オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第3章 冒険者2~3か月目

55話 船上の攻防戦【後編】

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『手順は単純だ! 双方の護衛艦から捕獲用網を射出して動きを止め、そこに準備して貰った真水を当てる。直後、本艦の水夫たちによる氷の魔術で表面のみ凍らせ、浸透圧で一気に弱らせる! 護衛艦、発射用意!』

 ガラララ、と何かがこちらに向けられる。
 見た目は大砲みたいなわけだけど、今の話ならば投網用の砲台だろう。
 そこに装填されているのは捕獲用の投網、と言う事になる。

 その合図と共に、リレルや他の冒険者たちは塩分を含まない氷を溶かし、真水に戻したそれを魔力で維持して、いつでも発射出来る体勢を取った。

『護衛艦、タイミングを合わせろ! 3……2……1……発射!』

 鈍く響く砲撃音と共に、投網が射出される。

 もともと、今回のような大きな魔物を想定して作成されたものなのだろう。
 目の前のスクウィッドクラーケンは双方からの網に捕獲され、何とか抜け出そうと触手を動かしている。
 その間に、前衛で戦っていたサディエルや冒険者たちが、オレたちの所まで戻って来た。

『着弾確認。冒険者諸君、真水を! 着弾と同時に本艦の水夫たちは氷を!』

 複数の方向から、同時に真水がスクウィッドに向けて放たれる。
 もちろん、ただ真水をぶっかけただけでは一時的な効果でしかないわけで、その効果をさらに得るには……!

「「「"水よ、風よ、巡りて凍れ!"」」」

 着弾とほぼ同時に、水夫の皆さんが氷の魔術を放つ。
 複数人で同時に、そして真水であることも重なって、表面だけが凍り付き、スクウィッドは真水の中に閉じ込められた。
 ガンガン、と触手を氷に当てようとするも、網に絡まっているせいで身動きが取れず、その動きは少しづつ弱くなっていく。

 はー……これで一安心みたいだ。

 オレは肩の力を抜いて、サディエルに近づく。

「サディエル、さっき顔色を悪くしてたけど……何かあった?」
「ん?……あー、いや……何でも………………わりぃ、嘘つこうとした。後で話す。それより、戦闘はまだ終わってないぞ」
「え? あぁなったら大丈夫……」

 そこまで言いかけて、オレはしまった、と思った。

 そうだ、こういう場合だいたい相手は最後の抵抗で何かしらしてくる可能性がある。
 これはテンプレとかファンタジーとか全く関係がない、最後の最後に一矢報いる為に何かしら仕掛けてくる、なんてことはいくらでもある。
 そうだよ、オレの世界のヒューマンドラマでさえ、最後の最後に悪役たちが主人公を陥れる為に、最後っ屁と言わんばかりに罠を張って置いたりするじゃないか!

 あっぶな、流石にこれは警戒必須だ。

「あいつ、どれぐらい真水に付けていれば大丈夫なのかな」
「さぁな。まっ、真水内の空気がそのうち無くなるから、しばらく放置すれば大丈夫だろう」

 オレの疑問に、アルムが答える。
 そこは真水と関係なく、純粋に水中内の空気の問題なんだ。友達が金魚とか飼っているんだけど、水槽内のエアーポンプみたいなやつがないとまずいのか。
 多分、あれで水中内に空気を送っているはずだし。

「むしろ、今注意すべきは目の前のスクウィッドではなく、他に仲間がいないか、ですね」

 槍を構えたまま、リレルが不穏なことを言う。
 確かに、こいつを助ける為に仲間が襲撃してくる可能性はゼロじゃないよな。

 そんな会話をしている間にも、スクウィッドの色が白色から少しづつ赤黒いものに変化していく。

 うわぁ……そういえば、イカって釣り上げた時は白いけど、食材としてスーパーで売られているものの中には、赤みがかったやつもいたよな。
 こういう変化によるのだったのか。

「何もなければそろそろアークから通達があるはずだが……」

 不安そうな表情でサディエルは船長室のある方向を見る。
 今頃、あそこはてんやわんやになっているはずで、アークさんも目まぐるしく指示出したり、各艦との確認を行っているのだろう。

 その瞬間、再び船が大きく揺れた。

「うわっ!?……っとと……あっぶな!?」

 先ほどと違って、しっかりと足を構えていたお陰で何とか倒れずに済んだ。
 だけど、これ……目の前にいるスクウィッドが襲撃して来た時の揺れと似ている。

『警告! 別のスクウィッドと思われる影を、船底にて監視している水夫より連絡あり! 衝撃に備えろ!』

 あああ、やっぱりまだ終わってない!
 本当に都合よく終わらないよね、この世界!

 オレが心の中で愚痴ると同時に、三度船が揺れる。

 同時に、大量の触手が海面から出てきて、甲板を叩き始める。
 まるで、何かを探しているようなその動きではあるが、攻撃は攻撃だ。

「動きからして、恐らくは……」
「あぁ、仲間想いなこった。俺らが真水で弱らせているスクウィッドを助けに来たんだろう」
「ああああ、そんな所で連帯感とかいらねー! 魔物は魔物らしく孤高であってくれよ!」

 オレは思わず頭を抱えて絶叫する。
 仲間想いなのは良いことだけど、敵にやられると厄介極まりないね本当に。
 だけど、このまま触手を避けながらは厳しすぎる。

『護衛艦に通達! 網を大きく動かして、凍らせたスクウィッドを海へ投げ捨てろ! 今、船を攻撃してるやつの狙いはそれだ!』

 そこに、アークさんからの通達が響き渡る。
 合図と共に、護衛艦側の水夫たちが動き出して投網をゆっくりと浮かせる。
 振り子のように動かした後、ドボン! と海へと投げ捨てる。

 それを確認して、触手が船から離れていき……オレらはホッと一息吐く。

「はー、良かった。もう安心していいよな?」
「多分な……とはいえ、アークたちの最終報告待ちだが」

 良かった。一時はどうなることかと思った。
 結局、剣を振るう事はなかったけど……まぁいいか、無事なことが第一だ。

 それから数分間、オレらは一応警戒しながらも甲板待機をし……

『護衛艦及び本艦全てに通達! 調査の結果、周囲に敵影なし! 繰り返す、周囲に敵影なし! 警戒解除、お疲れ様!』

 戦闘終了の宣言が出されたのだった。
 それを聞いて、水夫の皆さんや、他の冒険者たちの嬉しそうな声が響き渡る。

「今日は宴会だー!」
「盛大にやるぞー!」
「酒蔵から酒もってこーい! 今日は無礼講だー!」

 宴会する気満々である。
 オレの父さんも、何かのプロジェクトが成功する都度、深夜遅くまで職場の仲間と店を梯子して飲み明かして帰ってくるわけだけど、なんでそんなに宴会が好きなんだか。
 なお、純粋に疑問で父さんにそれを聞いたら『これも仲間と親睦を深める為だ!』と言われた。

 社会人になる頃には、分かるのかもしれない、多分。

 騒がしい水夫や冒険者たちを横目に、オレはサディエルを見る。
 難しい表情を浮かべ、右手をグーパーと閉じたり開いたり。

「……確認はいるな。アルム、頼む」

 サディエルは腰にある剣の1本をアルムに渡す。

「ここじゃあれだ、船内訓練場へ行くぞ。あそこなら今は人はいない」
「そうしよう。リレル、ヒロトも、ちょっとついてきてくれ」

 オレとリレルは一度互いの顔を見て、小さく頷いてから。

「分かりました」
「了解」

 サディエルに同意を伝える。
 オレたちは、4人で船内訓練所へと足を運んだ。

 先ほどの襲撃直後と言うのもあり、予想通りそこには誰も居なかった。

「よし、いいぞ。思いっきり打ち込んで来い」
「分かった」

 サディエルとアルムは互いに剣を抜き放つ。
 サディエルは一直線に距離を詰め、アルムは剣を横にして自身の頭より少し上で構える。

 剣と剣がぶつかり合う音が響く。

 ギリギリと僅かに刃物と刃物が擦れる音を響かせた後、サディエルは大きく後退する。

「やっぱり、か」

 深いため息と共に、少し投げやりな口調で額に左手を当てながら言う。
 剣を鞘に戻して床に座り込んだ。

「サディエル、もしかして……」
「あー……うん。どうやら、ヒロトが言っていたこと、大正解だったみたいなんだ」

 オレの言っていたこと……?
 この状況で、オレが言ってたことが大正解となる事は……1つしかない。

「まさか……ガランドがつけた痣の!?」
「あぁ、弱体化かつじわじわ効く効果があったようだ」

 やっぱり痣には別の効果があったのか!
 何かしらあるだろうな、とは思っていたけどこうも綺麗に正解を引き当てると、すごく複雑だ。

 本格的に魔族に対して、オレの世界のテンプレが通用する可能性が現実味を帯びてきた。

「船に乗っている間、戦闘らしい戦闘が1度もなかったから気づかなかった……違うな、戦闘が"なかった"から気づけた、とでもいうか」

「どういうこと?」
「多分、毎日剣を握っていたら気づかない変化だったんだ。それぐらい1日ごとの変化が小さかったってわけだ」

 今日、剣を振って実感した。と、サディエルは付け加える。
 あれか、自分の体や顔の変化は毎日鏡を見ていたら分からないけど、数か月ぶりに再会した友人からは『あれ? もしかして太ったor痩せた?』みたいに、ハッキリと分かる変化、ってことか。

「海路を取っていたのが幸いした、というわけですね」
「あぁ。この進行度での弱体化なら、まだしばらくは戦えるとは思うけど……半年が過ぎる頃には、俺は完全にお荷物確定だろうな」

 どうしたもんか、とサディエルは頭を乱暴にかく。

「一応、ヒロトを元の世界に戻すまでは大丈夫ではあるが」
「サディエル……そこは自分の心配しなよ」
「あっははは……あぁうん、善処するから」

「オレの世界で『善処する』って返答はな、『無理です』って拒否の意味なんだけど?」

 そっちの意味で言ってないよね? と釘を刺すと……あ、視線逸らしやがった。
 それを見て、アルムとリレルからの視線も一層厳しくなる。

「ほほーう? つまりあれか? いつぞや僕に『善処します』っつーたのは、一応自覚があって言ってたと? 確か、言い訳がましく『不安な部分はあるけれど頑張りますって方』って宣言していたよな」
「言ってましたね、えぇ、言っておりましたね」

 あーあ、2人に逆鱗に触れたみたいだ。
 触れさせたのはオレだけどさ。

「アルム、リレル。提案なんだけど、エルフェル・ブルグの滞在日数少し長めでもいいから、サディエルの痣をなんとかしよう」

「ヒロト?」
「オレを元の世界に帰す云々が大前提なのは承知だけど、弱体化するって分かったサディエルを置いて元の世界にハイ帰ります! ってのは流石に無理」

 オレは帰ってしまったら、もうこの世界に干渉することは出来ないと思う。
 そうなると、サディエルがその後どうなったのか……ずっと不安なまま一生過ごすことになる。

 流石にそれは寝ざめが悪すぎる! 絶対嫌だ!

「みんなの事だから、最初の街まで戻る手段は、ある程度検討がついているんだよね? その為に、オレにあれこれ教えてくれたことも」

 その言葉に、サディエルたちは互いの顔を見合わせる。
 ややあって、観念したかのように頷く。

「そうだな。うん、一応、これで行けるんじゃないかという案はある」
「そして、その案を実行するには、オレにある程度の自衛力があり、仮にみんなと離れ離れになっても何とかする手段と生き残る為の最善手を考える知恵が必要だった。でしょ?」

 再び頷いてくる。
 良かった、オレが辿り着いた答えは間違いじゃなかった。
 これまで彼らが紡いできた言葉、その先にある意図を読み取れる程度ぐらい、色々学んできたんだから。

「だったら、もっと日程を短縮する為に、オレが色々出来るようになればいい! そうすれば、痣についての対処法を探す時間も取れるはずだ!」

「……分かった、その方向で調整する」
「おい、アルム…‥!」

「もちろんだよ。"辛い道のりだぞ"とか"もっと大変になるぞ"とか聞かない皆だから、オレも安心して提案しているんだし」
「ヒロト、ちょっと待て!?」

「ですが、自分のお勉強を疎かにしてはいけませんよ。戻った後に困るのはヒロトです」
「そこも分かってる。ちゃんと受験勉強は平行するから」

「リレルも! 本当に俺に味方いねぇな!」

 この件に関してだけはね。
 まっ、それを言った所で理解してもらえるか怪しい。
 自己犠牲精神もだけど、本当に主人公属性はやめて頂きたい。いい迷惑極まりない。

「とりあえず、船が無事に港についたら、ギルドへ行こう。1か月後検診もそうだが、痣の追加効果についてもエルフェル・ブルグに報告が必要だろう」
「……おいこら無視かよ。はぁ、わかった。その方向で行こう」
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