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最終章 冒険者5~6か月目
106話 最終決戦【2】
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「ガキを逃がすとは、殊勝な心掛けだな」
サディエルの周囲を部下たちに包囲させながら、フェアツヴァイ盗賊団のリーダーは言う。
「……殊勝? そんなわけないだろ。俺が暴れる光景を見せない為だよ」
スッ、と目を細められる。
ヒロトも、アルムも、リレルも見たことないような、凍てつくように無表情で冷徹な表情。
唯一知っているであろう、彼の幼馴染にして元旅仲間のアークシェイドがそれを目撃したら、大慌てで彼の首根っこをひっ捕まえて、撤退を考えるぐらいのものだ。
怒らせたらいけない奴が怒った時が、一番まずい、と。
「ガランドの奴より、俺の方が怖いってことを思い知らせてやるさ」
素早く周囲を確認し、最も手薄な部分に向けてサディエルは走り出す。
向かった方向に居た盗賊の1人が、槍を構えて迎撃を取ろうとした。
しかし、相手の槍を最小限の動きで躱した後、相手の真横を通り過ぎ……一閃。
剣の向きは斜め右下、撫で上げるように振り、相手の脛を斬り付けるとそのまま次を目指す。
切られた部分を理解した盗賊団の1人が、悲鳴とうめき声をあげて地面に倒れる。
"切り殺されてはいない"
その意味を、この段階で理解する者がいたならば、この後の展開も変わっていただろう。
(さーて、剣1本で何人を行動不能に出来るやら。骨を切らずにってのが結構面倒なんだよな)
風の魔術を自身の足に纏わせ、次の得物との距離を一気に詰める。
先ほどと同じように、すれ違いざまに一閃、相手の脛から膝にかけてを斬り付けて、次に向かう。
(ガランドとの戦闘を見据えて、出来れば2本は残しておきたいわけだが……頃合いを見て、あちらのリーダーに気づかせるしかないか)
次々と斬り伏せていくサディエルに対して、盗賊団のリーダーは部下たちに指示を飛ばす。
「ちょこまかとすばしっこい! 弓を持て! 殺さなければいい、アイツの足を狙え」
「ダメです、上手い具合にこっちの味方を盾にしてます!」
「ちっ、だったらあまり離れず2人から3人で固まるようにしろ!」
盗賊団のリーダーの指示に従い、盗賊たちは2~3人で固まり彼を迎え撃つ体勢を取った。
それを確認して、サディエルは立ち止まり、盗賊団のリーダーに視線を向ける。
「この状況を崩すのはさすがにキツイか。ところで、フェアツヴァイ盗賊団のリーダーさん。お前たちの仲間、この周囲に結構バラバラに倒れているよな?」
ここまですれ違うたびに、脛や膝を斬り付け地面に倒れ伏せている盗賊たちが合計で7人。
それを確認してから、サディエルは盗賊団のリーダーにそう問いかける。
「動けなくなったこいつらに対して、俺には色々な選択肢がある。スケルトンの集団の対処法みたいに、空中散歩からの自由落下するもよし。ニードルフィッシュのように黒焦げになるも良し。オーガは……あぁ、この後は心臓を一突きか」
彼の言葉を聞いて、盗賊団のリーダーはここまでの行動の意図を理解した。
彼らにだって仲間意識はある。
仲間を無残にも切り殺されていたならば、彼らの敵討ちとしてサディエルに全力で挑んでいただろう。
これはある意味、必然といっていい感情だ。
誰だって、大切な誰かを目の前で殺されれば、復讐心というモノが芽生えてくる。
だが、サディエルは敢えてそれをしなかった。
不殺なんて考えは一切ない。あるのは……いかに効率よく、この場全員に "恐怖" を与えるか。
サディエルが挙げた、倒れている7人の盗賊達の『末路』を聞いて、仲間たちが一瞬しり込みする。
即死ではなく、さらなる苦痛が与えられる未来に、恐怖したからだ。
それは倒れている7人も同様であり、より明確なビジョンとなって描かれた末路に顔色を悪くする。
「た、助けてくれ! 誰か……!」
「助けるならご自由に。今の人数なら、3人か4人は助けられるんじゃないか?」
「……てめぇ、性格悪いぞ」
「そりゃどうも。俺だけを素直に狙っていりゃ、ここまでのことはやらなかったよ」
彼の脳裏に、死人になった人々が蘇る。
ヒロトたちの言葉通りならば、自分たちの進路妨害、もしくは疲弊させる為だけにあのような結末を辿った、面識はなくても同じ冒険者としての同僚。
もしかしたら、いつかの未来に仲良く酒を飲み交わしていたかもしれない。
もしかしたら、意見が対立して犬猿の仲になっていたかもしれない。
もしかしたら、大事件に巻き込まれて運命共同体のように協力して強敵と戦っていたかもしれない。
もしかしたら、もしかしたらと、本来ありえたかもしれない出会いが潰れたのだ。
彼にとって、その事実は許しがたいこと。
フェアツヴァイ盗賊団は、早々にサディエルの地雷を全力で踏み抜いていた、それが今回の敗因だった。
「冒険者ってーのは、"縁" を最も大切にしなけりゃいけない職業だ。"縁" に助けられ、救われ、貰った分をまた別の誰かに繋いでいく。他の職業でも大事ではあるが、生きるか死ぬかが大きく関わる俺らにとっては、地位や名誉よりも重要な要素だ」
ヒロトは常日頃、サディエルたちの旅は思っていたよりも安全だ、しっかりしている。
そう感心しながら言っていた。
それは間違ってはいないだろう。
だが、正しくもない。
より正確な情報を、安全だと言う話題を入手するのはギルドへ行くだけではダメなのだ。
ギルドでも把握しきれていない、小さなヒントを得るには、その場にたむろしている同業者や街の人々からの何気ない情報が必要不可欠だ。
ヒロトの言葉で例えるならば『RPGをプレイ中に、街中にいる特定の住人に話しかけないと、物語の進行フラグが立たない』と同義である。
見ず知らずであろうとも、冒険者たちの仲間意識は強い。
それは、互いが持つ情報を的確に共有して、命を守り合っているから。
自分が誰かに伝えた情報が、様々なパーティを経由して伝わり、どこかの見知らぬ誰かを救う事は日常茶飯事。
見えないながらも通じる "縁" の大切さを正しく理解しているからこそ、サディエルは許せないのだ。
(これは俺のエゴ。その先にある、アルムやリレル、ヒロトの安全の為でしかないんだ)
会ったこともない誰かの為、とたいそうな正義面したヒーローの言葉に聞こえる。
人によっては、"お人よし" って揶揄することだろうが……
「それを潰したお前らを、俺は許さない。直接手を下したのはガランドだろうが、お前らだって同罪だ」
「はっ! 反吐が出るほど善人で正義感ぶった理由だな。そう言う奴が一番嫌いだ」
「その点だけは気が合うな。俺も大嫌いだよ、お前らみたいな連中は」
サディエルは自分に最も近い、負傷した盗賊の足を凍らせる。
氷はじわり、じわりと盗賊の体を凍らせていく。
「ひぃ……!? た、助けてくれ!! 殺される……!」
進行速度こそ遅いものの、恐怖心を煽るには十分だった。
ゆっくりと凍り始める盗賊をちらりと見た後、サディエルは改めて怪我をしていない盗賊団を見る。
「早く解凍すれば、窒息前に助かるんじゃないか?」
「そうはさせるか! お前ら援護しろ!」
剣を構えて盗賊団のリーダーが一直線にサディエルに向かって走る。
矢を向けられたのを確認したサディエルが、盗賊団のリーダーの真後ろに氷の壁を形成し、全てを弾いた。
それに気付かず、盗賊団のリーダーは剣を振るう。
一歩右足を軸に僅かに下がって初撃を回避すると、そのままこちらも剣で相手の首を狙う。
躊躇なく狙われた急所に驚きつつも、盗賊団のリーダーは剣を縦に構えてサディエルの剣撃を受け止める。
すぐさま隠し持っていたナイフを素早く突き出し……サディエルの左頬に赤い線を一筋作った。
「舐めるなよ兄ちゃん。このまま、お前の首を軽く切って動けなく……」
『誰がそんな事を許すと思っているんだ』
全員の脳内に響く声。
それを聞いて、盗賊団たちは青ざめる。
『ねぇ、何やってるの?』
ぐにゃりと空間が歪む。
サディエルと盗賊団のリーダーがいる場所から少し離れた、他の盗賊たちとの中間の位置に彼は出現した。
「……サディエルは殺すな、と言ったよね?」
「ガ、ガランドさん……!? こ、殺してない! 殺していないだろ!? ほら!」
「あぁ、そっちの意味で言ってるの? 違うよ、そう意味じゃない。"彼らしさ" を殺すなと言っているんだ」
そう言うと、ガランドは氷で阻まれてサディエルたちに近づけなかった盗賊たちの所へ行き……そのうちの1人の胸を躊躇なく貫いた。
「ガッ……あ……? え?」
血を口から吐き出し、何が起こったのか分からないと言わんばかりに目を見開かれた。
勢いそのままに引き抜かれ、今しがた胸を貫かれた盗賊は倒れ、そのまま事切れる。
「ボクはね、彼の顔が欲しいんだ。くだらない位に偽善者でありながら、どす黒いと表現してもいい程現実を見つつ、その上で仲間を見捨てるのを拒む。彼らしくもあり、人間を騙し続けるには最高だからね。それを傷つけて……どういう了見なんだい」
「お前にちょっとでも褒めらるなんて、気持ち悪いを通り越して、眩暈がするんだが」
「存分に貶しているつもりなんだけどね」
ゆっくりと距離を取ろうとしているサディエルを睨みながら、ガランドはそう言った。
その顔は、カインのものから歪み始めており、本来の "顔の無い" 状態に近づきつつある。
「そんなわけで……さっさと動かなかった件と良い、お前らはもういらない」
「やめっ……やめてくださいガランドさん! こいつを、こいつを捕まえ……」
「死になよ」
大量の魔弾が出現し、一斉に降り注ぐ。
盗賊団のリーダーは慌てて氷壁まで行き、仲間たちの名を叫び続ける。
(ヒロトの言った通りになるなんてな……)
それを眺めながらも、サディエルは必死に次の展開を想定して準備を始めた。
半信半疑ではあったものの、ヒロトから聞かされていた可能性の通りになり、冷や汗をかく。
(となると、俺の本番はここから。剣は……大丈夫、2本は残せた。薬も大丈夫……あとは、皆の合流まで粘るだけだ)
ふと、視線を涙を流しながら叫び続ける盗賊団のリーダーに向ける。
少したりとも同情する気はない。
あちらもやってはいけない事をやった以上、どこかで必ずしっぺ返しが来る。それが思ったよりも早かっただけの事。
(……悪いな。ヒロトの世界にある物語の "本当のお人よしな主人公" とやらならば、助けたんだろうけど。俺はそこまでじゃないんだ、こっちもお前に "同業者" を殺されたからな)
「うるさいなぁ……」
全ての部下が殺された。
そう認識した瞬間、盗賊団のリーダーはがくりと膝から崩れ落ちる。
同時に、ガランドが彼の前に立つ。
「さっきから耳障りだったんだよ、汚い悲鳴でさ」
「貴様……きっさまあああああああああ!!」
「だから、うるさいって言っているだろ」
がっ、と盗賊団のリーダーの首を鷲摑む。
息苦しいのか、持ち上げられた彼は足をばたつかせて必死に口を開閉する。
「この役立たず」
鈍い、嫌な音が響いた。
一瞬だけ盗賊団のリーダーの足が、ピンとなったが……すぐに力が抜けてだらんとぶら下がる。
動かなくなったソレから興味がなくなったのか、無造作に放り投げた後、ガランドはサディエルを見た。
「おまたせ、サディエル。ダメじゃないか、怪我なんてしちゃ……言っただろ? 間違っても "顔" に傷をつけるなって」
この場にヒロトがいたら、確実に『何だ、このDV直後のハネムーン期みたいな猫かわいがりな態度……』とぼやいていただろう。
気味の悪さだけはしっかり感じ取ったサディエルは、一歩下がる。
「それに、"孤独を恐れな" ってわざわざ忠告してあげたのに……仲間とお別れしたくなかったのかな? いや、君のことだから無残に殺される自分を見せたくなかった、とか」
「違うだろ。俺からあいつらを引き離しにくくしながら、いざこうなった場合に焦りを生ませる為の誘導だろ」
「へぇ……?」
にやり、とガランドは微笑む。
「お前からしたら、どっちでも良かった。結果は変わりないからな」
「あっはははは! 分かっているじゃないか! 君を食らった後も仲良くできそうで良かったよ、サディエル」
パチン、と指が鳴らされる。
それと同時に、サディエルの体から力が抜け、立っていられなくなった彼は地面に座り込む。
「急に力が……痣の影響!?」
「そこまでわかっているなら、もう説明はいらないよね。せめてもの情けで、仲間に君が食われる瞬間を見せないであげるよ。冷たくなった君との感動の再会シーンは鑑賞させて貰うけどね!」
「冗談じゃない……!」
腰にある袋から、1つの箱を取り出す。
それを開けようとした時、バキン! と破壊音が響いた。
「……なっ!?」
「追加の薬を接種する暇は与えないよ。もうこれで薬は残っていない、そうだろ?」
慌てて箱を開けると、そこには破壊された注射と、原液がこぼれて使い物にならなくなった瓶が姿を現した。
(これで "4本" が使用不可か。まいったな、本当に全部当たっている……)
サディエルはすぐに思考を切り替え、信号弾を構えて地面に向かって放った。
濃い煙が周囲に充満し、サディエルとガランド、両者の姿を隠す。
『あの古代遺跡の時のように、ボクがタブーを冒すとでも?』
「そうしてくれるとありがたいんだけどな!」
そう言いながら、サディエルは袋のさらに奥に隠していた、小さく頑丈な箱を取り出す。
箱を開けると、1本だけ残っていた注射が姿を現す。
(この為に準備して貰ったとは言え、本当に使うことになるなんてな……あとでリレルに怒られるな)
素早くキャップを外して、左腕の袖をまくり上げ躊躇なく刺し、中にある薬品を注入した。
そのまま注射を引き抜き、止血もせずに袖を元に戻す。
深呼吸1つ。
サディエルはゆっくりと立ち上がったその時、強風が吹き荒れて煙が全て吹き飛ばされた。
「かくれんぼはおしまいだよ、サディエル」
サディエルの周囲を部下たちに包囲させながら、フェアツヴァイ盗賊団のリーダーは言う。
「……殊勝? そんなわけないだろ。俺が暴れる光景を見せない為だよ」
スッ、と目を細められる。
ヒロトも、アルムも、リレルも見たことないような、凍てつくように無表情で冷徹な表情。
唯一知っているであろう、彼の幼馴染にして元旅仲間のアークシェイドがそれを目撃したら、大慌てで彼の首根っこをひっ捕まえて、撤退を考えるぐらいのものだ。
怒らせたらいけない奴が怒った時が、一番まずい、と。
「ガランドの奴より、俺の方が怖いってことを思い知らせてやるさ」
素早く周囲を確認し、最も手薄な部分に向けてサディエルは走り出す。
向かった方向に居た盗賊の1人が、槍を構えて迎撃を取ろうとした。
しかし、相手の槍を最小限の動きで躱した後、相手の真横を通り過ぎ……一閃。
剣の向きは斜め右下、撫で上げるように振り、相手の脛を斬り付けるとそのまま次を目指す。
切られた部分を理解した盗賊団の1人が、悲鳴とうめき声をあげて地面に倒れる。
"切り殺されてはいない"
その意味を、この段階で理解する者がいたならば、この後の展開も変わっていただろう。
(さーて、剣1本で何人を行動不能に出来るやら。骨を切らずにってのが結構面倒なんだよな)
風の魔術を自身の足に纏わせ、次の得物との距離を一気に詰める。
先ほどと同じように、すれ違いざまに一閃、相手の脛から膝にかけてを斬り付けて、次に向かう。
(ガランドとの戦闘を見据えて、出来れば2本は残しておきたいわけだが……頃合いを見て、あちらのリーダーに気づかせるしかないか)
次々と斬り伏せていくサディエルに対して、盗賊団のリーダーは部下たちに指示を飛ばす。
「ちょこまかとすばしっこい! 弓を持て! 殺さなければいい、アイツの足を狙え」
「ダメです、上手い具合にこっちの味方を盾にしてます!」
「ちっ、だったらあまり離れず2人から3人で固まるようにしろ!」
盗賊団のリーダーの指示に従い、盗賊たちは2~3人で固まり彼を迎え撃つ体勢を取った。
それを確認して、サディエルは立ち止まり、盗賊団のリーダーに視線を向ける。
「この状況を崩すのはさすがにキツイか。ところで、フェアツヴァイ盗賊団のリーダーさん。お前たちの仲間、この周囲に結構バラバラに倒れているよな?」
ここまですれ違うたびに、脛や膝を斬り付け地面に倒れ伏せている盗賊たちが合計で7人。
それを確認してから、サディエルは盗賊団のリーダーにそう問いかける。
「動けなくなったこいつらに対して、俺には色々な選択肢がある。スケルトンの集団の対処法みたいに、空中散歩からの自由落下するもよし。ニードルフィッシュのように黒焦げになるも良し。オーガは……あぁ、この後は心臓を一突きか」
彼の言葉を聞いて、盗賊団のリーダーはここまでの行動の意図を理解した。
彼らにだって仲間意識はある。
仲間を無残にも切り殺されていたならば、彼らの敵討ちとしてサディエルに全力で挑んでいただろう。
これはある意味、必然といっていい感情だ。
誰だって、大切な誰かを目の前で殺されれば、復讐心というモノが芽生えてくる。
だが、サディエルは敢えてそれをしなかった。
不殺なんて考えは一切ない。あるのは……いかに効率よく、この場全員に "恐怖" を与えるか。
サディエルが挙げた、倒れている7人の盗賊達の『末路』を聞いて、仲間たちが一瞬しり込みする。
即死ではなく、さらなる苦痛が与えられる未来に、恐怖したからだ。
それは倒れている7人も同様であり、より明確なビジョンとなって描かれた末路に顔色を悪くする。
「た、助けてくれ! 誰か……!」
「助けるならご自由に。今の人数なら、3人か4人は助けられるんじゃないか?」
「……てめぇ、性格悪いぞ」
「そりゃどうも。俺だけを素直に狙っていりゃ、ここまでのことはやらなかったよ」
彼の脳裏に、死人になった人々が蘇る。
ヒロトたちの言葉通りならば、自分たちの進路妨害、もしくは疲弊させる為だけにあのような結末を辿った、面識はなくても同じ冒険者としての同僚。
もしかしたら、いつかの未来に仲良く酒を飲み交わしていたかもしれない。
もしかしたら、意見が対立して犬猿の仲になっていたかもしれない。
もしかしたら、大事件に巻き込まれて運命共同体のように協力して強敵と戦っていたかもしれない。
もしかしたら、もしかしたらと、本来ありえたかもしれない出会いが潰れたのだ。
彼にとって、その事実は許しがたいこと。
フェアツヴァイ盗賊団は、早々にサディエルの地雷を全力で踏み抜いていた、それが今回の敗因だった。
「冒険者ってーのは、"縁" を最も大切にしなけりゃいけない職業だ。"縁" に助けられ、救われ、貰った分をまた別の誰かに繋いでいく。他の職業でも大事ではあるが、生きるか死ぬかが大きく関わる俺らにとっては、地位や名誉よりも重要な要素だ」
ヒロトは常日頃、サディエルたちの旅は思っていたよりも安全だ、しっかりしている。
そう感心しながら言っていた。
それは間違ってはいないだろう。
だが、正しくもない。
より正確な情報を、安全だと言う話題を入手するのはギルドへ行くだけではダメなのだ。
ギルドでも把握しきれていない、小さなヒントを得るには、その場にたむろしている同業者や街の人々からの何気ない情報が必要不可欠だ。
ヒロトの言葉で例えるならば『RPGをプレイ中に、街中にいる特定の住人に話しかけないと、物語の進行フラグが立たない』と同義である。
見ず知らずであろうとも、冒険者たちの仲間意識は強い。
それは、互いが持つ情報を的確に共有して、命を守り合っているから。
自分が誰かに伝えた情報が、様々なパーティを経由して伝わり、どこかの見知らぬ誰かを救う事は日常茶飯事。
見えないながらも通じる "縁" の大切さを正しく理解しているからこそ、サディエルは許せないのだ。
(これは俺のエゴ。その先にある、アルムやリレル、ヒロトの安全の為でしかないんだ)
会ったこともない誰かの為、とたいそうな正義面したヒーローの言葉に聞こえる。
人によっては、"お人よし" って揶揄することだろうが……
「それを潰したお前らを、俺は許さない。直接手を下したのはガランドだろうが、お前らだって同罪だ」
「はっ! 反吐が出るほど善人で正義感ぶった理由だな。そう言う奴が一番嫌いだ」
「その点だけは気が合うな。俺も大嫌いだよ、お前らみたいな連中は」
サディエルは自分に最も近い、負傷した盗賊の足を凍らせる。
氷はじわり、じわりと盗賊の体を凍らせていく。
「ひぃ……!? た、助けてくれ!! 殺される……!」
進行速度こそ遅いものの、恐怖心を煽るには十分だった。
ゆっくりと凍り始める盗賊をちらりと見た後、サディエルは改めて怪我をしていない盗賊団を見る。
「早く解凍すれば、窒息前に助かるんじゃないか?」
「そうはさせるか! お前ら援護しろ!」
剣を構えて盗賊団のリーダーが一直線にサディエルに向かって走る。
矢を向けられたのを確認したサディエルが、盗賊団のリーダーの真後ろに氷の壁を形成し、全てを弾いた。
それに気付かず、盗賊団のリーダーは剣を振るう。
一歩右足を軸に僅かに下がって初撃を回避すると、そのままこちらも剣で相手の首を狙う。
躊躇なく狙われた急所に驚きつつも、盗賊団のリーダーは剣を縦に構えてサディエルの剣撃を受け止める。
すぐさま隠し持っていたナイフを素早く突き出し……サディエルの左頬に赤い線を一筋作った。
「舐めるなよ兄ちゃん。このまま、お前の首を軽く切って動けなく……」
『誰がそんな事を許すと思っているんだ』
全員の脳内に響く声。
それを聞いて、盗賊団たちは青ざめる。
『ねぇ、何やってるの?』
ぐにゃりと空間が歪む。
サディエルと盗賊団のリーダーがいる場所から少し離れた、他の盗賊たちとの中間の位置に彼は出現した。
「……サディエルは殺すな、と言ったよね?」
「ガ、ガランドさん……!? こ、殺してない! 殺していないだろ!? ほら!」
「あぁ、そっちの意味で言ってるの? 違うよ、そう意味じゃない。"彼らしさ" を殺すなと言っているんだ」
そう言うと、ガランドは氷で阻まれてサディエルたちに近づけなかった盗賊たちの所へ行き……そのうちの1人の胸を躊躇なく貫いた。
「ガッ……あ……? え?」
血を口から吐き出し、何が起こったのか分からないと言わんばかりに目を見開かれた。
勢いそのままに引き抜かれ、今しがた胸を貫かれた盗賊は倒れ、そのまま事切れる。
「ボクはね、彼の顔が欲しいんだ。くだらない位に偽善者でありながら、どす黒いと表現してもいい程現実を見つつ、その上で仲間を見捨てるのを拒む。彼らしくもあり、人間を騙し続けるには最高だからね。それを傷つけて……どういう了見なんだい」
「お前にちょっとでも褒めらるなんて、気持ち悪いを通り越して、眩暈がするんだが」
「存分に貶しているつもりなんだけどね」
ゆっくりと距離を取ろうとしているサディエルを睨みながら、ガランドはそう言った。
その顔は、カインのものから歪み始めており、本来の "顔の無い" 状態に近づきつつある。
「そんなわけで……さっさと動かなかった件と良い、お前らはもういらない」
「やめっ……やめてくださいガランドさん! こいつを、こいつを捕まえ……」
「死になよ」
大量の魔弾が出現し、一斉に降り注ぐ。
盗賊団のリーダーは慌てて氷壁まで行き、仲間たちの名を叫び続ける。
(ヒロトの言った通りになるなんてな……)
それを眺めながらも、サディエルは必死に次の展開を想定して準備を始めた。
半信半疑ではあったものの、ヒロトから聞かされていた可能性の通りになり、冷や汗をかく。
(となると、俺の本番はここから。剣は……大丈夫、2本は残せた。薬も大丈夫……あとは、皆の合流まで粘るだけだ)
ふと、視線を涙を流しながら叫び続ける盗賊団のリーダーに向ける。
少したりとも同情する気はない。
あちらもやってはいけない事をやった以上、どこかで必ずしっぺ返しが来る。それが思ったよりも早かっただけの事。
(……悪いな。ヒロトの世界にある物語の "本当のお人よしな主人公" とやらならば、助けたんだろうけど。俺はそこまでじゃないんだ、こっちもお前に "同業者" を殺されたからな)
「うるさいなぁ……」
全ての部下が殺された。
そう認識した瞬間、盗賊団のリーダーはがくりと膝から崩れ落ちる。
同時に、ガランドが彼の前に立つ。
「さっきから耳障りだったんだよ、汚い悲鳴でさ」
「貴様……きっさまあああああああああ!!」
「だから、うるさいって言っているだろ」
がっ、と盗賊団のリーダーの首を鷲摑む。
息苦しいのか、持ち上げられた彼は足をばたつかせて必死に口を開閉する。
「この役立たず」
鈍い、嫌な音が響いた。
一瞬だけ盗賊団のリーダーの足が、ピンとなったが……すぐに力が抜けてだらんとぶら下がる。
動かなくなったソレから興味がなくなったのか、無造作に放り投げた後、ガランドはサディエルを見た。
「おまたせ、サディエル。ダメじゃないか、怪我なんてしちゃ……言っただろ? 間違っても "顔" に傷をつけるなって」
この場にヒロトがいたら、確実に『何だ、このDV直後のハネムーン期みたいな猫かわいがりな態度……』とぼやいていただろう。
気味の悪さだけはしっかり感じ取ったサディエルは、一歩下がる。
「それに、"孤独を恐れな" ってわざわざ忠告してあげたのに……仲間とお別れしたくなかったのかな? いや、君のことだから無残に殺される自分を見せたくなかった、とか」
「違うだろ。俺からあいつらを引き離しにくくしながら、いざこうなった場合に焦りを生ませる為の誘導だろ」
「へぇ……?」
にやり、とガランドは微笑む。
「お前からしたら、どっちでも良かった。結果は変わりないからな」
「あっはははは! 分かっているじゃないか! 君を食らった後も仲良くできそうで良かったよ、サディエル」
パチン、と指が鳴らされる。
それと同時に、サディエルの体から力が抜け、立っていられなくなった彼は地面に座り込む。
「急に力が……痣の影響!?」
「そこまでわかっているなら、もう説明はいらないよね。せめてもの情けで、仲間に君が食われる瞬間を見せないであげるよ。冷たくなった君との感動の再会シーンは鑑賞させて貰うけどね!」
「冗談じゃない……!」
腰にある袋から、1つの箱を取り出す。
それを開けようとした時、バキン! と破壊音が響いた。
「……なっ!?」
「追加の薬を接種する暇は与えないよ。もうこれで薬は残っていない、そうだろ?」
慌てて箱を開けると、そこには破壊された注射と、原液がこぼれて使い物にならなくなった瓶が姿を現した。
(これで "4本" が使用不可か。まいったな、本当に全部当たっている……)
サディエルはすぐに思考を切り替え、信号弾を構えて地面に向かって放った。
濃い煙が周囲に充満し、サディエルとガランド、両者の姿を隠す。
『あの古代遺跡の時のように、ボクがタブーを冒すとでも?』
「そうしてくれるとありがたいんだけどな!」
そう言いながら、サディエルは袋のさらに奥に隠していた、小さく頑丈な箱を取り出す。
箱を開けると、1本だけ残っていた注射が姿を現す。
(この為に準備して貰ったとは言え、本当に使うことになるなんてな……あとでリレルに怒られるな)
素早くキャップを外して、左腕の袖をまくり上げ躊躇なく刺し、中にある薬品を注入した。
そのまま注射を引き抜き、止血もせずに袖を元に戻す。
深呼吸1つ。
サディエルはゆっくりと立ち上がったその時、強風が吹き荒れて煙が全て吹き飛ばされた。
「かくれんぼはおしまいだよ、サディエル」
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ミレイとしては、『小説や漫画が読めればいい』くらいの感覚だったが、思ったよりチートみたいで?
異世界で知り合った仲間達の窮地を救うキッカケになったり、敵の情報が筒抜けになったりと大変優秀。
チートすぎるがゆえの弊害も多少あるものの、それを鑑みても一家に一台はほしい性能だ。
「────さてと、今日は何を読もうかな」
これはマイペースな主人公ミレイが、タブレット片手に異世界の暮らしを謳歌するお話。
◆小説家になろう様でも、公開中◆
◆恋愛要素は、ありません◆
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得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。
直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。
このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。
そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。
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