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第3章 冒険者2~3か月目
41話 テンプレ議論
しおりを挟む――時間は少し戻り、古代遺跡でサディエルを救出した夜のこと。
「対魔族に限定するならば、ヒロトの所の"お決まり"は有効打になるかもしれない。そういうわけでヒロト、お前の所の"お決まり"をこれから徹底的に話してもらう。そして、それを元に可能性があることを対策していこう。今は1つでも、決め手が欲しい状況だ。使える可能性があるものは、全部使うぞ」
真新しい紙を取り出しながらアルムはそう宣言する。
オレの世界のファンタジーの"テンプレ"が、有効打になる可能性がある。
これは、想像以上にわくわくしてきた……!
オレの知識が対魔族への突破口になる。
自分の所の知識を活用するって展開は良くある話だし、オレだってこれまで何度か活用出来ないかとあれこれ提案してきたけど、まさかこんな形で利用することになるとは、さすがに想像出来てなかった。
「分かった! まずは何から行く?」
「確認事項はとりあえず2点。まず確認したいのは、顔の無い魔族による次の襲撃がいつになるか。おおよそでいい、教えてくれ」
あの魔族の次の襲撃タイミングか……
オレはこれまで読んできた漫画や小説、アニメ、ゲームなどを色々思い出す。
それらから、特に"良くある"展開をピックアップしていく。
「……前提として、楽観視しないで欲しいんだけど、あの魔族からの襲撃は当面の間は無いと思う」
「楽観視するつもりは元よりありません。続けて頂けますか?」
「了解。当面ないと言える理由は3つ。こういう手合いの襲撃タイミングはある程度、法則性があるんだ。法則の1つ目は、オレらの目的に対する"節目"に出てくる」
今の所、想定出来る"節目"は3か所。
目的地のちょっと前、今回だとエルフェル・ブルグに辿り着く直前。
次に、折り返しに入ってすぐ……ようは、エルフェル・ブルグから出発した直後。
そして最後に、最終目的を達成する直前だ。
つまりは、ゲームで言うボス戦が発生しそうな場所もしくはタイミング、というわけだ。
「場所があらかた決まっているのか……」
「まぁね。だいたいこの辺りで出るだろうなって、分かりやすい場所もあったりするし」
セーブポイントとか、セーブポイントとか、露骨に入る会話イベントとか。
流石にそこまで露骨なゲーム的な要素はないにしろ、現時点でのルートから、もし襲撃タイミングを挙げろと言われたら、その3つなのは間違いない。
「次に2つ目の法則として、しばらく襲撃が来ないと絶対に誰かが"そういやぁ、あいつ襲撃してこねーなー"って呟いて、その直後ぐらいに音速でフラグ回収されて、襲撃されるんだ」
「ヒロトの所は、次にどいつが来るって宣言しないといけない決まりでもあんのかよ!?」
アルムは既に呆れ顔で、やけくそ気味でそういう。
もともと、オレの世界の"テンプレ"はあまりに現実味がないのは、うん、さすがにオレも自覚している。
ちなみにオレらだけじゃなくて、読者とかプレイヤーにしか見えない第三者視点で
『ふふふっ、奴はやられたな。では、次は私が参ろう』
って感じで、次に来るのはこいつだ! みたいな予告もあったりするわけだが……今回は考慮対象外だ。
オレらが、"次にコイツが襲撃してくるぞ"って認識できなきゃ意味を為さないからな。
そんなわけで、今回はオレら視点で見える範囲に限定する。そうじゃないとキリがない。
「そして3つ目の法則なんだけど……2つ目に少し似ていて、サディエルに何かしらの不調があった場合だ」
「俺?」
急に話題を振られて、驚いた表情を浮かべるサディエル。
そんな彼にオレは頷いてから話を続ける。
「顔の無い魔族が近くに来たりしたら、"痣"が疼くとか、急に痛みを感じるとか、そういう変化が出てくることが多いんだ」
「……やっと僕らでも想像しやすい"お決まり"が出てきた。それならば、確かにそうかもな」
「この場合、サディエルは少しでも違和感があれば、すぐにオレらに伝えて欲しいわけ……なんだけど……」
そこで少し言いよどんでしまう。
その理由をすぐに察したアルムとリレルが、無言でサディエルを見る。
「ん? え、何で急に全員黙り込むんだ?」
「サディエルさ、自己申告……ちゃんと出来る?」
「なにその急に、報告が出来ないダメな子みたいな言い方!? 出来るよさすがに俺でも!」
ないない! とサディエルは必死に否定するけれど……
「黙れ前科持ち」
「そうですね。ここにいる全員、被害者なわけで」
「オレをスケルトンから助けてくれた時のこと、まさか忘れたとは言わないよな? 破傷風の危険をガン無視した張本人さん」
そう、根っからのお人よし主人公属性のサディエルだ。
オレらに心配かけさすまいと、多少の間は黙っている可能性がゼロじゃない。
つまりは、ここで嫌なぐらいに釘刺しておかないといけないのだ。
オレらからの3連コンボで、サディエルは無事に大ダメージからの撃沈である。
「以上のことから、不用意に魔族の話題を出さずに、サディエルが異変を訴えない限り、エルフェル・ブルグ到着直前までは大丈夫だと思う」
「かなり難しいのでは? と言いますか、3つ目以外が非現実的すぎませんか? 話題を出さなければ出てこないとか、特定の場所に行ったら出るとか」
リレルまでも肩を落として頭を抱える始末だ。
うんごめん、そうしないとRPGとかアクションゲーはメリハリがないもんで……あと、漫画とか小説も、節目でボス戦とか超あるあるなんだ。
というか、そんなこと言ったらオレらもついさっき、その『節目』を経験したようなもんだよ、うん。
「あっはははは……話題に関しては、前提条件が"しばらくして"なわけだし、逆に今は連呼しまくっても安全ってことで、むしろ対策兼ねて喋り倒すなら今かもな。クレインさんたちへの説明も込々で」
何とか復活したサディエルが、苦笑い気味に補足する。
「サディエルの言う通り、今だけは超安全なんだ」
「はぁ……すまんヒロト、楽観視しない以前に、僕らの感覚ではどうやって楽観視すればいいかわからん」
「多分、その感覚が正しいと思うよアルム。オレらの世界だともうこれが慣れっこ過ぎて、逆に違和感なくなっちゃってるから、皆のその反応は凄く助かる」
実際、ここに1人でもオレと同じ世界出身者が居れば、かなりの確率で納得して貰えるはずだ。
「ただ、割り切ることも出来る。オレが今話した法則が適用されていたとしたら、四六時中警戒する必要がなくなるわけだし」
「……そういう意味では、僕らとしてもありがたいな。日頃の移動でもピリピリしていたら、残り2か月弱の道のり、とてもじゃないが精神的に持たない。基本方針をヒロトが話してくれた内容に決め打ちして、残りはそれ以外の襲撃タイミングとして調整するか」
そう言いながら、アルムは紙に今の内容を一通り書き込んだ。
ただ、頭痛がするのか額を抑えつつ、ではあるが。
リレルに至っては、無言で飲み物の準備を始めて、オレたちに配ってくれているし……完全に現実逃避に近い行動だ。
「それじゃあもう1つの確認事項……サディエルの"痣"について。今の所、僕らの中ではあの魔族がサディエルを見失わない為の目印、と言う認識で一致している。だが、それ以外の効果が本当に無いのか」
「うん、これに関してはオレも考えていた。高い可能性が2つ、微妙だけどなくはないが1つある」
まず、高い可能性の2つからだ。
こちらに関しては、すぐに思いついた。とてもシンプルすぎる内容だ。
「まず1つ目は弱体化効果だ。サディエル自身の身体能力を低下させてくる。効果の出方にもいくつか候補があって、痣を刻まれた直後から効果が出る、遅延性でゆっくりじわじわ、何かしらがトリガーとなって急に……だいたいこんな感じかな」
その言葉を聞いて、サディエルはグーパーと両手を握りしめる。
この屋敷に戻ってきた直後にもやっていた動作であり、もしかしたらサディエル自身もその可能性に気づいて確認していたのかもしれない。
ぐるぐると両腕を回したり、軽く体を捻ったりとした後……
「うん、即効性に関しては除外していいと思う。特に異常がない。……って、"本当の事言ってんだろうなコイツ"って顔を全員でしないでくれ!」
「前科がある方が悪いのですよ」
リレルの容赦ない一撃に、サディエルは落ち込み始める。
こればかりはフォロー出来ない。助けてもらった立場ではあるけど、ここで援護したらオレまでいらない被弾を食らう。
藪蛇は嫌である。
「続けるよ。遅延性に関しては、だいたいの場合は弱り切ったタイミングが魔族の襲撃と一致するはずだ。もう1つの急に来る方も同様で、襲撃直前に弱らせてくる可能性が高い」
「つまり、さきほどの襲撃タイミングと照らし合わせますと、仮に弱体効果があったとしても今すぐ問題になることは無いというわけですね」
「そういうこと。どっちかというと、次の可能性の方がオレらにとっては厄介だと思う」
もう1つ、恐らくこれが一番オレたち全員にダメージがでかくなるはずだ。
オレは一度深呼吸してから、その言葉を口に乗せる。
「高い可能性の2つ目……"痣"を介して、サディエルを操ることだ」
その言葉を聞いて、ここまで呆れつつツッコミを入れ、その憂さ晴らしといわんばかりにサディエルをいぢっていた2人の表情が一変する。
同時に、サディエルの顔色も悪くなる。
「今回の戦闘で、魂を直接攻撃されてオレたちにも身体に影響が出ただろ? 同じ要領で、サディエル自身を操ることも可能だと思う」
「……僕らの目を盗んで、サディエル1人を自身の所までおびき出す程度であればまだマシな方だが」
「油断している私たちを、サディエル自身に斬りつけさせてから、という可能性も考えられますね」
オレらの話を聞く都度、サディエルの表情がじょじょに悪くなる。
そりゃそうだよな。ただ操られて、自分だけ敵の元へ行くならばいいけど、オレらを攻撃して動けなくしてから……なんて想像しただけで吐き気がしてくる。
「サディエル、あまり思いつめるなよ。痣を通して、そうなったら嫌だって気持ちを読み取られでもしたら、本当にそうなりかねない」
「……無茶言うなよ……そんなこと……」
「ごめん、無茶なのは承知しているけど、堪えて」
「………わかっている。ちょっと待ってくれ、何とか気持ちを落ち着ける」
サディエルの性格上、難しいだろうな。
となると……やっぱこれ、言わないといけないかな。
これはこれで、別の意味でサディエルの精神ダメージがきつそうだけど。
「サディエルの気持ちを切り替えてもらう意味でも、最後の1つ……微妙だけどあったら大変な可能性を言うね……こっちは、マジで別ベクトルでオレらも大変だが、先にあげた2つに比べたら圧倒的にマシだ」
「それ、本当か……!? 教えてくれヒロト!」
オレの言葉を聞いて、サディエルは予想通り食いついてくる。
……本当にごめん、サディエル。今から追い打ちかける。
「その可能性は……TS」
「「「てぃーえす?」」」
オレの言葉の意味が分からず、3人は首を傾げる。
うん、逆にこれが分かったら、オレと同じ世界出身者と認定したい。
「えっと……オレの世界では、トランスセクシャルって言葉の略称で……性転換のこと」
しばし、沈黙がその場を支配する。
「……せい……てん……かん……? え? いやいやいやいやいや!?」
真っ先に現実に戻ってきたサディエルが、今度は別の意味で顔を青くして、必死に首を左右に振る。
その表情は涙目である。
「ヒロト、おまっ、それ……正気か!? いや、お前の世界の連中が正気か!?」
「あー……なんつーか、色々ね、花が無いとか、見栄えとか、面白さとかそういう理由でさ、なんか呪いみたいのにかかったらそうなっちゃう話、そこそこあるんだよ。あ、女性になったら身体能力下がるって感じで弱体化の効果もあるよ?」
色々な理由こそあるけど、まったく可能性はゼロじゃないわけで。
一応、提示しておいたほうがいいかなって。
「ばっかじゃねーの!? ふざけてる!? こっちは結構真剣に痣のことに悩んでるのに!」
「……いや、サディエル。その可能性の方がマシじゃないか? 操られるより」
「アルム!? お前こそ正気!?」
「もしかして、紅一点から脱出のチャンスですか?」
「リレルー!? ちょっとまて、もしかしなくても味方無し!?」
おやぁ……?
オレは、嫌だー! 嘘だー! と頭抱えて蹲るサディエルを他所に、アルムとリレルを見る。
すると、2人は苦笑いして……
「サディエルの奴のことだ、油断するとすぐに"操られて僕らを傷つける可能性"ばかり頭を過って、不安になるだろうからな」
「でしたら、いっそのことこちらを私たちが信じ切っている、と誤解させておいた方がよろしいかと」
そう小声でオレに教えてくれる。
なるほど……オレの提案に1枚噛んでくれるってことか。
そうと決まれば、お人よし主人公属性の彼の中から、"操られて僕らを傷つける可能性"を除外するには。
「ちなみにサディエル、見た目とか体型とかは不安にならなくていいぜ! だいたいこういう場合、骨格も女性らしくなって、目元もぱっちり、髪の毛も伸びて、絶世の美女になるってのが"テンプレ"なんだ!」
オレもノリノリで提案してやればいいだけだ。
「安心要素が皆無なんだが!? お前、それで俺が納得すると思って言ってるなら、アルムたち含めて病院行った方がいいからな!?」
本当にごめんサディエル。
だけどこれも、貴方の為なんです! と、言い訳させてください。
「ちなみにヒロト。女性になられた方が居た場合、同じパーティ内の女性陣はどういう反応をされることが多いのですか?」
「……そうだな。姉ちゃんの部屋にあった漫画で、こういうパターンは……とりあえず、オレらを部屋から蹴りだして、自分の下着や服貸してその場をしのいだ後、服を買うという名目で着せ替え人形にしたりとか」
「まぁ! 楽しそうですわね!」
もう完全に悪乗りである。
というか、リレルの場合はどこまでが冗談で、どこまでが本気かがちょっと分からない。
「……嫌だ、そんなことになるぐらいなら、まだ死んだ方がマシ。魔族に殺された方が数千倍マシ」
「サディエル、そんなこと言ってると、本気であの顔の無い魔族がお前を女性化してくるぞ。気を付けろ」
「ああああああ!? 今すぐ来やがれ魔族ー! 無理にでも、俺が、今すぐ、ここでぶっ倒すー! 対抗策がないとか知るかー!」
オレが原因とはいえ、さっきまでの真面目な空気は何処へやら。
サディエルが余計な事考えてぐるぐる悩むよりは、うん、マシ、なはず。
……とりあえず、他に獣化とか、幼児化とか、まだ色々あることは……黙っておこう。
========================
そんなことがあったわけで、サディエルの精神状態は結果的に落ち着いた。
むしろ、"痣"の影響で、いつ何時そうならないかと、定期的に不安がっているわけだが……
「ところで、いつまでサディエルを誤解させたままにする?」
少し離れた場所で、サディエルがクレインさんと今後の日程の最終確認をしている間に、オレはアルムとリレルにこっそりと確認する。
それを聞いて、アルムはしばし考えた後……
「個人的には、次の襲撃までは誤解させといていいと思うぞ。実際、精神的にアイツは落ち着いているわけだし」
「そうですね。サディエルのことが不安ではありますが、私たちもやるべきことはたくさんあります。魔族の襲撃の可能性が低い今、打てるものは全て打っておかないといけません」
そう言いながら、リレルはポンッ、と本の表紙を叩く。
そうだった、オレたちものんびりしている暇じゃないんだった。
その言葉を聞いて、オレはアルムとリレルに向き直る。
「ヒロト」
「はい!」
「今日から、本格的な戦闘に関する知識の取得及び戦闘訓練を開始する。急ピッチになるが、次の襲撃で鍵となるのはお前だ」
アルムの説明に、オレは頷く。
サディエルたちに、オレの世界の"テンプレ"を今から説明するには時間が掛かりすぎるし、なにより多すぎる。
それならば、オレが"テンプレ"を説明するよりも、その知識を生かして、戦闘に参加出来るぐらいの力を付けた方が早い、そういう結論になったのだ。
「まずは当初の予定通り自衛に関する部分からになる。そこから順番に派生させていく。もちろん、早朝の体力作り、元の所に戻ることを想定しての勉強継続、夕方からの僕との戦術論も全部継続の上だ……これまで以上に忙しくなるぞ」
「分かってる。いくらでも受けて立つ!」
「よしっ、それで……お前に知識と戦闘訓練を施すのは、僕じゃなくて……」
「私になります。よろしくお願いしますね、ヒロト」
そう言いながら、いつも通りの笑顔でリレルが微笑みかけてくる。
ついにリレルもオレの特訓に本格参戦ってわけか。
「よろしく、リレル!」
「はい。私もなかなか甘くありませんから、覚悟してくださいませ?」
「承知の上だよ!」
そう言いながら、オレとリレルは握手を交わした。
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