オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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最終章 冒険者5~6か月目

114話 帰還

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 ―――最初の街・アンファーグル、滞在4日目早朝

「それじゃあご主人、ありがとうございました」
「おう! 故郷に帰っても元気でな、ヒロト君。いつかまた、この街に遊びに来てくれよ」
「はい、気を付けて帰ります!」

 宿の主人に別れを告げ、オレたちは洞窟遺跡に向けて歩き始めた。
 また来て来てくれって言われたことは嬉しかったけど、答えられなかったな。ごめんなさい、ご主人。

 アンファーグルを出て、オレたちはかつて通った道を辿る。

 とは言え、オレはほとんど覚えていない。
 特に、アンファーグルに近ければ近いほど、当時は足の痛みとの勝負で風景を楽しむ余裕なんてなかったし。

「こんな雰囲気だったっけか……」
「あっははは。覚えてないよな流石に」

 歩き始めてかれこれ5時間。
 目的地に近づいているはずなのに、全く見覚えが無い風景に思わず愚痴ると、それを聞いたサディエルが笑った。

「ヘトヘトだったもんな、ヒロトは」
「そうでしたね。むしろ、頑張って歩いていた方だと思いますよ?」

「当時のオレに無茶言うなよなー、アルムとリレルもさ。ロクな体力無かった時期だってのに」

 くっそー、ここぞとばかりに話題に出して。
 とは言え、切り返したいのに肝心のオレの記憶は全然ない。疲れていてそれどころじゃなかったし。
 勿体ないなぁ、こうなってくると……せっかく、皆との大事な思い出だったはずなのに。

「ん? ヒロト、あそこ見てみろ」
「何、サディエル。って、あれ……ガーネットウール?」

 進行方向の先、少し道から外れた草原に真っ赤な生物が1体いた。
 それを見て、オレは小さく笑う。

「可愛いし、1体でいるなんて、相変わらず不用心に見えちゃうよなホントに。ところでさ、あいつ、今日の昼ごはんにしない?」
「いいのか? ゴブリンあたりを狩ろうと思っていたんだが」
「ゴブリン肉も食べたいけど、せっかくだからガーネットウールをちゃんと味わいたいかな。あの時、羊肉って感覚しかなかったし」

 オレの言葉を聞いて、サディエルはアルムとリレルに視線を向ける。
 2人は小さく笑って頷く。

「それじゃあアルム、さくっと狩るか」
「だな。リレル、スカーティングを頼む。アンファーグルに戻った時に、あの洋服屋に押し付けよう」
「略礼服を安価で貸して頂きましたものね。良いと思いますよ」

 そう言うと、サディエルとアルムが意気揚々とガーネットウールに近づく。
 あの時と同じように、アルムが水の魔術で周囲に疑似的な雨を降らせて、距離を詰める。

 水を浴びたガーネットウールが、ブルブルと毛についた水を飛ばしている間に、手際よく地面に仰向けで押さえつけた。
 アルムは両足を抑えているうちに、サディエルはナイフを取り出して腹をさくっと斬り、手を突っ込んで何かと引っ張る。
 すると、ガーネットウールは何度かびくんと跳ねたと思ったら、僅かに手足を痙攣させるだけで動かなくなった。

「相変わらず、見事なお手前で」
「ですね。さっ、解体のお手伝いといたしましょう」

 リレルの言葉に頷いて、オレたちはサディエルとアルムの元へ行く。
 2人は慣れた手つきで毛を刈って、近づいてきたリレルに手渡した。

「ヒロト、解体やってみるか?」
「やってみる!……のはいいんだけど、どうするの?」
「まずは内臓を取り出すから。お腹をもうちょい裂いてくれ」

 ガーネットウールに黙祷を捧げてから、オレはサディエルに指示に従ってナイフを操る。
 本当に血とかがブシャー、って飛び出さないんだよな、この解体方法は。
 順調に解体を行い、必要な肉と毛、角だけを持って、あとはその場に放置。
 この周辺の魔物たちが勝手に食べてくれるだろう。

 少しだけ重量が増えた荷袋を持ちながら歩くと……やっと覚えがある場所が見えた。

 そう、あの洞窟遺跡の入り口である。
 洞窟の入り口で、以前と同じように焚火を準備して、串刺しにしたガーネットウールの肉を焼いていく。
 十分に焼きあがったところで、必要な本数を各自に分配し……

「さて、いただきまーす!」
「「「頂きます」」」

 合掌した後、オレたちはかぶりつく。

 んー……やっぱり美味しい!
 あの時は魔物の肉なんてって印象が抜けきれなくて、ここまで味わっていなかったわけだが、やっぱり損しまくったな。

「美味しそうだね、ヒロト兄ちゃん。俺にも1つちょーだい」
「頂きます」

 すると、両脇から手が伸びてきて、オレの取り分から2本の肉が一瞬で消え去った。
 急な展開に硬直していると、サディエルたちがオレの後方にいる人物を見て、驚きの声を上げる。

「カインさん!?」
「魔王!?」

「どうしてこちらに……あ、ミルフェリアさん、クッキーありがとうございました。とても美味しかったです」
「いえ、喜んで頂けて嬉しいです。ご丁寧にありがとうございます、リレル様」

 オレがゆっくりと視線を後ろに向けると、美味しそうに肉を頬張っているカイン君とミリィちゃん……訂正、魔王カイレスティンと、その妃のミルフェリアが居た。
 あの、あのさ……

「オレの大事な肉、取らないでくれる!? と言うか、ここに来たのってやっぱり……」
「ん? 言っただろ、ガランドを核にして、洞窟遺跡に到着するまでは顔を出ださないって。つーか、その核の魔力をどうやって扱う気だったんだよ」

「あ、そうか。ガランドの核って元々はカイン君の魔力だから……」
「魔力の元である俺がいないとダメってこと。他人の魔力はそう簡単に扱えないんだから、ヒロト兄ちゃんを元に戻すための魔法陣を動作するのは、俺の役目ってわけ」

 ご馳走様、と両手を合わせてカイン君は言った……って!

「オレの肉ー!? ちょ、いつの間に全部食べた!?」
「転移の事前報酬ってことで。いやぁ、美味しかったー!」
「ご馳走様でした」

 しれっとミリィちゃんも!
 半泣きになっているオレに、サディエルが無言で自分の肉を差し出してきた。

「ヒロト、俺の分を食べろ……いつぞやのサンドイッチのお礼だ」
「うぅ……ありがとう、サディエル」

 彼の分を受け取って、オレはパクリと食べる。
 やばい、味が一気に分からなくなった。
 最後の最後で残念な気分になりながらも食べ終えたオレたちを確認すると、カイン君はこほん、と咳払いをする。

「うし、全員食べ終わった? 終わったね、終わったてことで、さくっと魔法陣の間に行くよ」

 こちらの返答をミリも聞かず、彼がパチンと指を鳴らした瞬間、視界が一瞬揺れる。
 無意識で瞬きをすると、目の前の光景が一変し……あの魔法陣の間にオレたちは立っていた。

「はい、到着ー!」
「……移動の手間が省けて助かったっつーか、なんつーか」
「道中の魔物も面倒だからね。この部屋なら、魔法陣の影響であいつらも近づいてこないから」

 この世界に召喚された直後、うっかり大声出してしまった時に魔物が来なかったのは、そう言う理由だったのか。
 そうだよな、本来であれば魔物が来てもおかしくなかったわけだし。
 実際、サディエルたちが大慌てで襲撃警戒した記憶が蘇る……

「サディエル君、核を」
「あ、はい。えーっと、これです」

 カイン君に促され、サディエルは慌てて荷袋から小さい小箱を取り出した。
 その箱を開けて、中の保管していたガランドの核をカイン君へ手渡す。

「ありがと。転移の準備を始めるから、ヒロト兄ちゃんは着替えとか、やるべきことをやっといて」
「分かった、ありがとうカイン君」

 お言葉に甘えさせてもらって、オレは荷袋から制服を取り出す。
 部屋の隅でサディエルとアルムに布を持って貰い、簡易的な更衣室状態にしてから、これまでお世話になった旅服を脱ぎ、制服に着替える。

 約5か月と半分ぐらいぶりの制服は、何とも懐かしくむず痒い。

「あ、そう言えばカインさん。この痣、結局何なんですか?」

 オレの着替えを待っている間に、サディエルが自身の首元を指さしながら問いかける。

「それは痣を付けた魔族を倒した場合にだけ現れる奴だよ。いわば、討伐報酬? 他の魔族からも今後狙われたら、たまったもんじゃないだろうからさ。こいつに手を出すなって証明書みたいなもんだよ」

「つーことは、サディエルは今後、魔族には狙われないと」
「そういうことだよ、気難し屋軍師の一番弟子アルム。まぁそれ以前に、サディエル君は俺のお気に入りだから、痣が無くても他の魔族たちには釘刺していたけどね」
「……何と言うか、頼もしいお言葉ですね」

 なるほど、妙に安全色な痣になっていたのはそう言う事か。
 あと、シレっとお気に入り認定されたよサディエル。
 オレもされているだろうけど。

 制服に破れがないか、変な場所がないかを最終確認し、オレは簡易的な更衣室から出る。
 それに気が付いたサディエルたちがこちらを向くと

「おっ、懐かしいなその姿」
「あー、そんな感じだったな。そう言えば」
「ふふっ、その恰好も似合っていますよ、ヒロト」

 オレの恰好を見て、懐かしむような表情を浮かべた。
 3人と初めて出会った時の姿だもんな。

「えっへへ……どう? オレの世界の制服夏バージョン。今、在籍している高校のものなんだ」
「学校ごとに違うのか?」
「そうだよ。ブレザーとか学ラン……って、言ってもあれか。学校毎にデザインが異なるよ」

 最後にネクタイを締めながら答える。
 これで準備よしっと。

「カイン君、準備いいよ」
「え? お別れの挨拶は?」
「もう済ませてある」

「えー……せっかく、漫画やアニメみたいな感動のお別れシーンを見られると思ったのに。ヒロト兄ちゃんのいじわるー」
「そう言うと思ったのもあるから、先に済ませたんだよ。カイン君とミリィちゃんの前で、どんな羞恥プレイだ」

 面白くなーい、とふくれっ面の魔王様。
 カイン君、一応不老不死とは言えオレより年齢上なんだからさ……

「終わっているなら、仕方ないか。元の世界の荷物で忘れ物はない?」
「身1つで来たから、制服以外はないよ。この世界での私物は、サディエルたちに任せてあるし」

 既にアンファーグルで不要なものは一通り処分はしてある。

 残っているのは、旅服と、剣とナイフ、マジーア・ペンタグラムと、何故かサディエルが残してくれと懇願した、旅の間愛用していたオレのノート類一式ぐらいだ。
 服は適当に売って貰って、剣とナイフはガランドとの戦闘でまーた損失したサディエルが使ってくれればいい。

「オッケー。じゃあまず、マジーア・ペンタグラムを貸して」
「え? 何で」
「一応、保険」

 オレは首を傾げながら、荷袋からマジーア・ペンタグラムを取り出してカイン君に渡す。
 受け取ったマジーア・ペンタグラムに対して、カイン君は何かの魔術を放つと、一瞬だけペンダントが淡く光った。

「これでよし。はい、これ持って魔法陣の上に立ってね」
「それだと、マジーア・ペンタグラムまで持ち帰る事になるけど」
「それでいいんだよ。それには、万が一の保険を付与した。具体的に説明すると、元の世界に戻った際に、君の知っている年代じゃなかった場合に、ココに戻って来られるように、だね」

 戻って来られるって……
 その言葉を聞いて、ハタと思い出す。

 そうだ、一応カイン君の実体験として、"この世界に滞在した日数分だけ、元の世界でも同じ日数が進んだ地点に戻る" ことになるはずだ。
 だけど、あくまでもそのサンプルはカイン君の1件のみ。

 万が一にでも、オレが元の世界に戻って、そこが数十年後とか、逆に数十年前に行ってしまった場合の為の保険なのか。

「君が元の世界に戻って3日後に自動発動するようになっている。間違いなく、君が生きるべき世界、生きるべき時間に戻ったことを確認出来たら、そのペンダントの宝石を1つ割って欲しい」
「割るって……宝石だよ?」
「簡単に割れるように細工したよ。ペンダントを光らせてみて」

 カイン君の言葉に従って、オレはマジーア・ペンタグラムに対して、"光れ" と命じる。
 五芒星が描かれているペンダントは、いつもなら4つしか光らないはずが、今は "5つ" 全てが光っていた。

 普段は光らない1つの色が、少しおかしい。

「この色がおかしい奴を、ぐっ、と指で押さえれば壊れるから。んで、サディエル君たちにはこっち」

 カイン君は懐から雫のような形のペンダントを取り出すと、それをサディエルに手渡す。

「これが壊れたら、ヒロト兄ちゃんは無事帰還出来たって分かるよ。逆に壊れなかったら3日後にこの魔法陣に再出現する。その時、君らも自動的に転移して、合流出来るようにしたから」
「至れり尽くせりで……ありがとうございます、カインさん」

「気にしない気にしない。言っただろ、俺にとっても吹っ切れる為だって。いつまでも未練がましくて恥ずかしいけど、まっ、そこは勘弁してね」
「そんなカイン様も素敵ですよ」
「ありがとうミリィ。んで、本当にお別れは良いの?」

 カイン君の問いかけに、オレたちは迷いなく頷く。
 その為に、もうお別れを済ませたんだ。

 最後は笑顔で。
 それが、オレたちの約束だ。

「分かった。それじゃあ始めるね」

 カイン君は、ガランドの核を高々と投げる。
 魔法陣の中心に到達すると、核はパリンと割れて青い光が降り注ぐ。

 同時に、魔法陣が光り始める。

 オレは光を消したマジーア・ペンタグラムを首にかけ、制服の下へ忍ばせた後、魔法陣の上に立つ。
 まずは……と、カイン君とミリィちゃんに視線を向ける。

「カイン君、本当にありがとう。ミリィちゃんも」

「いいのいいの。受験頑張ってね、ヒロト兄ちゃん」
「貴方様の人生に、祝福あらんことを」

 カイン君はいつも通りの不敵な笑顔で。
 ミリィちゃんは深々と頭を下げつつも、見覚えのある穏やかな笑顔で返してくれる。

 オレはそのまま、サディエルたちに視線を向けた。

「サディエル」
「あぁ」

「アルム」
「おう」

「リレル」
「はい」

「みんな、ありがとう! 元気で!」
「ヒロトもな!」
「お互い、しっかり頑張ろう」
「健康には気を付けて!」

 精いっぱい、みんなに向かって手を振る。
 サディエルたちも同じように手を振ってくれたと思った瞬間、視界が暗転した。

 ―――ガララ!!

 次の瞬間、痛みと共に懐かしくも見覚えがある天井が見えた。

「ここ……さっむ!!」

 オレは思わず両手で自分の腕をさする。
 しまった、時期的にはこっち冬じゃん! 夏服でいるわけだから、寒すぎる!

 寒さに耐えながらも、オレは必死に周囲を確認する。

 うん、オレが通っている学校で間違いない。
 クラスメイトがいないと言うか、静かだな……えーと……そうだ、今日で161日目だから時期的には12月末頃? クリスマス近辺?

「どっちにしろ、先生たちが居ないかを……」

「おい、凄い音が聞こえたが誰だ!? このクラスは3年クラスで今は自主登校………嵯峨崎さがさき!?」

 先ほどの音を聞きつけた学校の先生が、教室のドアを開ける。
 そして、オレの姿を確認し……一瞬硬直したものの、すぐに廊下に向かって叫びだす。

「先生方! 嵯峨崎が、嵯峨崎が居ます!」

 オレが何か言い終えるよりも先に、先生が飛び出していった。

 それからが大変だった。
 そりゃそうだ、半年近く行方不明だった生徒が突然教室に出現していたわけで。
 両親も学校に呼ばれててんやわんや。

 両親に泣かれ、姉ちゃんにも泣かれ、先生たちにも泣かれて怒られてと……いやはい、ごめんなさい、オレのせいじゃないんだけどさ。

 ふらふらになりながら自宅に戻った頃には、夜の8時過ぎだった。

「博人、とにかく今日はまず休みなさい。明日は警察にも説明しないといけないんだし」
「はーい……わかったよ母さん」

「あんたね、散々心配させといてもー!」
「ごめんって姉ちゃん。あ、大学入学共通テストの申し込みありがとう、助かったよ」

「美紀の大学受験経験がなかったら、危うく忘れる所だったがな。はぁぁ……お前が第一子じゃなかったことを今日ほど感謝したことはないぞ」
「父さんもごめん、心配かけて」

 必死に両親や姉に謝りながら、オレは自室へ戻る。
 約半年ぶりの自室は、母さんが定期的に掃除してくれていたのか、綺麗な状態だった。
 机の上にあるスマホを手に取り、充電しながら電源を入れると……オレが異世界に居た161日がしっかり経過した日付が表示される。

 パスワードを入力してホーム画面を開くと、うわぁ……SNSにも電話にも凄い着信履歴。
 とりあえずSNSを開き、一番の親友のログを確認すると音速でメッセージが飛んできた。
 恐らく、既読がついたのに気が付いたのだろう。

【おい、博人!? 博人なのか!?】
【あー、久しぶり修哉しゅうや。色々あって帰って来た】
【色々って省きすぎだアホ! というか、本人だよな!? あー、明日おまえん家行くからな!? 首洗って待ってろ!?】
【首って、オレ殺されるのかよ】

 あ、怒りのスタンプが飛んできた、しかもめっちゃ乱打されている。
 これ以上は火に油になりかねないと、オレは無言でアプリを閉じた。

 うん、日付は大丈夫。
 皆もオレのことをちゃんとヒロトだって認識してくれた。

 間違いなく、元の世界……オレが生きるべき世界だ。

 オレは首にかけていたマジーア・ペンタグラムを取り出す。

「……サディエル、アルム、リレル」

 ゆっくりと、壊すべき宝石に指を置きながら、3人の名前を呟く。
 脳裏に、皆の笑顔が浮かんだ。

 ツンと、鼻の奥が痛くなり……頬に涙が流れる。

「ありがとう……さようなら……」

 指に力を込めると、カイン君の言葉通り宝石はあっさりと砕けた。
 まるで最初から無かったかのように、宝石が消え去ったのを確認し、オレは膝から崩れ落ちる。

「今なら……今だけは、泣いて……いいよね……みんな……」

 ありがとう、さようなら。
 オレの大切な……

========================

 ―――パキン!

 カインの転移により、アンファーグルに戻っていたサディエルたちは、ふいに聞こえた破裂音に顔を上げる。
 3人の視線が、サディエルの手の中にあった雫のような形のペンダントに注がれた。

 すると、それは跡形もなく破壊され、ゆっくりと消え去ていく。

「……そうか。ヒロト、無事に戻れたんだな」
「みたいだな。これで、僕らの今回の目標も無事達成ってわけか……おい、リレル、泣くなよ」

「だって……だって……泣かないって、笑顔でお別れするって……決めていたんですよ……いいじゃないですか! もう泣いても……! 約束は守っております……!」

 必死に涙を拭うリレルを見て、サディエルとアルムの目にも涙が溜まる。
 それを振り払うように、サディエルは立ち上がり、部屋に備え付けられていたコップと購入しておいたワインを取り出し、人数分を注ぐ。

 アルムとリレルにコップを渡して、自身の分を掲げる。

「乾杯するか。ヒロトが無事に戻れたこと、これから頑張るアイツへのエールと、俺らの明日からの旅路を祈って」
「……いいな、そうするか」
「……はい。そうしましょう……」

 3人は互いのコップを、カツンと小さくぶつけ合い、ゆっくりと飲み干す。

「頑張れよ、ヒロト。俺らも頑張るからさ」
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