【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

文字の大きさ
98 / 107
Ⅺ ノルフェリア王国の情勢

11 ティファニー救出作戦

しおりを挟む
 ノルフェリア王城・最深部。

 外界から隔絶された地下聖室は、光すら差し込まぬ場所。

 その暗いはずの空間が、突然、眩い光に包まれた――。

 二十二歳とは思えぬほど痩せ細った“少女”、ティファニー王女は、あまりの眩しさに目をぎゅっと閉じ……そしてゆっくりと開いた。

 そこには、兄リチャードと、見知らぬ数名の美しい男女が立っていた。

 リチャードに背を支えられ、ティファニーはゆっくりと寝台から起こされる。

「……お兄……さま……?」

 かすれた声に、リチャードの目が潤む。

「大丈夫だ、ティファニー、君はもう、ここから出るんだ」

 少女は弱々しく、だが嬉しそうに微笑んだ。

 一方でマーガレットは、青ざめた顔でティファニーの体温や脈を確かめる。

「……脈が弱い。これ以上遅れたら危険だわ……」

 すぐそばでは、レオナルド・オスカー・エドガーの“NEOR三翼”が周囲を警戒し、天井裏には気配を完全に消した“闇夜の鴉”の諜報員が五名潜んでいる。

「シリウス、準備は?」

 ニコラスの問いに、転移護符陣を展開するシリウスが力強く頷いた。

「問題ない。
 ――《ゲートリンク》、起動する!」

 黄金の魔術式が床一面に広がり、光が渦を巻いて立ち昇る。

 ティファニーは、その光を眩しげに見つめた。

「……外の世界、見られるの……?」

 マーガレットが優しく手を握る。

「ええ。大丈夫よ。必ず助けるから!」

「……うん……」

 その瞬間――転移門が開いた。

 風が逆流し、魔力が空中で弾ける。ニコラスが叫ぶ。

「全員、護衛態勢!」

 レオナルドがティファニーを抱え、光の中へ踏み出した。マーガレット、ニコラス、リチャードも続く。

 光がすべてを包み込み――彼らの姿は一瞬で消えた。

◇◇◇

 転移先は、ルナリア王城の奥にある治癒の間。純白の大理石と、滝のように流れる光の魔力が満ちる聖域。

 そこに立つのは――ルナリア王妃・エリセア。
 “命の大地母神の祝福を受けた聖妃”と呼ばれる、奇跡の治癒者である。

 彼女はティファニーを一目見て、静かに目を細めた。

「……若いのに、とても苦しんできたのね。我が息子・第二王子マルクスを思い出すわ……。でも、もう大丈夫よ」

 エリセアの掌が淡く光を帯びる。

「リチャード王太子。あなたは、ずっと一人で耐えてきたのでしょう?」

 その言葉に、リチャードの身体が震えた。
「……っ……僕は……妹を……救いたくて……!」

「ならば、あなたも側にいてあげなさい。家族の愛は、何よりの薬ですから」

 エリセア王妃はティファニーの胸に手を当て、静かに詠唱した。

「――《聖域の慈光(サンクタ・ルーミナリア)》」

 白銀の光がほとばしり、治癒の間を満たす。
 あまりの眩しさに、マーガレットもニコラスも思わず息を呑んだ。

 痩せ細り、青白かったティファニーの肌に、ゆっくりと生気のある血色が戻っていく。凍りついたようだった胸が――大きく息を吸った。

「…あ…あったかい…。これが…外の…?」

 リチャードは涙を流し、嗚咽を堪えながら唇を噛み締め、拳を握りしめる。

「ティファニー…!よかった…!うっ…うぅ… 本当に… よかった…!」

 エリセア王妃は静かに微笑んだ。

「治癒を続けます。――この子は、必ず助けます。どうか安心して。」

 治癒の間には、大きな安堵が満ちていった。

つづく
______________

💐いいね❤️励みになります🥰応援ありがとうございます💫
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

殺された伯爵夫人の六年と七時間のやりなおし

さき
恋愛
愛のない結婚と冷遇生活の末、六年目の結婚記念日に夫に殺されたプリシラ。 だが目を覚ました彼女は結婚した日の夜に戻っていた。 魔女が行った『六年間の時戻し』、それに巻き込まれたプリシラは、同じ人生は歩まないと決めて再び六年間に挑む。 変わらず横暴な夫、今度の人生では慕ってくれる継子。前回の人生では得られなかった味方。 二度目の人生を少しずつ変えていく中、プリシラは前回の人生では現れなかった青年オリバーと出会い……。

【完結】男装して会いに行ったら婚約破棄されていたので、近衛として地味に復讐したいと思います。

銀杏鹿
恋愛
次期皇后のアイリスは、婚約者である王に会うついでに驚かせようと、男に変装し近衛として近づく。 しかし、王が自分以外の者と結婚しようとしていると知り、怒りに震えた彼女は、男装を解かないまま、復讐しようと考える。 しかし、男装が完璧過ぎたのか、王の意中の相手やら、王弟殿下やら、その従者に目をつけられてしまい……

完)嫁いだつもりでしたがメイドに間違われています

オリハルコン陸
恋愛
嫁いだはずなのに、格好のせいか本気でメイドと勘違いされた貧乏令嬢。そのままうっかりメイドとして馴染んで、その生活を楽しみ始めてしまいます。 ◇◇◇◇◇◇◇ 「オマケのようでオマケじゃない〜」では、本編の小話や後日談というかたちでまだ語られてない部分を補完しています。 14回恋愛大賞奨励賞受賞しました! これも読んでくださったり投票してくださった皆様のおかげです。 ありがとうございました! ざっくりと見直し終わりました。完璧じゃないけど、とりあえずこれで。 この後本格的に手直し予定。(多分時間がかかります)

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

報われなくても平気ですので、私のことは秘密にしていただけますか?

小桜
恋愛
レフィナード城の片隅で治癒師として働く男爵令嬢のペルラ・アマーブレは、騎士隊長のルイス・クラベルへ密かに思いを寄せていた。 しかし、ルイスは命の恩人である美しい女性に心惹かれ、恋人同士となってしまう。 突然の失恋に、落ち込むペルラ。 そんなある日、謎の騎士アルビレオ・ロメロがペルラの前に現れた。 「俺は、放っておけないから来たのです」 初対面であるはずのアルビレオだが、なぜか彼はペルラこそがルイスの恩人だと確信していて―― ペルラには報われてほしいと願う一途なアルビレオと、絶対に真実は隠し通したいペルラの物語です。

【完結】婚約破棄はいいのですが、平凡(?)な私を巻き込まないでください!

白キツネ
恋愛
実力主義であるクリスティア王国で、学園の卒業パーティーに中、突然第一王子である、アレン・クリスティアから婚約破棄を言い渡される。 婚約者ではないのに、です。 それに、いじめた記憶も一切ありません。 私にはちゃんと婚約者がいるんです。巻き込まないでください。 第一王子に何故か振られた女が、本来の婚約者と幸せになるお話。 カクヨムにも掲載しております。

【完結】「政略結婚ですのでお構いなく!」

仙桜可律
恋愛
文官の妹が王子に見初められたことで、派閥間の勢力図が変わった。 「で、政略結婚って言われましてもお父様……」 優秀な兄と妹に挟まれて、何事もほどほどにこなしてきたミランダ。代々優秀な文官を輩出してきたシューゼル伯爵家は良縁に恵まれるそうだ。 適齢期になったら適当に釣り合う方と適当にお付き合いをして適当な時期に結婚したいと思っていた。 それなのに代々武官の家柄で有名なリッキー家と結婚だなんて。 のんびりに見えて豪胆な令嬢と 体力系にしか自信がないワンコ令息 24.4.87 本編完結 以降不定期で番外編予定

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

処理中です...