オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第3章 冒険者2~3か月目

47話 出航

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 翌日、オレたちは前日のうちに買い込んだ荷物を持って、船に乗船していた。
 あの後、アークさんと一通りの打ち合わせを終えて、オレらは買い出し、サディエルはアークさんを船まで連れて行って、夕方に合流。
 足りないものは無いかを確認して、あれこれと追加購入と、とにもかくにも準備は念入りにって感じだ。

 で、今はその買い込んだ荷物を、オレら専用で使っていいと言われている倉庫に運び入れている。

「よい……しょっと! これで最後だっけ?」
「それで最後だ、お疲れヒロト。とりあえず、これだけあれば3週間持つだろ」
「持つだろって、干し肉とか、塩漬け肉とか、肉ばっかりじゃん」

 ちなみに、昨日買いこんだうちの7割が肉だった。いや、ガチで肉。

「甘いぞヒロト。船の上で3週間、絶対に途中で肉が欲しくなる!」
「そういうもん?」

 サディエルの力説に、オレは首を傾げてしまう。
 別に船旅なわけだし、そんな偏った食生活になるとは思えないわけだけど。

「ヒロトはここ数日、ゴブリン肉がお気に入りで食べまくってたから丁度いいかもだけどな」
「いやぁ……オレ、戻ったらもう2度とゴブリン肉にありつけないわけだから、食べられるうちに食べたいというか……ほんと、最初の頃拒絶反応で食べてなかった自分を殴りたい」

 あれだ、見た目だけで判断して食わず嫌いしていた、みたいな。
 で、食べてみたら意外と美味しかったとかいうやつである。
 もちろん、まずかったらその後も絶対食べないだろうけど、最初に口にしたゴブリン肉が美味しすぎたのがいけなかった。

 好き嫌いを少なくしたいなら、その食べ物自体を美味しいと経験させることが最適だと痛感するよ。

「いいんじゃないか? こっちでしか経験出来ないことはじゃんじゃん経験すればいい。戻った時に、その経験がどこかで生かせるかもしれないわけだし」

ここ異世界の経験かぁ、どうなんだろ? 使えるもんなのかな……」
「知識や経験っつーのは、いつ何時必要になるか分からないもんだ。だからこそ、興味があることは積極的に学ぶべし。学ぶ時は因果関係も忘れずに! って、アルムの師匠さんも力説していたよ」

 そう言いながら、サディエルは積み込んだものに不足がないかの最終チェックを始める。

「アルムのお師匠さんが?」
「あぁ、すっげぇ聡明な方だった。言う事なすこと納得するしかないぐらいの説得力あってさ、俺も師事を受けたかったぐらいだよ」
「へぇー……凄いな、それ」

 そんな人に師事してたっつーか、そこまで言われるなら相当名の知れた人気ある師匠だったのかもな。
 と言う事は、アルムの兄弟弟子とかもそのうち会えるのかもしれない。

「凄いもんか。あまりに気難しすぎて、まともな弟子は僕1人だった相当の難ありだぞ? そこまで肯定的に受け止めたのは、お前ぐらいだ」

 そこに、残りの荷物を持ったアルムが入ってきた。
 どうやら、オレらの会話内容が聞こえていたらしく、凄い微妙な表情を浮かべている。

 それと同時に、音速でアルムの兄弟弟子登場フラグがへし折られた。

 あまりに早過ぎるへし折りっぷりに、オレは肩透かしを食らってしまう。
 荷物をドサリと置いて、アルムはぐるぐると腕を回して疲れを解す。

「と言うか、そろそろ出発だから甲板出るぞ。出航に先だっての通達があるそうだ」
「ん、そうか。ヒロト、行くか」
「了解!」

 オレたちは連れ立って甲板に出る。
 今回、クレインさんが所有している船には、オレら以外にも何人かの冒険者や商人が乗船している。
 ちゃっかりと乗客を乗せて収益を得ているのが、なんともクレインさんらしい。

 もちろん、あの顔の無い魔族……オレ命名の仮称"ガランド"からの襲撃がないという大前提だからこそ、こういう商売に打って出たらしいけどね。
 
 そんな中、人込みから少し離れた場所に、1人のんびりと潮風にあたりながら気持ちよさそうに海を眺めるリレルを見つけた。

「リレル!」
「あら、皆さん。積み込みは終わりましたか?」
「ばっちり! リレルの方は、部屋の確認終わった?」
「もちろん、終わりましたよ。クレインさんがいいお部屋を割り当ててくださったみたいで、一般的な客室よりは広々としていました」

 おぉ、それは楽しみだ。
 この前の別邸といい、クレインさんナイスである。
 その別邸に関して、じっくり味わっている余裕がなかったのが、ちょこっと残念だったけど。

 けど今回は、豪華な客室じゃないにしてもしっかりと休めるはずだ!

『アー、アー。各艦配備完了次第、報告を! 繰り返す。各艦配備完了次第、報告を!』

 そこに、アークさんの声が響き渡る。
 そう言えば……

「すっかりこれを聞きそびれていた。最初の街でも気になっていたんだけど、声を拡張させるようなものってあるの?」
「ありますよ。円形の筒状の物に風の魔術を組み合わせて、自分が発した声をそのまま拡張させています」

 メガホンに魔術を組み合わせたってわけか。
 科学技術がないから、つまりはそういうことだよな。
 そんなことを1人で納得している間にも、この船に乗っている水夫の人たちが慌ただしく準備を進めている。
 少し先に見える軍艦の甲板あたりでも、同じように多くの人たちが作業をしているのが見えた。

『全艦からの報告を確認した。では、皆様初めまして! 今回の航海に先立ちまして、護衛船団の指揮官を勤めます、アークシェイドです』

「……おいこらアイツ、今回集結している護衛艦のうち1隻の船長じゃなかったのかよ」

 今の通達を聞いて、サディエルは頬を引きつらせながら言う。
 かなり、出世されてますね……元旅仲間さんは……

「エルフェル・ブルグも海上に関して力を入れ始めたのは最近のことですし、仕方ありませんよ」
「そうなの?」
「海洋には、これまで脅威となる魔物が居ませんでした。なので、基本的には陸上に関する対策を中心に研究されていたのです」

 と言う事は、最近になって本腰入れ始めたはいいけど、人材が足りないってわけか。
 で、まだ若いアークさんでも指揮官の立場になれていると……って、ちょっとまって。

「その言い方だと、状況が変わったとか?」
「ここ数年でな。魔族側も、これまで視野に入れてなかった海洋生物に対して、あれこれやるようになったみたいだ」

 オレの問いかけに、アルムが答えてくれる。

「もしかして既存の生物を魔物化させている……とか?」

「平たく言うとそうなります。以前、魔族は元々存在しなかったけれども、魔物は存在した、とお話致しましたよね」
「うん。ってことは、魔族が現れてから、元々存在していた魔物にもあれこれ強化が見られた、ってことだよね」
「正解です」

 そういや、サディエルたちと出会った当初に、この辺りの内容を言ってたっけか。
 人間側が魔術などを進化させると、それに負けないように魔物側も進化をし続ける。
 んで、進化を怠った方が負け。実にシンプルな理論。

 当時のオレは、青天井とか、インフレ必須とか思っていたな。

 魔物側の進化には、魔族も1枚噛んでいたわけか。

「何か、色々知るほど因果関係が複雑だよなー。最初に聞いた時は何で!? ってやつも、そこから紐づく理由が分かるほど、うわぁ……ってなるし」
「何事にも原因と結果がありますからね。当時はここまでお話する必要がなかったですし、説明した所でややこしいだけです」

「適切な時期に、適切な情報を適量だけ提示する。余計なことまで喋ると、脱線して本筋から離れるからな。ただでさえ、あの時のヒロトは、あれこれ混乱していたわけだし」

 アルムが肩を落としながら、そう付け加えてくる。
 確かに、あの時のオレにここまで話したところで、余計に混乱しそうだし、めちゃくちゃ脱線しそうだ。
 と言うか、当時でさえも異世界とかファンタジーのテンプレがミリも通用しなくて、頭抱えてたわけだからなぁ……

 通用しない、ならまだいい。

 夢見すぎとか、摩訶不思議とか、頓珍漢とか、素っ頓狂とか!
 もうボロクソな言われようだからな!?
 どこの世界にここまでボロカスに言われなきゃいけない異世界生活があるよ!……あったわ、ここに。

 オレは心の中で1人ノリツッコミをしている間にも、アークさんの話は進んでいく。
 と言っても、今の所は今回の航路についての説明と、どれぐらいの日程になるか、航行中の冒険者たちへのある協力依頼などだ。

『航海中に無風の日があった際、冒険者の皆様には、帆に風を送る作業を順番に行って頂きます。日程通りに航海を終える為に必要なことになりますので、ご協力をお願い致します』

「帆に風をって……あ、そっか。オレの所みたいに動力がないのか」
「風力を利用して進むのが船だからな。風がある時はいいが、無風の時は風の魔術を使って進ませるんだ」

 アルムの説明を聞いたオレの感想は、うわぁ、メンドクサイ……である。

「ちなみに、風の魔術に頼る以外だと……?」
「船底近くで、水夫たちがオールを使って人力による推進力で進む」

 それなら、帆に風の魔術を定期的に当てた方が早いな、うん。
 オレらがそんな会話をしている間に、一通りの説明が終わったのだろう。アークさんが少しだけ口調を柔らかくして、締めの言葉を紡ぐ。

『以上で航海中の注意事項及び協力依頼内容についての説明を終了いたします。本日より3週間、よろしくお願い致します』

 あちこちから、同意したと言わんばかりの歓声と拍手が上がる。
 おぉ、凄い。
 オレも思わず拍手をすると、すぐ近くのドアが開く。

「はー、終わった終わった!」

 ―――そして、そこからアークさんが出てきた。

「はああああああ!? アーク!?」

 その姿を目撃したサディエルが、思わず絶叫する。
 オレも絶叫したかったけど、彼に先を越されたせいで叫ぶチャンスを逃した。

 サディエルの絶叫は、幸いにもオレたちが同じ乗船客から離れた位置に居たことと、少し大きな出航音でかき消された為、こちらに注目する人はいなかった。

「よぉサディ。航海中はこの船にいるからよろしくな」
「聞いてねー! お前、あっちのもっと偉そうな船にいるんじゃないのか!? つーか、船長だろお前!」

 そう言いながら、サディエルはビシッ! と、少し先に居る、今回の護衛船団で一番派手な船を指さす。
 オレらがツッコミ入れたいことを一通り言ってくれた。ナイス、サディエル。

「船長として、そして指揮官としてここにいる。おれが本来担当する船は、航海の経験を積ませる意味で、副船長に任せてある」
「だけどな……」

「それに、おれの今回の仕事は、この航海を成功させる以外にもう1つ。エルフェル・ブルグの"保護対象"を無事送り届ける事だ。つまりは、お前のお守りをしないといけない」

 そう言いながら、アークさんはサディエルの額にデコピンをする。
 急なデコピンに、サディエルは小さい悲鳴と共に額を抑えて涙目になっている。

「今回の航海が魔族が関わる案件だってことを、おれの部下たちは知らないんだよ」
「いっつー……そうなのか?」
「あぁ。表向きはクレイン氏の護衛なんだ。海軍の増強と人材育成を兼ねた、いわゆる演習航海ってわけ」

 あー、そういうことか。

 確かに魔族案件です! なんて言ったら、水夫の人たちがびっくりして引け腰になるかもしれない。
 騙し打ちみたいな感じではあるものの、エルフェル・ブルグ側もちゃっかりと自分たちの戦力増強にオレらを体よく使っているって訳か。

「そんなわけで、3週間よろしく。アルム君、リレルさん、ヒロト君たちも」
「こちらこそよろしくお願いします。その馬鹿を見張って頂けるなら大歓迎です」
「はい! こちらとしても助かります! ヒロト、これで3週間はがっつりと勉強に励めますよ」

 そんなアークさんの言葉に、大歓迎ムードのアルムとリレル。
 予想通りの光景に、サディエルはオレに視線を向けてくる。

 その意図はエスパーじゃなくても分かる『お前は俺の味方だよな、ヒロト……!』であろう。

 サディエル……ごめん!

「ありがとうございます、アークさん!」

 オレも満面の笑みで、アークさんにそう伝える。
 その言葉を聞いて、サディエルはもう何度目かの撃沈をしたのであった、まる。
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