オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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最終章 冒険者5~6か月目

108話 最終決戦【4】

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 リレルの詠唱の声と共に、上空に出現する氷の刃。
 最も、これは囮だ。

 不意打ち、襲撃、奇襲の基本は静かに、相手の完全な死角から。

 推進力と重力が合わさった氷の刃が、ガランド目掛けて飛来する。
 ガランドは氷の刃を防ぐ為に、視線をリレルが居る方向に向けた。

 左手で氷の刃を消滅させながら、右手で魔弾を放たれる。
 目の前にあった氷の壁を木っ端みじんにしながらも、魔弾は一直線にリレルに向かっていく。
 とはいえ、一直線に放たれた魔弾を回避することは容易であり、その間にアルムが矢をガランドに向けて放つ。

 ガランドから見たら左斜め後ろからの攻撃となり、視線がそちらに向くと……オレの位置からは丁度背後を見せる形になった。

「"水よ、風よ、巡りて凍り、雨を降らせ!"」

 魔弾を回避したリレルが、再び氷の刃を作り出す。
 それと同時に飛び出し、オレは一気にガランドとの距離を詰める。
 ここで掛け声と言うか、切る直前に雄叫びでも上げるのが普通なんだろうけど、それをやると奇襲の意味が無い。

 静かに剣先を右肩あたりまであげ、勢いに任せてガランドの右肩から左わき腹へ斬り流す。

「っ!?……お前……!」
「ヒロト!」

 オレに視線が向いた瞬間、アルムが再び矢を放ち、ガランドをけん制した。
 その間にオレは返し刃で、今度は相手の左腕目掛けて切り上げる。
 奇襲攻撃も成功、もうここからはオレたちの存在も認識された以上、遠慮はいらない!

「もう1発、どうだ!」

 切り上げた勢いと遠心力で、少し大振りになったものの、勢いに任せて頭から一刀両断。
 ったく、これが人間だったら余裕で勝利だっつーのに……

 剣を振り下ろしきり、そのままオレは大きく後ろに飛んでガランドとの距離を取る。

 その間に、アルムとリレルも各々の有効射程範囲まで移動して、武器を構えた。

「意外と早いお出ましだね。もう少し合流に時間が掛かるもんだと思っていたけど……ねぇ、サディエル? お前の仲間は、何とも君想いだね」

「けほっ……みんな、大丈夫か?」
「それはこっちのセリフだよ、サディエル!」

 彼らしい第一声に、オレは思わず声を上げる。

 先ほどオレが斬り付けた場所が、みるみると回復されていき、全くダメージが通っていない感覚だ。
 こういうのを見ると、本当にガランドは腐っても魔族だよな。

「役者は揃ったって訳か。いいねぇ、最高だね! 華やかな見送りになるよサディエル!」

 うーわー、コイツ本気でサディエルしか見えていない。
 オレらの存在は認識しているけど、居ても居なくても問題無いって雰囲気がめっちゃする。

 いやまぁ、それならそれで好都合……って、考えたダメだ!
 そう言う考えもフラグ中のフラグ、こっちがこれから大惨敗するパターンにしかならない。
 慎重に、素早く、確実にだ。

「さてと、そうなると……お客様方には観覧席に座って貰わないとね?」

 ぞくり、と悪寒が走る。
 ガランドがパチン、と指を鳴らすと、オレとアルム、リレルの周囲から大量の蔦が生えてきた。

 これは……リレルたちが使う『拘束の魔術』!?

「ちっ、ヒロトは剣で振り払え! リレル!」
「分かっています! "炎よ、荒れ狂え!"」

 オレはすかさず剣を振り、襲い来る蔦を切って距離を取る。
 一方のアルムとリレルは自身を中心に炎を発生させて、襲い来る蔦を焼き払う。

 何度か蔦を切るが、全然止まる気配がないんだけど!?

「ヒロト!」

 そこに、サディエルが近づいてきて迫っていた蔦の1つを切り、そのまま火の魔術で焼き払う。

「ありがとう、サディエル」
「あぁ。と言うか、あいつ……いつの間にこの魔術を」

「"知識不足が仇になった" と、ご丁寧に忠告して来たのは君たちだよ? 自分で自分の首を絞めているってのに、おかしいったらありゃしない」

 嫌味返しを徹頭徹尾で貫きやがって。
 学習する敵とか嫌すぎるんだけど!?

「人間の魔術も確かに面白かったよ、多種多様で小手先勝負。実に魔力が乏しい君たちらしい姑息なものばかりで」

「その姑息な魔術に負けたのはどこのどいつだよ!」
「君は相変わらず、人を苛つかせるのが得意だね、サディエルの "縁ある者"」

 ガランドの中にある、オレへの認識がどういうもんか良ーくわかった。
 いや、こっちにまでいらぬ標的向けられても気持ち悪いので、個人的にはご勘弁願いたいけど。

「さて……戦力的に先に潰すべきは……君らかな?」

 そう言うと、ガランドはオレとサディエルを無視して、視線をアルムとリレルに向ける。
 やばい! 包囲網の形を取っているけど、今の状態だと2人を援護する人がいない!

「ヒロト、リレルの方へ!」
「了解!」

 オレとサディエルは同時に地を蹴って、2人の元へ急ぐ。
 同時に、ガランドが大量の魔弾を発生させて、アルムとリレルに向けて放つ。

「"風よ、吹き荒れろ!"」
「"風よ、切り裂け!"」

 リレルは魔弾の軌道を逸らし、アルムは迫りくる魔弾1つ1つに風の刃を当てて勢いを落としながら回避をする。
 その合間に、弓矢を構えたアルムがガランドに向かって矢を放つ。

「サディエル!」
「合わせる! "巡りて凍り、貫く強固な刃!"」

 水の塊が出現し、そこからツララのような鋭い刃が突きあげるようにガランドの体を貫き、アルムの矢が奴の脳天を穿つ。
 オレはリレルの所まで行くと……風で軌道が逸れたはずの魔弾が、大きくUターンしてリレルの背中を狙っていた。

 ガランドは……サディエルとアルムの攻撃を受けている、今ならバレない……!

「"解放せよ!"」

 言葉と同時に、僅かに剣が光る。
 そのままリレルを通り抜け、彼女の背に隠れるように魔弾の前に立つ。
 タイミングだけ合わせて、もともと大振りなわけだから、それで薙ぎ払う。
 大丈夫、野球のボールよりは的はでかいし、こっちも剣という攻撃範囲もバッドと比べたら広い。

 1……2……3……今だ!

 剣を左から右に、ぐいっ、と大きく振りかぶると近づいてきた魔弾に上手くヒットし、消滅する。

「"沈黙せよ"」

 他の魔弾が無い事を確認してから、剣に付与された効力を一旦消す。

「ありがとうございます、ヒロト」
「どういたしまして! 一旦、サディエルたちと合流しよう!」
「わかりました!」

 オレとリレルは、そのままサディエルたちの所に向かおうとした瞬間だった。

「行かせない」

 地を這うような声が響く。
 同時に、オレの周囲に不透明な壁が形成された。

「え……何、これ」

 ガンガン! と叩いても変化が無い。
 僅かに水面に水滴が落ちた時のような、波打った感覚だけが残る。

 ……まさか結界!? 閉じ込められた!?

「お前は前回もいらないことをして邪魔をしてくれたからね。そこで大人しくしていなよ、サディエルの "縁ある者"。君には己の無力さと絶望を味わって貰いたいからね。特等席で見せてあげるよ」

 いらないお世話だ!
 とは言え、結界ならば剣に付与されている力を使えば脱出は出来るはずだ。

 だけどこれは……ガランドへのトドメに使う為のもの。

 さっきだって、ガランドに見られていない事を確認したから使ったに過ぎない。
 今の状態で使ったら、コレがバレてしまう。

「ヒロト!?」
「次は君だ」

 傷を回復し終えたガランドが、次に狙いを定めたのは……リレル!?

「リレル、逃げて!」

 ガランドの赤黒い剣が、リレルに迫る。
 間一髪で回避し、槍を操りガランドの手から剣を弾こうとした。

 だけど……

「3度も同じ手は通じないよ」

 その動きは、以前エルフェル・ブルグ到着前にリレルがとった動き。
 彼女に剣先が届きかけた時、ガランドの右手にアルムの矢が刺さった。

「させるか!」

 それとほぼ同時に、サディエルが剣を構えて距離を詰める。
 その時、ニヤリとガランドの口元が嬉しそうに笑ったのが見えた。
 彼の剣を自身の赤黒い剣で受け止めながら、面白そうに、小馬鹿にしたような口調で告げる。

「そうだよねサディエルゥ? 君はこれが最も嫌なんだよね?」

 ……サディエルが最も嫌な事。
 いや違う、一番、隙を晒す可能性があるタイミング!?

 次の瞬間、ドコッ、と再び蔦がアルムとリレルの周囲に出現する。
 先ほどよりも至近距離だった為、2人は蔦によって拘束されてしまう。

「くそっ、解けない!?」
「……っ、くるし……!」

「アルム! リレル!?」

「心配しなくていいよ、殺さない。君を見送ってくれる大事なお客様なんだからさ……ただ、彼と違って、その2人は戦力としては脅威だからね。下手に動かれても困るから」

 パチンと指が鳴らされる。
 同時に、赤黒い小さな刃が2人の周囲に現れたと思うよりも早く、アルムとリレルの足や肩を貫き血が噴き出す。

「アルムー!」
「リレル!!」

 刺された刃が役目を終えると同時に消え去り、蔦も消失した。
 そのまま2人は音もなく地面に倒れ伏せてしまう。

「……だい………じょう……です……」
「ガラン……ド……てめぇ……!」

 息も絶え絶えに、2人は顔を上げてガランドを睨む。

「ガランド……!!」
「お待たせサディエル。さぁ、ボクに "顔" と "魂" を頂戴。わざわざこんな最高の舞台を用意してあげたんだからさぁ!」

 狂ったように笑いながら、赤黒い剣を構えてサディエルに迫る。
 2人の剣がぶつかり、摩擦から火花が散った。
 僅かにサディエルが劣勢、薬の効果が弱くなり始めているのか、じわじわと押され始めている。

 どうしよう……何か、何か打つ手を考えないと。
 このままじゃ、サディエルが……!

 いや、まず落ち着け。
 ここまで来たら、もう開き直るしかないかもしれない。
 次の展開はもう見えている、見えているならそれを何とかすれば……!

 オレはアルムとリレルに視線を向ける。
 何とか立ち上がろうとしているものの、先ほどのダメージが思ったよりも響いているのか、2人とも自分の武器を手に取っている状態から進めていない。

「アルム! リレル!」
「……ヒロ……ト……?」

 ガンガンと結界を叩きながら呼びかけると、2人はこちらに視線を向けて来た。
 ガランドは、サディエルとの1対1に集中している。
 今ならば……!

「2人共、立てなくていい、武器を使えない!?」
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