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第5章 冒険者4か月目
90話 3対3【5】
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―――時間は少し遡り、午前10時前の作戦会議中
「まっ、これで少なくともチャンスが来るまでは、こっちは定石通りに進めている、と思ってくれるはずだ」
作戦をひとしきりまとめ終え、アルムは背伸びをする。
お疲れ様です、とリレルが彼に飲み物を渡した。
「で、ヒロト。これをどう布石として使うんだ?」
「んー……あれこれ裏をかこうと考えすぎて、逆にドツボにハマっている」
いざ、サディエルたちが思いつかないような奇策、と言う事になると、なかなかに難しい。
思いついては、見抜かれるよなと却下して、またあれこれ考えての繰り返しだ。
「こういう時は、初歩の初歩に戻って、もっと単純に考えた方が宜しいのではないですか?」
両腕を組みながら頭を悩ませるオレに、リレルがそんな提案をしてくれた。
もっと単純に、か……
奇策ってのは、誰もが思いつかなかった作戦、と言う意味に捉えがちだが、そうじゃない。
アルムも言っていた。相手の定石を破るのは、基礎を学んだ上で出てくる、"新人の突拍子もない戦術" だと。
誰もが1度は思いつくけど、あまりにも非効率だったり、圧倒的にハイリスク・ローリターンだから、"結果的に" 取られないだろうと思われる作戦、と言う意味が正しい。
そう、誰もが1度は思いつくし、一瞬は警戒するんだ。
思いついたけど、それはやらんだろー、はははは! みたいなものを、あえて最高のタイミングでぶっこんで作戦を成功させる。
それが、奇策の所以であり、そう言う作戦を取れる人ってのはだいたい基礎はがっちり固まっている。
基礎あっての奇策だ。
ふと、オレは2人の武器を見る。
……あっ、そうだ。これもある意味では『基礎』だ。
「あのさ、アルム。確か、剣も使えるよね? 以前リレルが、アルムが剣を持った場合は小手先重視だって」
「ん? 一応は、まぁ。ただ、サディエルやリレルと比較したら圧倒的に弱いぞ」
「分かっている。それからリレル、どんな武器でも使えたよね」
「はい。武器の傷を覚える為に一通りの武器は。専門で使っている人以外には、負けない程度に習得しております」
「じゃあさ……武器を交換するってのは、どうかな?」
========================
(とにかく、少しでもサディエルたちに隙を作る。1秒でも、2秒でも動きが止まってくれるだけで、唐突な事で判断が遅れるだけで、こっちに逆転の目が出てくる)
互いの武器を入れ替えた作戦。
サディエルたちからしたら、オレらが急に武器を交換してくるのは想定外だったはずだ。
いや、アルムとリレルだけだったら多少は想定していただろう。
だけど、剣以外を使ったことがないオレが『別の武器を急に使う』とまでは、考えに至らなかったはずだ。
とは言え、通じるのは今回1回きりだ。
この試合で勝利出来なければ、もっと奇抜な作戦を考案しないといけない。
1度作戦を開始して走り出した以上、この試合で決着をつける!
オレがレックスさんとタイマンした所で、時間は稼げない。
だけど、アルムであれば、オレよりは時間を稼げる。
だからこそ、あの瞬間にオレの剣を渡して、彼の弓矢を受け取った。
そのままリレルと合流して、彼女に弓矢を、そしてオレは槍を。
これで、アルムがレックスさん。オレとリレルがバークライスさん、と言う構図になった。
サディエルはその丁度中央、どちらを援護に行こうか一瞬迷い、それでもすぐにオレら側に狙いを定めたのは流石だよな。
「バークライス将軍、私が弓を扱う姿を見るは、初めてですよね!」
リレルは弓を構え、狙いを定める。
その間に、オレは槍を持ってバークライスさん目掛けて走り出す。
バークライスさんの方も、こちらの動きに驚き、杖の向き先に僅かな迷いが出るものの、すぐにオレに向けられた。
弱い奴から倒す、これが戦いの定石。
ゲームでよくやったよ、ワントップ系のチーム編成の相手とかなら、まずは取り巻きから倒すからね。
だけど、こっちだって黙って撃たれるわけにはいかない。
オレは槍を自身の右肩より後ろまで引く。
「走っても間に合わないなら……投げるまで! うりゃあ!!」
助走の勢いそのままに、オレは大きく振りかぶって槍をバークライスさんに向かって投げる。
「間に合え!」
サディエルは一気距離をつめ、オレが投げた槍をギリギリ弾き落とす。
おしい、今のでバークライスさんを戦闘不能に出来たら最高だったけど、目的は果たした。
オレはすぐに近くに散らばっている武器から、手近なものを手に取って、次々と2人に向けて投げつける。
「サディエル、しばらく防いでくれ。その間に狙いを定める」
「了解です。くっそ、この為に武器を降らせたのかよ!」
投げる速度はまちまちだけど、サディエルは冷静にオレが投げた武器を1つづつ弾き落とす。
うん、それでいい。
「リレル!」
「えぇ!」
合図と共に、リレルは矢を放つ。
サディエルは槍を構え……目を大きく見開いた。
「……レックスさん!」
先ほどまでバークライスさんに狙いを定めていた矢の先は、アルムと対峙しているレックスさんに向けられていた。
同時に、サディエルの悲痛に近い叫びが響く。
レックスさんは、矢が自分に向かって来ていることに気づき、回避行動を取ろうとしたが、その瞬間をアルムは見逃さない。
「貰った!」
リレルの矢が左肩に。
アルムの剣が、右脇腹にそれぞれ突き刺さった。
レックスさんは悔しそうに膝をつく。
これで1人戦闘不能!
オレはすぐさま、地面に落ちている剣を握り、サディエルとバークライスさんに向けて走り出す。
「"衝撃よ!"」
バークライスさんはすかさず、オレに向けて魔術を放つ。
声が響くと同時に、オレは右へ大きく飛びのき、彼の魔術を回避する。
そこに、リレルが放った矢が飛来した。
「さすがに2度も食わない!」
サディエルが、リレルの矢を近くに落ちていた剣の側面で防ぐと同時に
「ぐあっ……!」
「え……バークライスさん!?」
別の矢が、バークライスさんに直撃していた。
サディエルが慌てて周囲を確認し……視線がアルムに向く。
そこには、剣を捨てて、近くに落ちていた弓を回収したアルムの姿。
「悪いなサディエル。いつまでも僕が、馬鹿正直に剣を使うわけがないし、わざわざこの距離を詰める為に移動するわけがないだろ」
リレルも弓から槍に持ち替え、オレと2人でサディエルを包囲する。
アルムは次の矢を構えながら、ゆっくりとこちらへ。
「瞬発力が低下し、判断力が鈍っている所を突かせて貰って申し訳ありませんが」
「オレらはそこぐらいしか、付け入る隙がなかったからね。ご希望通り、ちゃんとコンビネーションもしたし」
本来であれば『一番弱い場所から』削っていくのが定石だった。
見た目だけなら、オレらが真っ先に狙うべきはサディエルになる。
ただ、こちらとしてはその逆を突かないと、今の状況には持っていけなかった。
以前、アルムから聞いた中衛の役割。
前衛や後衛のフォローであり、状況が劣勢の場合は最も忙しい立ち位置だと。
どんな理由があって、サディエルが不調なのかは知らないけど、判断力が鈍って、いつもの俊敏性も削がれているからこそ、上手く彼を振り回せば、疑似的に2対1の状況を作り出せる。
そこをオレらは突いたというわけだ。
「サディエル、もう勝ち目はないと思う。降参してくれる?」
「………」
オレの問いかけを聞いて、サディエルは顔を伏せて大きくため息を吐く。
カラン……と槍を捨て……
「ッ!? リレル、ヒロト、構えろ!」
両手を上げるかと思ったその時、アルムの叫び声が響いた。
同時に、サディエルは捨てていなかった剣を利き手に持ち替える。
「サディエルは諦めてないぞ!」
アルムは矢を放ちながら、警告してくれた。
その矢を剣の側面で防ぐと、サディエルはそのままアルムへ向かって駆け出す。
「まずい! アルム!」
矢を構え直す暇はないと悟ったのか、アルムは剣を握り直して、初撃を受けた。
ギリギリと、2人の剣が摩擦し合う。
「……珍しいな、お前がそこまで "怒るの" は」
「当然だろ。自分の不甲斐なさに、怒っているんだよ!」
力任せにアルムの剣を弾き、そのまま追撃をかけようとする。
だけど、その後ろから追い付いたリレルの槍が迫った。
視界の隅で捉えたのだろうか、サディエルは体を捻って1度オレらから距離を取る。
3対1、絶好の大チャンス。
と、言いたかったんだけどな。
「悪いが3人とも、俺もちゃんと戦闘不能にしないと合格にしないぞ」
スッ、と目を細めながらサディエルはそう宣言する。
彼の雰囲気が、怖い。
恐らく、オレは初めて見るであろう、怒りに満ちた表情。
「それから、アルムにリレル。お前らには話していたはずだが、人の "トラウマ" をよくもぶち抜いてきたな。何故、俺から倒さなかった」
サディエルのトラウマ。
それは、この旅で断片的に聞いていた、アークさんと旅をしていた頃のこと。
詳細な経緯こそ聞かせて貰っていないけど、サディエルをかばった結果、アークさんが負傷。
一生残る後遺症と共に、冒険者を引退し、サディエルと道を違えることになった話。
己の未熟さと後悔を、彼はアルムとリレルにパーティを組む際、基本方針と共に話していた。
その際、2人にあるお願いをしていたそうだ。
―――あんな思いはもう二度とごめんだ。だけど、俺もまだまだ未熟で、絶対に守り切れると、約束も出来ない。
「覚悟の上だ、サディエル」
「えぇ。覚悟の上で、ヒロトの策に乗りました」
そう言いながら、2人は各々の武器を構え直す。
―――それでも、2人が倒れるようなことがあったら、俺には耐えられそうにないからさ。
「お前もそろそろ、自覚すべきだ。トラウマなのは承知だが、お前が本格的に "置いて行く側になろうと" しているのを、何で僕らが見て見ぬふりをしなきゃいけないんだ!」
「同感です。その性根の腐った自己犠牲根性、いい機会ですから叩き直して差し上げます」
―――まず、俺を犠牲にしてくれ。
この旅で、サディエルだけ怪我の頻度が高かった理由が、それだった。
前衛を張るのも、可能な限り2人に怪我を負って欲しくないから。
ガランドに痣をつけられた時も、妙に冷静だったのは……オレらが狙われないと分かっていたから。
「ヒロト。コンビネーションの試験はもうほぼ合格だ。下がっていろ」
「けど……」
「ここから先は、仲間外れにして悪いが、僕らの問題だ」
「はい。5年分の仲間割れをしましょうか」
「まっ、これで少なくともチャンスが来るまでは、こっちは定石通りに進めている、と思ってくれるはずだ」
作戦をひとしきりまとめ終え、アルムは背伸びをする。
お疲れ様です、とリレルが彼に飲み物を渡した。
「で、ヒロト。これをどう布石として使うんだ?」
「んー……あれこれ裏をかこうと考えすぎて、逆にドツボにハマっている」
いざ、サディエルたちが思いつかないような奇策、と言う事になると、なかなかに難しい。
思いついては、見抜かれるよなと却下して、またあれこれ考えての繰り返しだ。
「こういう時は、初歩の初歩に戻って、もっと単純に考えた方が宜しいのではないですか?」
両腕を組みながら頭を悩ませるオレに、リレルがそんな提案をしてくれた。
もっと単純に、か……
奇策ってのは、誰もが思いつかなかった作戦、と言う意味に捉えがちだが、そうじゃない。
アルムも言っていた。相手の定石を破るのは、基礎を学んだ上で出てくる、"新人の突拍子もない戦術" だと。
誰もが1度は思いつくけど、あまりにも非効率だったり、圧倒的にハイリスク・ローリターンだから、"結果的に" 取られないだろうと思われる作戦、と言う意味が正しい。
そう、誰もが1度は思いつくし、一瞬は警戒するんだ。
思いついたけど、それはやらんだろー、はははは! みたいなものを、あえて最高のタイミングでぶっこんで作戦を成功させる。
それが、奇策の所以であり、そう言う作戦を取れる人ってのはだいたい基礎はがっちり固まっている。
基礎あっての奇策だ。
ふと、オレは2人の武器を見る。
……あっ、そうだ。これもある意味では『基礎』だ。
「あのさ、アルム。確か、剣も使えるよね? 以前リレルが、アルムが剣を持った場合は小手先重視だって」
「ん? 一応は、まぁ。ただ、サディエルやリレルと比較したら圧倒的に弱いぞ」
「分かっている。それからリレル、どんな武器でも使えたよね」
「はい。武器の傷を覚える為に一通りの武器は。専門で使っている人以外には、負けない程度に習得しております」
「じゃあさ……武器を交換するってのは、どうかな?」
========================
(とにかく、少しでもサディエルたちに隙を作る。1秒でも、2秒でも動きが止まってくれるだけで、唐突な事で判断が遅れるだけで、こっちに逆転の目が出てくる)
互いの武器を入れ替えた作戦。
サディエルたちからしたら、オレらが急に武器を交換してくるのは想定外だったはずだ。
いや、アルムとリレルだけだったら多少は想定していただろう。
だけど、剣以外を使ったことがないオレが『別の武器を急に使う』とまでは、考えに至らなかったはずだ。
とは言え、通じるのは今回1回きりだ。
この試合で勝利出来なければ、もっと奇抜な作戦を考案しないといけない。
1度作戦を開始して走り出した以上、この試合で決着をつける!
オレがレックスさんとタイマンした所で、時間は稼げない。
だけど、アルムであれば、オレよりは時間を稼げる。
だからこそ、あの瞬間にオレの剣を渡して、彼の弓矢を受け取った。
そのままリレルと合流して、彼女に弓矢を、そしてオレは槍を。
これで、アルムがレックスさん。オレとリレルがバークライスさん、と言う構図になった。
サディエルはその丁度中央、どちらを援護に行こうか一瞬迷い、それでもすぐにオレら側に狙いを定めたのは流石だよな。
「バークライス将軍、私が弓を扱う姿を見るは、初めてですよね!」
リレルは弓を構え、狙いを定める。
その間に、オレは槍を持ってバークライスさん目掛けて走り出す。
バークライスさんの方も、こちらの動きに驚き、杖の向き先に僅かな迷いが出るものの、すぐにオレに向けられた。
弱い奴から倒す、これが戦いの定石。
ゲームでよくやったよ、ワントップ系のチーム編成の相手とかなら、まずは取り巻きから倒すからね。
だけど、こっちだって黙って撃たれるわけにはいかない。
オレは槍を自身の右肩より後ろまで引く。
「走っても間に合わないなら……投げるまで! うりゃあ!!」
助走の勢いそのままに、オレは大きく振りかぶって槍をバークライスさんに向かって投げる。
「間に合え!」
サディエルは一気距離をつめ、オレが投げた槍をギリギリ弾き落とす。
おしい、今のでバークライスさんを戦闘不能に出来たら最高だったけど、目的は果たした。
オレはすぐに近くに散らばっている武器から、手近なものを手に取って、次々と2人に向けて投げつける。
「サディエル、しばらく防いでくれ。その間に狙いを定める」
「了解です。くっそ、この為に武器を降らせたのかよ!」
投げる速度はまちまちだけど、サディエルは冷静にオレが投げた武器を1つづつ弾き落とす。
うん、それでいい。
「リレル!」
「えぇ!」
合図と共に、リレルは矢を放つ。
サディエルは槍を構え……目を大きく見開いた。
「……レックスさん!」
先ほどまでバークライスさんに狙いを定めていた矢の先は、アルムと対峙しているレックスさんに向けられていた。
同時に、サディエルの悲痛に近い叫びが響く。
レックスさんは、矢が自分に向かって来ていることに気づき、回避行動を取ろうとしたが、その瞬間をアルムは見逃さない。
「貰った!」
リレルの矢が左肩に。
アルムの剣が、右脇腹にそれぞれ突き刺さった。
レックスさんは悔しそうに膝をつく。
これで1人戦闘不能!
オレはすぐさま、地面に落ちている剣を握り、サディエルとバークライスさんに向けて走り出す。
「"衝撃よ!"」
バークライスさんはすかさず、オレに向けて魔術を放つ。
声が響くと同時に、オレは右へ大きく飛びのき、彼の魔術を回避する。
そこに、リレルが放った矢が飛来した。
「さすがに2度も食わない!」
サディエルが、リレルの矢を近くに落ちていた剣の側面で防ぐと同時に
「ぐあっ……!」
「え……バークライスさん!?」
別の矢が、バークライスさんに直撃していた。
サディエルが慌てて周囲を確認し……視線がアルムに向く。
そこには、剣を捨てて、近くに落ちていた弓を回収したアルムの姿。
「悪いなサディエル。いつまでも僕が、馬鹿正直に剣を使うわけがないし、わざわざこの距離を詰める為に移動するわけがないだろ」
リレルも弓から槍に持ち替え、オレと2人でサディエルを包囲する。
アルムは次の矢を構えながら、ゆっくりとこちらへ。
「瞬発力が低下し、判断力が鈍っている所を突かせて貰って申し訳ありませんが」
「オレらはそこぐらいしか、付け入る隙がなかったからね。ご希望通り、ちゃんとコンビネーションもしたし」
本来であれば『一番弱い場所から』削っていくのが定石だった。
見た目だけなら、オレらが真っ先に狙うべきはサディエルになる。
ただ、こちらとしてはその逆を突かないと、今の状況には持っていけなかった。
以前、アルムから聞いた中衛の役割。
前衛や後衛のフォローであり、状況が劣勢の場合は最も忙しい立ち位置だと。
どんな理由があって、サディエルが不調なのかは知らないけど、判断力が鈍って、いつもの俊敏性も削がれているからこそ、上手く彼を振り回せば、疑似的に2対1の状況を作り出せる。
そこをオレらは突いたというわけだ。
「サディエル、もう勝ち目はないと思う。降参してくれる?」
「………」
オレの問いかけを聞いて、サディエルは顔を伏せて大きくため息を吐く。
カラン……と槍を捨て……
「ッ!? リレル、ヒロト、構えろ!」
両手を上げるかと思ったその時、アルムの叫び声が響いた。
同時に、サディエルは捨てていなかった剣を利き手に持ち替える。
「サディエルは諦めてないぞ!」
アルムは矢を放ちながら、警告してくれた。
その矢を剣の側面で防ぐと、サディエルはそのままアルムへ向かって駆け出す。
「まずい! アルム!」
矢を構え直す暇はないと悟ったのか、アルムは剣を握り直して、初撃を受けた。
ギリギリと、2人の剣が摩擦し合う。
「……珍しいな、お前がそこまで "怒るの" は」
「当然だろ。自分の不甲斐なさに、怒っているんだよ!」
力任せにアルムの剣を弾き、そのまま追撃をかけようとする。
だけど、その後ろから追い付いたリレルの槍が迫った。
視界の隅で捉えたのだろうか、サディエルは体を捻って1度オレらから距離を取る。
3対1、絶好の大チャンス。
と、言いたかったんだけどな。
「悪いが3人とも、俺もちゃんと戦闘不能にしないと合格にしないぞ」
スッ、と目を細めながらサディエルはそう宣言する。
彼の雰囲気が、怖い。
恐らく、オレは初めて見るであろう、怒りに満ちた表情。
「それから、アルムにリレル。お前らには話していたはずだが、人の "トラウマ" をよくもぶち抜いてきたな。何故、俺から倒さなかった」
サディエルのトラウマ。
それは、この旅で断片的に聞いていた、アークさんと旅をしていた頃のこと。
詳細な経緯こそ聞かせて貰っていないけど、サディエルをかばった結果、アークさんが負傷。
一生残る後遺症と共に、冒険者を引退し、サディエルと道を違えることになった話。
己の未熟さと後悔を、彼はアルムとリレルにパーティを組む際、基本方針と共に話していた。
その際、2人にあるお願いをしていたそうだ。
―――あんな思いはもう二度とごめんだ。だけど、俺もまだまだ未熟で、絶対に守り切れると、約束も出来ない。
「覚悟の上だ、サディエル」
「えぇ。覚悟の上で、ヒロトの策に乗りました」
そう言いながら、2人は各々の武器を構え直す。
―――それでも、2人が倒れるようなことがあったら、俺には耐えられそうにないからさ。
「お前もそろそろ、自覚すべきだ。トラウマなのは承知だが、お前が本格的に "置いて行く側になろうと" しているのを、何で僕らが見て見ぬふりをしなきゃいけないんだ!」
「同感です。その性根の腐った自己犠牲根性、いい機会ですから叩き直して差し上げます」
―――まず、俺を犠牲にしてくれ。
この旅で、サディエルだけ怪我の頻度が高かった理由が、それだった。
前衛を張るのも、可能な限り2人に怪我を負って欲しくないから。
ガランドに痣をつけられた時も、妙に冷静だったのは……オレらが狙われないと分かっていたから。
「ヒロト。コンビネーションの試験はもうほぼ合格だ。下がっていろ」
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