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第六話 夜会と邂逅④
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コラディルは無精ひげを擦り、眉を下げて笑う。
「いやあ、賭けで負けたパリタアス先輩にチョイと融通を利かせて貰って、な」
「なにをやってるんだお前たちは……」
窓の桟に手をかけ、リウは脱力する。
賭け事をするのもどうかと思うが、それで制服を貸し借りするのももってのほかだろう。
だが久しぶりに見たコラディルの姿が嬉しい気持ちもあり、リウはそれ以上そこに言及することは一旦置いた。
「ショアの墓参りに来たのか」
コラディルの相棒であった竜・ショアの墓は竜舎の近くにある。そのため退団しただの平民となったコラディルは、墓参りしたくてもできなくなるのだ。
こんな馬鹿な真似をするほどショアを愛していたのかと思うと感慨深い物がある。
だがコラディルは首を横に振った。
「ショアの墓にもチラッとは寄ったが……俺はリウ、お前に会いたくて来たんだ」
真剣なその言葉だが、わざわざ危ない橋を渡ってまで会いに来るようなものだろうかとリウは首を傾げた。
だがややあって、ああと納得した。
「叙勲式を祝おうと来てくれたのか?」
「馬鹿、違うって。お前いま、自分がどこにいるのか分かっててンのか?」
「どこって……ラーゴの屋敷だが」
世話になっていると言いかけて、周囲を欺く婚約だったことを思い出して言葉を変えた。
コラディルはハアと大きなため息をつく。リウを見つめたまま腕を組み、指先で自分の腕をコツコツと叩いた。
「ラーゴ・ラディーンだろ。若き天才、認定魔法使いの。婚約したんだって?」
「ん、まあ……そうなる」
元同僚に改めて言われる気恥ずかしさと、どこか嬉しさが湧いた。
それなのにコラディルはは再びため息をつき、顔をしかめた。
「竜バカのお前のことだ。呪いの痛みを、魔法でどうこうして貰ってるんだろ」
「な、なんでそれを?」
まさか既にそんな話が流布しているのだろうか。
慌てるリウが思わず窓から身を乗り出すと、その額をラーゴの指がピンと弾いた。
「いてっ」
「易々とかけた鎌に引っ掛かるんじゃねえよ。やっぱりそうか。薬でも十分に散らせなかった痛みが、まるでなかったみたいな顔してるからな。そうだろうと思ったぜ」
「なっ……」
「言っておくが、お前の普段の行動を知ってるやつなら違和感に気づくからな。竜しか目に入ってなかった男が、いきなり男――それも稀有な認定魔法使いと結婚するなんて話を耳にしてどんだけ驚いたか」
分かりやすい誘導尋問に引っかかってしまい、その上コラディルの推測はあまりに的中しすぎている。そんなに分かりやすいだろかとリウは自分の顔を両手で揉んだ。
そんなリウに、コラディルは困ったような笑みを作る。
「竜騎士の引退は竜の引退だからな。自分のためだけじゃなく、相棒のためでもあるんだろ? 分かるよ」
「コラディル……」
リウを竜バカだと言うコラディルだが、竜騎士の多くがそうであるように彼だって竜を大切にしていた。相棒であった竜・ショアを喪ったコラディルの辛さは、リウが受けた衝撃以上だろう。
「だがな、リウ。相手はあのラーゴ・ラディーンだぞ。お前、分かって婚約してんのか?」
ズイと顔を近づけるコラディルだったが、その問いかけはリウにはピンとこない。
認定魔法使いであること、仕事も人柄も見た目も完璧な凄い人物であること。それからなぜかリウに好意を向けてくれていること。リウが知っているラーゴはそれくらいで、だがそれもまた全てのような気がしているからだ。
それ以上になにかあるのだろうかとリウが考えていると、コラディルは口をへの字に曲げる。
「そんなことだろうと思ったぜ。噂に疎すぎるんだお前は。ラーゴ・ラディーンは確かに天才だろうが、魔法の研究のためならなんでもやるって有名なんだぞ。かなり悪どいこともやってるらしい」
「それはないだろう。ラーゴはいいやつだ」
いくら仲の良かった同僚の言葉だろうと、それは違うと否定できた。
「呪いの痛みに苦しむ俺を救うために、わざわざ屋敷に住まわせて世話を焼いてくれてるんだ。ゆくゆくは呪いも解けるように尽力してくれている。恩人なんだ。悪く言わないでくれ」
「それだよ、それ」
リウの言葉に、コラディルは顔を歪ませ吐き捨てる。
「お前がラーゴ・ラディーンの家にいるって聞いて、会いに行ったが使用人に追い返されたぞ。リウ様は誰にもお会いしませんって、取り付く島もなかった」
対応したのは恐らくメメルだろう。彼女の対応が目に見えるだけに、それは申し訳なく思う。
「俺が不在だった時じゃないか?」
「そう思うか? 俺は十回は尋ねたぜ。どうせそれすら耳に入れてないんだろ」
「じゅ……、そうなのか? それは……」
確かにそれは初めて聞いた。
そもそも滞在しているのはラーゴの屋敷であるため、自分に客人など想像もしていなかった。
「俺はしつこいからな。手紙も出したぞ。もちろん……受け取ってねえよなあ、その顔じゃ」
「すまない」
さすがに気まずく、思わず視線が下がる。
コラディルが訪れていたことも、手紙が届いていたことも、リウはなにも知らなかった。知らされていなかった。
さすがにどちらもメメルが勝手に判断したことだとは考えにくい。
彼女はラーゴの忠実なメイドであり、指示とあらば目の敵にしているリウ相手でもきっちり職務を全うする人物だ。
つまりメメルの行動の影にあるのは――それが可能な人間はたった一人だ。
「ラーゴが? どうして」
気づけば空は、すっかり暗くなっていた。
「いやあ、賭けで負けたパリタアス先輩にチョイと融通を利かせて貰って、な」
「なにをやってるんだお前たちは……」
窓の桟に手をかけ、リウは脱力する。
賭け事をするのもどうかと思うが、それで制服を貸し借りするのももってのほかだろう。
だが久しぶりに見たコラディルの姿が嬉しい気持ちもあり、リウはそれ以上そこに言及することは一旦置いた。
「ショアの墓参りに来たのか」
コラディルの相棒であった竜・ショアの墓は竜舎の近くにある。そのため退団しただの平民となったコラディルは、墓参りしたくてもできなくなるのだ。
こんな馬鹿な真似をするほどショアを愛していたのかと思うと感慨深い物がある。
だがコラディルは首を横に振った。
「ショアの墓にもチラッとは寄ったが……俺はリウ、お前に会いたくて来たんだ」
真剣なその言葉だが、わざわざ危ない橋を渡ってまで会いに来るようなものだろうかとリウは首を傾げた。
だがややあって、ああと納得した。
「叙勲式を祝おうと来てくれたのか?」
「馬鹿、違うって。お前いま、自分がどこにいるのか分かっててンのか?」
「どこって……ラーゴの屋敷だが」
世話になっていると言いかけて、周囲を欺く婚約だったことを思い出して言葉を変えた。
コラディルはハアと大きなため息をつく。リウを見つめたまま腕を組み、指先で自分の腕をコツコツと叩いた。
「ラーゴ・ラディーンだろ。若き天才、認定魔法使いの。婚約したんだって?」
「ん、まあ……そうなる」
元同僚に改めて言われる気恥ずかしさと、どこか嬉しさが湧いた。
それなのにコラディルはは再びため息をつき、顔をしかめた。
「竜バカのお前のことだ。呪いの痛みを、魔法でどうこうして貰ってるんだろ」
「な、なんでそれを?」
まさか既にそんな話が流布しているのだろうか。
慌てるリウが思わず窓から身を乗り出すと、その額をラーゴの指がピンと弾いた。
「いてっ」
「易々とかけた鎌に引っ掛かるんじゃねえよ。やっぱりそうか。薬でも十分に散らせなかった痛みが、まるでなかったみたいな顔してるからな。そうだろうと思ったぜ」
「なっ……」
「言っておくが、お前の普段の行動を知ってるやつなら違和感に気づくからな。竜しか目に入ってなかった男が、いきなり男――それも稀有な認定魔法使いと結婚するなんて話を耳にしてどんだけ驚いたか」
分かりやすい誘導尋問に引っかかってしまい、その上コラディルの推測はあまりに的中しすぎている。そんなに分かりやすいだろかとリウは自分の顔を両手で揉んだ。
そんなリウに、コラディルは困ったような笑みを作る。
「竜騎士の引退は竜の引退だからな。自分のためだけじゃなく、相棒のためでもあるんだろ? 分かるよ」
「コラディル……」
リウを竜バカだと言うコラディルだが、竜騎士の多くがそうであるように彼だって竜を大切にしていた。相棒であった竜・ショアを喪ったコラディルの辛さは、リウが受けた衝撃以上だろう。
「だがな、リウ。相手はあのラーゴ・ラディーンだぞ。お前、分かって婚約してんのか?」
ズイと顔を近づけるコラディルだったが、その問いかけはリウにはピンとこない。
認定魔法使いであること、仕事も人柄も見た目も完璧な凄い人物であること。それからなぜかリウに好意を向けてくれていること。リウが知っているラーゴはそれくらいで、だがそれもまた全てのような気がしているからだ。
それ以上になにかあるのだろうかとリウが考えていると、コラディルは口をへの字に曲げる。
「そんなことだろうと思ったぜ。噂に疎すぎるんだお前は。ラーゴ・ラディーンは確かに天才だろうが、魔法の研究のためならなんでもやるって有名なんだぞ。かなり悪どいこともやってるらしい」
「それはないだろう。ラーゴはいいやつだ」
いくら仲の良かった同僚の言葉だろうと、それは違うと否定できた。
「呪いの痛みに苦しむ俺を救うために、わざわざ屋敷に住まわせて世話を焼いてくれてるんだ。ゆくゆくは呪いも解けるように尽力してくれている。恩人なんだ。悪く言わないでくれ」
「それだよ、それ」
リウの言葉に、コラディルは顔を歪ませ吐き捨てる。
「お前がラーゴ・ラディーンの家にいるって聞いて、会いに行ったが使用人に追い返されたぞ。リウ様は誰にもお会いしませんって、取り付く島もなかった」
対応したのは恐らくメメルだろう。彼女の対応が目に見えるだけに、それは申し訳なく思う。
「俺が不在だった時じゃないか?」
「そう思うか? 俺は十回は尋ねたぜ。どうせそれすら耳に入れてないんだろ」
「じゅ……、そうなのか? それは……」
確かにそれは初めて聞いた。
そもそも滞在しているのはラーゴの屋敷であるため、自分に客人など想像もしていなかった。
「俺はしつこいからな。手紙も出したぞ。もちろん……受け取ってねえよなあ、その顔じゃ」
「すまない」
さすがに気まずく、思わず視線が下がる。
コラディルが訪れていたことも、手紙が届いていたことも、リウはなにも知らなかった。知らされていなかった。
さすがにどちらもメメルが勝手に判断したことだとは考えにくい。
彼女はラーゴの忠実なメイドであり、指示とあらば目の敵にしているリウ相手でもきっちり職務を全うする人物だ。
つまりメメルの行動の影にあるのは――それが可能な人間はたった一人だ。
「ラーゴが? どうして」
気づけば空は、すっかり暗くなっていた。
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