかスマイルである。

 それを見た護衛たちは、互いに目配せし──

「「「 ああ…( なるほどな )」」」

 ……と、静かに頷き合った。

 こうしてニコラスは、いつもの落ち着きを取り戻し、執務室へと向かった。

 王宮内を歩くニコラスを見かけた女官や侍女たちは、今日も今日とて、憧れの眼差しを向ける。

「なんて爽やかなのかしら……!」
「殿下って、本当に素敵……」
「品があって、清潔感のかたまりみたい……!」

 その声を聞いた護衛たちは、主の人気の高さに誇らしさを覚えつつも──
 今ばかりは、どこか複雑な気持ちを抱えるのであった。

 「エドガー、陛下に面談の申し入れをしておいてくれ」
 ニコラスは側近のエドガー・アースキン伯爵令息に指示を出した。

 エドガーは静かに一礼し、そのまま部屋を出ていく。

 すると、近衛騎士のレオナルド・アスカン伯爵令息が、面白そうに肩を揺らした。
「お前さ、余裕なさすぎじゃねえ? 本番でどうするつもりだよ?(ニヤ)」

 ニコラスは途端に顔を真っ赤にして噛みつく。
「おい! まさかマーガレットを想像してるんじゃないだろうな!?
 ダメだ! 消せ! 今すぐ、その想像を抹消しろ!」

 完全に、子どもの喧嘩である。

「……はいはい。殿下、いいから仕事してくださいよ」
 オスカー・ハントリー侯爵令息が呆れたようにため息をつき、二人を制した。

 ニコラスの側近であるエドガー、オスカー、レオナルドの三人は、殿下とともに七歳から成長してきた。
 主従でありながら、生涯を誓った友でもある。

 学院時代から美形揃いとして名を知られた四人は、令嬢・令息たちの憧れの的だった。
 もっとも、期末試験の時期にしか学院へ姿を見せなかったため、一般の生徒たちにはご尊顔を拝む機会はほとんどなかったが……。

 当時からすでに、第三王子ニコラスを中心に、彼を守り支える三人の精鋭が“殿下と共に四つの翼”となる──“NEORの四翼(ネオルしよく)”と呼ばれていた。

___若さゆえに“二つ名”で異名を与えられていた......恥ずかしいかも。

 侍女たちの噂では——

「殿下の周りって、イケメンの精鋭ばかりよね……」
「ネオル四翼が揃うと、空気が変わるわ」
「“顔面偏差値部隊”って、非公式で呼ばれてるらしいのよ……!」

 “NEORの四翼”は、まさに目の保養であった。

 今では四人は、どの貴族も一目置く存在となっている。
 四人で飲む夜会では昔と変わらずくだらない冗談で笑い合い、しかし一度問題が起これば、互いの考えを一瞬で読み取る。

 彼らはもう誰にも代えられない、
 王国の未来を背負う“風に乗る四枚の翼”である。

 幼い頃、ニコラス第三王子を立太子させようと企む不穏な勢力もあったが、兄弟仲の良さは揺るがず、付け入る隙はなかった。
 そもそもニコラス自身が、兄である王太子マクシミリアンを深く慕っており、王座を狙う意志など微塵も持ち合わせていないのだ。
 もちろん、第二王子アルベルトも同様だ。

 本来なら、政治勢力が一つの家門に集中することを避けるため、王子たちの側近は異なる家門から選抜されるのが通例である。
 
 しかし王太子の側近は——
 NEORの四翼の“兄たち”で構成されていた。

 カルリスタ王国の次世代は、揺るぎない結束で固く結ばれている。

つづく
______________

💐いいね❤️励みになります🥰応援ありがとうございます💫

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!

白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。 婚約者ではないのに、です。 それに、いじめた記憶も一切ありません。 私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。 第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。 カクヨムにも掲載しております。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...