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第35話 聖女、出張する。
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ブリスタニア王国での平和な日常は、変わることなく続いていく。
ある日わたしはライオネルと、とある工事現場に出張に来ていた。
「この前まで降り続いた長雨で崩れた、堤防の護岸工事なんだけどね。どうにも水が染みだしてしまって、工事が上手くいかないんだ。それで水龍さまの力で工事が終わるまで、水が出るのを止めてもらえないかって思ったんだ」
ライオネルが申し訳なさそうに言った。
「それでわたしの出番というわけですね、わかりました」
神通力を復活させて以来、普段は水龍さまとおしゃべりしてるだけのわたしに、久しぶりに、ちゃんとお仕事する機会がやってきたわけだ。
ライオネルも見てることだし、皆さんのお役にも立つし。
よし、がんばるぞー!
わたしは用意された簡易の舞台に上がると、早速、祭具のセッティングを開始する。
ある程度は王宮の『祭壇の間』に似せて作られていたので、微調整をするだけで良かった。
そして準備を整えると、『奉納の舞』を踊り始めた。
「ほぅ、これが噂に名高い『神龍かぐら』か……見事なものだ」
必殺の『神龍かぐら』を繰り出したわたしを見て、ライオネルが感心しきりに言った。
舞を踊るあいだ、工事の手を止めている現場の土木職人のおじさんたちも、
「ほぅ――これはこれは――」
とか、
「へぇ、こんなスゲーもんタダで見れて、俺たちラッキーだなぁ」
とか言って喜んでくれていた。
いつもの『祭壇の間』とは違った場所、しかも屋外。
舞台も急ごしらえの簡単なものだけど、わたしはすぐに、水龍さまとのコンタクトに成功する。
龍としっかりと心を通じあった巫女にとって、これくらいは造作もないことだった。
もちろん水龍さまの力が及ばない、他国では不可能な芸当だけどね。
少なくともブリスタニア国内であれば、同じように水龍さまとコンタクトすることはできるはずだ。
『んー、クレア? どーしたの? 呼んだ~? あれ? いつもよりクレアの存在が遠いかも?』
さすがは水龍さまだ。
いつもと状況が違ってることに、すぐに気づいたようだった。
「実は今日は、水龍さまにお願いがありまして」
『お願い? なになに、言ってみてー』
「かくかくしかじかでして――」
わたしが、事と次第を説明すると、
『ふんふん、そういうことねー。オッケーオッケー。じゃすぐにやっちゃうから……えいっ! はい終わりー』
いつもと変わらない、かるーい言動だったけど。
そこはそれ、相手は最強のドラゴンで、水を操ることに長けた水龍さまだ。
「おおっ! あれだけ染み出してきていた水が、ピタリと止まったぞ!」
「すごい! これが『水龍の巫女』クレア様のお力か!」
「なんということじゃ!」
「噂には聞いてたが、実際に見るとまさに奇跡だ!」
「聖女クレア様!」
「クレア様バンザイ!」
「よしお前ら、すぐに工事に取り掛かれ! 今日中に基礎をやっちまうぞ! 最高の仕事でもって、聖女さまの奇跡に応えてみせろ!」
「「「「合点承知!」」」」
水が止まったのを見て、職人さんたちが忙しく動きはじめる。
それを舞台の上からなんとはなしに見ていると、
「お疲れさまクレア。はい、ノドが渇いただろう?」
ライオネルが冷たいお茶を差しだしてくれた。
「ありがとうございますライオネル」
わたしはそれを、ごくごく……ふぅ、と飲み干した。
盛大に飲み干してから、もう少しおしとやかに飲むべきだったと後悔したけれど、もはや時すでに遅し。
あまりにいい飲みっぷりだったせいか、お代わりまで注がれてしまうわたしだった。
しかもなみなみと。
ううっ、恥ずかしいよぉ……。
「それにしても実に見事な舞だった。完全に見とれてしまったよ」
「もう、ライオネルってば、そんなにほめられると照れちゃいます」
「それにまさかこれほど一瞬で、水が止まるとは思わなかった。まさに奇跡だ」
「あはは。それも、すごいのは水龍さまの神通力ですよ。わたしはただ、水龍さまにお願いをしただけですから」
「いいや、謙遜なんてする必要はないさ。わかっていたつもりだったけど、改めて思い知らされたよ。クレア、君の力は我がブリスタニアの宝だとね」
ライオネルがにっこりと微笑んだ。
ライオネルに喜んでもらえてわたしも嬉しくなる。
こうして出張巫女活動は、大成功に終わったのだった。
ある日わたしはライオネルと、とある工事現場に出張に来ていた。
「この前まで降り続いた長雨で崩れた、堤防の護岸工事なんだけどね。どうにも水が染みだしてしまって、工事が上手くいかないんだ。それで水龍さまの力で工事が終わるまで、水が出るのを止めてもらえないかって思ったんだ」
ライオネルが申し訳なさそうに言った。
「それでわたしの出番というわけですね、わかりました」
神通力を復活させて以来、普段は水龍さまとおしゃべりしてるだけのわたしに、久しぶりに、ちゃんとお仕事する機会がやってきたわけだ。
ライオネルも見てることだし、皆さんのお役にも立つし。
よし、がんばるぞー!
わたしは用意された簡易の舞台に上がると、早速、祭具のセッティングを開始する。
ある程度は王宮の『祭壇の間』に似せて作られていたので、微調整をするだけで良かった。
そして準備を整えると、『奉納の舞』を踊り始めた。
「ほぅ、これが噂に名高い『神龍かぐら』か……見事なものだ」
必殺の『神龍かぐら』を繰り出したわたしを見て、ライオネルが感心しきりに言った。
舞を踊るあいだ、工事の手を止めている現場の土木職人のおじさんたちも、
「ほぅ――これはこれは――」
とか、
「へぇ、こんなスゲーもんタダで見れて、俺たちラッキーだなぁ」
とか言って喜んでくれていた。
いつもの『祭壇の間』とは違った場所、しかも屋外。
舞台も急ごしらえの簡単なものだけど、わたしはすぐに、水龍さまとのコンタクトに成功する。
龍としっかりと心を通じあった巫女にとって、これくらいは造作もないことだった。
もちろん水龍さまの力が及ばない、他国では不可能な芸当だけどね。
少なくともブリスタニア国内であれば、同じように水龍さまとコンタクトすることはできるはずだ。
『んー、クレア? どーしたの? 呼んだ~? あれ? いつもよりクレアの存在が遠いかも?』
さすがは水龍さまだ。
いつもと状況が違ってることに、すぐに気づいたようだった。
「実は今日は、水龍さまにお願いがありまして」
『お願い? なになに、言ってみてー』
「かくかくしかじかでして――」
わたしが、事と次第を説明すると、
『ふんふん、そういうことねー。オッケーオッケー。じゃすぐにやっちゃうから……えいっ! はい終わりー』
いつもと変わらない、かるーい言動だったけど。
そこはそれ、相手は最強のドラゴンで、水を操ることに長けた水龍さまだ。
「おおっ! あれだけ染み出してきていた水が、ピタリと止まったぞ!」
「すごい! これが『水龍の巫女』クレア様のお力か!」
「なんということじゃ!」
「噂には聞いてたが、実際に見るとまさに奇跡だ!」
「聖女クレア様!」
「クレア様バンザイ!」
「よしお前ら、すぐに工事に取り掛かれ! 今日中に基礎をやっちまうぞ! 最高の仕事でもって、聖女さまの奇跡に応えてみせろ!」
「「「「合点承知!」」」」
水が止まったのを見て、職人さんたちが忙しく動きはじめる。
それを舞台の上からなんとはなしに見ていると、
「お疲れさまクレア。はい、ノドが渇いただろう?」
ライオネルが冷たいお茶を差しだしてくれた。
「ありがとうございますライオネル」
わたしはそれを、ごくごく……ふぅ、と飲み干した。
盛大に飲み干してから、もう少しおしとやかに飲むべきだったと後悔したけれど、もはや時すでに遅し。
あまりにいい飲みっぷりだったせいか、お代わりまで注がれてしまうわたしだった。
しかもなみなみと。
ううっ、恥ずかしいよぉ……。
「それにしても実に見事な舞だった。完全に見とれてしまったよ」
「もう、ライオネルってば、そんなにほめられると照れちゃいます」
「それにまさかこれほど一瞬で、水が止まるとは思わなかった。まさに奇跡だ」
「あはは。それも、すごいのは水龍さまの神通力ですよ。わたしはただ、水龍さまにお願いをしただけですから」
「いいや、謙遜なんてする必要はないさ。わかっていたつもりだったけど、改めて思い知らされたよ。クレア、君の力は我がブリスタニアの宝だとね」
ライオネルがにっこりと微笑んだ。
ライオネルに喜んでもらえてわたしも嬉しくなる。
こうして出張巫女活動は、大成功に終わったのだった。
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