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最終章 冒険者5~6か月目
最終話 伝えたいのは、まだ出会わぬ誰かで、未来の自分
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―――異世界から戻って、3か月と少しが経った、4月上旬。
あの後も、オレは何かと慌ただしい日々を送ることになった。
半年近くも行方不明だったわけだから、まず警察行って行方不明者届の取り下げとか、心配かけてた皆さんへのご挨拶とかね。
大事になってないのかよ! って、思ったんだけど……オレぐらいの年齢だと誘拐や事件に巻き込まれたと言うよりは、自主的な家出の路線の方が強い上に、時期が時期な為、受験に嫌気がさしてってパターンが結構あるそうだ。
今回、オレは完全にその路線で処理された、と言うよりはその流れに乗っかった。
異世界に半年近く行ってました!……と、言えると思う?
ただでさえ心配させているのに、輪を掛けて頭も心配させた上で、病院へGOだ。
なお、親友である修哉に冗談半分で言ってみはしたよ。
「修哉。実はオレ、異世界に行っていたんだ」
「………おい博人、おれはお前を心配してわざわざ朝一にやって来たってのに。人の事を馬鹿にするなら帰るぞ」
「冗談だって、ごめん、本当にごめん。だからノート貸して!」
こんな感じであった。うん、そりゃそうだよな。
それにしても、てっきり、全国区までは行かなくても地方ニュースでドデーンと自分の顔映って行方不明です! みたいなことになっているのかと思ったけど、警察官の人曰く『毎年8万近い行方不明者がいるし、事件性が低そうな内容はそこまで話題にならない』ってさ。
むしろ、毎年それだけ行方不明者がいたことの方がオレはびっくりしたよ……
あれだな、その行方不明者の中に1人や2人、異世界に旅立った人が居ても不思議じゃねーわな、って現実逃避のヤケクソ気味に思ったのも、今となっては懐かしい帰還直後の想い出である。
そんなこんなで、あっちこっちにご心配おかけしました行幸を終えた後は、受験勉強を必死にやることになった。
幸い、異世界でも受験勉強を続けていたお陰で、思ったよりもブランクなく受験戦争へ復帰。
見事、志望校への合格をゲットすることが出来た。
合格発表の日、マジーア・ペンタグラムをお守り代わりに、自分の番号を確認した時は……本当に緊張したよ。
そして今日、オレは大学生活の初日を迎えた。
「桜が綺麗だな」
真新しいスーツで身を包みながら、オレは先日から1人暮らしを始めたアパートを出て、最寄りの地下鉄駅までの道を歩きながら、都会の景色を満喫する。
高校までの友人たちも、それぞれ別の大学や専門へ進学している為、ぼっちでの通学は初めてだな。
まっ、修哉は地区が違うだけで同じ都内の大学だし、休日に会うことぐらいは出来るだろう。
あいつとは山登りの約束もしているからな。
……山登りをやってみたいって伝えたら、何事かと疑問符と共に疑いの目を向けられたけど。
さーて、大学生活なにやろうかな。
勉強は当然として、修哉と山登りだろ、あーそうだ、姉ちゃんがGWに遊びに来るって言っていたから執事喫茶に同伴してってお願いしてみようかな。
メイドじゃないのかって言われそうだけど。
部活もしくはサークルもどうしよう、剣道とか、アーチェリーあたりも気になるし、空手とか柔道の試合も見に行きたいな、ほら、船旅で気になってたからさ。
うん、やりたいことが山積みだ。
(……異世界に行く前は、とりあえず大学進学だって漠然としていただけだったのにな)
それもこれも、サディエルたちの影響なんだろうな。
1人で思い出し笑いしながら、地下鉄へと続く階段を下りる。
改札口を通り、大学の最寄り駅に繋がる路線に移動し、そのホームでのんびりと電車を待つ。
少し暇になったのでスマホを取り出し、何か適当なソシャゲで暇つぶしでも……と、思ったその時だった。
『今度の3番線の電車は、8時42分発……』
「きゃああああ!?」
ホームのアナウンスに被さるように、女性の悲鳴が響く。
慌ててその方向を見ると、1人の男性が泡を吹いて倒れているのが見えた。
よく見ると、痙攣している?
(いや、そんなことよりも……!)
オレはスマホを鞄にしまい、倒れた男性の元へと向かう。
人込みを掻き分けて男性の元へと駆け寄り、自身の荷物を降ろしてから、彼の肩を軽く叩く。
「大丈夫ですか!?」
「………」
ダメだな、反応が無い。
症状は……白目を向いて痙攣状態か。
この症状が何を意味するかは分からないけど、とにかく今のままだと呼吸が出来なくなるから、まずは……!
オレはゆっくりと男性を横にして、気道を確保する。
仰向けのままだと、自分自身の泡で窒息しかねない。
(気道確保が終わったら……そうだ、首元を少しでも緩めて呼吸が楽になるようにして……)
必死にリレルから教わった応急処置を思い出しながら、オレは男性のシャツのボタンを少し外す。
次は、えっと……落ち着け、ゆっくりと慌てずに……
「頭を打ったか、確認しました!?」
そこに、聞き覚えの無い声が響いた。
声の方向を見ると、立往生して動かない人混みを掻き分け、オレと同い年ぐらいの女の子が駆け寄ってきた。
彼女の姿が、全く別人だし、見た目も声も全く違うのに、一瞬……誰かとダブった。
「―――リレル?」
「頭を打ったかどうかの確認、しましたか!?」
「え? あ、いや、まだ」
「分かった。貴方はそのまま声を掛け続けて、私が確認する。それから……そこの眼鏡のサラリーマンさん!」
ビシッ! と彼女は近くに居た眼鏡のサラリーマンを指さす。
いきなり指さされた人物は、びくりと驚いて
「は、はいぃ!?」
少しばかり素っ頓狂な声を上げる。
「すぐに駅員さんに急患が居る事を伝えてきてください、救急車の手配も! 急いで!」
「わ、わかった!」
彼女の言葉に従って、眼鏡のサラリーマンは慌てて改札口へと走っていった。
その間に、彼女は倒れた男性の頭を確認していき……
「うん、頭は打ってなさそう。後は少しでも保温を」
自身のカーディガンを脱いで、倒れた男性にかける。
それを見て、オレも慌てて自分のスーツを脱いで同じようにかけた。
「……症状としては、てんかん発作かな。あとは医療機関に搬送をして貰わないとだけど、今からだと7分ぐらい掛かるわね。それまでに痙攣が納まてくれればいいんだけど」
「他に、他に何か出来る事は?」
「これ以上はさすがにないわ。あとは専門に任せた方がいいし、容体が急変しないかだけを……」
「こっちです! 駅員さん!」
彼女が説明を終えるよりも先に、別の声が響いた。
オレと彼女が視線をそちらに向けると、駅員さんを連れて走って来る、同い年ぐらいの……
「―――アルム?」
その人物は、隣に居る彼女と同じ、全く別人だし、見た目も声も全く違う。
だけど……だけど、一瞬だけブレた。
「あぁ、案内ありがとう! 3番線で体調不良1名、状態は……」
駅員さんが無線で何かを連絡している。
その間に、彼はオレたちに近づいてく来て……
「うわ、手際良いな。2人とも医学生?」
「オレは、違う」
「私は一応そうですが……もしかして、駅員さんを呼んできてくれたの?」
「あぁ。ホームに降りた途端悲鳴が聞こえて、倒れている人が見えてさ。慌てて引き返して駅員さんに連絡したんだ。救急車も一緒に呼んだからもうすぐ来るはずだ」
あー、さっきの眼鏡のサラリーマンさん、動き損になっちゃったのか。
そんな事を思っていると、タンカーを持った救急隊員がこちらまで駆け寄ってきた。
大急ぎでタンカーに痙攣した男性を乗せ、オレたちにはいつ頃から、どれぐらいの時間痙攣していたのか、怪我の程度などの確認を取って来る。
そこまで気にしていなかったオレが慌てていると、一緒にいた彼女がスラスラと覚えている範囲の情報を救急隊員に伝えていく。
一通りの確認を終えて、オレたちに上着とカーディガンを返しながら、救急隊員さんたちは大急ぎで男性を運んで行った。
それを見届けて、オレたちはようやくひと段落。
安堵のため息を吐きながらも、オレはちらりと2人を見る。
もしかして……もしかしなくても、この2人は……
僅かな可能性が脳裏を過る。
そうだよ、オレとサディエルが『縁ある者』同士だったんだ。
それなら……この2人が、アルムとリレルの『縁ある者』である可能性が……!
「あ、あのさ……!」
「ああああ!? そうだ、早く学校に行かないと! 入学式に遅れる!」
「うわっ、もう9時11分!? 嘘だろ、受付まであと30分しかないのに、ここからだとギリギリ!?」
オレが声をかけるよりも早く、彼女がスマホの時間を確認して悲鳴を上げる。
それにつられるように、彼も自身の腕時計を見て慌てた。
9時……なんだって!?
やばい、オレも大学の入学式の受付が30分切ってる!?
まてまて、ここから4駅先で、最寄りの出口から出ても数分かかる。
しかも入学式が行われる会場をそこから探さないとだから……時間ギリギリってレベルじゃない!
『まもなく3番線に、9時13分発……』
「と、とりあえず、電車に乗ろう!?」
「そうね」
「そうだな!」
ホームに入って来た電車に、オレたち3人は飛び乗る。
平日で通勤ラッシュ時間帯を僅かばかり過ぎたタイミングのお陰で、電車の中は比較的空いていた。
まずはホッと一息つき、近くの椅子に座る。
「1駅だいたい2~3分ぐらいだよね、地下鉄って……うわぁ、入学式に遅刻ギリギリかも」
「お前も入学式か? つーことは、2人とも1年か」
「あら、貴方もそうじゃないの? 受付がどうこうって……」
「あぁ、4駅先にある大学に今日入学するんだ」
……ん?
4駅先の、大学?
「奇遇ね、私も4駅先にある大学に入学するわよ」
あれ、それって……
確か、あの周辺の大学って1つしかないわけで。
「オレも、なんだけど……もしかして、みんな同じ大学の新入生だったり?」
オレの言葉を聞いて、2人は驚いた表情を浮かべる。
しばしの沈黙と、次の駅に到着するアナウンスが流れ始めた。
ややあって、誰からともなく吹き出し……
「「「あっははははは!」」」
3人同時に笑いだす。
だけど、すぐに周囲の人たちから睨まれて口を塞ぐ。
口を押えながらも、笑いが抑えきれず、オレたちは微笑む。
「なぁ、2人とも、これも何かの縁だからさ、良かったら友達にならない?」
「人命救助の縁? 面白いわね」
「ははっ、確かにおもしれーな」
そう言いながら、オレたちは握手を交わす。
「オレ、嵯峨崎 博人。教養学部の1年だ」
「朝倉 学だ。法学部の1年」
「理上 佳奈よ。医学部の1年になるわ」
握手を交わし、ついでにスマホでSNSの番号を交換。
そうこうしている間に、目的の駅に到着して、オレたちは連れ立って電車を降りる。
その頃には、入学式の遅刻どうこうが……ぶっちゃけ、どうでもよくなってしまった。
「2人とも、入学式に遅刻したこと、一緒に怒られに行かない?」
「いいな、賛成」
「怒られるんじゃなくて、立派な人命救助をしたって所を強調しましょう。なんだったら駅員さんに供述して貰って」
そんな会話を交わしながら、オレたちは大学へと向かう。
あぁ……今、すごく皆に会いたい。
会って、今日の事を話したい。
きっとみんな、すっごく驚くだろうな。だって、アルムとリレルの『縁ある者』の話なんだ。
こっそりと、オレは服の下に隠れているマジーア・ペンタグラムに触れる。
なぁ……サディエル、アルム、リレル。
オレ、元気にやっているよ。
========================
ヒロトが元の世界に戻って、早4か月。
サディエルたちは変わらず、冒険者として旅を続けていた。
目的地はエルフェル・ブルグ……の、はずなのだが、絶賛寄り道中。
彼らの中では、早々にエルフェル・ブルグに戻ると仕事の山に埋もれる事になるから、正式に復帰する前の最後の自由時間を存分に満喫してから帰ろう、と言う事で一致していた。
具体的には3年ぐらい諸国漫遊したい。
もちろん、バークライスからのお怒りは覚悟の上である。
そんな彼らの現在だが、古代遺跡の国に向かっている真っ最中。
先日まで、サディエルの故郷で骨休めをしていたのだが、アルム宛に彼の師匠に関する事項の連絡が来たことで、急遽移動することとなったのだ。
「おはよー……」
古代遺跡の国へ向かう途中にある小さな村の宿屋。
眠気眼のまま、サディエルは宿の食堂に姿を現す。
アルムとリレルは彼の姿を見て……揃って眉を潜めた。
「おはようサディエル……って、おい、寝ぼけていないか? 昨日何時まで起きてたんだよ……」
「危ないですよ、そんな状態で階段を下りたら……」
「ふぁぁ……ヒロトに残して貰ったノートの翻訳が全然進まなくて。これだったら、もっと勉強時間取っとくべきだったよ」
教えて貰ってない漢字ばっかりでさー、と欠伸をしながら席に着く。
リレルから渡されたメニュー表を見るも、今にも船を漕ぎだして夢の世界に旅立ちそうになっている。
「そのうち、机にぶっ倒れるんじゃないか?」
「サディエル、2度寝する前に朝食を決めてください。運ばれたら起こしますから」
「んー……」
2人の言葉もむなしく、ずるずるとサディエルは机に突っ伏す。
僅かに寝息が聞こえ始め……アルムとリレルはため息を吐いた。
「ダメだこりゃ」
「サディエル、起きてください!」
仕方なく、リレルは軽くサディエルの肩を揺する。
すると、小さいうめき声と共に僅かに彼の顔が上がる。
「………あれ、アルム? リレル?」
「完全に起きてないだろうが、朝食を選べ。その後ならいくらでも」
「アルムと、リレルだ…… "サディエル" は……あれ、いないのか」
きょろきょろと周囲を見回すサディエルに、アルムとリレルの動きが止まる。
「そっか……いないのか……残念。けど、2人が居るなら、サディエルに伝わるよな」
「? おい」
「どうしたんですか……?」
「……あのさ……アルム、リレル……あれからさ、オレ、ちゃんと大学受かったよ。それでさ、入学式の日に駅のホームで倒れた人を救助したんだ、リレルに教えて貰った通りにさ。そしたら……2人によく似た……いや、顔は全然違うし、髪の毛も、目の色も、声だって全く違うんだけど、どこか、2人に似てるやつらと出会って……」
2人は驚きの表情を浮かべる。
同時に、彼らの脳裏に1人の姿が浮かび上がった。
忘れるわけもない、彼らにとって大切なもう1人の……
「……お前」
「もしかして……」
「学も佳奈もめっちゃいい奴でさー……2人と喋ったり、遊んだりすると、みんなと一緒に居た時みたいで……でも、時々、そっちのことを思い出して、ちょっとだけ寂しくもなってさ……また、会いたいな。サディエルに……アルムに……リレル……に」
そこまで言い終わると、サディエルは再び机に顔をうずめた。
彼の寝息だけが、その場に静かに響く。
「……そっか、そうか。頑張ってるんだな、ヒロト」
「はい。元気そうで良かったです」
2人は苦笑いして、サディエルの頭を撫でる。
かつて、彼の頭を撫でた時と同じように。
「しっかし、これはどういうことだ? あっちの世界と一瞬繋がったとか?」
「それは無いと思います。もし、ありえるとしたら……サディエルの魂に、ヒロトの強い想いが残っていて、何かしらの拍子で顔を出した、あたりでしょうか」
「その理論で行くとだ……僕、結構絶望するんだが。ヒロトの奴、あの後どういう人生歩んだらこうなるんだ」
「そうですね。それに……マナブさんと、カナさん? でしたか。私とアルムの『縁ある者』みたいな口ぶりでしたね」
「前世からの付き合いってことかよ、僕ら……腐れ縁過ぎる」
「ふふっ、私たち、ずっと彼らに振り回されているってことですね」
アルムとリレルは、仕方ないと言わんばかりに笑う。
ひとしきり笑い終えた後、アルムは大きく深呼吸した後、
「さってと……起きろ! サディエル!!」
メニュー表を持って景気よくサディエルの頭をひっぱたいた。
「いって!? な、アルム!? 何でいきなり叩くんだよ!」
さすがに今のは痛かったのか、サディエルは頭を押さえながら抗議する。
先ほどまでの眠たそうな雰囲気は一切なく、完全に覚醒した状態だ。
「落ち着いてくださいサディエル。眠気覚ましのコーヒーをどうぞ」
「あぁ、ありがとうリレル……にっが!? 濃すぎないか!?」
リレルから受け取ったコーヒーを1口飲むと、その苦さからサディエルは眉をしかめる。
そんな彼の姿に、2人は笑いながら見ていると……
「……2人とも。何か良い事でもあったか? 妙に機嫌良いみたいだけど」
「ん? あとで教えてやるよ」
「はい、後で教えます。とりあえず、朝食を食べましょう」
「今教えてくれたっていいじゃん、ったく」
――――最終章 冒険者5~6か月目【未来の自分への言伝】 完
◇あとがき◇
ここまで本作品をお読み頂きありがとうございます。
今回を持ちまして、『オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい』の本編は完結となります。
この後は、3つほどの外伝小話(ヒロトと今回出てきた彼らとの話、カインに関する話、サディエルに関する話)を更新しますので、もうしばらくお付き合い頂けると嬉しい限りです。
特にカインとサディエルの話は、本筋と関係が無いと言う理由であえて入れなかった話題となります。
あの後も、オレは何かと慌ただしい日々を送ることになった。
半年近くも行方不明だったわけだから、まず警察行って行方不明者届の取り下げとか、心配かけてた皆さんへのご挨拶とかね。
大事になってないのかよ! って、思ったんだけど……オレぐらいの年齢だと誘拐や事件に巻き込まれたと言うよりは、自主的な家出の路線の方が強い上に、時期が時期な為、受験に嫌気がさしてってパターンが結構あるそうだ。
今回、オレは完全にその路線で処理された、と言うよりはその流れに乗っかった。
異世界に半年近く行ってました!……と、言えると思う?
ただでさえ心配させているのに、輪を掛けて頭も心配させた上で、病院へGOだ。
なお、親友である修哉に冗談半分で言ってみはしたよ。
「修哉。実はオレ、異世界に行っていたんだ」
「………おい博人、おれはお前を心配してわざわざ朝一にやって来たってのに。人の事を馬鹿にするなら帰るぞ」
「冗談だって、ごめん、本当にごめん。だからノート貸して!」
こんな感じであった。うん、そりゃそうだよな。
それにしても、てっきり、全国区までは行かなくても地方ニュースでドデーンと自分の顔映って行方不明です! みたいなことになっているのかと思ったけど、警察官の人曰く『毎年8万近い行方不明者がいるし、事件性が低そうな内容はそこまで話題にならない』ってさ。
むしろ、毎年それだけ行方不明者がいたことの方がオレはびっくりしたよ……
あれだな、その行方不明者の中に1人や2人、異世界に旅立った人が居ても不思議じゃねーわな、って現実逃避のヤケクソ気味に思ったのも、今となっては懐かしい帰還直後の想い出である。
そんなこんなで、あっちこっちにご心配おかけしました行幸を終えた後は、受験勉強を必死にやることになった。
幸い、異世界でも受験勉強を続けていたお陰で、思ったよりもブランクなく受験戦争へ復帰。
見事、志望校への合格をゲットすることが出来た。
合格発表の日、マジーア・ペンタグラムをお守り代わりに、自分の番号を確認した時は……本当に緊張したよ。
そして今日、オレは大学生活の初日を迎えた。
「桜が綺麗だな」
真新しいスーツで身を包みながら、オレは先日から1人暮らしを始めたアパートを出て、最寄りの地下鉄駅までの道を歩きながら、都会の景色を満喫する。
高校までの友人たちも、それぞれ別の大学や専門へ進学している為、ぼっちでの通学は初めてだな。
まっ、修哉は地区が違うだけで同じ都内の大学だし、休日に会うことぐらいは出来るだろう。
あいつとは山登りの約束もしているからな。
……山登りをやってみたいって伝えたら、何事かと疑問符と共に疑いの目を向けられたけど。
さーて、大学生活なにやろうかな。
勉強は当然として、修哉と山登りだろ、あーそうだ、姉ちゃんがGWに遊びに来るって言っていたから執事喫茶に同伴してってお願いしてみようかな。
メイドじゃないのかって言われそうだけど。
部活もしくはサークルもどうしよう、剣道とか、アーチェリーあたりも気になるし、空手とか柔道の試合も見に行きたいな、ほら、船旅で気になってたからさ。
うん、やりたいことが山積みだ。
(……異世界に行く前は、とりあえず大学進学だって漠然としていただけだったのにな)
それもこれも、サディエルたちの影響なんだろうな。
1人で思い出し笑いしながら、地下鉄へと続く階段を下りる。
改札口を通り、大学の最寄り駅に繋がる路線に移動し、そのホームでのんびりと電車を待つ。
少し暇になったのでスマホを取り出し、何か適当なソシャゲで暇つぶしでも……と、思ったその時だった。
『今度の3番線の電車は、8時42分発……』
「きゃああああ!?」
ホームのアナウンスに被さるように、女性の悲鳴が響く。
慌ててその方向を見ると、1人の男性が泡を吹いて倒れているのが見えた。
よく見ると、痙攣している?
(いや、そんなことよりも……!)
オレはスマホを鞄にしまい、倒れた男性の元へと向かう。
人込みを掻き分けて男性の元へと駆け寄り、自身の荷物を降ろしてから、彼の肩を軽く叩く。
「大丈夫ですか!?」
「………」
ダメだな、反応が無い。
症状は……白目を向いて痙攣状態か。
この症状が何を意味するかは分からないけど、とにかく今のままだと呼吸が出来なくなるから、まずは……!
オレはゆっくりと男性を横にして、気道を確保する。
仰向けのままだと、自分自身の泡で窒息しかねない。
(気道確保が終わったら……そうだ、首元を少しでも緩めて呼吸が楽になるようにして……)
必死にリレルから教わった応急処置を思い出しながら、オレは男性のシャツのボタンを少し外す。
次は、えっと……落ち着け、ゆっくりと慌てずに……
「頭を打ったか、確認しました!?」
そこに、聞き覚えの無い声が響いた。
声の方向を見ると、立往生して動かない人混みを掻き分け、オレと同い年ぐらいの女の子が駆け寄ってきた。
彼女の姿が、全く別人だし、見た目も声も全く違うのに、一瞬……誰かとダブった。
「―――リレル?」
「頭を打ったかどうかの確認、しましたか!?」
「え? あ、いや、まだ」
「分かった。貴方はそのまま声を掛け続けて、私が確認する。それから……そこの眼鏡のサラリーマンさん!」
ビシッ! と彼女は近くに居た眼鏡のサラリーマンを指さす。
いきなり指さされた人物は、びくりと驚いて
「は、はいぃ!?」
少しばかり素っ頓狂な声を上げる。
「すぐに駅員さんに急患が居る事を伝えてきてください、救急車の手配も! 急いで!」
「わ、わかった!」
彼女の言葉に従って、眼鏡のサラリーマンは慌てて改札口へと走っていった。
その間に、彼女は倒れた男性の頭を確認していき……
「うん、頭は打ってなさそう。後は少しでも保温を」
自身のカーディガンを脱いで、倒れた男性にかける。
それを見て、オレも慌てて自分のスーツを脱いで同じようにかけた。
「……症状としては、てんかん発作かな。あとは医療機関に搬送をして貰わないとだけど、今からだと7分ぐらい掛かるわね。それまでに痙攣が納まてくれればいいんだけど」
「他に、他に何か出来る事は?」
「これ以上はさすがにないわ。あとは専門に任せた方がいいし、容体が急変しないかだけを……」
「こっちです! 駅員さん!」
彼女が説明を終えるよりも先に、別の声が響いた。
オレと彼女が視線をそちらに向けると、駅員さんを連れて走って来る、同い年ぐらいの……
「―――アルム?」
その人物は、隣に居る彼女と同じ、全く別人だし、見た目も声も全く違う。
だけど……だけど、一瞬だけブレた。
「あぁ、案内ありがとう! 3番線で体調不良1名、状態は……」
駅員さんが無線で何かを連絡している。
その間に、彼はオレたちに近づいてく来て……
「うわ、手際良いな。2人とも医学生?」
「オレは、違う」
「私は一応そうですが……もしかして、駅員さんを呼んできてくれたの?」
「あぁ。ホームに降りた途端悲鳴が聞こえて、倒れている人が見えてさ。慌てて引き返して駅員さんに連絡したんだ。救急車も一緒に呼んだからもうすぐ来るはずだ」
あー、さっきの眼鏡のサラリーマンさん、動き損になっちゃったのか。
そんな事を思っていると、タンカーを持った救急隊員がこちらまで駆け寄ってきた。
大急ぎでタンカーに痙攣した男性を乗せ、オレたちにはいつ頃から、どれぐらいの時間痙攣していたのか、怪我の程度などの確認を取って来る。
そこまで気にしていなかったオレが慌てていると、一緒にいた彼女がスラスラと覚えている範囲の情報を救急隊員に伝えていく。
一通りの確認を終えて、オレたちに上着とカーディガンを返しながら、救急隊員さんたちは大急ぎで男性を運んで行った。
それを見届けて、オレたちはようやくひと段落。
安堵のため息を吐きながらも、オレはちらりと2人を見る。
もしかして……もしかしなくても、この2人は……
僅かな可能性が脳裏を過る。
そうだよ、オレとサディエルが『縁ある者』同士だったんだ。
それなら……この2人が、アルムとリレルの『縁ある者』である可能性が……!
「あ、あのさ……!」
「ああああ!? そうだ、早く学校に行かないと! 入学式に遅れる!」
「うわっ、もう9時11分!? 嘘だろ、受付まであと30分しかないのに、ここからだとギリギリ!?」
オレが声をかけるよりも早く、彼女がスマホの時間を確認して悲鳴を上げる。
それにつられるように、彼も自身の腕時計を見て慌てた。
9時……なんだって!?
やばい、オレも大学の入学式の受付が30分切ってる!?
まてまて、ここから4駅先で、最寄りの出口から出ても数分かかる。
しかも入学式が行われる会場をそこから探さないとだから……時間ギリギリってレベルじゃない!
『まもなく3番線に、9時13分発……』
「と、とりあえず、電車に乗ろう!?」
「そうね」
「そうだな!」
ホームに入って来た電車に、オレたち3人は飛び乗る。
平日で通勤ラッシュ時間帯を僅かばかり過ぎたタイミングのお陰で、電車の中は比較的空いていた。
まずはホッと一息つき、近くの椅子に座る。
「1駅だいたい2~3分ぐらいだよね、地下鉄って……うわぁ、入学式に遅刻ギリギリかも」
「お前も入学式か? つーことは、2人とも1年か」
「あら、貴方もそうじゃないの? 受付がどうこうって……」
「あぁ、4駅先にある大学に今日入学するんだ」
……ん?
4駅先の、大学?
「奇遇ね、私も4駅先にある大学に入学するわよ」
あれ、それって……
確か、あの周辺の大学って1つしかないわけで。
「オレも、なんだけど……もしかして、みんな同じ大学の新入生だったり?」
オレの言葉を聞いて、2人は驚いた表情を浮かべる。
しばしの沈黙と、次の駅に到着するアナウンスが流れ始めた。
ややあって、誰からともなく吹き出し……
「「「あっははははは!」」」
3人同時に笑いだす。
だけど、すぐに周囲の人たちから睨まれて口を塞ぐ。
口を押えながらも、笑いが抑えきれず、オレたちは微笑む。
「なぁ、2人とも、これも何かの縁だからさ、良かったら友達にならない?」
「人命救助の縁? 面白いわね」
「ははっ、確かにおもしれーな」
そう言いながら、オレたちは握手を交わす。
「オレ、嵯峨崎 博人。教養学部の1年だ」
「朝倉 学だ。法学部の1年」
「理上 佳奈よ。医学部の1年になるわ」
握手を交わし、ついでにスマホでSNSの番号を交換。
そうこうしている間に、目的の駅に到着して、オレたちは連れ立って電車を降りる。
その頃には、入学式の遅刻どうこうが……ぶっちゃけ、どうでもよくなってしまった。
「2人とも、入学式に遅刻したこと、一緒に怒られに行かない?」
「いいな、賛成」
「怒られるんじゃなくて、立派な人命救助をしたって所を強調しましょう。なんだったら駅員さんに供述して貰って」
そんな会話を交わしながら、オレたちは大学へと向かう。
あぁ……今、すごく皆に会いたい。
会って、今日の事を話したい。
きっとみんな、すっごく驚くだろうな。だって、アルムとリレルの『縁ある者』の話なんだ。
こっそりと、オレは服の下に隠れているマジーア・ペンタグラムに触れる。
なぁ……サディエル、アルム、リレル。
オレ、元気にやっているよ。
========================
ヒロトが元の世界に戻って、早4か月。
サディエルたちは変わらず、冒険者として旅を続けていた。
目的地はエルフェル・ブルグ……の、はずなのだが、絶賛寄り道中。
彼らの中では、早々にエルフェル・ブルグに戻ると仕事の山に埋もれる事になるから、正式に復帰する前の最後の自由時間を存分に満喫してから帰ろう、と言う事で一致していた。
具体的には3年ぐらい諸国漫遊したい。
もちろん、バークライスからのお怒りは覚悟の上である。
そんな彼らの現在だが、古代遺跡の国に向かっている真っ最中。
先日まで、サディエルの故郷で骨休めをしていたのだが、アルム宛に彼の師匠に関する事項の連絡が来たことで、急遽移動することとなったのだ。
「おはよー……」
古代遺跡の国へ向かう途中にある小さな村の宿屋。
眠気眼のまま、サディエルは宿の食堂に姿を現す。
アルムとリレルは彼の姿を見て……揃って眉を潜めた。
「おはようサディエル……って、おい、寝ぼけていないか? 昨日何時まで起きてたんだよ……」
「危ないですよ、そんな状態で階段を下りたら……」
「ふぁぁ……ヒロトに残して貰ったノートの翻訳が全然進まなくて。これだったら、もっと勉強時間取っとくべきだったよ」
教えて貰ってない漢字ばっかりでさー、と欠伸をしながら席に着く。
リレルから渡されたメニュー表を見るも、今にも船を漕ぎだして夢の世界に旅立ちそうになっている。
「そのうち、机にぶっ倒れるんじゃないか?」
「サディエル、2度寝する前に朝食を決めてください。運ばれたら起こしますから」
「んー……」
2人の言葉もむなしく、ずるずるとサディエルは机に突っ伏す。
僅かに寝息が聞こえ始め……アルムとリレルはため息を吐いた。
「ダメだこりゃ」
「サディエル、起きてください!」
仕方なく、リレルは軽くサディエルの肩を揺する。
すると、小さいうめき声と共に僅かに彼の顔が上がる。
「………あれ、アルム? リレル?」
「完全に起きてないだろうが、朝食を選べ。その後ならいくらでも」
「アルムと、リレルだ…… "サディエル" は……あれ、いないのか」
きょろきょろと周囲を見回すサディエルに、アルムとリレルの動きが止まる。
「そっか……いないのか……残念。けど、2人が居るなら、サディエルに伝わるよな」
「? おい」
「どうしたんですか……?」
「……あのさ……アルム、リレル……あれからさ、オレ、ちゃんと大学受かったよ。それでさ、入学式の日に駅のホームで倒れた人を救助したんだ、リレルに教えて貰った通りにさ。そしたら……2人によく似た……いや、顔は全然違うし、髪の毛も、目の色も、声だって全く違うんだけど、どこか、2人に似てるやつらと出会って……」
2人は驚きの表情を浮かべる。
同時に、彼らの脳裏に1人の姿が浮かび上がった。
忘れるわけもない、彼らにとって大切なもう1人の……
「……お前」
「もしかして……」
「学も佳奈もめっちゃいい奴でさー……2人と喋ったり、遊んだりすると、みんなと一緒に居た時みたいで……でも、時々、そっちのことを思い出して、ちょっとだけ寂しくもなってさ……また、会いたいな。サディエルに……アルムに……リレル……に」
そこまで言い終わると、サディエルは再び机に顔をうずめた。
彼の寝息だけが、その場に静かに響く。
「……そっか、そうか。頑張ってるんだな、ヒロト」
「はい。元気そうで良かったです」
2人は苦笑いして、サディエルの頭を撫でる。
かつて、彼の頭を撫でた時と同じように。
「しっかし、これはどういうことだ? あっちの世界と一瞬繋がったとか?」
「それは無いと思います。もし、ありえるとしたら……サディエルの魂に、ヒロトの強い想いが残っていて、何かしらの拍子で顔を出した、あたりでしょうか」
「その理論で行くとだ……僕、結構絶望するんだが。ヒロトの奴、あの後どういう人生歩んだらこうなるんだ」
「そうですね。それに……マナブさんと、カナさん? でしたか。私とアルムの『縁ある者』みたいな口ぶりでしたね」
「前世からの付き合いってことかよ、僕ら……腐れ縁過ぎる」
「ふふっ、私たち、ずっと彼らに振り回されているってことですね」
アルムとリレルは、仕方ないと言わんばかりに笑う。
ひとしきり笑い終えた後、アルムは大きく深呼吸した後、
「さってと……起きろ! サディエル!!」
メニュー表を持って景気よくサディエルの頭をひっぱたいた。
「いって!? な、アルム!? 何でいきなり叩くんだよ!」
さすがに今のは痛かったのか、サディエルは頭を押さえながら抗議する。
先ほどまでの眠たそうな雰囲気は一切なく、完全に覚醒した状態だ。
「落ち着いてくださいサディエル。眠気覚ましのコーヒーをどうぞ」
「あぁ、ありがとうリレル……にっが!? 濃すぎないか!?」
リレルから受け取ったコーヒーを1口飲むと、その苦さからサディエルは眉をしかめる。
そんな彼の姿に、2人は笑いながら見ていると……
「……2人とも。何か良い事でもあったか? 妙に機嫌良いみたいだけど」
「ん? あとで教えてやるよ」
「はい、後で教えます。とりあえず、朝食を食べましょう」
「今教えてくれたっていいじゃん、ったく」
――――最終章 冒険者5~6か月目【未来の自分への言伝】 完
◇あとがき◇
ここまで本作品をお読み頂きありがとうございます。
今回を持ちまして、『オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい』の本編は完結となります。
この後は、3つほどの外伝小話(ヒロトと今回出てきた彼らとの話、カインに関する話、サディエルに関する話)を更新しますので、もうしばらくお付き合い頂けると嬉しい限りです。
特にカインとサディエルの話は、本筋と関係が無いと言う理由であえて入れなかった話題となります。
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