呪われ竜騎士とヤンデレ魔法使いの打算

てんつぶ

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第六話 夜会と邂逅②

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 会場内にいた者は全員、音の鳴る扉に身体を向けた。
「国王陛下、王妃陛下、第二王子殿下、側妃殿下、王女殿下のご入場です!」
 その言葉と同時に開いた扉から、先ほどリウを副団長に任命した国王一家が現れる。
 力強い目をした国王の妻でる王妃は、ツンと澄ました表情と真っ赤な口紅が印象的な美しい人だ。だが王妃の実家を含め、あまりよい噂は聞かない。
 そしてその後ろに続くのは、先日リウの目の前で竜・ショアを殺した第二王子だ。
 顎を上げて機嫌よく歩いていたが、リウの姿を見つけると「フン」と不機嫌そうに顔をしかめた。
 恐らく父である国王に大分絞られたのだろう。
 肩で歩く正妻たちの後ろをしずしずと歩く若い女性は、隣国から嫁いできたばかりの側妃だ。彼女の腕の中にはピンク色のドレスを身に纏った幼い王女の姿がある。
 一家はホール内の定位置へと到着すると、侍従に渡されたグラスを持ち高々と掲げた。
「皆、楽しんでいってくれ。乾杯!」
 言葉少ない口上に、周囲は和やかな歓談ムードへと変わった。
 楽団の奏でる音楽は浮足立つような華やかなものへと変化する。
「俺もなにか食べてこようかな。ラーゴはなにが好きなんだ? 取ってこようか」
「駄目です。言ったでしょう、貴方の食べるものは全て、僕が作りたいと」
「……なるほど、そうだった」
 確かにラーゴと出会ってここ数週間、食べていたものは全てラーゴの手作りばかりだ。すっかりそれも当たり前になってしまって、屋敷の外に出た際も有効な約束だとは思わず肩を落とす。
「美味しそうな肉だな……。あの塔のように盛り付けられた野菜はなんだろう」
 リウが食事テーブルを眺めながら呟く。
 なにせ早朝に軽い食事をとって以降、リウは何も食べていないのだ。
 少々のアルコールが腹に収まったところで、竜騎士として鍛えられた身体は燃費が良すぎてなんの足しにもならない。
「あのゼリー寄せ、見たことない具が入ってるみたいだ。綺麗な盛り付けだなあ」
 あまりに腹が減りすぎたリウの視線は、食事の置かれたテーブルから離すことができないでいた。次々に大皿から取り分けられ消えていく料理を、思わず目で追ってしまう。
 グウウ、とリウの腹が鳴る。
 ラーゴは苦笑した。
「リウ、別室に食事を用意しています。よかったらそれを食べませんか」
「いいのか……!」
「ええ。最初から、パーティーが終わったら食べられるようにと持ってきていたものです。先に言っておけばよかったですね。貴方にひもじい思いをさせたいわけではないのです」
 そんなに飢えたような顔をしていただろうか。涎でも出ていただろうかと思い、リウは自分の口元を手の甲で拭った。
 その手には、ラーゴが用意してくれた柔らかい革手袋が嵌っている。
 呪いのせいで、手足の末端はまるで汚れたように赤黒く、目立つ。先日の街歩きで陰口を叩かれ意気消沈したリウのために、ラーゴがひっそりと用意してくれたのだ。
 そう教えてくれたメイドのメメルは、素晴らしい主だろうと胸を張っていた。
 革手袋を嵌めた手に、ラーゴが触れた。当然のように腕を絡める。
「では行きましょうか」
「う。そう、だな?」
 エスコートされる側というのはどうにも慣れない。だがエスコートする側の経験もさほどない。運よく竜騎士として働いたこの十年間は、本当に竜にばかりかまけて生きていたことを痛感する。
 歩きながらラーゴは小声でリウに問う。
「痛みは大丈夫ですか?」
「ああ。今のところは」
 起きて一度、そしてパーティーが始まる前に一度口づけをしている。
 ラーゴのタイミングがいいのか、最近は痛みを感じることすらなくなっていた。呪われた手足さえ見なければ、以前と変わらない生活ができそうだと錯覚するほどである。
 痛みが強ければ立っていることすらままならない。
 そのため今平気で腹を鳴らしているリウが、平常通りだということはラーゴなら理解しているはずだが。
「なにか心配でもあるのか?」
 ただの人間には分からない、魔法使いだからこそ感じる不調があるのだろうか。
 ラーゴはリウを見ることなく、小さく呟いた。
「いえ。ただ今日の貴方があまりに綺麗だから、別室でキスしたくなっただけです」
 明け透けに語られる言葉に、一瞬でリウの顔は赤く染まる。
 ラーゴとの口づけは、痛みを緩和することが主目的だ。
 当初あった気まずさも今はすっかりなくなり、唇を許しているせいか二人の距離は以前に増して親密なものとなっていた。
 それはリウも自覚している。
 その上当初からラーゴは「一目ぼれした」と告げており、その好意は受け取っているもののこうして真向から気持ちを向けられると、リウはどう対処するのが正解なのかまだ分からないでいた。
 出会ってからの期間はまだ短いものの、ラーゴに対して友人のような親しみを感じている。貴族相当の地位がありながら驕ることはなく、思いやりがあり親切で、メイドにすら優しい。
 外見はもちろんだが、なにより声が良かった。甘さを含む低音は感情をあまり見せないものの、時折どこか焦れたような、掠れた声でリウの名を呼ぶのだ。
 冷静なようで情熱が乗ったその声が、リウは好きだった。
 だがそれは、ラーゴの与えてくれる気持ちと同一のものとはいえないとも感じている。
 そもそもリウは、自分のためにラーゴの好意を利用しているという自覚があるのだ。
 減るものでもない口づけなど好きなだけさせればいいと思う反面、その一線を越えてはまずいと思っていた。
 なにがどうまずいのか、どうしてそう思うのかは分からない。まだリウはそこまで、自分の気持ちを掘り下げてはいない。むしろ掘り下げてはいけない気がしていた。
 返事ができないままで戸惑うリウの背に、ラーゴの肩が触れた。
「冗談ですよ」
 こうやってリウに負担をかけまいと、そんなバレバレの嘘をつくのだから本当に優しい男だと思う。
 気づけば来客用の休憩室へ案内されていた。部屋の前に立つメイドはラーゴを見ると、頭を下げて恭しく扉を開けた。
 室内は貴族にとってはさほど広くないかもしれないが、竜騎士宿舎のリウの部屋ならば三つは入る大きさだ。
 部屋の中央には猫足のローテーブルが置かれ、パーティーに疲れた人間が休むためのゆったりとした長椅子が二つ、一人用の椅子が三つ置かれていた。
 大きな窓の外はまだ明るく、薄いレースカーテンが引かれている。
 置時計が指し示す時間は既に夕方を回っていて、そろそろ日も陰る頃合いだろう。
 どこに座るのが正しいのか一瞬考えているリウの耳に、扉をノックする音が響いた。
「リウは奥に座ってください。預けていた食事を用意してくれたんでしょう」
 指示された場所に腰をおろしていると、メイドが目の前のテーブルへ次々と食器を並べていく。
 温めてくれたのだろうか。スープも煮込んだ肉も、ふんわりと湯気を立てている。
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