【完結】白き塔の才女マーガレットと、婿入りした王子が帰るまでの物語

恋せよ恋

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Ⅺ ノルフェリア王国の情勢

13 リチャードの告白

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 ルナリア王城・治癒庭園。
 大地母神の祝福がもっとも濃いとされる場所で、澄んだ泉と蒼い草原が広がっていた。

 ティファニー王女は白い椅子に腰掛け、そよ風を受けながら空を見上げていた。

「空って、青いのね…」

 彼女は、何度も目を瞬かせた。ノルフェリアの地下聖室では一度も見ることができなかった“空の色”。

 マーガレットが微笑む。
「綺麗でしょう?あなたが外に出られるようになって、本当に良かったわ」

 ティファニーは小さく頷き、指先で風を掬う。

「風って……こんなに、優しいんですね……リチャード兄さまからは……“外は寒いぞ”って聞いていましたけど」

 その言葉に、リチャードは顔を赤くした。

「いや……!だ、だって……外に出したくなかったんだ!危ないし……病気が悪化したら困るし……いや、その……」

 ティファニーはくすりと笑った。

「ふふ……お兄さまは、いつも優しい嘘ばかり」

「や、優しい嘘じゃない!ほんとに寒い時もあるし!」

 マーガレットとニコラスは、二人のやり取りにどこか安心したように微笑んだ。

 ティファニーはゆっくり息を吸い、笑った。
「これからは、外の世界をもっと見たいです」

 その笑顔は、もう病に囚われていた少女ではなく、自由へ歩き出した“ひとりの王女”だった。

◇◇◇

 カルリスタ王国王城――エルネスト陛下の執務室。

 深い群青のカーテンから差し込む光に照らされ、リチャード王太子は胸に手を当て、丁寧に一礼した。

「本来ならば、父レオン三世が直々にご挨拶すべきところですが、我が国は政変後の混乱が未だ収束しておらず、このような形となり……まことに申し訳ございません」

 エルネスト陛下は静かに頷いた。

「うむ、気にするな。ノルフェリア王国の王女が救われたのだ。良かったではないか。」

 その横でニコラス第三王子が、やや乱暴にリチャードの肩を叩く。

「よかったじゃないか、リチャード」

「……ああ、本当に、ありがとう」

 リチャードは照れ臭そうに笑う。その目元には、救われた者の温かさと、今まで背負ってきた重さが滲んでいた。

 彼は向き直り、マーガレットへ深く頭を下げる。

「マーガレット嬢……君には迷惑しかかけていなかったな。僕の勝手な事情に巻き込んでしまった。……すまなかった」

 マーガレットは驚き、少し慌てながら首を振った。

「いえ……ティファニー王女殿下が救われたのなら、それで十分です」

 リチャードは小さく微笑み、ニコラスとマーガレットの二人を交互に見つめ――ふっと柔らかく、爽やかに言った。

「……これからは、ニコラス殿下とお幸せに。――婚約するんだろう?」

「「っ……!」」

 ニコラスとマーガレットは同時に赤くなった。
 レオナルド・オスカー・エドガーのNEOR三翼は、(言っちゃったよ……)と少し気まずそうに目をそらした。

 そんな二人を見て、リチャードはくすりと笑い――ふと視線を移す。

 そこには、ヴァルディア王国の王女セレーネもいたが、リチャードは、一歩、彼女へ歩み寄った。

「セレーネ王女。君には……僕の全てを見せてしまったね。弱さも、恐れも、迷いも。でも……それでも協力してくれた」

 セレーネは軽く睨んだように見えたが、頬は赤い。

「べ、別に。――あなたの妹君を見捨てるほど、私は冷たくはないのよ」

 リチャードは彼女の前で足を止め、真っ直ぐに見つめる。

「……セレーネ。僕は君に恋をした。支えてくれた君に、心から惹かれた。どうか……僕と歩んでくれないだろうか?」

 執務室にいた全員が息をのんだ。
 セレーネ王女は、ぷいっと顔をそむけ――けれどすぐに振り向き、ツンと顎を上げた。

「……お受けするわ!」

「「「 !!! 」」」

「でも――!」...セレーネは指を立てて続ける。

「我が父、ヴァルディア王陛下への正式な申し込みと挨拶が先よ!何もせずに“はい”と言わせると思ったら大間違いなんだから!」

 リチャードは、まるで心臓を掴まれたように目を見開き、次の瞬間、安堵に満ちた笑みを溢れさせた。

「……もちろんだ。ヴァルディア王陛下の前で……誠心誠意、正式に求婚する」

 セレーネは胸を張って頷く。

「なら、良いわ!」

 周囲は大きな拍手と、温かい笑いに包まれた。

 ティファニー救出という悲劇の終わりから、二つの恋の物語が、静かに――しかし確かに動き始めていた。

...... そして、もうひとつの恋も静かに芽生えていた。

つづく
_______________

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