オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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外伝 過去と未来の断片集

外伝6-1 彼らの「きっかけ」【1】

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 ヒロトが異世界に召喚される5年ほど前。

(……どうしたもんか)

 サディエルは途方に暮れていた。
 目の前で静かに、「私はここに存在していません」、と言わんばかりの雰囲気で沈黙を保つ2人を見てである。

 サディエル、アルム、リレル。

 後に、ヒロトと共に旅をすることになる冒険者パーティの面々。
 これは、そんな彼らが今に至る『きっかけ』の物語である。

========================

 ―――数日前

「こんにちわ、バークライスさん。これ、良かったら食べてくださ……えっと、俺の、いります?」

 エルフェル・ブルグ内にある大病院をサディエルは訪れていた。

 目的は、バークライスのお見舞いである。
 果物が沢山入った籠を渡しつつ、サディエルはバークライスに声を掛けたが、彼の机の上に自分のモノより豪華な果物籠を見つけてしまい、一瞬、手を引きかける。

「気にするな。レックスから、と言うよりはクレイン殿からの分だ。比較するほうが間違いだから、渡しなさい」
「あ、はい。どうぞ」

 バークライスの心遣いに感謝しつつ、サディエルは果物籠を手渡した。

「それで、お怪我の方は?」
「心配ない。今は大事を取って、と言うよりは溜まった有給を消化する口実でこうやっているだけだ」

「その割には、書類の山が形成されているような……」
「他部署からあれこれ聞かれたり、緊急の打ち合わせが来ない分、自身の仕事が早く片付いて良いぞ」

 ベッド近くの椅子に座りながら、サディエルは苦笑いする。
 何とも笑顔で晴れ晴れと、それこそ気軽に仕事を進められると言わんばかりのバークライスの機嫌はすこぶる良い。

「そう言うお前は? 一番深手を負っていただろう。その癖、いの一番に退院しおって」
「レックスさんとほぼ同じだったじゃないですか!?」

「あいつはクレイン殿に心配かけさせたくないが為だ。あの男、普段仏頂面の癖にそこだけは分かりやすい」

 あっははは……とサディエルは苦笑いをした、

 今から4日前のこと。
 エルフェル・ブルグ内で国王主催の交流会があり、そこにサディエルはクレインからの依頼で護衛として参加をしていた。

 当時は既にフットマンとしての雇用期間も終えて、あとはこの国を出国するだけの状態だった所での依頼ではあったものの、お世話になったクレインからの頼みであらばと、彼は臨時ヴァレットとして参加したのである。

 そこでの騒動の折、サディエルはレックスと、その交流会で居合わせたバークライスと共に、事件を解決した。
 ……のだが、今回はその後の話である。

「随分、レックスさんと仲良くなったんですね」

「怪我で動けない間は暇だったからな、ついつい話し込んだ結果だ。あいつはなかなかな逸材だよ。クレイン殿には申し訳ないが、バトラーとしておくのが本当にもったいない」
「あー、それ、クレインさんも同じこと言っていました。もっと他の選択肢があるのにと」

「それでも離れないならば、奴のクレイン殿への忠誠心が本物と言う事だろう」
「そうだと思います。レックスさんらしい、と言えばそうですけど」

 くすくすと笑いながら、サディエルはクレインとレックスのことを思い出す。
 凄まじいレベルの信頼で結ばれている主従関係は、彼も初めて見たわけだが、そこまで心の底から思える相手がいると言うのは幸運なことだ。

 血が繋がっている親、兄弟ですらも、時には不仲になり上手く行かないことだってある。
 元々仲が良くても、些細な事でその関係が壊れる事もあると知っている。

 そんな中でも、クレインとレックスの間にある信頼関係は、サディエルにとって驚きであり、尊敬すべき関係性だった。

「3か月ほどの短い間でしたけど、本当に良い主従ですよ」
「なるほどな。ところで、サディエル。お前に1つ頼みたい事があるのだが……」

「頼み事、ですか?」

 何だろうと首を傾げながら、サディエルはバークライスを見る。
 ここで、『もうすぐ出国するのですが』……と言わないあたりが彼なのだが。

「あぁ。実はな、会って貰いたい奴らがいる。そして、出来ればそいつらを連れて旅に出て欲しい」

「………はい?」

 素っ頓狂な声が上がる。

 最も、今回ばかりはサディエルの反応の方が正しい。
 会って欲しい人物がいる、ここまではいい。
 その次『そいつらを連れて旅に出て欲しい』と言う部分が、あまりにも急すぎたからだ。

「えっと、バークライスさん。それは一体、どういう……」
「即決してくれとは言わない。何かと訳ありな奴らでな。まずは会って、それからじっくり決めて欲しいのだ」

 頼むと、頭を下げられてサディエルは困惑する。

(困ったな。正直、俺も今は1人で居たい気分なんだよな。アークのこともあったし、しばらくは同行者とか勘弁して欲しいというか……いや、それ言ったらクレインさんを何で見捨てなかったか、って切り返されそうだ)

 内心困りながらも、今回の事件でお世話になったバークライスの頼み。
 無下にすることは出来なかった。

(即決しなくていいって言われているし、バークライスさんだって無理強いしたいわけじゃないはずだ。会うだけ会って、それから考えよう)

 ―――自分の手に負えないならば、下手に期待を掛けずに断ればいい。むしろ、そう言う時こそハッキリと言えよ! 
 幼馴染にして最近まで共に旅をしていたアークシェイドの言葉が脳裏を過る。
 その忠告を胸に刻み込みながら、サディエルは頷いた。

「分かりました。とりあえず、まず会ってみてから、ですね」
「助かる。お前に会って貰いたいのは2人、名前はアルムとリレルだ」

「アルムと……リレル……ですか。もう少し、情報を頂けませんか?」

 2人の名前を復唱し、しっかりと記憶に刻み付けながら問いかける。

「分かった。まずは、アルムだな。奴は、この国の軍師であるリューゲンの一番弟子になる。彼の噂は聞いているか?」
「なかなかに気難しいながらも、優れた采配をする名軍師、と言う噂なら」

「それで間違いはない。そしてもう1人、リレルについてだ。彼女は大病院の院長を務めるクーリアの愛弟子にして養女になる」
「また有名な……神の手と言われるほどの名医ですよね。放浪癖があることだけが欠点と言う」

 サディエルに言葉に、バークライスは重々しく頷く。

「あの2人も優秀なのだがな」
「天才と言うのは、総じてどこか変なところで抜けているって、レックスさんもボヤいていたな」
「全くその通りだな。本当に、レックスの奴とはいい酒が飲めそうだ」

 ため息を1つ吐き、バークライスは気を取り直して話を続けた。
 今は同僚に対する愚痴を言っている場合ではない。

「あとは、出来れば当人たちに会って、自身の目で確かめて欲しい」
「そう、ですか」

 サディエルは頬をかきながら、どうしたもんかと思案する。
 既に自分の手に負える内容じゃないのでは? と言う考えが広がっていく。
 困っているサディエルを他所に、バークライスは机の上に置いてあった緊急連絡用の水晶を手に取り、どこかへ連絡を取っている。

 しばらくやり取りを続け……

「もうすぐ、アルムとリレルがここに来る」
「え、今から!?」
「そうだ。早い方がいいからな」

 あっけらかんと言うバークライスに、サディエルは自身の頬が引きつるのを感じた。

(いくら何でも急すぎるんですけど、バークライスさん!?)

 必死にツッコミを入れたくなるのを抑えつつ、深呼吸する。

(落ち着け、まず初対面の印象は大事だ。この1歩目でミスると、そこからの挽回が想像以上に難しいからな。よし、大丈夫、いける)

 気持ちを落ち着けた後、サディエルはすぐさま自身の身だしなみを確認する。
 むにっと自分の頬を掴んで、口角を上げて笑顔の準備。

「よし! どんと来いだ!」

 サディエルが気合を入れたその直後、病室内にノック音が響いた。

『バークライス将軍、宜しいでしょうか?』
「大丈夫だ。入りたまえ」
『失礼します』

 ガチャリとドアが開き、同い年か少し下ぐらいの少年少女が2人、入室して来た。

 少年の方は、濃いめの青髪に翡翠の目と言う風貌。
 学士のようなローブを身に纏い、少しばかり面倒そうな表情を浮かべている。

 少女の方は、銀髪の長い髪を一纏めにし、透明な蒼い目をしていた。
 先ほどまで仕事をしていたのか、白衣を身に纏っており、こちらもだるそうな表情をしている。

「バークライス将軍、ご用件は?」
「申し訳ありません、次の患者を待たせておりますので、手短にして頂けると助かります」

「忙しい所すまないな、アルム、リレル。お前たちに紹介したい奴がいる」

 彼の言葉を聞いて、アルムとリレルは何事かと言う表情を浮かべる。
 そして、この部屋にバークライスだけでなく、見ず知らずの人物がもう1人居ることに気が付く。

「彼はサディエル。数か月前から、このエルフェル・ブルグに滞在している冒険者になる」

 バークライスに紹介されて、サディエルは1歩前に出た。
 2人の目をしっかりと見る。
 そのまま出来る限り、安心させようと笑顔を作ってから口を開く。

「初めまして、俺はサディエル。バークライスさんの紹介通り、冒険者をやっている。君がアルムさんで、そちらがリレルさん、だね?」

 2人の視線が、サディエルに突き刺さった。
 明らかに警戒している雰囲気がヒシヒシと伝わって来る。
 例えるならば、警戒心が強い野良犬か野良猫であり、威嚇してこないだけマシ、なレベルであった。

「……そうだが」
「バークライス将軍、彼を私たちに紹介した理由は?」

 一瞬で興味を無くしたのか、2人の視線はバークライスさんに向く。
 既にサディエルはいないも同然の扱いだ。

(うわぁ、前途多難だこれ……)

 早くも白旗上げて、この件を断りたい気持ちがサディエルの中に沸き上がって来る。
 しかし、訳ありだと事前に告知されてもいた。

 この段階での判断はあまりにも時期尚早というモノ。

 良い部分を1つでも見てからでも遅くはない。
 少しだけ見て無理だ、合わない、と思うのは誰にだって出来る。
 だけど、そこから1歩進まないと、相手の良い所も悪い所も分からないし、進歩も進展もしないのだ。

 そう思い直したサディエルは、彼らの会話が終わるのを待つことにした。

「アルム、リレル。お前たちの現状は正直だいぶ危うい状況だ。それは自覚があるな」

「「………」」

 バークライスの言葉に、アルムとリレルは黙り込む。
 沈黙は肯定と受け取ったのだろう。
 2人が口を開く気配がないことを確認してから、バークライスは話を続けた。

「お前たちは優秀で、将来は師の後を継ぎ、このエルフェル・ブルグで活躍して貰おうと思っている。だか、今のままではあまりにも危う過ぎる。そこでだ」

 バークライスは、サディエルに視線を送り……

「当面の間、お前たちの地位を一時凍結する。彼……サディエルと共に国を出て、見分を広め、一回り大きく成長してきなさい。これは、お前たちの為でもある。リューゲン、クーリアの両名からも了承済みだ」

「は?」
「え?」

 アルムとリレルは、信じられない目で見る。
 次に、サディエルに視線を向け……

「こいつと!?」
「見ず知らずの良く分からない方とですか!?」

 容赦ない言葉の刃が、グサグサとサディエルに突き刺さる。
 これが、サディエル、アルム、リレルの出会いだった。
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