【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅺ ノルフェリア王国の情勢

10 リチャードの告白

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 王国の誇る諜報部隊“闇夜の鴉”からの報告を受け、ニコラスはすぐに動いた。

 NEORの四翼は――。

 ニコラス第三王子は、エルンスト陛下、マクシミリアン王太子、そしてアルベルト第二王子と会談し、ノルフェリア王国との今後の方針について協議・決議を行った。ノルフェリア王国政変が近いことを正式に共有した。

 闇夜の鴉の情報によれば――。

 まず、リチャード王太子には国家機密として秘匿されている“双子の兄弟”が存在し、その人物が現在、極めて危険な状況に置かれている可能性が高いこと。

 さらに、大神官レオニールの権力拡大に伴い不穏な動きが見られ、ノルフェリア王家の政情が脅かされていること。

 そして、追い詰められたリチャードが、マーガレットに対して何らかの良からぬ行動に出る恐れがあること――以上が報告された。

 レオナルドは、マーガレット付きの双子の護衛“シャルルとシャルロット”と連携し、四六時中マーガレットの警護に当たった。
 シャルルが負傷してからは、むしろ以前より密接に彼女に寄り添う形となった。

 エドガーは、リチャードおよびその侍従・側近に張り付き、ノルフェリアとの秘密の連絡経路の特定を試みる。

 オスカーは、リチャードの実行部隊の洗い出しを狙い、クラスメイトの中に信頼できる部下を潜入させた。

 ――そして。

 リチャードがなぜ、セレーネに協力を持ちかけたのか。
 その理由とは、一体何なのか?



 セレーネ王女は、リチャードの呼び出しに応じ、人気のない裏庭へ向かった。

 大理石の柱にもたれ、沈む夕日を背に立つ彼の表情は、王太子らしからぬ翳りを帯びていた。

「ねえ、なぜ、マーガレット様に近づくの? 理由を、今こそ説明していただけるわね?」

 セレーネの問いに、リチャードは長く息を吐いた。

「君になら、話してもいいかもしれない……いや、君にしか言えないのかもしれない」

 そして、苦悩と罪悪感が滲む声で語り始めた。

「僕には――双子の妹がいる。ティファニーという。国民は誰も知らない」

 セレーネの瞳が揺れる。

「大神官レオニールが“災いの双子”だと神託を下した日、妹は殺されかけた。でも父上は……母上は……どうしてもそれを拒んだ」

 リチャードは拳を握りしめた。

「代わりに……“幽閉”されたんだ。神殿の力から守るためだと聞かされていたけれど……」

 言葉を詰まらせた彼は、続けた。

「最近になってわかった。彼女は病気に侵され、命が残り少ないこと。そして……神殿は、妹の存在そのものを“処分”しようとしている」

 セレーネは息を呑む。

「私は……婚約者の決まらぬ王女。近づくのは容易いと考えたのでしょう?“協力”を餌に、マーガレット様に近づくための」

 リチャードは首を振った。

「君は政治的に自由で、王女としての影響力も大きい。君に頼れば“国際的な問題”として扱われ、僕は神殿の動きを押さえ込める……」

 そこで、彼はやっと本音を吐いた。

「でも――本当は……ただ、君が信頼できたからだ。君は、わがままだとか、見目のいい令息に言い寄るとか、噂は散々だが、君ほど冷静で、強くて、美しい王女はいない」

 セレーネは目を丸くし、頬を赤らめた。

「……そんな理由、最初から言えばよかったのに」

 リチャードは自嘲した。

「王太子として、素直になれるはずがなかったんだ。誰が敵で、誰が味方かわからないんだ。」

 二人の密談を“闇夜の鴉”が聞いていた___ すぐに報告があがった。

 調査で事実が裏付けられ、ニコラスは決断した。

「……救うぞ。ティファニー王女を!」


 ニコラスを筆頭に、カルリスタ王家ならびに、NEORの三翼、リチャード王太子とセレーネ王女。マーガレットも王宮に召喚された。もちろん、闇夜の鴉も気配を消して控えている。

 リチャードは震えた声で呟く。

「……協力を求めるって……こんな簡単なことだったんだね」

 そして、堪えていたものがあふれ出す。
「僕は……なにを遠回りしていたんだ……
 本当に……ごめん……ごめん……!」

 涙を零しながら、初めて頭を下げた。
「妹を!ティファニーを助けてるのに協力していただきたい...... 妹の命を助けてもらいたい!」

 それは、王太子ではなく、一人の兄としての叫びだった。

つづく

______________

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