オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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最終章 冒険者5~6か月目

103話 作戦と奇策

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「よし、サディエル。今のうちに日本語の勉強だ!」
「わかった、やるぞヒロト!」

 ……この状況で何言ってるんだアホコンビ。

 この場にいないアルムのツッコミが、脳内に響いた気がする。
 いや、結構真面目ですよ、オレたち。

 だから、脳内イメージのアルムとリレル、呆れ顔向けないでお願いします。

「とりあえず、先日まで教えた部分のおさらいで、ひらがなやカタカナで文書を書いてみて」
「全部の単語を上手く織り交ぜて書けばいいのか?」
「思い出せる順でいいよ。足りなかった分は覚えなおせばいいから」

 サディエルがメモに文字を書き込み始める。
 時折、視界が歪むのか何度か目を抑えているわけだが……ガランドの奴、こっちの情報を引き出そうとしているんだろうけど、そうはいかないからな。

「よし、ヒロト。添削よろしく」
「はーい」

 メモを受け取り、オレはそれに目を通す。

【もうきづいているとおもうけど、なんどかシカイがウバワレテいる。カイワもつつぬけなじょうたいだろう】

 相変わらず、ひらがなとカタカナだけは読みにくい、って愚痴っている場合じゃない。
 不定期にこっちの状況を探られている以上、何とかしてガランドに伝わらないように……と、色々考えた結果、筆談という手段を取ることにした。

 なんせ、オレの世界の言語は誰も知らない。
 分かるのは、ひらがなとカタカナをマスターしたサディエルと……ぎりぎりでカイン君だろう。

 最も、そのカイン君も日本語に触れず数千年の月日が経っている。
 今となっては、日本語を思い出すことすら難しいかもしれないわけだし。

「添削終了。指摘箇所を確認して、次、いってみよう」
「うへぇ、赤字の修正多すぎ……」

 表向きの会話をしながら、オレたちは筆談で相談を続ける。

【みたいだね。全く、ガランドの奴も厄介だよ。一応、漢字にはフリガナ振ってあるから、頑張って読んでね。それで……この後の動きなんだけど、本来行く予定だった移動地点に行くの?】
【いや、オソラクは、そのトチュウでマチカマエられているとオモう。だから、カノウナカギリ、ヒロくて、マチにすこしでもチカいバショにイドウしたい】

【街にってことは、救援の到着時刻を少しでも短縮する為?】
【そうだ。まちにチカづきつつ、アルムやリレルと、ゴウリュウをメザす。これがダイイチモクヒョウになる】

 頑張れオレ、目が滑るけど、これは大事な事なんだ。
 けど、これだけ叫ばせて。やっぱり、ひらがなとカタカナだけは読みづらい!

【第二目標は、盗賊達や死人、あいつらが飼い慣らしている魔物をどう対処するか】
【キョウはオオバンブルマイで、ゼンブミせてきたが……アスからは、ジュンバンにおそってくるカノウセイがたかい】

【こっちの体力をじわじわ削って、怪我をさせればめっけもんって感じか。陰湿なやり方だな……】
【だが、りにカナっている。おれがガランドのタチバで、ドウイツのセンリョクをツカえるのならば、そうするさ】

 サディエルの言葉はもっともだ。
 魔物、死人、盗賊の順番にこっちを攻撃して、最後に自分自身が手を下す。

 美味しい所の良いところ取りに見えるが、それも立派な作戦だ。

 問題は、そんな状態をどうやって覆すか。
 馬鹿正直に、追いかけて来た1部隊づつを順番に相手にしていてはキリがない。
 何よりもアルムやリレルと未合流な状態じゃ、どう控えめに言っても負け戦だ。

 ここで強い力に覚醒して、相手を一掃! さぁ、こいよガランド、決着をつけよう!……って、出来ればな。

【そこでだ。あっちがおれらのジョウホウをヌスミミしているのであれば、それをリヨウする】
【その為の筆談だもんね。アルムが言っていたよ、戦術を考える上で大切なのは、"戦力" "時間" "空間" のバランスだって。戦力が不足するならば、時間または地形で有利な状況を作り出す。時間が無ければ、戦力または地形によって足りない時間を補完する。足りない部分を何とかするんじゃなくて、他の2要素で補うのが重要だって】

【そして、おれたちにイマフソクしているのは、それらすべてだ。クウカンはあきらめる。ガランドもだが、あちらにはこのいったいのチリにクワシイとうぞくがいる。センリョクとジカンをカクホしよう】

 これが、この後のオレたちの立ち回りになるのか。
 戦力の部分は、当然ながらアルムやリレルとの合流になる。
 となれば、考えるべきは "時間" の部分だ。

 その時間を、今から確保するんだ。

【さて、ヒロト。トウゾクのシテンで、どうすればアワテルとおもう?】
【この雨の中、山中を移動すること。視界も悪くなるし、足も取られやすい、低体温症の危険もある。普通ならば、動かないし動けないはずだ。自殺行為だって分からないのか!? って感じで】

【そうだな。まずはそこをリヨウさせてもらおう】

 筆談をいったん止めて、サディエルは小さく笑う。
 まるで、とっておきのいらずらを思いついた子供の表情だ。

 さーてと、それじゃあ頑張って演技しますかね。

「ヒロト、どうだ? 合格点いけたか?」
「もーちょい漢字が欲しいけど、今のところはこれで良しかな。で、さ……そろそろ現実逃避をやめにしようか、サディエル」

「あっはは……そうだな、現実逃避はこの辺りにしよう。動くなら、雨が止む前が理想だな。いつ止むか分からないから、今のうちに移動準備を始めよう」
「こんな雨の中をオレらが移動するとは、さすがに思わないだろうし」

 荷物にメモなどをしまい込みながら、サディエルはいつも通りの口調で言う。
 オレも頷いて、荷物をしまい込むフリを続ける。

「ヒロト、ちょっとこれ持っててくれ」

 荷物整理をしていたサディエルが、1枚の紙と一緒に何かの箱を渡して来た。

「なにこれ」
「例の薬だよ。ほら、バークライスさんに調合して貰った」

 オレは紙を開いて内容を確認する。

【あいつらをおびきよせる、エサとして使う。ガランドのやつ、これのことをしっているはずだ】

 そういや、ガランドからの視界ジャックが始まったのは、入山前に立ち寄った街で、サディエルが走り込みに行ってくると言ったあたりだったな。
 ……その時、彼は薬の件を声に出してしまっている。
 当時は、会話まで盗聴されているとは思っていなかったから仕方ないわけだけど。
 
 蓋を開けると、入っている本数は "5本"……で、間違いないな。

 残りの1本に関しては、さすがに秘匿にしとかないとまずい。
 なんせこっちの切り札なんだし。

「これ、打つの?」
「どこで追い付かれて戦闘になるか、分からないからな。出発前に打つさ」

「……あんまり、効果時間が長くないんだから、無理しない方が」
「それも承知だよ。なーに、5本もあるんだ、合計で10時間ぐらいは持つはずだ。よし準備完了、あとは仮眠を取って体力温存を……っつ……よし、あいつの欲しい情報はこれで全部ってわけか」

 ようやく視界ジャックから解放されたのだろう。
 サディエルは肩の力を抜いて岩場にもたれ掛る。

「今の感じだと、やっぱり声も聞かれているのは確定っぽいね」
「だな。筆談の間はまばらだったけど、通常の会話に戻った途端にひどくなったからな……」

 必死に眼球マッサージをしている姿を見るに、相当負担掛かってるんだな、視界ジャック状態って。

「今の会話で、どこまで釣られてくれるかだな」
「薬の効果時間まで嘘ついて……」

「相手を騙すときは、9割の嘘に1割の真実を混ぜるか、9割の真実に1つの嘘を混ぜるかだ」

 そんな詐欺師みたいな言い方。
 だけど、今回ばかりは騙す相手が相手なわけだから、問題ないか。

「ヒロト、ここからが重要だ。あいつに聞かれていないうちに、こっちの作戦を詰めるぞ。いつも通り、お前の世界の "お決まり" 視点を使ってな」
「了解!」

 サディエルはオレから注射の入った箱を受け取り、荷物にしまい込む。
 オレは先ほど片付けたフリをしたメモ帳を改めて取り出して、ペンを握る。

「大前提として、ガランドが位置を把握出来るのはサディエルだけだよね。オレは対象外」
「視界を奪われたら流石にバレるが、そうなるな」

「あっちにオレたちが雨が降っているのに動く命知らずだ、と認識させたいなら、サディエルが少し動けばいいってわけか」

 メモに書き込みながら、地図を開く。
 この岩場の周辺を見ると、多少下り坂気味ではあるものの、平坦な場所であることが確認出来る。

「移動を開始したフリ、ってわけだな」
「うん。動き出せばガランドが気づいて、盗賊団のやつらに連絡する。あっちも動きたくはないけど、距離を取られたらまずいわけだから、動かざるおえない」

 ここまでやれば、こちらが本気で移動しようとしていることは伝わるだろう。
 時間との勝負になって、あっちは確実に焦る。
 だけど、雨の中では慎重にいかなければいけない以上、まず先陣を切ってくるのは……

「そうなると、ウルフ系の魔物か死人が来る、よね」
「恐らくは。まずはこいつらを、出来る限り最小限の消耗で何とかしないといけない」

「今日みたいに、凍らせるってのは?」
「凍らせた矢先に氷解される可能性が高いし、そのまま盗賊団も合流されたらきついな」

 となると、凍らせるだけじゃダメってわけか。
 凍らせることそのものは悪い案じゃない気がするから、もう1手間がいるのか。

 凍らせて終わるんじゃなくて、凍らせてそこから……

「氷解される前に、凍ったウルフと死人を手出しできない場所にぽいっ! っとやる!」
「例えば?」
「凍っているわけだから、坂道に移動させて滑り落ちてもらうとか」

 芝すべりみたいな要領で、ズザーっと滑り落ちてくれると助かるんだけどな。
 麻布みたいなのを地面に設置して、そこに乗った奴から順番に凍らせてから、2人で蹴り落とす?

 うーん、ちょっと非現実出来だな、流石に。
 途中で作戦がバレそう。

「……凍ったやつらが滑り落ちる、か」

 サディエルが地図を覗き込む。
 オレたちがいる位置を確認して、さらにその四方八方の地形を確認し……

「位置が良ければ、いけるかもしれないな」

「本当!?」
「地図のここ……この岩場から少し進んだ先、僅かに上り坂になっているんだが」

 少しだけ小高になっている場所を指さした。

「FPSの定石、高所を取れ!」
「でもって、高い位置から相手を凍らせる。雨上がりで、地面が濡れているわけだから?」
「氷塊がそのまま滑り落ちて、あっちに直撃する!」

 死人になってしまった冒険者さんたちには申し訳ないけどね……
 いや、今はそこを気にしていたらオレたちが危ないんだ。
 彼らの事は全部終わってから、改めてみんなと相談しよう。

「他の案も考慮はしないといけないが、まずはこれを軸にしよう。上手く行けば、次は盗賊団が来るわけだから……」
「ここでオレの所の "お決まり" 展開いくよ。ガランドの奴、確かサディエルに "間違っても顔に傷をつけるな" って言ったんだよね?」

 それを聞いて、サディエルの頬が引くつく。
 あまり思い出したくない分類らしい。いやまぁ、分かるけど。

「……そう……だな、うん、言っていたな」
「鳥肌立つだろうけど、頑張って。それで、こういう事を言うってことは……それを上手く使えば、盗賊団は何とか出来るかもしれない」
「どういうことだ?」

「こういう展開って、だいたいあっちが自滅してくれるってこと!」
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