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最終章 冒険者5~6か月目
104話 約束の為に
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「リレル、眠れたか」
「はい。アルム、交代しますので休んでください。ずっと、サディエルとヒロトが次に打つ手を考察していたのでしょう?」
5日目終了時点で、本来ならば全員で到着するはずだった日ごとの移動地点。
そこから少し離れた洞窟に、アルムとリレルは居た。
さすがに見晴らしの良い野営地は危険なのと、雨が降り始めたことも後押しとなった。
2時間ほどの仮眠を終えたリレルが、外を警戒していたアルムに声を掛ける。
「まぁな。あのサディエルとヒロトのコンビだ。流石の僕でも、突拍子のないことをされたら予想は出来ない」
「味方の意表を突くのはよして欲しいですよね。敵ならば、いくらでも構いませんが」
ため息ひとつ、2人のことを思い出してか呆れ顔をする。
「……とは言え、悪い事ばかりじゃない。戦いってモノを徹底的に突き詰めると、如何に集まり、如何に離散するかの繰り返しであることが見えてくる」
「戦いに必勝はありません。ですから、素早く散開して、素早く集まれる方が強いと言う事ですね」
「そうだ。そしてそれを実行するには、"コンビネーション" こそが重要だ。今でこそ分断されているが……側面もしくは背後から挟み込む、という手が取れる」
ばさりっ、と地図を広げてアルムは今日襲撃があった場所、自分たちの位置、ヒロトたちがいる可能性がある範囲にマークをつける。
彼が囲った範囲には、今まさにヒロトたちが居る岩山も含まれていた。
「僕らへの嫌味返しの為だけに、あんな集団を作り上げたわけだが……奴は1つ、致命的なミスを犯している」
「盗賊団の存在、ですよね。彼らは利害の一致と申していましたが、その実は死人になった方々と同じ末路になることを恐怖した側面もあるはずです」
「断れば、次にあぁなるのは自分たちだからな。さっさとトンズラしたいはずだ」
ガランド側にも全く弱点が無いわけじゃない。
となれば、最も消耗を少なく4対1に持ち込むには、とアルムは思案する。
「僕らが突くべきはそこだ。幸いにも、あいつらはサディエルにしか目を向けていない。ヒロトの存在も、脅すための人質に出来るってぐらいだ」
「となりますと、こちらはどう動きますか?」
「どんな素っ頓狂な作戦を立案したとしても、サディエルの奴はヒロトを一旦 "逃がす" はずだ。そこで合流して、ヒロトから貰う情報を元に、それに対応した戦術に切り替えつつ、ガランドとの決着をつける」
========================
「ぜぇぇったいに、反対! 大反対!」
これからの作戦をあれこれサディエルと話し合っていたわけだが、ある1か所でオレは思わず声を荒げた。
「何でそのタイミングで、オレが1人で逃げなきゃならないんだよ!」
「落ち着けヒロト、まずは深呼吸。ほら、吸って―、吐いて―、吸ってー、吐いてー」
「……そう言うのは良いから。そんなことよりも、オレが納得できる理由が無ければ、絶対にテコでもサディエルから離れないから!」
ガランドたちへの対抗策を順調に話していた、それは間違いない。
だけど、その途中で急にサディエルが、一旦逃げろと宣言してきたのだ。
冗談じゃない!
「確かに上手く行けば、その時点で最高だとガランドだけ、最低でも盗賊団が少しの状態になっているとは言え、危なすぎるよ!」
「危ないのは承知だ。だけど、そこまで来たら、あちらも本格的にヒロトを捕まえて人質にしてくる可能性が高い」
途中までは圧倒的優位だと思っていたのに、オレら2人にコテンパンにされれば、あっちだって焦る。
ガランドは捨て石程度にしか思ってないだろうから微妙だけど、盗賊団の方は間違いなく想定していた状況と違う! となって、判断が鈍るはずだ。
そうなると、オレをターゲットにしてくる可能性はより高くなる……ってのは分かるよ。
「分かるけど、サディエル1人は無謀だよ!」
「ヒロトを人質に取られる方がもっとまずい。それなら、ヒロトには近くまで来ているはずのアルムやリレルと合流して、その時点での情報を伝達して欲しいんだ。アルムの方も、きっと同じ考えでいるはずだ」
「何で、分かるんだよ」
「あいつとは出会った頃から、戦術論をあーだこーだと交わしたからな。癖ぐらいわかる」
サディエルの言葉を聞いて、以前リレルから聞いた話を思い出す。
『はい。出会った頃のアルムとサディエルも、こうやって毎晩のようにあーだこーだと戦術論を繰り広げていたんです』
『そうだったんだ……』
『……喧嘩しすぎてマジになった時に、リレルが鉄拳を喰らわせてきた事、忘れてないからな』
『さぁ、そんなことありましたっけ?』
最近はオレがアルムから戦術論を学んでいたから見る機会がなかったけど、元々はアルムとサディエルが、あれこれ論戦を繰り広げていたんだった。
それならば、全ては予想出来なくても、確実にこれだけは認識が一致している、と言う部分はわかるのか。
「コンビネーションの座学の時も話したが、アルムとリレルは、俺らの具体的な位置も状況も把握出来ない。その情報をいかに素早く伝達するかも重要だ」
「……それを、オレが?」
「そうだ。それに、ヒロトが移動するってだけでも結構有利なんだ。お前が移動するってことは、ガランド側からしたらアルムやリレルの合流と言う危険と奇襲を想定して、恐怖心を煽る効果が出てくる」
オレが意味なくサディエルを置いて逃げるわけがない。
となれば、考えられるのはアルムたちとの合流。
姿が見え無くなれば、ガランドとしても、どこから攻撃が来るかを常に警戒し続けなければならない。
その警戒こそが、あちらの隙を作り……対してこちらは、もうすぐ全員合流出来るという安心感を得られるってことになる、んだよな。
離れる時間は、ほんの数分間~10分よりちょっと長いぐらいになるはずだし、サディエルの力量を考えれば十分間に合う。
分かってる、頭ではちゃんとわかっているんだ……!
「ヒロト。お前を信じていなければ、こんな提案をしないんだよ」
サディエルの言葉を聞いて、オレは顔を上げる。
「いいか。ここでハッキリ宣言させてもらう。俺らの最終目的である『ヒロトを無事に元の世界に戻すこと』『その目標達成において、俺らの生死は問わない』……これの後者を "撤回" する」
後者を、撤回。
つまり……サディエルたちの生死は問わないの部分を……
「本当!?」
「あぁ。アルムやリレルとも相談して決めていたんだ。アークにセコンドを頼みに行った時、その項目をいい加減除外しろ! って言いあってたんだってな。矛盾した目標を持っていたら、一致団結も出来ない、だっけ?」
こんな状況だけど、オレは彼に期待のまなざしを向けてしまう。
そしてサディエルも、笑顔で頷いた。
「ヒロトのお願いだからな。ちゃんと全員で見送るって約束は果たさないと。だから、その為の最善手だ」
「……サディエル、ずるい。そんな纏め方されたら、ずるい」
オレは深呼吸して、しっかりとサディエルを見る。
やらなきゃいけないことは決まった、あとは状況に応じて細かく修正しながら戦うだけ。
大丈夫、その細かい修正に対する案も、一通り出し切ったはずだ。
それでも対応しきれなかったとしても、その時にはアルムやリレルも近くにいる。
やるんだ。ここで、ガランドと決着をつける!
「大急ぎで戻って来るから。ついでに奇襲の1発でも当てて、あいつをひるませてやる!」
「その意気だ。さて、そろそろ仮眠を取ろう。雨はまだ止む気配が無いからな。天候が戻りそうになったら、ガランドの奴から接触があるはずだ」
トントンと、自身の目を指さす。
視界ジャックでわざわざ起こしてくれるってわけか、ありがたいことで。
「了解。ちゃんと起こしてくれよ」
「はいはい。流石の俺でも、今回ばかりはそんなことはしないさ」
だから、さっさと寝ろ。と、毛布を渡してきた。
ありがたく受け取って、オレは毛布に包まる。
冷えていた体がゆっくりと温まると共に瞼が重くなり……オレはそのまま夢の世界へと旅立った。
―――それから、数時間後
「ヒロト、そろそろ起きろ」
「ん……サディエル? 時間は?」
軽く肩をゆすられて、目を覚ます。
目を擦りながら、周囲を確認すると……まだ僅かに薄暗い。
「朝5時だ。あと1時間ほどで周囲も明るくなってくるが、その前に……」
彼は視線を周囲に向ける。
オレも同じように視線を向けると、雨の勢いが少しだけ弱まっているのが見て取れた。
「……もう少しで止みそう?」
「恐らくな。今のうちに、水分補給と糖分を摂取しとけ。俺の方はエサを仕掛ける」
サディエルは荷物から、例の箱を取り出す。
5本の注射器のうち1本を取り出してキャップを外しながら、袖を上げる。
薬品が入った瓶も開けて、必要量を注射器へ移す。もうこれだけで、見ているこっちは引きそうになよ……
そのまま、刺す先を確認して対象部位を軽く消毒をすると、サディエルは針を自身の腕に深々と突き立て、中にある薬品を注入した。
「……やっぱり、筋肉注射は痛い」
「自分で注射とか凄いね……オレはやりたくない」
「俺も嫌だよ。だけど、リレルの奴がさ……自分が動けない時の為に、って……アルムと注射の刺しあいやってさ。互いにへたくそだから、青あざを大量に作る羽目になった」
「どこの新米医師や看護師の訓練!?」
注射を引き抜き、止血をする為に布を当てると同時に、サディエルの視線は不自然に空中に向く。
……と言う事は、ガランドからの視界ジャックか。
さて、少しだけ言葉選びを慎重にっと……
「薬を使ったはいいけど、効果はどれぐらいで出るの?」
「ざっと30分~40分かな、すぐには効いてこない」
「そっか。それまでに雨が完全に止まないといいんだけどね」
「こればっかりは、自然様の気分次第だな…………いいぞ、ヒロト」
合図を受けて、オレは安堵のため息を吐く。
「にしても、こんなに都合のいい情報をポンポン流して大丈夫?」
「なーに、仮にこっちがワザと流していると気づいていたとしても問題ないさ。今から動けば、どこまでが嘘か本当かで、あっちは判断を迫られる」
各々の荷物を持ちながら、オレたちは立ち上がる。
雨避けシートを頭にかぶせながら、目星のつけていた場所へ。
さーて、勝負だガランド。
オレたちが絶対に勝つ!!
「はい。アルム、交代しますので休んでください。ずっと、サディエルとヒロトが次に打つ手を考察していたのでしょう?」
5日目終了時点で、本来ならば全員で到着するはずだった日ごとの移動地点。
そこから少し離れた洞窟に、アルムとリレルは居た。
さすがに見晴らしの良い野営地は危険なのと、雨が降り始めたことも後押しとなった。
2時間ほどの仮眠を終えたリレルが、外を警戒していたアルムに声を掛ける。
「まぁな。あのサディエルとヒロトのコンビだ。流石の僕でも、突拍子のないことをされたら予想は出来ない」
「味方の意表を突くのはよして欲しいですよね。敵ならば、いくらでも構いませんが」
ため息ひとつ、2人のことを思い出してか呆れ顔をする。
「……とは言え、悪い事ばかりじゃない。戦いってモノを徹底的に突き詰めると、如何に集まり、如何に離散するかの繰り返しであることが見えてくる」
「戦いに必勝はありません。ですから、素早く散開して、素早く集まれる方が強いと言う事ですね」
「そうだ。そしてそれを実行するには、"コンビネーション" こそが重要だ。今でこそ分断されているが……側面もしくは背後から挟み込む、という手が取れる」
ばさりっ、と地図を広げてアルムは今日襲撃があった場所、自分たちの位置、ヒロトたちがいる可能性がある範囲にマークをつける。
彼が囲った範囲には、今まさにヒロトたちが居る岩山も含まれていた。
「僕らへの嫌味返しの為だけに、あんな集団を作り上げたわけだが……奴は1つ、致命的なミスを犯している」
「盗賊団の存在、ですよね。彼らは利害の一致と申していましたが、その実は死人になった方々と同じ末路になることを恐怖した側面もあるはずです」
「断れば、次にあぁなるのは自分たちだからな。さっさとトンズラしたいはずだ」
ガランド側にも全く弱点が無いわけじゃない。
となれば、最も消耗を少なく4対1に持ち込むには、とアルムは思案する。
「僕らが突くべきはそこだ。幸いにも、あいつらはサディエルにしか目を向けていない。ヒロトの存在も、脅すための人質に出来るってぐらいだ」
「となりますと、こちらはどう動きますか?」
「どんな素っ頓狂な作戦を立案したとしても、サディエルの奴はヒロトを一旦 "逃がす" はずだ。そこで合流して、ヒロトから貰う情報を元に、それに対応した戦術に切り替えつつ、ガランドとの決着をつける」
========================
「ぜぇぇったいに、反対! 大反対!」
これからの作戦をあれこれサディエルと話し合っていたわけだが、ある1か所でオレは思わず声を荒げた。
「何でそのタイミングで、オレが1人で逃げなきゃならないんだよ!」
「落ち着けヒロト、まずは深呼吸。ほら、吸って―、吐いて―、吸ってー、吐いてー」
「……そう言うのは良いから。そんなことよりも、オレが納得できる理由が無ければ、絶対にテコでもサディエルから離れないから!」
ガランドたちへの対抗策を順調に話していた、それは間違いない。
だけど、その途中で急にサディエルが、一旦逃げろと宣言してきたのだ。
冗談じゃない!
「確かに上手く行けば、その時点で最高だとガランドだけ、最低でも盗賊団が少しの状態になっているとは言え、危なすぎるよ!」
「危ないのは承知だ。だけど、そこまで来たら、あちらも本格的にヒロトを捕まえて人質にしてくる可能性が高い」
途中までは圧倒的優位だと思っていたのに、オレら2人にコテンパンにされれば、あっちだって焦る。
ガランドは捨て石程度にしか思ってないだろうから微妙だけど、盗賊団の方は間違いなく想定していた状況と違う! となって、判断が鈍るはずだ。
そうなると、オレをターゲットにしてくる可能性はより高くなる……ってのは分かるよ。
「分かるけど、サディエル1人は無謀だよ!」
「ヒロトを人質に取られる方がもっとまずい。それなら、ヒロトには近くまで来ているはずのアルムやリレルと合流して、その時点での情報を伝達して欲しいんだ。アルムの方も、きっと同じ考えでいるはずだ」
「何で、分かるんだよ」
「あいつとは出会った頃から、戦術論をあーだこーだと交わしたからな。癖ぐらいわかる」
サディエルの言葉を聞いて、以前リレルから聞いた話を思い出す。
『はい。出会った頃のアルムとサディエルも、こうやって毎晩のようにあーだこーだと戦術論を繰り広げていたんです』
『そうだったんだ……』
『……喧嘩しすぎてマジになった時に、リレルが鉄拳を喰らわせてきた事、忘れてないからな』
『さぁ、そんなことありましたっけ?』
最近はオレがアルムから戦術論を学んでいたから見る機会がなかったけど、元々はアルムとサディエルが、あれこれ論戦を繰り広げていたんだった。
それならば、全ては予想出来なくても、確実にこれだけは認識が一致している、と言う部分はわかるのか。
「コンビネーションの座学の時も話したが、アルムとリレルは、俺らの具体的な位置も状況も把握出来ない。その情報をいかに素早く伝達するかも重要だ」
「……それを、オレが?」
「そうだ。それに、ヒロトが移動するってだけでも結構有利なんだ。お前が移動するってことは、ガランド側からしたらアルムやリレルの合流と言う危険と奇襲を想定して、恐怖心を煽る効果が出てくる」
オレが意味なくサディエルを置いて逃げるわけがない。
となれば、考えられるのはアルムたちとの合流。
姿が見え無くなれば、ガランドとしても、どこから攻撃が来るかを常に警戒し続けなければならない。
その警戒こそが、あちらの隙を作り……対してこちらは、もうすぐ全員合流出来るという安心感を得られるってことになる、んだよな。
離れる時間は、ほんの数分間~10分よりちょっと長いぐらいになるはずだし、サディエルの力量を考えれば十分間に合う。
分かってる、頭ではちゃんとわかっているんだ……!
「ヒロト。お前を信じていなければ、こんな提案をしないんだよ」
サディエルの言葉を聞いて、オレは顔を上げる。
「いいか。ここでハッキリ宣言させてもらう。俺らの最終目的である『ヒロトを無事に元の世界に戻すこと』『その目標達成において、俺らの生死は問わない』……これの後者を "撤回" する」
後者を、撤回。
つまり……サディエルたちの生死は問わないの部分を……
「本当!?」
「あぁ。アルムやリレルとも相談して決めていたんだ。アークにセコンドを頼みに行った時、その項目をいい加減除外しろ! って言いあってたんだってな。矛盾した目標を持っていたら、一致団結も出来ない、だっけ?」
こんな状況だけど、オレは彼に期待のまなざしを向けてしまう。
そしてサディエルも、笑顔で頷いた。
「ヒロトのお願いだからな。ちゃんと全員で見送るって約束は果たさないと。だから、その為の最善手だ」
「……サディエル、ずるい。そんな纏め方されたら、ずるい」
オレは深呼吸して、しっかりとサディエルを見る。
やらなきゃいけないことは決まった、あとは状況に応じて細かく修正しながら戦うだけ。
大丈夫、その細かい修正に対する案も、一通り出し切ったはずだ。
それでも対応しきれなかったとしても、その時にはアルムやリレルも近くにいる。
やるんだ。ここで、ガランドと決着をつける!
「大急ぎで戻って来るから。ついでに奇襲の1発でも当てて、あいつをひるませてやる!」
「その意気だ。さて、そろそろ仮眠を取ろう。雨はまだ止む気配が無いからな。天候が戻りそうになったら、ガランドの奴から接触があるはずだ」
トントンと、自身の目を指さす。
視界ジャックでわざわざ起こしてくれるってわけか、ありがたいことで。
「了解。ちゃんと起こしてくれよ」
「はいはい。流石の俺でも、今回ばかりはそんなことはしないさ」
だから、さっさと寝ろ。と、毛布を渡してきた。
ありがたく受け取って、オレは毛布に包まる。
冷えていた体がゆっくりと温まると共に瞼が重くなり……オレはそのまま夢の世界へと旅立った。
―――それから、数時間後
「ヒロト、そろそろ起きろ」
「ん……サディエル? 時間は?」
軽く肩をゆすられて、目を覚ます。
目を擦りながら、周囲を確認すると……まだ僅かに薄暗い。
「朝5時だ。あと1時間ほどで周囲も明るくなってくるが、その前に……」
彼は視線を周囲に向ける。
オレも同じように視線を向けると、雨の勢いが少しだけ弱まっているのが見て取れた。
「……もう少しで止みそう?」
「恐らくな。今のうちに、水分補給と糖分を摂取しとけ。俺の方はエサを仕掛ける」
サディエルは荷物から、例の箱を取り出す。
5本の注射器のうち1本を取り出してキャップを外しながら、袖を上げる。
薬品が入った瓶も開けて、必要量を注射器へ移す。もうこれだけで、見ているこっちは引きそうになよ……
そのまま、刺す先を確認して対象部位を軽く消毒をすると、サディエルは針を自身の腕に深々と突き立て、中にある薬品を注入した。
「……やっぱり、筋肉注射は痛い」
「自分で注射とか凄いね……オレはやりたくない」
「俺も嫌だよ。だけど、リレルの奴がさ……自分が動けない時の為に、って……アルムと注射の刺しあいやってさ。互いにへたくそだから、青あざを大量に作る羽目になった」
「どこの新米医師や看護師の訓練!?」
注射を引き抜き、止血をする為に布を当てると同時に、サディエルの視線は不自然に空中に向く。
……と言う事は、ガランドからの視界ジャックか。
さて、少しだけ言葉選びを慎重にっと……
「薬を使ったはいいけど、効果はどれぐらいで出るの?」
「ざっと30分~40分かな、すぐには効いてこない」
「そっか。それまでに雨が完全に止まないといいんだけどね」
「こればっかりは、自然様の気分次第だな…………いいぞ、ヒロト」
合図を受けて、オレは安堵のため息を吐く。
「にしても、こんなに都合のいい情報をポンポン流して大丈夫?」
「なーに、仮にこっちがワザと流していると気づいていたとしても問題ないさ。今から動けば、どこまでが嘘か本当かで、あっちは判断を迫られる」
各々の荷物を持ちながら、オレたちは立ち上がる。
雨避けシートを頭にかぶせながら、目星のつけていた場所へ。
さーて、勝負だガランド。
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