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Ⅺ ノルフェリア王国の情勢
12 大神官レオニール
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ティファニー王女が消えた直後――地下聖室に、怒号が響き渡った。
「魔術反応!……強い転移系です! これは……外部の魔術だと!?」
「なんだ!?なにがあったか確認しろ!」
神殿騎士たちが青ざめ混乱が走る。
その中心、白金の法衣をまとった男――ノルフェリア王国大神官レオニールが、ゆっくりと聖室へ降りてきた。
彼の顔は、怒りで引きつっていた。
「……ここで、王女が匿われていただと?二十二年もの間、生きていたのか!」
低く、地の底を這うような声。聖室全体が、一瞬で凍りついた。
「王家が、我らの“神罰の儀”に逆らったか。愚かな……!」
怒りに震える大神官レオニールの杖が床を叩く___ダンッ!!
「 全神殿騎士団へ命ずる!王城を包囲し、王家の者を拘束せよ!彼らは“神敵”である!! 」
神殿中に戦慄が走った。
◇◇◇
ティファニー王女救出後、王城の大広間には重い空気が満ちていた。
国王レオン三世は玉座に立ち、震える声で告げた。
「大神官レオニールが……王家を“神敵”と断じたというのか?」
「はい。すでに神殿騎士団が王城近くまで進軍しているとの報告です」
廷臣たちがざわつく。
その時――重厚な扉が開き、カルリスタ王国の特使団が進み出た。
ニコラス王子の従者で外交官、ラザフォード卿が一礼する。
「陛下。カルリスタ王国より、王家の正統性を支持する旨をお伝えします。
政教分離の宣言を行うなら、我が国は全面的に支援いたします」
「……政教、分離……」
国王の呟きに、側近が頷く。
「陛下。反レオニール派神官たちが“神殿本来の役割”を回復させるため、草案を持ち込んでおります。
レオニールの暴走を止める道は、争い以外にも――あります」
国王は静かに目を閉じ、やがて決意を宿した瞳で言った。
「……よし。宣言しよう。神殿は民のために、王家は政治を司る。この国を、本来あるべき均衡へ戻す!」
王城前の広場に、神殿騎士団が無言で包囲していた。
彼らの前へ、国王自らが歩み出る。
空気が張りつめ、矢の一本すら放たれれば戦が始まる緊迫の空気――。
しかし国王は静かに、しかし高らかに宣言した。
「ノルフェリア王国は、ここに 政教分離 を宣言する!」
兵士たちがざわめく。
「神聖なる神殿は、民の心を守る場。政治の道具ではない。
王家は、神殿を尊び、神殿は王家を支える。力ではなく――祈りと理によって、国を治める!」
その時、神殿の高みから大神官レオニールが姿を現した。
「黙れ……!神の権威を否定するつもりか!!」
怒りに満ちた叫びがこだまする。
しかし――その声に応じたのは、もはやほんの一部の側近だけだった。
多数の騎士が、剣を下ろした。
「大神官様……もう、おやめください。神は、あなたが二十二年前、“王権を奪うために神罰を語った”その時点で離れました」
「な……に……?」
「ここにいる者の大半は、あなたには従いません。ノルフェリア王家を敵とする戦は、もはや成立しません。」
レオニールの足元がぐらりと揺れた。周囲に味方は、ほとんどいない。レオニールはその場に膝から崩れ落ちた。
「……私は……神に選ばれたのでは……なかったのか……」
「神は、すべての者を見捨てません。
あなたにも……改める道はあります。」
その言葉に、レオニールは初めて、人間らしい涙を流した。
こうして、ノルフェリア王国は無血のまま「政教分離」を果たした。
そして――国王レオン三世は深く息をつき、呟いた。
「争いを避け、国を守れたのは……皆が、信じる心を失わなかったからだ」
雲間から陽光が差し込み、王城を照らしていた。
つづく
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「魔術反応!……強い転移系です! これは……外部の魔術だと!?」
「なんだ!?なにがあったか確認しろ!」
神殿騎士たちが青ざめ混乱が走る。
その中心、白金の法衣をまとった男――ノルフェリア王国大神官レオニールが、ゆっくりと聖室へ降りてきた。
彼の顔は、怒りで引きつっていた。
「……ここで、王女が匿われていただと?二十二年もの間、生きていたのか!」
低く、地の底を這うような声。聖室全体が、一瞬で凍りついた。
「王家が、我らの“神罰の儀”に逆らったか。愚かな……!」
怒りに震える大神官レオニールの杖が床を叩く___ダンッ!!
「 全神殿騎士団へ命ずる!王城を包囲し、王家の者を拘束せよ!彼らは“神敵”である!! 」
神殿中に戦慄が走った。
◇◇◇
ティファニー王女救出後、王城の大広間には重い空気が満ちていた。
国王レオン三世は玉座に立ち、震える声で告げた。
「大神官レオニールが……王家を“神敵”と断じたというのか?」
「はい。すでに神殿騎士団が王城近くまで進軍しているとの報告です」
廷臣たちがざわつく。
その時――重厚な扉が開き、カルリスタ王国の特使団が進み出た。
ニコラス王子の従者で外交官、ラザフォード卿が一礼する。
「陛下。カルリスタ王国より、王家の正統性を支持する旨をお伝えします。
政教分離の宣言を行うなら、我が国は全面的に支援いたします」
「……政教、分離……」
国王の呟きに、側近が頷く。
「陛下。反レオニール派神官たちが“神殿本来の役割”を回復させるため、草案を持ち込んでおります。
レオニールの暴走を止める道は、争い以外にも――あります」
国王は静かに目を閉じ、やがて決意を宿した瞳で言った。
「……よし。宣言しよう。神殿は民のために、王家は政治を司る。この国を、本来あるべき均衡へ戻す!」
王城前の広場に、神殿騎士団が無言で包囲していた。
彼らの前へ、国王自らが歩み出る。
空気が張りつめ、矢の一本すら放たれれば戦が始まる緊迫の空気――。
しかし国王は静かに、しかし高らかに宣言した。
「ノルフェリア王国は、ここに 政教分離 を宣言する!」
兵士たちがざわめく。
「神聖なる神殿は、民の心を守る場。政治の道具ではない。
王家は、神殿を尊び、神殿は王家を支える。力ではなく――祈りと理によって、国を治める!」
その時、神殿の高みから大神官レオニールが姿を現した。
「黙れ……!神の権威を否定するつもりか!!」
怒りに満ちた叫びがこだまする。
しかし――その声に応じたのは、もはやほんの一部の側近だけだった。
多数の騎士が、剣を下ろした。
「大神官様……もう、おやめください。神は、あなたが二十二年前、“王権を奪うために神罰を語った”その時点で離れました」
「な……に……?」
「ここにいる者の大半は、あなたには従いません。ノルフェリア王家を敵とする戦は、もはや成立しません。」
レオニールの足元がぐらりと揺れた。周囲に味方は、ほとんどいない。レオニールはその場に膝から崩れ落ちた。
「……私は……神に選ばれたのでは……なかったのか……」
「神は、すべての者を見捨てません。
あなたにも……改める道はあります。」
その言葉に、レオニールは初めて、人間らしい涙を流した。
こうして、ノルフェリア王国は無血のまま「政教分離」を果たした。
そして――国王レオン三世は深く息をつき、呟いた。
「争いを避け、国を守れたのは……皆が、信じる心を失わなかったからだ」
雲間から陽光が差し込み、王城を照らしていた。
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