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第3章 冒険者2~3か月目
58話 はじまりから3カ月後【前編】
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1日の休憩と出発準備を挟み、オレたちはエルフェル・ブルグへの旅路に戻った。
既に1か月を切った距離まで来て、わくわくもあるが、当然不安もある。
目下の不安は、当然ながら顔の無い魔族、ガランドとの戦闘が控えていること。
サディエルはここ数日、いつもの倍の時間の運動時間を取って、何とか筋力維持に努めている。
荷馬車で移動中も定期的に並走して走っているぐらいだ。
アルムはアルムで、毎日あれこれと戦略を練っている。
オレも少し手伝って、対ガランド戦へのシュミレートを続けているが、決定打が無い以上、こちらの被害をいかに最小限に抑えるか、に重点が置かている。
リレルは念の為にと、応急処置の道具を作り始めている。
包帯など購入可能なものはともかく、怪我をしたらすぐに張り付ける事で、消毒と傷口を塞ぐ効果がある湿布……とはちょっと違うかな、けどまぁ例えが浮かばないから湿布としておこう。それを準備している。
そして、オレは……
「なぁ、ほんとーに、オレ1人で?」
「完全な1人じゃない。少し後ろで俺らも援護をするさ」
「いや、ここは普通コンビネーションとかさ……」
「いざ戦闘になったら、自分の動きと相手の行動を見る事でいっぱいいっぱいになるんだ。そこに僕らの動きまで見たり、聞いたりしろ、と言う方が無理だろう」
「けどさ……」
「往生際が悪いですよヒロト。今日まで頑張って来たんですから、大丈夫です!」
サディエルと、アルムと、リレルの、いっそ無責任なまでの励ましに、オレは思わず遠い目をしている。
異世界に来て、今日で丁度3か月目となる90日目。
オレは、皆から『往路の最終課題』を突き付けられて途方に暮れていた。
3人から提示された、最終課題。
それは、次に襲撃してくる魔物1体を、オレ1人で討伐することだった。
「複数出現した場合、まず俺らが周囲の敵及び親玉を討伐する。で、残った1体をヒロトが倒す! 実に分かりやすい!」
「分かりやすいのと、いざやるのとは結構違う気がするんだけど!?」
いっそ清々しいぐらいの笑顔で言い切ったサディエルに、オレは力いっぱいツッコミを入れる。
急に難易度ハードモードになっているんですけど!?
ほら、こう、弱らせたところをペシッ! とまでは言わないけど……!
くっそー、異世界に行ったみたいな話の主人公さんたち、何で魔物との戦闘を特に恐怖もなくやれるんだよ!?
普通、いきなり戦闘になったら怖いものだってのに、その肝が据わり切った神経を少し分けて欲しい!
心の中で、若干オレの世界のファンタジーに逆恨み状態だが、現実見てきたらそうなるよ。
「不安なのはわかるが、僕らが居る内に初戦を経験しておかないと、あとでもっと最悪な状況で……とかもあるぞ」
「うっ」
「そもそも、ガランドとの戦闘でもあれだけ動けたのです。私たちは少しも不安に思っておりませんよ」
「うぅ……」
「ヒロト」
「……サディエル」
「男は度胸!」
「アルムやリレルのように、もうちょっとマシな言葉は無かったの!?」
オレだって、若干うじうじしてるし、みっともないことぐらい分かってるよ。
はー……異世界に来た当初みたいだ。
旅立つか旅立たないか、魔物が居るわけだから危ないし安全の保障がないしで、あれこれと悩んでいた。
今、まさにあの時の気分がぶり返してきている。
これまでは皆と一緒だったから、大丈夫だという自信と共に何とかなってたわけで、いざ1人でってなるとやっぱり状況が違うわけで。
「……どれだけ準備しても、練習していたとしても、いざ本番になったら緊張して動けなかったりすることあるよ」
情けなくも、オレはそう問いかける。
その言葉を聞いて、アルムとリレルが同時にサディエルを肘で突っつく。
そう、不安な時や何か漠然とした言葉が欲しい時の役目は、"彼"なのだ。
「そうだな、そういう時もある。失敗した時って凄く落ち込むよな。毎日あれだけ足運びの練習とか、剣の構え方とか、こういう展開になったら負けが濃厚になるから、そうならないようにここだけは押さえてとか……この日の為に、必死に練習していたのに、本番では思ったように体が動かなくて、そのうち頭が真っ白になって、全然出来なくてさ」
「………」
「怖いよな。うん、誰だって怖い。その失敗が自分の準備不足ならばまだ諦めもつく。だけど、そうじゃない場合だって沢山ある。想定以上の強敵が出たり、周囲の環境が悪かったり……そうなると、これまでの努力ってなんなんだろうなーって、思っちゃうよな」
「そうだよ、急なトラブルとか想定外なこととかさ……」
「けど、それを味方につけるのもまた、今日までのヒロト自身だ」
その言葉に、オレは思わずサディエルを凝視する。
「今日まで、何もしてこなかったわけじゃないだろ? むしろ、たくさんのことをやって来たはずだ。それはヒロトが一番わかっているよな」
「……やってきた。色々、何でここに居るのに受験勉強したりとか、治癒の魔術習おうと思ったら内臓の位置がどうとかこうとか、挙句の果てには負け筋を学ぶ方が先だとか」
オレは苦笑いしながら答える。
サディエルから『受験勉強の方法を確立する』って言われた時は驚いたけど、もっと驚いたのは『生き残るための知恵』を除いた、"異世界の知識は、無駄な知識"と言う言葉。
今でもその衝撃ははっきりと覚えている。
普通、異世界の知識って必要だろ、この世界で旅なり生きていくなりする為には。
だけど、帰るつもりでいるならば、最終的には不要になる。だから、必要最低限以外覚えなくていいって。
リレルから治癒の魔術を教わろうとしたら、いきなり人体がどうとか、内臓が飛び出た仲間を助ける云々。
これもかなり衝撃だった、ただ単純に回復させれば終わりだろと。
けど、それは違った。
単純に治癒の魔術をかけて終わりなのがファンタジーであり、現実は違う。
破傷風や、他の感染症……そういう危険があるから、消毒などの事前の処置が必要となる。
これを疎かにすると、後々……致命傷になってしまうことも。
アルムから教わった負け筋。
これは本当に考えさせられた……結果に対する過程の問題点の洗い出し。
その過程は、様々なことに応用出来た。
戦闘にだって……
『恐怖心は誰にだってある。未知なことだと余計にな。だけど、それを上回るのは常に "信頼" だと思っている。確実な安全は誰にだって保障できやしない。それが普通だ。だったら、何を基準に恐怖心を上回るか?』
ふと、最初の街で宿のご主人と交わした言葉を思い出す。
恐怖心を上回るのは……常に信頼。
オレは、改めてサディエルたちを見る。
いつも通りの彼らと目が合う。
そう、いつも通り。
緊迫しているわけでもなく、不安そうな表情でもなく、無理やりオレにやる気出させようとしているのでもなく、本当に、いつも通りの彼らがそこにいた。
この3か月の成果を、オレなら出せると信じ切っている顔だ。
その信頼が、今は少し重たいとも感じる。
「頑張ってみるから、危なかったら助けてよ」
「もちろん」
「当然だ」
「はい、お任せください」
こうして、オレの『往路の最終課題』が始まったのだった。
その瞬間は、意外なほどすぐに訪れた。
休憩を終えて、移動初めて数分後、荷馬車の上部に登って周囲を警戒していたアルムは眉を顰める。
「……ん? 前方に魔物発見! あいつは……オーガか。数は4体だ」
そのの言葉を聞いて、オレは荷馬車の窓を開けて進行方向を見る。
少し先、オレたちに進行を邪魔するようにオーガたちがその場に居た。
今の所、気づかれてはいないわけだから、迂回するという手段も残されている。
「サディエル、どうする?」
同じく迂回の可能性を考慮してか、アルムはサディエルに問いかける。
「荷馬車を停止、こちらに気付かずに通り過ぎるなら良し。見つかったら……戦闘に入る」
「分かりました。丁度4体です、1人1体でよろしいのでは?」
「だな。とりあえず、俺が親玉と思われるやつと1体の動きを止める。その間に、アルムとリレルは各自で1体づつ撃破してくれ」
その言葉を聞いて、クレインさんはゆっくりと脇道に寄りながら荷馬車を停止させる。
オレらは荷馬車から、オーガたちの様子を観察する。
「2体撃破の後、俺は親玉を相手にする……そのタイミングで、ヒロト。残っている1体をお前が相手しろ」
「分かった」
「私たちの戦い方も多少参考になるでしょう。どのあたりを狙っているか、どのような立ち回りをしているか、しっかり見てください」
「了解」
一通りの打ち合わせを完了させ、オレらはオーガたちの出方を伺う。
今の所はまだ気づいていないけど……
そう思った瞬間、やつらがこちらに気づいた。
「うへぇ、きっちりこっちに気づいてきた」
「まっ、そうだろうな。クレインさん、荷馬車内へ避難を。これから戦闘になります」
「わかった。今日も頼むよ」
そう言いながら、クレインさんは素早く荷馬車内へ。
逆にオレたちは荷馬車から飛び出して、臨戦態勢に入る。
地面に足をつけ、オレはゆっくりと鞘から剣を抜き放つ。
―――さぁ、本当の意味での、異世界での"初戦"だ!
既に1か月を切った距離まで来て、わくわくもあるが、当然不安もある。
目下の不安は、当然ながら顔の無い魔族、ガランドとの戦闘が控えていること。
サディエルはここ数日、いつもの倍の時間の運動時間を取って、何とか筋力維持に努めている。
荷馬車で移動中も定期的に並走して走っているぐらいだ。
アルムはアルムで、毎日あれこれと戦略を練っている。
オレも少し手伝って、対ガランド戦へのシュミレートを続けているが、決定打が無い以上、こちらの被害をいかに最小限に抑えるか、に重点が置かている。
リレルは念の為にと、応急処置の道具を作り始めている。
包帯など購入可能なものはともかく、怪我をしたらすぐに張り付ける事で、消毒と傷口を塞ぐ効果がある湿布……とはちょっと違うかな、けどまぁ例えが浮かばないから湿布としておこう。それを準備している。
そして、オレは……
「なぁ、ほんとーに、オレ1人で?」
「完全な1人じゃない。少し後ろで俺らも援護をするさ」
「いや、ここは普通コンビネーションとかさ……」
「いざ戦闘になったら、自分の動きと相手の行動を見る事でいっぱいいっぱいになるんだ。そこに僕らの動きまで見たり、聞いたりしろ、と言う方が無理だろう」
「けどさ……」
「往生際が悪いですよヒロト。今日まで頑張って来たんですから、大丈夫です!」
サディエルと、アルムと、リレルの、いっそ無責任なまでの励ましに、オレは思わず遠い目をしている。
異世界に来て、今日で丁度3か月目となる90日目。
オレは、皆から『往路の最終課題』を突き付けられて途方に暮れていた。
3人から提示された、最終課題。
それは、次に襲撃してくる魔物1体を、オレ1人で討伐することだった。
「複数出現した場合、まず俺らが周囲の敵及び親玉を討伐する。で、残った1体をヒロトが倒す! 実に分かりやすい!」
「分かりやすいのと、いざやるのとは結構違う気がするんだけど!?」
いっそ清々しいぐらいの笑顔で言い切ったサディエルに、オレは力いっぱいツッコミを入れる。
急に難易度ハードモードになっているんですけど!?
ほら、こう、弱らせたところをペシッ! とまでは言わないけど……!
くっそー、異世界に行ったみたいな話の主人公さんたち、何で魔物との戦闘を特に恐怖もなくやれるんだよ!?
普通、いきなり戦闘になったら怖いものだってのに、その肝が据わり切った神経を少し分けて欲しい!
心の中で、若干オレの世界のファンタジーに逆恨み状態だが、現実見てきたらそうなるよ。
「不安なのはわかるが、僕らが居る内に初戦を経験しておかないと、あとでもっと最悪な状況で……とかもあるぞ」
「うっ」
「そもそも、ガランドとの戦闘でもあれだけ動けたのです。私たちは少しも不安に思っておりませんよ」
「うぅ……」
「ヒロト」
「……サディエル」
「男は度胸!」
「アルムやリレルのように、もうちょっとマシな言葉は無かったの!?」
オレだって、若干うじうじしてるし、みっともないことぐらい分かってるよ。
はー……異世界に来た当初みたいだ。
旅立つか旅立たないか、魔物が居るわけだから危ないし安全の保障がないしで、あれこれと悩んでいた。
今、まさにあの時の気分がぶり返してきている。
これまでは皆と一緒だったから、大丈夫だという自信と共に何とかなってたわけで、いざ1人でってなるとやっぱり状況が違うわけで。
「……どれだけ準備しても、練習していたとしても、いざ本番になったら緊張して動けなかったりすることあるよ」
情けなくも、オレはそう問いかける。
その言葉を聞いて、アルムとリレルが同時にサディエルを肘で突っつく。
そう、不安な時や何か漠然とした言葉が欲しい時の役目は、"彼"なのだ。
「そうだな、そういう時もある。失敗した時って凄く落ち込むよな。毎日あれだけ足運びの練習とか、剣の構え方とか、こういう展開になったら負けが濃厚になるから、そうならないようにここだけは押さえてとか……この日の為に、必死に練習していたのに、本番では思ったように体が動かなくて、そのうち頭が真っ白になって、全然出来なくてさ」
「………」
「怖いよな。うん、誰だって怖い。その失敗が自分の準備不足ならばまだ諦めもつく。だけど、そうじゃない場合だって沢山ある。想定以上の強敵が出たり、周囲の環境が悪かったり……そうなると、これまでの努力ってなんなんだろうなーって、思っちゃうよな」
「そうだよ、急なトラブルとか想定外なこととかさ……」
「けど、それを味方につけるのもまた、今日までのヒロト自身だ」
その言葉に、オレは思わずサディエルを凝視する。
「今日まで、何もしてこなかったわけじゃないだろ? むしろ、たくさんのことをやって来たはずだ。それはヒロトが一番わかっているよな」
「……やってきた。色々、何でここに居るのに受験勉強したりとか、治癒の魔術習おうと思ったら内臓の位置がどうとかこうとか、挙句の果てには負け筋を学ぶ方が先だとか」
オレは苦笑いしながら答える。
サディエルから『受験勉強の方法を確立する』って言われた時は驚いたけど、もっと驚いたのは『生き残るための知恵』を除いた、"異世界の知識は、無駄な知識"と言う言葉。
今でもその衝撃ははっきりと覚えている。
普通、異世界の知識って必要だろ、この世界で旅なり生きていくなりする為には。
だけど、帰るつもりでいるならば、最終的には不要になる。だから、必要最低限以外覚えなくていいって。
リレルから治癒の魔術を教わろうとしたら、いきなり人体がどうとか、内臓が飛び出た仲間を助ける云々。
これもかなり衝撃だった、ただ単純に回復させれば終わりだろと。
けど、それは違った。
単純に治癒の魔術をかけて終わりなのがファンタジーであり、現実は違う。
破傷風や、他の感染症……そういう危険があるから、消毒などの事前の処置が必要となる。
これを疎かにすると、後々……致命傷になってしまうことも。
アルムから教わった負け筋。
これは本当に考えさせられた……結果に対する過程の問題点の洗い出し。
その過程は、様々なことに応用出来た。
戦闘にだって……
『恐怖心は誰にだってある。未知なことだと余計にな。だけど、それを上回るのは常に "信頼" だと思っている。確実な安全は誰にだって保障できやしない。それが普通だ。だったら、何を基準に恐怖心を上回るか?』
ふと、最初の街で宿のご主人と交わした言葉を思い出す。
恐怖心を上回るのは……常に信頼。
オレは、改めてサディエルたちを見る。
いつも通りの彼らと目が合う。
そう、いつも通り。
緊迫しているわけでもなく、不安そうな表情でもなく、無理やりオレにやる気出させようとしているのでもなく、本当に、いつも通りの彼らがそこにいた。
この3か月の成果を、オレなら出せると信じ切っている顔だ。
その信頼が、今は少し重たいとも感じる。
「頑張ってみるから、危なかったら助けてよ」
「もちろん」
「当然だ」
「はい、お任せください」
こうして、オレの『往路の最終課題』が始まったのだった。
その瞬間は、意外なほどすぐに訪れた。
休憩を終えて、移動初めて数分後、荷馬車の上部に登って周囲を警戒していたアルムは眉を顰める。
「……ん? 前方に魔物発見! あいつは……オーガか。数は4体だ」
そのの言葉を聞いて、オレは荷馬車の窓を開けて進行方向を見る。
少し先、オレたちに進行を邪魔するようにオーガたちがその場に居た。
今の所、気づかれてはいないわけだから、迂回するという手段も残されている。
「サディエル、どうする?」
同じく迂回の可能性を考慮してか、アルムはサディエルに問いかける。
「荷馬車を停止、こちらに気付かずに通り過ぎるなら良し。見つかったら……戦闘に入る」
「分かりました。丁度4体です、1人1体でよろしいのでは?」
「だな。とりあえず、俺が親玉と思われるやつと1体の動きを止める。その間に、アルムとリレルは各自で1体づつ撃破してくれ」
その言葉を聞いて、クレインさんはゆっくりと脇道に寄りながら荷馬車を停止させる。
オレらは荷馬車から、オーガたちの様子を観察する。
「2体撃破の後、俺は親玉を相手にする……そのタイミングで、ヒロト。残っている1体をお前が相手しろ」
「分かった」
「私たちの戦い方も多少参考になるでしょう。どのあたりを狙っているか、どのような立ち回りをしているか、しっかり見てください」
「了解」
一通りの打ち合わせを完了させ、オレらはオーガたちの出方を伺う。
今の所はまだ気づいていないけど……
そう思った瞬間、やつらがこちらに気づいた。
「うへぇ、きっちりこっちに気づいてきた」
「まっ、そうだろうな。クレインさん、荷馬車内へ避難を。これから戦闘になります」
「わかった。今日も頼むよ」
そう言いながら、クレインさんは素早く荷馬車内へ。
逆にオレたちは荷馬車から飛び出して、臨戦態勢に入る。
地面に足をつけ、オレはゆっくりと鞘から剣を抜き放つ。
―――さぁ、本当の意味での、異世界での"初戦"だ!
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