【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

文字の大きさ
89 / 107
Ⅺ ノルフェリア王国の情勢

2 ノルフェリア王国の王太子

しおりを挟む

 「だからさあ。君はニコラス殿下を狙ってるんでしょう? 僕は、マーガレット嬢が欲しいんだよ」

 栗色のくせっ毛に大きな翡翠色の瞳──可愛らしく愛嬌ある外見を持つ青年。ノルフェリア王国王太子 リチャード・ノルフェリア が、セレーネ王女に声をかけた。

「ねえ、リチャード王太子殿下。わたくしが婚約して差し上げてもよろしくてよ?」

 セレーネ王女は、桃色の髪を揺らしながら、甘く囁くように微笑む。

「……(はあ) なんでそうなるのさ。僕は、“白き塔の才女”マーガレット・レーヴェン伯爵令嬢 に興味があるんだよ!」

 愛らしい顔立ちに似合わず、リチャードは盛大に呆れた目を向けた。

(またマーガレット……。どうして私じゃないの……?)
 内心で盛大に毒づいたセレーネは、ひとつ息を整える。

「……わかったわ。協力してあげる。でも、約束してちょうだい。我がヴァルディア王国に迷惑はかけないこと。絶対にね。」

 “我儘”と評される彼女だが、
祖国への忠誠と王族としての矜持は誰よりも強い。

「……わかったよ。……まあ、約束する。」

 リチャード王太子は肩をすくめつつも、しぶしぶ頷いた。

◇◇◇

 ノルフェリア王国は、カルリスタ王国・ローゼンタール王国・エルネシア公国の三国に挟まれた軍事的要衝であり、
古来より 「鉄の騎士国家」 と恐れられてきた。

 たいして大きくない国土に厳格な騎士制度を敷き、“戦の神”を祀る神殿が政治に深く干渉する。
 王家ですら神殿の神託には逆らえず、
国境防衛に特化した軍事国家は、周囲三国に常に睨みを利かせている。

 その次代を担うのがリチャード王太子(二十二歳)。
 可愛らしい外見とは裏腹に、冷徹で聡明と評される青年王族である。

 だがその胸の奥には、誰にも言えない 深い焦燥 があった。

 ──二十三年前、神殿が下した、恐るべき神託。

 
 リチャードには、誕生の日に 双子の妹 がいた。
 栗色の髪に翡翠色の瞳を持つ愛らしい姫、愛すべきティファニー王女。

 しかし、神殿最高位・大神官レオニールは神託を告げた。

「双子は災いの元。
二つの魂は王国を割り、血を呼び込む。一人を“処す”ことで国は救われる」

 王家は絶望しながらも逆らえず、しかし「処刑」ではなく 極秘裡の幽閉 を選んだ。

 ティファニー王女は“死んだことにされた王女”として、地下離宮 に隠された。

 もとより病弱だった王女は、今はもう──

「……このままでは、あと、三ヶ月」と医師は告げた。

 リチャードは誓った。
 どんな手段を使ってでも、妹だけは救う。

 まして大神官レオニールは、王家を廃し王権を奪う野心を持っている。一度でも神託に背けば、王家は滅ぶ。

「妹ティファニーを……このまま死なせるわけにはいかない。」

 だが、王太子である自分ですら、禁忌を破って堂々と治療師を呼ぶことは不可能だった。

 ──そんなとき、届いた一つの噂。

 《カルリスタ王国の“白き塔の才女”マーガレットが、死の間際のルナリア王国カルロス第二王子を救った》

 その噂はノルフェリアにも密かに伝わった。
 リチャードは、それを“神の導き”だとすら思った。

「瀕死の王族を、数時間で回復させた少女がいる──」

 調べれば調べるほど、それは誇張ではなかった。

 ティファニー王女の命は、もはや通常の医療では救えない。

 神殿に知られれば、「神託への反逆」としてティファニーは即座に排除される。

 だからこそ、王太子は 公式ルートを一切使えない。

 リチャードは、静かに決断した。

「……非公式に連れてくる。力ずくでも、必ず」

 それは一国の王太子として絶対に許されない、いわば 国家反逆の罪 だった。

 だが──
“妹を救える可能性は彼女しかいない”。

 そのために、リチャードはセレーネ王女に接触した。他国をも巻き込んだ共犯者として...... 。

 焦りと絶望が、リチャードをゆっくりと、しかし確実に 暗い道へと追い込んでいく のだった。

つづく

______________

💐いいね❤️励みになります🥰応援ありがとうございます💫

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!

白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。 婚約者ではないのに、です。 それに、いじめた記憶も一切ありません。 私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。 第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。 カクヨムにも掲載しております。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...