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最終章 冒険者5~6か月目
109話 最終決戦【5】
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エルフェル・ブルグでサディエルが攫われた時。
オレとカイン君が助けに行った際に目撃した、魔族が "顔" を得る為に必要な動作。
ガランドはそれをこう表現した、"食う" と。
これまでは、対象者を殺してその顔を食う、と言う意味でずっと捉えていたわけだが、これはきっと正しいけれども完全な正解じゃない。
ただ殺すだけならば、サディエルを助けに行った時に、オレは間に合わなかったはずだ。
あの時も、今みたいに結界に阻まれてサディエルに近づけなかった。
結界を破壊して近づくまでの間だけでも、彼を殺すだけならば十分すぎる時間になる。
けれども、サディエルは殺されることはなく、オレたちの助けが間に合ったのは何故か。
オレはあの時、剣に付与された力を使って結界を壊し、近づくことで頭がいっぱいだったから、すっかり忘れていたわけだけど……
「アルムが言っていた、"サディエルが殺される直前" のタイミングがもうすぐ来る。そこを全力で崩す! サディエルはすぐには死なないから、チャンスはある!」
「……どう……いう……?」
「思い出したんだよ。あいつらの "食う" って言う表現は、顔じゃない、魂だ! 先に魂を奪ってから、顔を得るんだよ!」
ここから先は、あの時見た光景からの予想ではあるが、魂を奪うという行為は簡単なことじゃない。
そりゃ、作品によってはあっさり行く場合もあるけど、そう言うスキルや能力って言うのは、魔王や神、もしくはそれに類するその世界の完全上位の存在しか持っていない。
即死系のスキルとかもあるだろうけど、あれは命を刈り取ると言う意味であり、肉体の方の死だ。
そして『魂』というモノは、バークライスさんから聞いた『魔力と魂』説明によると、普段は自分自身の魔力に守られている。
つまり、まずはその魔力の保護を消す、もしくは一部に風穴を開けてからでないと、魂を奪えない。
そんな行動を取れば、ガランドも無防備になるわけだから警戒したんだろう。
だからこそ、オレを結界内に閉じ込めて、アルムとリレルを負傷させた。
「本来だったら、魔術が使えないオレはここから出られないし、2人も動けないから、サディエルが殺されるのを見守るしかなかった。うん、良し……バッドエンドルートらしい状況だ。あとはそのフラグぶっ壊してやればいい。魂を奪うには時間が掛かるわけだから、ガランドがそれに集中した瞬間に反撃しよう!」
オレは剣を持ち直す。
すぅ、と深呼吸して集中力を高める。
「アルム、リレル。もうコレを隠す必要はない。オレがガランドの注意を逸らすから、その間に2人は武器を使って、あいつの足を狙って欲しい」
「悩んでる……暇はないか……」
「えぇ……わかりました……」
アルムとリレルは何とか上半身を起こして、座り込む形になる。
2人も早く止血しないとまずいかもしれない。
だけど、目の前で繰り広げられているサディエルとガランドの戦いも、終局を迎えつつあった。
キィン……! とサディエルの剣が空中に舞い上がり、彼の左肩に深々とガランドの赤黒い剣が突き刺さった。
「……っ、かはっ!?」
そのまま、ガランドは剣をゆっくりと持ち上げて、サディエルの体がゆっくりと空中に持ちあげられる。
「この時をずっと待っていたよ。あの古代遺跡でお前を逃がした日からずっと。ようやく、ようやくだ……! この怒りも憎しみも今日で開放される……! あぁそうさ、たかが人間に負けたなんて雪辱をやっと晴らせる! あっはははは! さぁおいでサディエル、永遠に苦るしんで貰うよ……ボクの中でさぁ!!」
「だ、れが……お前なんかに……っ、うああああああああ!」
ガランドの左手が、サディエルに向けられる。
それと同時に、魂に干渉された影響なのかサディエルが苦しみだした。
今だ!
「"解放せよ!"」
言葉と共に、オレは結界に向けて剣を突き立てる。
あの時と同じように、剣がぶつかった途端に結界がバキリッ、と音を立てた。
そのままソレはヒビになり、連鎖的に広がった細かい切れ目を、オレは蹴って壊す。
そのまま、一直線にサディエルの元へと走る。
「―――ガランド! サディエルを離せ!」
「神聖な儀式の邪魔をするなよ、異界の人間。お前には関係が……なぜ結界から!?……ぐあっ!? なっ……これは!?」
オレの意識が向いたその瞬間、ガランドの両足に何かが突き刺さった。
1つは、アルムの矢。
もう1つは、リレルが投げた槍だ。
オレと同じように、武器に付与された力を解放した2人の攻撃は、寸分たがわずガランドの脛を射抜く。
「僕らを殺さなかったのが……そもそもの間違い、だったな!」
「後はお願いしますよ、ヒロト……!」
流石に限界だったのか、アルムとリレルが再び地面に倒れ伏せる。
ガランドからの干渉緩んだのか、苦しい表情を浮かべながらも、サディエルは最後の1本に手を伸ばす。
「……ヒロト!」
「合わせるよ、サディエル!」
走りながらも、僅かに腰を落とし、右肘をしっかりと引いて剣の矛先を狙う先へ向ける。
両手でしっかりと剣の柄を持ち、グッと足に力を入れて、さらに速度を上げて突っ込む。
オレにとって最も最速で出せる攻撃は、これしかない!
こっちが攻撃態勢になったのを確認すると、サディエルは剣を引き抜き……
「"解放せよ"」
オレはガランドの右腕を、サディエルは左腕をそれぞれ側面と下から貫いた。
「お前ら、この程度の攻撃がボクに通じる……と……え? 嘘だろ、この武器に付与されている魔力……まさか!」
「その、まさかだよ!」
あの時のローブの魔族と言い、ガランドと言い、この瞬間まで付与されている力が誰のものか気づけなかった理由が、今なら分かる。
そりゃそうだ、自分たちを構成する魔力と全く同じ。
ある種の灯台下暗し、同じであるからこそ違和感を感じない。
だから、攻撃を食らうまで気づけなかったんだ。
「悪いなガランド、魔王様はオレらの味方なんだ」
「やりすぎたんだよ、お前は色々と」
「嘘だ……! 嘘だ、嘘だ! サディエル……お前さえ、お前さえ食えば、こんな……!」
ぶわっ、とどす黒いなにかがガランドから噴き出る。
その何かに、オレの頬が、腕が、胴体が、足が切り裂かれて全身に痛みが走った。
ここで負けてたまるかよ……!
「往生際が悪い! お前の負けだ、ガランド!」
「そして……オレたちの勝ちだ!」
ぐっ、と剣の柄を強く握る。
オレたちの意思に反応するかのように、剣が、矢が、槍が強く光りだす。
「嫌だ……! 何で、ボクばかり、こんな……! くそがああああああああ!!」
「核へ戻れ!」
「"束縛せよ!!"」
言葉と同時に、オレたちの武器がさらに光り、無数の縄がガランドをがんじがらめにする。
見覚えがある。
カイン君が、あのローブの魔族を消滅させる前に放ったあれだ!
全身を魔力の縄で縛り上げられたガランドは、声にならないうめき声をあげたかと思うと、一瞬で体が雲散し……そこには、見覚えのある、小さな核だけが残った。
その核は、魔力の縄に囲まれたまま……まるで封印されているかのような状態になっている。
ガランドが核になると共に、サディエルの左肩に突き刺さっていた赤黒い剣が消滅した。
落ちている核を拾い、何も変化が無い事を確認したサディエルが口を開く。
「や……やった……?」
「……サディエル、ストップ。そこから先の言葉も結構フラグ……まだ倒してないパターンの方……」
オレの言葉を聞いて、慌ててサディエルは自身の口を塞いだ。
だが、すぐに彼の体がぐらりと傾き、地面に倒れ込む。
「サディエル!?」
「……悪い、薬の効果が……多分、切れ……」
全てを言い終わるよりも先に、意識が途切れたのか彼は目を閉じる。
オレは後ろを見ると、アルムとリレルも倒れこんだまま、動く気配が無い。
いや、アルムだけは必死に右手を動かして、何かをしようとしているのが見えるが……
ダメだ……オレも、気が抜けたのか……意識が……
怪我も、止血しないと……いけないのに。
このまま倒れちゃ……
「………」
ウルフに死人、盗賊団、ガランドとの連戦はさすがに響いた。
オレも地面に倒れこみ、重たくなった瞼を必死に開けようとするが……そのまま意識が遠のいていく。
最後に見えたのは、空になにか、光が……眩しい、少し特殊な色の光が、曇り空を彩った光景だった。
========================
すごく、体が重たい……
オレはゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が見えた。
「……あれ、ここ?」
「お! 気が付いたか!」
声のする方向を見ると、そこには見覚えのある人が居た。
この人は、確か……
「船……船旅で、一緒だった……」
「覚えていたか。久しぶりだな、元気……ってわけじゃないな。動けそうか?」
彼は、エルフェル・ブルグへ向かう旅の途中、3週間の船旅で同じ船に乗った冒険者の1人。
閉鎖的で、娯楽の少ない船旅でストレスが溜まり、色々あってサディエルに突っかかって、その後和解した、あの冒険者の男性だった。
名前は……そう言えば、あの後すぐにスクウィッドの襲撃があったから、聞いていなかったや。
彼に支えられて、オレは何とか起き上がる。
あちこちに包帯が巻かれており治療が済んでいることが分かった。
服も入院服で、完全に入院中ですって感じである。
と言うか、左腕になんか管……違う、これ点滴!?
「あの、ここは……」
「麓の街だ。お前らからの救援要請の閃光弾を確認して、おれらが救助したんだ。1回目だけじゃ場所が絞り込めなくて困っていたんだけど、2回目があって助かったよ」
麓の街……オレら、下山したってことか。
あれ、でも、あの時点で下山まであと2日半は掛かるはずだったから……
「あれから、何日経って……」
「4日経っている。何はともあれ、目が覚めて良かった」
4日も寝ていた!?
あ、だから点滴されていたのか。
……アニメや漫画で、数日意識不明になっているキャラはベッドに寝っ転がされているだけなのだが、実際はそうだよな。
数日も目を覚まさないと栄養を摂取出来ないから、点滴ぐらいするよな。
「助けて頂いて、ありがとうございます……あの、すいません、貴方の名前、確か聞きそびれていたはず、ですよね?」
「あー、そうだったな。おれはクヴァルだ。あの時は、本当に悪かったな」
「いえ、気にしないでください」
オレはパタパタと右手を左右に振って、大丈夫だと伝える。
ふと、あの時のサディエルの言葉が脳裏を過った。
『この航海以降、絶対に会わないならやり返しても良かった。だけど、冒険者同士どこかで必ず協力する時が来る。その時に、今回のシコリを残してしまったら、成功するものもしなくなるんだ』
サディエルの言った通りだ。
いつ、どこで、何て確証もないし、不透明なことだけど……こうやって彼らにオレたちは助けられた。
以前の繋がりが、こんな形で実を結んだ光景に、オレは驚きつつも、嬉しく思う。
そんなことを考えていると、部屋の外が少し騒がしくなった。
なんというか、慌ただしいというか……
「ん? もしかして、サディエルも目を覚ましたのか?」
「っ! そうだ、皆は!?」
「あぁ、こらいきなり動くな! 点滴も外してないのに無茶をすんなって!」
ちょっと待ってろ、とクヴァルさんはオレに待ったをかけて、部屋の外へ行く。
近くを通りかかった看護師さんが入ってきて、慣れた手つきでオレの点滴を外してくれた。
「急ぐ気持ちは分かりますけど、まずは着替えを。寝汗などひどいですから、こちらに。お連れ様は皆さん無事ですから」
「は、はい……」
凄い圧で睨まれた。
あれだ、リレルに睨まれたあの感じにかなーり近い。
看護婦さんから素直に下着と服……あと、汚れものを入れる袋も渡される。
焦る気持ちを抑えて、入院服と下着を着替えて部屋を出ると、外で待っていたクヴァルさんが『こっちだ』と案内してくれた。
案内されたのは2部屋離れた病室。
そこに入ると、同じように入院服に身を包んだアルムとリレル、ベッドにはサディエルがいた。
「サディエル! アルム! リレル!」
「ヒロト! お前も起きたのか、良かった……!」
「似たようなタイミングでお目覚めってわけか」
「痛むところはありませんか?」
3人に近づき、改めて彼らの顔を見る。
同じように包帯やらなにやらで、ボロボロな状態だけども、アルムとリレルはしっかりと立っているし、サディエルも顔色が良い。
もう大丈夫。
そう理解した途端、オレはペタンと床に座り込んでしまう。
「ヒロト!?」
「……良かった……みんな無事で、良かった……!」
じわりと目元が痛む。
ゆっくりと、何かが自分の頬を伝った。
すると、オレの頭に誰かの手が置かれる。
顔を上げると、その手はアルムとリレルのもので……
「あぁ、みんな無事だ」
「はい。満身創痍ではありますけどね」
「サディエルの奴に至っては、薬の副作用でまだロクに立てないけどな」
「うぐっ……それを言うなよな!? 緊急事態だったわけだし、もともとあの薬はその対策の為で……!」
「緊急事態なのはわかりますが、用法容量を何故守らなかったのですか!? そのせいで余計に悪化している自覚を持ってください!」
「リレルも無茶言うなよ! あそこで打ってなきゃ、さすがの俺でも耐えきれなかった……」
「ぷっ、あっははははは……!」
いつも通りな3人に、オレは思わず笑ってしまう。
それを見て、サディエルたちは一瞬だけポカンとしたものの、すぐにつられて笑いだしたのだった。
オレとカイン君が助けに行った際に目撃した、魔族が "顔" を得る為に必要な動作。
ガランドはそれをこう表現した、"食う" と。
これまでは、対象者を殺してその顔を食う、と言う意味でずっと捉えていたわけだが、これはきっと正しいけれども完全な正解じゃない。
ただ殺すだけならば、サディエルを助けに行った時に、オレは間に合わなかったはずだ。
あの時も、今みたいに結界に阻まれてサディエルに近づけなかった。
結界を破壊して近づくまでの間だけでも、彼を殺すだけならば十分すぎる時間になる。
けれども、サディエルは殺されることはなく、オレたちの助けが間に合ったのは何故か。
オレはあの時、剣に付与された力を使って結界を壊し、近づくことで頭がいっぱいだったから、すっかり忘れていたわけだけど……
「アルムが言っていた、"サディエルが殺される直前" のタイミングがもうすぐ来る。そこを全力で崩す! サディエルはすぐには死なないから、チャンスはある!」
「……どう……いう……?」
「思い出したんだよ。あいつらの "食う" って言う表現は、顔じゃない、魂だ! 先に魂を奪ってから、顔を得るんだよ!」
ここから先は、あの時見た光景からの予想ではあるが、魂を奪うという行為は簡単なことじゃない。
そりゃ、作品によってはあっさり行く場合もあるけど、そう言うスキルや能力って言うのは、魔王や神、もしくはそれに類するその世界の完全上位の存在しか持っていない。
即死系のスキルとかもあるだろうけど、あれは命を刈り取ると言う意味であり、肉体の方の死だ。
そして『魂』というモノは、バークライスさんから聞いた『魔力と魂』説明によると、普段は自分自身の魔力に守られている。
つまり、まずはその魔力の保護を消す、もしくは一部に風穴を開けてからでないと、魂を奪えない。
そんな行動を取れば、ガランドも無防備になるわけだから警戒したんだろう。
だからこそ、オレを結界内に閉じ込めて、アルムとリレルを負傷させた。
「本来だったら、魔術が使えないオレはここから出られないし、2人も動けないから、サディエルが殺されるのを見守るしかなかった。うん、良し……バッドエンドルートらしい状況だ。あとはそのフラグぶっ壊してやればいい。魂を奪うには時間が掛かるわけだから、ガランドがそれに集中した瞬間に反撃しよう!」
オレは剣を持ち直す。
すぅ、と深呼吸して集中力を高める。
「アルム、リレル。もうコレを隠す必要はない。オレがガランドの注意を逸らすから、その間に2人は武器を使って、あいつの足を狙って欲しい」
「悩んでる……暇はないか……」
「えぇ……わかりました……」
アルムとリレルは何とか上半身を起こして、座り込む形になる。
2人も早く止血しないとまずいかもしれない。
だけど、目の前で繰り広げられているサディエルとガランドの戦いも、終局を迎えつつあった。
キィン……! とサディエルの剣が空中に舞い上がり、彼の左肩に深々とガランドの赤黒い剣が突き刺さった。
「……っ、かはっ!?」
そのまま、ガランドは剣をゆっくりと持ち上げて、サディエルの体がゆっくりと空中に持ちあげられる。
「この時をずっと待っていたよ。あの古代遺跡でお前を逃がした日からずっと。ようやく、ようやくだ……! この怒りも憎しみも今日で開放される……! あぁそうさ、たかが人間に負けたなんて雪辱をやっと晴らせる! あっはははは! さぁおいでサディエル、永遠に苦るしんで貰うよ……ボクの中でさぁ!!」
「だ、れが……お前なんかに……っ、うああああああああ!」
ガランドの左手が、サディエルに向けられる。
それと同時に、魂に干渉された影響なのかサディエルが苦しみだした。
今だ!
「"解放せよ!"」
言葉と共に、オレは結界に向けて剣を突き立てる。
あの時と同じように、剣がぶつかった途端に結界がバキリッ、と音を立てた。
そのままソレはヒビになり、連鎖的に広がった細かい切れ目を、オレは蹴って壊す。
そのまま、一直線にサディエルの元へと走る。
「―――ガランド! サディエルを離せ!」
「神聖な儀式の邪魔をするなよ、異界の人間。お前には関係が……なぜ結界から!?……ぐあっ!? なっ……これは!?」
オレの意識が向いたその瞬間、ガランドの両足に何かが突き刺さった。
1つは、アルムの矢。
もう1つは、リレルが投げた槍だ。
オレと同じように、武器に付与された力を解放した2人の攻撃は、寸分たがわずガランドの脛を射抜く。
「僕らを殺さなかったのが……そもそもの間違い、だったな!」
「後はお願いしますよ、ヒロト……!」
流石に限界だったのか、アルムとリレルが再び地面に倒れ伏せる。
ガランドからの干渉緩んだのか、苦しい表情を浮かべながらも、サディエルは最後の1本に手を伸ばす。
「……ヒロト!」
「合わせるよ、サディエル!」
走りながらも、僅かに腰を落とし、右肘をしっかりと引いて剣の矛先を狙う先へ向ける。
両手でしっかりと剣の柄を持ち、グッと足に力を入れて、さらに速度を上げて突っ込む。
オレにとって最も最速で出せる攻撃は、これしかない!
こっちが攻撃態勢になったのを確認すると、サディエルは剣を引き抜き……
「"解放せよ"」
オレはガランドの右腕を、サディエルは左腕をそれぞれ側面と下から貫いた。
「お前ら、この程度の攻撃がボクに通じる……と……え? 嘘だろ、この武器に付与されている魔力……まさか!」
「その、まさかだよ!」
あの時のローブの魔族と言い、ガランドと言い、この瞬間まで付与されている力が誰のものか気づけなかった理由が、今なら分かる。
そりゃそうだ、自分たちを構成する魔力と全く同じ。
ある種の灯台下暗し、同じであるからこそ違和感を感じない。
だから、攻撃を食らうまで気づけなかったんだ。
「悪いなガランド、魔王様はオレらの味方なんだ」
「やりすぎたんだよ、お前は色々と」
「嘘だ……! 嘘だ、嘘だ! サディエル……お前さえ、お前さえ食えば、こんな……!」
ぶわっ、とどす黒いなにかがガランドから噴き出る。
その何かに、オレの頬が、腕が、胴体が、足が切り裂かれて全身に痛みが走った。
ここで負けてたまるかよ……!
「往生際が悪い! お前の負けだ、ガランド!」
「そして……オレたちの勝ちだ!」
ぐっ、と剣の柄を強く握る。
オレたちの意思に反応するかのように、剣が、矢が、槍が強く光りだす。
「嫌だ……! 何で、ボクばかり、こんな……! くそがああああああああ!!」
「核へ戻れ!」
「"束縛せよ!!"」
言葉と同時に、オレたちの武器がさらに光り、無数の縄がガランドをがんじがらめにする。
見覚えがある。
カイン君が、あのローブの魔族を消滅させる前に放ったあれだ!
全身を魔力の縄で縛り上げられたガランドは、声にならないうめき声をあげたかと思うと、一瞬で体が雲散し……そこには、見覚えのある、小さな核だけが残った。
その核は、魔力の縄に囲まれたまま……まるで封印されているかのような状態になっている。
ガランドが核になると共に、サディエルの左肩に突き刺さっていた赤黒い剣が消滅した。
落ちている核を拾い、何も変化が無い事を確認したサディエルが口を開く。
「や……やった……?」
「……サディエル、ストップ。そこから先の言葉も結構フラグ……まだ倒してないパターンの方……」
オレの言葉を聞いて、慌ててサディエルは自身の口を塞いだ。
だが、すぐに彼の体がぐらりと傾き、地面に倒れ込む。
「サディエル!?」
「……悪い、薬の効果が……多分、切れ……」
全てを言い終わるよりも先に、意識が途切れたのか彼は目を閉じる。
オレは後ろを見ると、アルムとリレルも倒れこんだまま、動く気配が無い。
いや、アルムだけは必死に右手を動かして、何かをしようとしているのが見えるが……
ダメだ……オレも、気が抜けたのか……意識が……
怪我も、止血しないと……いけないのに。
このまま倒れちゃ……
「………」
ウルフに死人、盗賊団、ガランドとの連戦はさすがに響いた。
オレも地面に倒れこみ、重たくなった瞼を必死に開けようとするが……そのまま意識が遠のいていく。
最後に見えたのは、空になにか、光が……眩しい、少し特殊な色の光が、曇り空を彩った光景だった。
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すごく、体が重たい……
オレはゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が見えた。
「……あれ、ここ?」
「お! 気が付いたか!」
声のする方向を見ると、そこには見覚えのある人が居た。
この人は、確か……
「船……船旅で、一緒だった……」
「覚えていたか。久しぶりだな、元気……ってわけじゃないな。動けそうか?」
彼は、エルフェル・ブルグへ向かう旅の途中、3週間の船旅で同じ船に乗った冒険者の1人。
閉鎖的で、娯楽の少ない船旅でストレスが溜まり、色々あってサディエルに突っかかって、その後和解した、あの冒険者の男性だった。
名前は……そう言えば、あの後すぐにスクウィッドの襲撃があったから、聞いていなかったや。
彼に支えられて、オレは何とか起き上がる。
あちこちに包帯が巻かれており治療が済んでいることが分かった。
服も入院服で、完全に入院中ですって感じである。
と言うか、左腕になんか管……違う、これ点滴!?
「あの、ここは……」
「麓の街だ。お前らからの救援要請の閃光弾を確認して、おれらが救助したんだ。1回目だけじゃ場所が絞り込めなくて困っていたんだけど、2回目があって助かったよ」
麓の街……オレら、下山したってことか。
あれ、でも、あの時点で下山まであと2日半は掛かるはずだったから……
「あれから、何日経って……」
「4日経っている。何はともあれ、目が覚めて良かった」
4日も寝ていた!?
あ、だから点滴されていたのか。
……アニメや漫画で、数日意識不明になっているキャラはベッドに寝っ転がされているだけなのだが、実際はそうだよな。
数日も目を覚まさないと栄養を摂取出来ないから、点滴ぐらいするよな。
「助けて頂いて、ありがとうございます……あの、すいません、貴方の名前、確か聞きそびれていたはず、ですよね?」
「あー、そうだったな。おれはクヴァルだ。あの時は、本当に悪かったな」
「いえ、気にしないでください」
オレはパタパタと右手を左右に振って、大丈夫だと伝える。
ふと、あの時のサディエルの言葉が脳裏を過った。
『この航海以降、絶対に会わないならやり返しても良かった。だけど、冒険者同士どこかで必ず協力する時が来る。その時に、今回のシコリを残してしまったら、成功するものもしなくなるんだ』
サディエルの言った通りだ。
いつ、どこで、何て確証もないし、不透明なことだけど……こうやって彼らにオレたちは助けられた。
以前の繋がりが、こんな形で実を結んだ光景に、オレは驚きつつも、嬉しく思う。
そんなことを考えていると、部屋の外が少し騒がしくなった。
なんというか、慌ただしいというか……
「ん? もしかして、サディエルも目を覚ましたのか?」
「っ! そうだ、皆は!?」
「あぁ、こらいきなり動くな! 点滴も外してないのに無茶をすんなって!」
ちょっと待ってろ、とクヴァルさんはオレに待ったをかけて、部屋の外へ行く。
近くを通りかかった看護師さんが入ってきて、慣れた手つきでオレの点滴を外してくれた。
「急ぐ気持ちは分かりますけど、まずは着替えを。寝汗などひどいですから、こちらに。お連れ様は皆さん無事ですから」
「は、はい……」
凄い圧で睨まれた。
あれだ、リレルに睨まれたあの感じにかなーり近い。
看護婦さんから素直に下着と服……あと、汚れものを入れる袋も渡される。
焦る気持ちを抑えて、入院服と下着を着替えて部屋を出ると、外で待っていたクヴァルさんが『こっちだ』と案内してくれた。
案内されたのは2部屋離れた病室。
そこに入ると、同じように入院服に身を包んだアルムとリレル、ベッドにはサディエルがいた。
「サディエル! アルム! リレル!」
「ヒロト! お前も起きたのか、良かった……!」
「似たようなタイミングでお目覚めってわけか」
「痛むところはありませんか?」
3人に近づき、改めて彼らの顔を見る。
同じように包帯やらなにやらで、ボロボロな状態だけども、アルムとリレルはしっかりと立っているし、サディエルも顔色が良い。
もう大丈夫。
そう理解した途端、オレはペタンと床に座り込んでしまう。
「ヒロト!?」
「……良かった……みんな無事で、良かった……!」
じわりと目元が痛む。
ゆっくりと、何かが自分の頬を伝った。
すると、オレの頭に誰かの手が置かれる。
顔を上げると、その手はアルムとリレルのもので……
「あぁ、みんな無事だ」
「はい。満身創痍ではありますけどね」
「サディエルの奴に至っては、薬の副作用でまだロクに立てないけどな」
「うぐっ……それを言うなよな!? 緊急事態だったわけだし、もともとあの薬はその対策の為で……!」
「緊急事態なのはわかりますが、用法容量を何故守らなかったのですか!? そのせいで余計に悪化している自覚を持ってください!」
「リレルも無茶言うなよ! あそこで打ってなきゃ、さすがの俺でも耐えきれなかった……」
「ぷっ、あっははははは……!」
いつも通りな3人に、オレは思わず笑ってしまう。
それを見て、サディエルたちは一瞬だけポカンとしたものの、すぐにつられて笑いだしたのだった。
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俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。
だけど悔しくはない。
何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。
そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。
ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。
アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。
フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。
※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています
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