オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第3章 冒険者2~3か月目

外伝1-1 船内パニック【前編】

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本編に関わらない小話でギャグになります。
4章前の息抜き程度にどうぞ。
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『うわああああああああああああ!?』

 ―――港町から出航して19日目、早朝。

 目的地である港まであと少しとなったその日、突如として悲鳴が響き渡った。
 オレはその悲鳴で目が覚め、ずるりっ、とベッドから落ちてしまう。

「いっつつ……今の悲鳴、サディエル!?」

 慌てて部屋から出て、すぐ右隣りのドアを乱暴にノックする。
 同じく今の悲鳴を聞きつけて、アルムとリレルが各々の部屋から出て来た。
 そして、オレの所まで来て

「おい、サディエル! 何だ今の悲鳴は!?」

 ドンドンドン、とアルムはオレよりも乱暴に部屋のドアを叩く。

『ちょ、ちょっと待て! 開け……いや、開けるけどリレルだけ入ってきてくれ!』
「……ん?」

 室内から聞こえるサディエルの返答に、思わず眉を顰める。
 聞こえてきた声、ちょっと変じゃないか。
 いや、それ以前にリレルだけって……

 うーん、オレの脳裏に少し嫌な予感というか、笑いの予感がするんだけど。

「えーっと、リレル。入ってあげてくれる?」
「よろしいのですか?」

「うん、多分だけど……悪い方女体化が当たったかもしれない」

 悪い方、と言う言葉に2人は沈黙する。
 何が言いたいかを察したらしく、アルムはゆっくりと、ゆっくりと後ずさった。

「え、なに。ガチでそう女体化なったのか?」
「声変だし、そもそもリレル指定って時点でね。まだシュレディンガーの猫箱状態だけど、恐らくは」
「しゅれでぃ……? なんだそれ」

「空箱に、猫と、2分の1で音もなく発動する即死トラップを入れて、しばらく置いた状態。観測者が箱を開けるまでは、猫の生死は決定していないから、生きている猫の状態と死んだ猫の状態が重なり合って存在しているって理論」

「……生きていたらさ、猫、鳴かないか?」
「現実的なツッコミ。いやまぁそうだけど」

 オレとアルムがそんなくだらない会話をしている間に、リレルは『失礼しますよ』と部屋の中に入っていく。
 とりあえず、リレルの結果待ちなのだが……どうしたもんか。
 無駄に沈黙がその場を支配する。

「ちなみにヒロト。前に話していたやつ以外の可能性は?」
「んー……他だと、幼児化とか、動物化とか色々選択肢はあるよ。あ、動物化は耳と尻尾が生えるのみってパターンと、そのまんまな存在に変化するパターンがある。だいたいは、猫とか犬とか、愛玩動物だね」

 どっちに転んでも笑いのネタは確定である。

「おっ、おはよう2人とも。どうしたんだ、こんな早朝にサディの部屋の前で」

 そこに、早朝から船内に異常が無いか見回っていたのだろうか、アークさんがやって来た。
 うわぁい、タイミングがいいのか、悪いのか……

「おはようございます、アークさん」
「おはようございます。ちょっと、サディエルに用事があったんですけど……」

 さーて、これはサディエルの為に黙っておくべきか否か。
 いや、黙っておくべきだろう。
 同郷で幼馴染、元旅仲間のアークさんに知られたら、多分、彼が故郷に帰った時に風評被害が蔓延しかねない。

 噂と言うのは、オレの世界ではインターネットが普及する以前からの恐怖の代物である。

 今も十分恐怖の対象ではあるものの、小さな場所であればあるほど、ネットを介さなくても噂の通りは早いもの。
 火の無いところに煙は立たぬ、だけではなく、火元が無くとも煙は立つ、と言った状態もありえる。
 おまけに、噂好きな人と言うのはだいたいどこにでも1人2人は存在する。
 そんな人に伝わろうもんなら、後は五月雨方式、もしくな鼠算である。

 よって結論、ここでアークさんには華麗にスルーしてもらおう!

「もう出てくると思います。アークさんもお仕事ご苦労様です」
「そうか。おれもサディに用事があったから丁度良い」

 あ、やべ。
 アークさん、この場から去るどころか、このままここに居る気だ。
 というか、もともとサディエルに用事があって来たのかよ、最悪だ!

 うーわー……これはどうしようもない。サディエル……ご愁傷様。

 オレは心の中で無言の合掌をする。
 この時、彼の運命がある意味で決まってしまった瞬間だった。

「皆さん、宜しいでしょうか……あら、アークさん、おはようございます」
「おはよう、リレルさん。サディの奴、体調でも悪いのか?」
「いいえ、体調のほどは……その……」

 リレルは困った表情でオレたちを見た。
 どうする? アークさんに話す? と言わんばかりである。
 オレとアルムは無言で首を振る。無理、ダメ、諦めろ。

「サディエル、皆さんに入って頂きますよ?」
「ちょっとまて、アークの声も聞こえたんだけど!? アルムとヒロトは良い、だけどアークだけは絶対勘弁してくれ!」

「ほほーう?」

 その言葉を聞いて、アークさんがあくどい表情を浮かべた。
 さながらそれは、仲のいいもの同士で見られる、相手をからかってやろう、とか、何か知られたくない隠し事をしていて、それを必死に隠しているのを暴きたくなる、そんな感じである。

 ましてや、今回は相手が悪い。

 幼いころからサディエルの事を知っているアークさんである、絶対に何か勘づいている。

「では、失礼する」
「ぎゃあああああああ!? 我先にと入ってくんなアホ!」

 あー……終わった。色々な意味で。
 オレらが入るタイミングを逃してしまい、アークさんが船室へと消えていくのを眺め……

「ぶわっはははははははは! ひーははははは!! サディ、お前、お前……! 腹痛い、ちょ、おれの腹筋返せ!?」

 とても愉快な笑い声が木霊したのであった。
 この辺り、この船の所有者であるクレインさんのご厚意で、オレら以外がいないフロアで本当に良かった。
 じゃなきゃ、他の冒険者たちも何だなんだと、ワラワラと集まってくるところだったよ。

 オレとアルムは無言で頷いた後、意を決して船室へ足を踏み入れる。

 オレらの目に飛び込んできたのは、顔を真っ赤にして殴りかかろうとしているサディエルと思われる人物。
 爆笑してそれどころじゃないアークさん。
 もうどうにでもなーれ、な表情をしているリレルの3人という、なかなかのカオスな状況であった。

「アーク……! お前、笑いすぎ!!」
「はっはっはっは! 似合うぞー、サディちゃん、あっははははははははは!」

 リレルを先に部屋に呼んだのは、やっぱりそう言う事だった模様。
 見ると、サディエルはいつもの服ではあるものの、少しダボっとしているし、身長も少し縮んでいる。
 肩も男性ではなく女性のそれで、胸の方も申し訳程度に山を形成している。

 つまりは、TS……女体化である。

「あれ、こういう場合は髪の毛も伸びてるもんだよな?」
「先ほど私が切りましたよ」

 リレルはハサミを見せながら、オレにそう答えてくれる。
 あー、リレルを先に呼んだのって、髪の毛の件もあったわけか。
 というか、普通女性になったらもっと慌てているもんかと……いや、オレからその可能性を聞いていたから、多少は覚悟していた結果か。

「で、何? お前、なんか変なもんでもつまみ食いした?」
「ちっげえええええええ!? 痣だよ痣! この痣のせい!」

 そう言いながら、サディエルは自身の首元を指さす。
 まっ、原因はそれだよな。

「ほー、例の魔族からつけられた痣か。野郎を女にするとか、魔族も変態だな」

 ガランド、変態疑惑浮上である。
 あいつ、精神世界側で今の会話聞いていたら、地味に精神ダメージ食らってるんじゃなかろうか?
 仮に効いていたら、オレもガランドに対して爆笑してやりたい。

「ヒロト……この状況、どれぐらいで治るんだ、一般的に」
「えーっと……そうだな」

 と言うか、アークさんが近くに居るのにこの話題をしていいのだろうか。
 いや、手遅れだな、返答内容だけ気を付けよう。

「よくあるのは3つかな。1日か2日……もしくは数日で戻る、ガランドを倒さないと治らない、ガランドを倒しても治らない」
「3つ目! 3つ目が致命傷なんだが!?」

 うん、3つ目は致命傷だよな。
 けど、一生治らない系は滅多なことはないし……可能性は低いわけで。
 いや、今回その可能性が低いほうにクリーンヒットしているわけだけど。

「どっちにしろ、痣をどうにかしないと無理だろうな」
「そうですね。その痣が原因なわけですし」

 オレの回答を聞いて、アルムとリレルがため息をつきながらそう結論づける。
 一方でサディエルは涙目になりながら絶叫した。

「あんのクソ魔族、今すぐ出てきやがれ! 勝負しやがれー! 絶対ぶっころーす!」
「おいこら、今は海の棺桶状態の船内でそんな戦闘は船長としても指揮官としても断固反対だ。せめて後2日我慢しろ。あと言葉遣い何とかしろ、はしたない」
「俺は男だ! ふざけんな!?」

 うーん、カオスである。
 と言うか、こういう男性が女性になっちゃいましたー系って、なんつーかこう、サディエルが自分の山を揉むとか、柔軟な対応で女体化にノリノリとか。
 いっそアルムたちもすぐに慣れて、あれこれ話題に花が咲くもんかと思ったけど……

(やっぱ、夢見すぎ……なんだろうか……)

 目の前の惨劇と、収まりそうにないカオスっぷりにオレは思わず遠い目をしてしまった。
 魔族がつけた痣だから、並みの呪い解除みたいなのも通用しないだろうし。
 というか、通用するならそこそもの話、エルフェル・ブルグに相談した時点で、その筋の人物が派遣されてきてもおかしくないわけだ。

 それがない=解除方法なし、である。

「とりあえず、俺は残り2日、ここから1歩も動かないからな!? ただでさえ、船内の冒険者たちともこの3週間弱で顔見知りになってるんだ、絶対バレる!」
「まっ、それが無難だろうな」

 さすがに3週間も狭い、わけじゃないけど、船内で寝食を共に仲だ。
 先日のスクウィッドクラーケン撃退戦での共闘戦線もあってか、歩けば知り合い、こっちも顔なじみ、な状況が出来上がっている。
 うん、今、サディエルが船室から出たら、もれなく船内はパニックになる。

「あーもー、マジでこんなことしてきやがって、ガランド許すまじ……!」

 美人がすごむと怖いので、出来ればやめて頂きたい。
 すっごい眉に皺が寄って、これで化粧でもしから迫力あるおっかねぇ女だ。
 下船まであと2日……何も起こらなければいいけど……

 って、これ言ったら100%で何か起こるフラグだ!
 なし! 今の無し! ごめん、無かったことにして!
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