オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

文字の大きさ
69 / 132
第4章 聖王都エルフェル・ブルグ

66話 覚悟を決めた日【後編】

しおりを挟む
「オレ決めたから。元の世界に戻る前に、ガランドを何とかする! この決着がつかない限り、絶対に帰らないからな!」

 オレの宣言を聞いて、2人はすぐさま表情を戻す。
 そして、睨みつける勢いでこちらを見てきた。

「その件について……"決着がつかない限り帰らない"、という1点には反対させて貰う」
「同じくです。今回ばかりは賛同出来ません」

 ちょっと、これは想定外だった。

 古代遺跡の国で、サディエルがパーティから離脱するか否かを議論した時。
 ガランドがつけた痣に、弱体化の効果があるとわかった時。
 それぞれの部分で、2人はサディエルよりは、オレ側の意見に同意してくれていた。

 ―――だけど、どうやら今回は違うようだ。

「ヒロトが僕らの心配をしてくれた事、それは重々承知している。だがな、お前忘れていないか? この世界は、お前が住んでいる世界じゃない。本来居るべき場所じゃないんだ」

「何だよ、別世界の住人なんだから、気に病む必要はないってこと?」
「いや、そんなこと言う気はサラサラない」

 アルムの返答に、オレは首を傾げる。
 じゃあ、オレが忘れていることって……?

 答えが分からず、眉を潜めてしまう。

「忘れていらっしゃいますよ、大切なことを。元の世界のご家族や親友の方々、他にもたくさんの貴方に関わる人を」

 リレルの言葉を聞いて、オレは目を見開く。
 オレの、家族や親友……?

「貴方が私たちのことで心を痛めてくれるのと同じぐらい、元の世界にいらっしゃる皆さんも、ある日突然、忽然と姿を消した貴方を心配し、嘆き悲しんで心を痛めているのですよ」
「かれこれ3か月経ってしまったからな。特に、親御さんやお姉さんたちは、心配どころの騒ぎじゃないはずだ。これで、お前が死んで戻ってみろ……大惨事も良いところだ」

「………」

 忘れていた、わけじゃない。
 だけど、失念はしていた。
 どうしてるかな、ぐらいには思っていたけど……冷静に考えたら、あっちではオレは完全に行方不明だ。

 放課後の学校、誰もいない教室で本を読んで居たわけだけど、消えた瞬間を目撃した人はいない。

 だから、学校に居たと証言する人はいても、それ以降の足取りがパッタリと途絶えた状態だ。
 生きているか、死んでいるかもわからず、目撃情報もない。
 オレも、こちらから元の世界へコンタクトを取る手段がないから、生きている、という連絡すら出来ない。

「貴方が私たちのこと心配するのと同じ、いえ、それ以上に心配してくれている方々を蔑ろにすることだけは、許しません」

 アルムとリレル、サディエルが頑なに『オレを無事に元の世界に戻すこと』と言い続けていたのか。
 その本当の意味を、やっと理解した。

(オレの為でもある。だけど、オレの為"だけ"じゃない)

 3人は会ったことも会う事もない、オレの両親や姉、親友たちや、多くの人たちの心配までした上で、そう言い続けていたんだ。
 たったそれだけの言葉に、どれだけ詰め込んで言い続けてきているんだよ。
 何度も聞いてきた、耳にタコが出来るぐらいに聞いてきた。

 それなのに、今になって、そんな意味まであるって気づくなんて……

 2人がオレに言いたいことも理解した。
 オレの思考から抜けていた"負け筋心配する人たち"を把握した上で、もう一度言えってことだ。

「……それでも、決着がつかない限り絶対に帰らない」
「ヒロト、お前……!」
「ただし!」

 2人の顔を見て、オレはハッキリと宣言する。

「残り3か月以内に、ガランドとも決着をつける! そうすれば、オレも安心して帰る事が出来るし、皆だって問題ないはずだ!」

 その言葉を聞いて、2人はポカンとした表情を浮かべる。
 だが、すぐに首を左右に振って、アルムは額に右手を置き、リレルは肩を落とす。

「……また、無茶苦茶なことを」
「アテは無いんですよね、もちろん」

「うん、無い!……無いけど、きっとあるよ、絶対! だって、それがオレの世界のテンプレでお決まりな、夢見すぎファンタジーなんだから」

 魔族に対してのみ、オレの世界のテンプレは通用する。
 それは、今日の1件で完全に証明されたと言っていい。

 だったら、馬鹿正直にそうだと信じてみよう。
 1歩を踏み出す為にも、立ち止まらない為にも。

「お前なぁ……」

「諦めろよアルム、リレル。ヒロトの勝ちだ」

 聞き覚えがある声が響き、同時にドアが開く音がした。
 オレは思わず目を見開いて、ドアを見る。
 同じように、アルムとリレルも驚きの表情を浮かべて振り返った。

 そこに立っていたのは……

「いやぁ、やっとお前らも負けてくれて嬉しい限りだ。だけどヒロト、仲が悪いとか折り合いがつかないならともかく、ご家族のことを忘れていたのは本当にダメだぞ」

「……サディエル!?」

 入院服のままではあるものの、サディエルがそこに居た。
 オレは椅子から立ち上がり、彼の元へ駆け寄る。

「サディエル、目が覚めたの!? いや、と言うか、何でここに……」
「クレインさんの屋敷の場所は知っていたからな、ここじゃないかと思って来たんだよ。んで、ドアをノックしようとしたら皆が話している……」

「そうじゃなくて!」

 説明を続けようとしたサディエルを、オレは慌てて止める。
 今はそういうことを聞きたかったんじゃないから!
 すると、サディエルはオレが言いたいことを察したのか、苦笑いしながら頭をくしゃくしゃと撫でてくる。

「怪我なら大丈夫だ、ここまで歩いてきたんだし。ちょっと寝過ぎた気もするけど……あれから1日も経っていないよな?」

「あぁ、今朝のことだが」
「思っていたよりも、早いお目覚めで……」
「あっはははは……多分、バークライスさんのお陰だとは思う。暗い場所にいるなーって思っていたら、急に体が暖かくなって周囲が見えるようになってさ。恐らくあれ、治癒の魔術の一種だと思う」

 あ、そう言えばバークライスさんがお見舞いに来たって、アークさん言ってたっけ。
 オレたちとは入れ違いだったわけだけど、そんなことがあったのか。

「今度、お礼を言わないとだな……もう2人は行ってきたのか?」
「「………」」

 その問いかけに、アルムとリレルは……スッ、と視線を逸らす。
 いつもなら、この行動をするのはサディエルのはずなのだが、今回は2人がそんな反応を示した。

「行ってないんだな、お前ら……なんとなく、そんな気はしてたけど」

 一方で、サディエルは抵抗感なさそうっていうか、なんつーか。
 反応が完全に逆である。

「サディエルもバークライスさんとは知り合いなの?」
「あぁ。以前、この国に来た時にお世話になった人の1人だ。良い人だぞ」

「その感想を持てるのは、お前だけだからな、サディエル!」
「そうですよ! どこが良い人なんですか!?」

 サディエルの感想と、アルムとリレルの感想が両極端過ぎる。
 これ、どっちの意見を信じればいいんだよ。
 
 すると、アルムは一旦落ち着くためか深呼吸をして、サディエルを見る。

「……今はその件はどうでもいい。それよりもサディエル。お前、入院服のままだけど、病院にちゃんと言ってからココに来たんだよな?」
「………」

 今度は、サディエルが沈黙した。
 笑顔を張り付けたまま、スッ、と顔を背ける。若干、冷や汗を流しているようにも見えるんだけど。

 ちょっと待って、つまりそれって……

「まさか、病院を抜け出してきた!? 嘘だろ!?」
「このアホ! なにやってるんだ!?」

 オレとアルムが思わず叫ぶと同時に、絶対零度が室内を覆う。
 いや、本当に急に寒くなったんだけど、って、これって絶対に!

 オレは思わずその発生源を見る。

 そこには、笑顔のまま青筋を浮かべているリレルの姿。

「まぁ……私という者医者が居ると理解しつつですか。なにをやっていらっしゃるのですか?」
「あ、いや、その……心配させてるだろうと思ったから、とりあえず起きたって、無事だって伝えたくて……その……ごめんなさい」

 90度で綺麗に腰を折り、何とも素直な謝罪であった。
 そんな中、部屋のドアが少しばかり乱暴にノックされ

『申し訳ありません、皆さん宜しいでしょうか!』

 焦ったレックスさんの声が聞こえた。
 ……これ、まさか。

「失礼致します。サディエル、先ほど病院から連絡がありましたよ、外出許可どころか無断で抜け出したと」

 ドアを開けて部屋を素早く見渡した後、お目当ての人物を見つけたのか、ツカツカと速足でレックスさんは近づく。
 一方のサディエルは本当に、本当に申し訳なさそうな顔をしている。

「私に嘘をつきましたね、サディエル?」
「は、はい……ごめんなさい。だけどその、皆が心配で……」

「問答無用。今から、病院まで連行します」

 そう宣言するや否や、グイっと、サディエルの首根っこをひっつかみ、レックスさんは力任せに引きずって行く。

「レックスさん、息苦しい! 首に服が食い込んで息苦しいです! 病院に辿り着く前に俺が窒息で死ぬ!」
「黙りなさい。それでは皆様、お騒がせして申し訳ありませんでした。ゆっくりとお休みくださいませ」
「いや、だから!? あ、みんな、また明日にでも!」

 ギィィ……バタン、とドアが閉められた。
 もう何かのコントでも見ているような、もしくは台風でも過ぎ去った後のような。
 そんな勢いで、あっという間にサディエルは病院へと逆戻りしたのであった。

 残されたオレたちの間に、長い、長い沈黙が訪れる。

「……寝るか、もう今日は。僕は疲れた」
「そうですね……寝ましょうか」
「うん、オレも疲れた。最後の最後でドッと……」

 その元凶は100%でサディエルだけどな!
 オレらのこと心配してくれたのは、1000歩譲って許すけど、そうじゃないから。
 何で素直にベッドの上に居なかったんだよ!?

 あー……ダメだ、頭が痛くなってきた。

 オレたちは、談話室となった部屋を出て、札が掛かっている部屋を適当に選ぶ。

「そうだヒロト、寝る前に一言」
「ん? 何、アルム」

「あの馬鹿のせいで中断した件、了解した。3か月以内で何とかケリをつけよう。両方とも、だ」

「……それって」
「明日から頑張りましょうってことです。では、おやすみなさいませ」
「お休み、リレル、ヒロト。明日は何時に起きても良いぞ、どうせ疲れでそれどころじゃない」

 オレが確認を取るよりも先に、それじゃあ、とアルムとリレルは各々の部屋へと消えていった。

 残ったのは……状況についていけなかったオレだけ。
 ゆっくりと意味を理解して、オレは小さくガッツポーズをする。
 覚悟は出来た、決めた。
 だったら、あとは…‥

「よしっ! 明日からもっと頑張ろう!」
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

キャンピングカーで走ってるだけで異世界が平和になるそうです~万物生成系チートスキルを添えて~

サメのおでこ
ファンタジー
手違いだったのだ。もしくは事故。 ヒトと魔族が今日もドンパチやっている世界。行方不明の勇者を捜す使命を帯びて……訂正、押しつけられて召喚された俺は、スキル≪物質変換≫の使い手だ。 木を鉄に、紙を鋼に、雪をオムライスに――あらゆる物質を望むがままに変換してのけるこのスキルは、しかし何故か召喚師から「役立たずのド三流」と罵られる。その挙げ句、人界の果てへと魔法で追放される有り様。 そんな俺は、≪物質変換≫でもって生き延びるための武器を生み出そうとして――キャンピングカーを創ってしまう。 もう一度言う。 手違いだったのだ。もしくは事故。 出来てしまったキャンピングカーで、渋々出発する俺。だが、実はこの平和なクルマには俺自身も知らない途方もない力が隠されていた! そんな俺とキャンピングカーに、ある願いを託す人々が現れて―― ※本作は他サイトでも掲載しています

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

「キヅイセ。」 ~気づいたら異世界にいた。おまけに目の前にはATMがあった。異世界転移、通算一万人目の冒険者~

あめの みかな
ファンタジー
秋月レンジ。高校2年生。 彼は気づいたら異世界にいた。 その世界は、彼が元いた世界とのゲート開通から100周年を迎え、彼は通算一万人目の冒険者だった。 科学ではなく魔法が発達した、もうひとつの地球を舞台に、秋月レンジとふたりの巫女ステラ・リヴァイアサンとピノア・カーバンクルの冒険が今始まる。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari@七柚カリン
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

処理中です...