オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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第5章 冒険者4か月目

85話 作戦会議

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「以前、僕がヒロトに "成功体験として覚えるのは許さない" と言ったこと、覚えているか」
「あー……覚えている、めっちゃ覚えている。古代遺跡の国で、サディエルを助けた日の翌日……反省会のあれだよね」

 思い出しただけでも頭痛がしそうだ。
 あの時、アルムにあれこれ言われたのは、今でも忘れていない。

 だって、耳が痛すぎたからさ、アレ。

 いつまでも成功体験を忘れられず、同じやり方を続けて失敗する奴は山ほどいる、とか。
 1度の成功に酔いしれて、100回失敗したら話にならない、とか。 

「人間ってのは、これまでの経験を元にした行動に執着し、繰り返してしまいがちだ。熟練な冒険者でも、名軍師であっても、成功した戦法や習慣を捨てきれない事が多い」
「それ自体は、全てが全て悪いことじゃありません。より安牌を、定石を選ぶことが必要な事も多くあります。自軍の組織が大きければ大きいほど、無理な賭けを避けなければならない場面もあるのです」

 アルムの言葉を引き継ぐように、リレルが言葉を続けた。

 成功体験の弊害とも言えるし、経験の累積とも言える。
 良いところも、悪いところも平等だよな。

「って、今、これを説明するってことは……」
「あぁそうだ。逆に素人や新人の方がそう言う習慣が無い。つまりは、新しい戦法を取り入れるのに抵抗が無いんだ。だからこそ、安全志向になりやすい玄人集団に勝ってしまう事例が良くある」

 強大な敵に主人公が勝てるパターンだそれ!

「じゃあ、オレに "成功体験として覚えるのは許さない" って言ったのも」

「私たちだけでは、ある程度のルールや、状況に応じてどう動くかも、凝り固まっている部分があるのですよ」
「せっかく、ヒロトが居るんだ。僕らじゃ思いつかない視点を、わざわざ放棄するわけないだろ」

 喜んでいいのか、悲しむべきなのか。
 だけど、ファンタジーとか関係なく、オレ自身の視点……見て、考えて、思ったことがそのまま役に立つってことで。

「実際、説得したり、救援要請したり、捕まえたり、色々やってきたじゃありませんか」
「そう言われたら、確かに」

 今までの旅を思い返して、オレが提案したことは色々あった。
 あまりにもファンタジーと言うか、非現実的すぎるものはさておいて……ちゃんと作戦を立案した分に関しては、その都度、サディエルたちが一旦議論を挟みはしたものの、ほぼ提案内容がそのまま通っている。

 それを良しとしてくれていたのは、アルムたちの中で、自分たちじゃなかなか選べない選択肢という存在を自覚していたからか。
 だけど、それって地味に凄いことだよな。

 だって、アルムたちの中では確実で安全だって分かり切ってることも沢山あったはずだ。
 それを度外視にしてまで、オレの案を受け入れてくれたわけだからな。

「馬鹿げたように見える作戦でも、敵の裏をかくという点においては価値がある。作戦というものは、点数による優劣があるわけじゃない。相手の予測から、いかに外れてるかが大事なんだ」
「歴史上で、ありえない奇策によって大軍が敗北するのが、まさにそれです」

「実力どうこうの話じゃない。この中で一番想定外の作戦を立案出来るが、お前だってことさ、ヒロト」

 また難しく、責任重大だ。
 だけど、サディエルたちに勝つにはそれしかないんだよな。

 実際、何もかもがサディエルたちのチームと比較して、こっちは劣っている。

 それを覆す手段は、たった1点。
 馬鹿げたように見えてでも、敵の裏を……予想を上回る動きや作戦を立てる事。

「だが、当然問題点はある」

 その言葉を聞いて、オレはアルムに視線を向ける。
 こちらの唯一の勝ち筋。それはつまり……

「サディエルたちにとっては、最も潰すべき "負け筋" ってことだよね」
「そうだ。あっちだって、こちらの勝ち筋はとっくに見えているはずだ。確実に潰しに来る」

 サディエルが言った今回のコンビネーション試験。
 その目的は、きたるべき対ガランド戦における、最大限の準備だ。
 こっちがいくら勝てないからと言って、武器を制限したりとか、行動を制限したりとかいうハンデは、恐らく存在しない。

 ハンデを貰えて勝てた所で、ガランドが同じように手を抜いてくるはずがない。

 ガランドと同条件……ハンデなしの真っ向勝負に勝ってこその合格だ。

「今回は、ヒロト自身がこちらの "勝ち筋" であり、"負け筋" でもある。それを忘れないでくれ」
「了解、肝に銘じておく」

 初めてのパターンだよな。
 勝ち筋でもあり、負け筋でもある……立ち回りが難しそうだ。

「まず、今日やるべきことは単純明快。ヒロトは、対人戦そのものの雰囲気に慣れる事だ」
「サディエルの動きに翻弄されて、次に何をすればいいかって考える暇や、アルムやリレルの声がまともに聞こえない状態だと、意味無いよな。うん、負けは分かっているから、とにかく動く!」

「いくらでも失敗をして良い今だからこそです。思いっきり失敗しちゃいましょう」

 頼もしい言葉だよな。
 いくらでも失敗していいって、なかなか聞ける言葉じゃないわけだし。
 貴重な機会であり、何より最終目標に繋げる為の試験だ。

 やるべきことを全部やって、ガランドとの最終決戦に備えることが、今のオレにとっての最大の課題なんだ。

「他の注意点は、そうですね……足運びに関しては、忘れないようにお願いしますね」
「不用意に動かすと、あっという間にそこを突かれるから、だよね。頑張って注意するよ」

 オレは立ち上がって、2人を見る。

「よしっ! アルム、リレル、行こう!」

「あぁ」
「頑張りましょう!」

 頷き、2人も立ち上がる。
 オレたちはそのまま、サディエルたちが待つ特別訓練場へと歩き出した。

========================

「随分と自然に離れましたね、常習犯ですか?」
「レックスさん、言い方が酷い」

 サディエルはバークライスに右腕を差し出しながら、レックスにそう返した。

 クレインの本邸内にある特別訓練場。
 ここは、クレインに雇われているフットマンを筆頭に、主人を守る為に必要な武術を学ぶ際に使われる、広めの訓練場である。
 その訓練場の端っこに彼らはいた。

「サディエル、少し痛いぞ」

 対象箇所を消毒し、注射器を取り出しながらバークライスが宣言する。
 うわぁ……と、サディエルの表情があっという間に暗くなった。

「わかりまし……いっつ!?」
「痛いと言っただろう、私は医療の専門じゃないんだ。ほら、抑えておけ」

 消毒液を垂らした布を受け取り、今しがた痛みのした場所を抑える。
 そのままサディエルはゆっくりと倒れて、深呼吸した。

「バークライスさん、効果は?」
「6時間程だな。今日は早めに切り上げることになるだろうから心配はしていないが、明日以降はどういう配分にするんだ」

 バークライスの問いかけに、彼はしばし黙り思案する。
 ややあって、自身の中のタイムスケジュールが固まったのか、指を2本だけ立てた。

「1日2回。午前6時に1回、午後1時に1回の予定でお願いします。明日も午前中に切り上げる、と言う事になるなら、1回だけに抑えたいです」

 その返答を聞き、バークライスは難しい顔をする。

「……夜にはきつい副作用が出るはずだ、あまりアイツらと顔を合わせないようにしろ。レックス、悪いが、試験期間はこの屋敷に滞在したい。クレイン殿からの許可はいるか?」

 一通り忠告を終えると、彼はレックスに視線を向けた。
 すると、予想していたのだろうか、特段慌てる様子もなくレックスは微笑みながら答えを返す。

「ご安心を、既にクレイン様には話を通しております。本日の試験後に、滞在中に使用して頂く部屋へご案内致します」
「相変わらず気が利くな、流石だ」
「お褒めに預かり、恐悦至極です」

 慣れた動作で、レックスは優雅に一礼した。
 それを見たバークライスは苦笑いをしつつも、サディエルに視線を戻す。

「というわけだ、サディエル。起床次第、私の部屋に来なさい」
「分かりました。ちなみに、旅用のモノは最大何本準備出来そうですか」
「大至急調合させているが、今回使う分を差し引いて3本だ。自分で注射は打てるのか?」
「注射の方は大丈夫です。リレルに散々教え込まれて、アルムと注射の刺しあいをさせられましたから」

 昔を思い出してか、サディエルは遠い目をしながら答える。
 下手な者同士での注射の練習である、結果はおして知るべし。

 サディエルは体を起こして、抑えていた布を外す。
 事前に受け取った小さめの絆創膏を該当部分に貼り、袖を元の長さまで戻した。
 その光景を見ていたレックスは、『差し出がましいことを申しますが』と断りを入れてから、言葉を続ける。

「サディエル……貴方が無理に着いて行く必要はないのでは? アルム様、リレル様の力量であれば、ヒロト様を元の世界に戻すまでの護衛は問題は無いはずです」

 レックスの言葉に、サディエルは申し訳なさそうな表情を浮かべた。

「ヒロトを元の世界に戻す為に必要な魔力は、あの魔族のものを利用するんです。となれば、狙われている俺が一緒に行かないと意味がない。時間制限さえなければ、エルフェル・ブルグにもうしばらく滞在して、迎え撃つことも視野に入っていたのですが」

「なかなか上手く行かないものですね」
「全くです」

 答えながら、サディエルは自身の右手を見て、グーパーと握りしめる。

「……本当、上手くいかないなぁ」

 悔しそうに、彼は拳を握る。

「今日の模擬戦が終わったら、もう1度数値を確認しよう」
「分かりました、よろしくお願いします」
「あぁ。今は少し寝ていなさい。彼らが来たら起こす」

「……じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます。少しの間、よろしくお願いします」

 そう言うと、サディエルは再び倒れこみ目を閉じる。
 少しの間を置き、寝息が聞こえてきたのを確認すると、レックスが近くにあった毛布を彼にかけた。

「バークライス……やはり、難しいのですか? 痣の無効化は」
「研究そのものは順調だ。しかし、それは痣の特徴が分かってきた、という意味での順調であり……彼が望む、無効化と言う効果に対するものではないからな」

「そうですか……」
「悪いな、なかなか成果が出なくて」
「貴方はよくやっておりますよ。相変わらずお堅いですね」
「普段は、クレイン様、クレイン様、とうるさいお前だってそうだろう。何とかしてやりたいんだがな……」

 どちらからともなく、深いため息が漏れる。

「とにかく、私たちにやれることは、彼らの旅路が少しでも良くなるようにしてやることだ」

「承知しております。頑張りましょう、バークライス」
「あぁ、頑張ろう、レックス」 
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