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Ⅹ カルリスタ王国
8 殿下と側近たち
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レーヴェン伯爵邸から戻ったニコラスは、どこか切迫したような厳しい表情を浮かべ、足早に自室へと向かっていた。
「おい、殿下……何かあったのか?」
「いや、帰り道は幸せそうだったんだけどな……」
「でも、今の顔つき、めちゃくちゃ怖かったぞ」
「ああ、なんだかわかんねぇよ……」
同行していた護衛たちは、王城勤務の同僚から声を掛けられていた。
それほどまでに、ニコラスの表情には“鬼気迫るもの”があったのだ。
___バタンッ
___タッタッタッタッ
___バタンッ
「…っ、はぁ……あぁぁ……」
チーン!( 賢者タイム )___
そう。
ニコラスは“私用”で個室へ急いでいたのである。
頭の中はすでに “マーガレット一色”。
どうしようもなく胸がいっぱいで、気持ちの整理がつかず、切羽詰まっていたのだ。
まもなくして、自室から出てきたニコラスの顔は驚くほど晴れやかだった。
つい先ほどまでの張りつめた表情はどこへやら、絵に描いたような爽やかスマイルである。
それを見た護衛たちは、互いに目配せし──
「「「 ああ…( なるほどな )」」」
……と、静かに頷き合った。
こうしてニコラスは、いつもの落ち着きを取り戻し、執務室へと向かった。
王宮内を歩くニコラスを見かけた女官や侍女たちは、今日も今日とて、憧れの眼差しを向ける。
「なんて爽やかなのかしら……!」
「殿下って、本当に素敵……」
「品があって、清潔感のかたまりみたい……!」
その声を聞いた護衛たちは、主の人気の高さに誇らしさを覚えつつも──
今ばかりは、どこか複雑な気持ちを抱えるのであった。
「エドガー、陛下に面談の申し入れをしておいてくれ」
ニコラスは側近のエドガー・アースキン伯爵令息に指示を出した。
エドガーは静かに一礼し、そのまま部屋を出ていく。
すると、近衛騎士のレオナルド・アスカン伯爵令息が、面白そうに肩を揺らした。
「お前さ、余裕なさすぎじゃねえ? 本番でどうするつもりだよ?(ニヤ)」
ニコラスは途端に顔を真っ赤にして噛みつく。
「おい! まさかマーガレットを想像してるんじゃないだろうな!?
ダメだ! 消せ! 今すぐ、その想像を抹消しろ!」
完全に、子どもの喧嘩である。
「……はいはい。殿下、いいから仕事してくださいよ」
オスカー・ハントリー侯爵令息が呆れたようにため息をつき、二人を制した。
ニコラスの側近であるエドガー、オスカー、レオナルドの三人は、殿下とともに七歳から成長してきた。
主従でありながら、生涯を誓った友でもある。
学院時代から美形揃いとして名を知られた四人は、令嬢・令息たちの憧れの的だった。
もっとも、期末試験の時期にしか学院へ姿を見せなかったため、一般の生徒たちにはご尊顔を拝む機会はほとんどなかったが……。
当時からすでに、第三王子ニコラスを中心に、彼を守り支える三人の精鋭が“殿下と共に四つの翼”となる──“NEORの四翼(ネオルしよく)”と呼ばれていた。
___若さゆえに“二つ名”で異名を与えられていた......恥ずかしいかも。
侍女たちの噂では——
「殿下の周りって、イケメンの精鋭ばかりよね……」
「ネオル四翼が揃うと、空気が変わるわ」
「“顔面偏差値部隊”って、非公式で呼ばれてるらしいのよ……!」
“NEORの四翼”は、まさに目の保養であった。
今では四人は、どの貴族も一目置く存在となっている。
四人で飲む夜会では昔と変わらずくだらない冗談で笑い合い、しかし一度問題が起これば、互いの考えを一瞬で読み取る。
彼らはもう誰にも代えられない、
王国の未来を背負う“風に乗る四枚の翼”である。
幼い頃、ニコラス第三王子を立太子させようと企む不穏な勢力もあったが、兄弟仲の良さは揺るがず、付け入る隙はなかった。
そもそもニコラス自身が、兄である王太子マクシミリアンを深く慕っており、王座を狙う意志など微塵も持ち合わせていないのだ。
もちろん、第二王子アルベルトも同様だ。
本来なら、政治勢力が一つの家門に集中することを避けるため、王子たちの側近は異なる家門から選抜されるのが通例である。
しかし王太子の側近は——
NEORの四翼の“兄たち”で構成されていた。
カルリスタ王国の次世代は、揺るぎない結束で固く結ばれている。
つづく
______________
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「おい、殿下……何かあったのか?」
「いや、帰り道は幸せそうだったんだけどな……」
「でも、今の顔つき、めちゃくちゃ怖かったぞ」
「ああ、なんだかわかんねぇよ……」
同行していた護衛たちは、王城勤務の同僚から声を掛けられていた。
それほどまでに、ニコラスの表情には“鬼気迫るもの”があったのだ。
___バタンッ
___タッタッタッタッ
___バタンッ
「…っ、はぁ……あぁぁ……」
チーン!( 賢者タイム )___
そう。
ニコラスは“私用”で個室へ急いでいたのである。
頭の中はすでに “マーガレット一色”。
どうしようもなく胸がいっぱいで、気持ちの整理がつかず、切羽詰まっていたのだ。
まもなくして、自室から出てきたニコラスの顔は驚くほど晴れやかだった。
つい先ほどまでの張りつめた表情はどこへやら、絵に描いたような爽やかスマイルである。
それを見た護衛たちは、互いに目配せし──
「「「 ああ…( なるほどな )」」」
……と、静かに頷き合った。
こうしてニコラスは、いつもの落ち着きを取り戻し、執務室へと向かった。
王宮内を歩くニコラスを見かけた女官や侍女たちは、今日も今日とて、憧れの眼差しを向ける。
「なんて爽やかなのかしら……!」
「殿下って、本当に素敵……」
「品があって、清潔感のかたまりみたい……!」
その声を聞いた護衛たちは、主の人気の高さに誇らしさを覚えつつも──
今ばかりは、どこか複雑な気持ちを抱えるのであった。
「エドガー、陛下に面談の申し入れをしておいてくれ」
ニコラスは側近のエドガー・アースキン伯爵令息に指示を出した。
エドガーは静かに一礼し、そのまま部屋を出ていく。
すると、近衛騎士のレオナルド・アスカン伯爵令息が、面白そうに肩を揺らした。
「お前さ、余裕なさすぎじゃねえ? 本番でどうするつもりだよ?(ニヤ)」
ニコラスは途端に顔を真っ赤にして噛みつく。
「おい! まさかマーガレットを想像してるんじゃないだろうな!?
ダメだ! 消せ! 今すぐ、その想像を抹消しろ!」
完全に、子どもの喧嘩である。
「……はいはい。殿下、いいから仕事してくださいよ」
オスカー・ハントリー侯爵令息が呆れたようにため息をつき、二人を制した。
ニコラスの側近であるエドガー、オスカー、レオナルドの三人は、殿下とともに七歳から成長してきた。
主従でありながら、生涯を誓った友でもある。
学院時代から美形揃いとして名を知られた四人は、令嬢・令息たちの憧れの的だった。
もっとも、期末試験の時期にしか学院へ姿を見せなかったため、一般の生徒たちにはご尊顔を拝む機会はほとんどなかったが……。
当時からすでに、第三王子ニコラスを中心に、彼を守り支える三人の精鋭が“殿下と共に四つの翼”となる──“NEORの四翼(ネオルしよく)”と呼ばれていた。
___若さゆえに“二つ名”で異名を与えられていた......恥ずかしいかも。
侍女たちの噂では——
「殿下の周りって、イケメンの精鋭ばかりよね……」
「ネオル四翼が揃うと、空気が変わるわ」
「“顔面偏差値部隊”って、非公式で呼ばれてるらしいのよ……!」
“NEORの四翼”は、まさに目の保養であった。
今では四人は、どの貴族も一目置く存在となっている。
四人で飲む夜会では昔と変わらずくだらない冗談で笑い合い、しかし一度問題が起これば、互いの考えを一瞬で読み取る。
彼らはもう誰にも代えられない、
王国の未来を背負う“風に乗る四枚の翼”である。
幼い頃、ニコラス第三王子を立太子させようと企む不穏な勢力もあったが、兄弟仲の良さは揺るがず、付け入る隙はなかった。
そもそもニコラス自身が、兄である王太子マクシミリアンを深く慕っており、王座を狙う意志など微塵も持ち合わせていないのだ。
もちろん、第二王子アルベルトも同様だ。
本来なら、政治勢力が一つの家門に集中することを避けるため、王子たちの側近は異なる家門から選抜されるのが通例である。
しかし王太子の側近は——
NEORの四翼の“兄たち”で構成されていた。
カルリスタ王国の次世代は、揺るぎない結束で固く結ばれている。
つづく
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