オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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外伝 過去と未来の断片集

外伝6-2 彼らの「きっかけ」【2】

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「……あんのクソ師匠。すいません、失礼します!」
「もう手術が終わる時間ですね……問い詰めてあげますよ、義母さん……!」

 凄まじい顔をしながら、アルムとリレルはあっという間に病室を出て行った。
 残されたサディエルは……

「バークライスさん」
「何だ?」

「俺、2人から自己紹介されなかったんですけど……いや、先に名前を呼んだせいかもしれないけど、肯定も否定もされないって」

「………すまない」

 結局、サディエルが名乗っただけ。
 と言う事実に気づいた2人は沈黙する。
 しかし、いつまでも黙ったままでは状況は変わりはしない。

 仕方なく、サディエルは重々しく口を開いた。

「えっと、それで……あの2人を連れて、旅に出ろと」
「そう言う事だ。あいつらは視野が狭すぎてな、少しばかり広い世界を見るべきだと言う結論に至ったのだ」

 バークライスの言葉を聞いて、サディエルは頭を抱える。
 確実に、間違いなく、色々とわざと『抜けている』ことに気がついたからだ。

「あの、いっそ、はっきりと死刑宣告事情の説明をお願いしていいですか?」
「私から宣告すると、不明瞭な部分を残したまま、お前から "断る" と言う選択が奪うわけになるが、それでもいいならば」

「…………」

 一瞬、"それでも構いません" と頷きかけて、それを必死にこらえる。
 彼の脳内にいるアークシェイドが、ガン睨みして来たからだ。

(分かってるってアーク、もう無茶無謀なことはしないって約束したからな。1人旅をすることにした俺を心配して、散々説教してきてくれたわけだし、それを数か月で破るわけには流石に行かない)

 想像上の怒れる親友を必死に宥めつつも、サディエルはバークライスを見て

「……誰に聞けば、確実な詳細が分かりますかね」

 何とか、その言葉を振り絞って出したのであった。

========================

 ―――さっすがに無理! 今の俺の精神状態で!?
 絶対に無理だ、1人ならまだギリギリ何とかなったかもしれないけど、どう見ても旅慣れどころか、旅したことなさそうな2人!
 そうだよ、1人ならまだ何とか守り切れる自信はある。

 だけど、2人は無理すぎる! どう頑張ってもどっちかに空きが出来て、そこを狙われるのがオチだ。

 そもそも、クレインさんの時だって手一杯、凄いギリギリの綱渡りだったわけで。
 じゃあ他の冒険者に協力を仰いでって提案も、"それは無理だ、余計悪化する" って却下だし。
 どう控えめに、最大級に過大評価したって無理だ! あの2人を守りながら旅とか、無理の無理! ―――


 サディエルは先ほどまでの内容を思い返しながら、必死に状況整理をしていた。
 これがミリも顔に出ていないことこそが、親友であるアークシェイドの胃痛の原因であり、後のアルムとリレル、そしてヒロトの頭痛の種になるわけだが、それは未来の話。

 一通り混乱した後、サディエルが取った行動は『詳細な事情の確認』であった。
 今の状態だけならば、無理の一択だが、本当に自分の手に負えないのか、と言う気持ちも残っていたのである。

 ましてや、わざわざ一介の冒険者に未来の重役候補を託すとなると、並みならぬ事情があることだけは事実だ。

 詳細を聞いてしまえば、後戻り出来なくなる可能性は、今以上にグッと高くはなる。
 それも全て織り込み済みで、サディエルは詳細を聞くことを選んだ。

(……俺も、変化が欲しいのかもな。今の自分に納得がいっていないから)

 アークシェイドと別れるまで、彼は周囲を全く見なかったわけではないものの、困った人がいたら躊躇なく手を差し伸べる性格だった。
 それは、幼い頃から両親の仕事を見ていた故。

 彼の両親は、小さいながらも様々な品物を取り扱う店を経営していた。
 店に並べられる品々の入荷には、当然ながら仕入先とのやり取りがあり、互いの信頼関係を元に、彼の両親は自信を持って販売している。

 作り手と、売り手、買い手。

 その3者の間から伸びる、見えない繋がりと、そこから派生する新たな可能性と世界の広がり。
 たった1つ、商品を新たに取り扱うだけで、無限に広がる世界を彼はいつも眩しく見ていた。

『この商品を作るだけで、多くの人たちが長い間試行錯誤を繰り返して、時に失敗して、もっと良い物をと思い、苦楽の末に完成させ、世界中に届くと希望と期待をしている』

 ある日、店に並んだ小さな商品。
 それを手に取り、彼は目を輝かせた。

『その人たちの気持ちに報いたいと父さんと母さんは品物を店に並べる。1人でも多くの人たちに、その商品が素晴らしいのだと、良い物なのだと伝えたくて』

 そのまま、彼は店を訪れる客たちを見る。
 様々な客層の人たちがそこにはいた。

 若い夫婦や、子供たち、老人……本当に多種多様だ。

 そんな彼らが、店に並べられた品々を見て笑顔で語り合い、籠に入れて会計へ向かう。

『そして、買いに来る人たちがそれらを手に取って、笑顔を作る……凄い! 沢山の人たちが、こんな小さな品物で繋がっている。誰が作っているかとか、誰が買ったとかそんなことは関係ない。例え直接見えなくても、笑顔がそこにある……!』

 これが、縁と繋がりを大切にしたいと言う、サディエルの想いの原点となる。

 たまたま居合わせた見ず知らずの人にでも、ついつい手を伸ばしてしまっていたのは、そんな経験からだった。
 ただ、少しばかりそれが行き過ぎて、アークシェイドや当時は地元に住んでいたカインらに色々と叱られたわけだが。

(……せっかくの縁なんだ。うん、そうだ、普通なら彼らと出会う事が無かったんだから、もう少しだけ知ってから決めても、遅くは無いはずだ)

 とは言え、周囲に聞き込みといっても、この魔術省含め部外者は基本立ち入り禁止であり、アルムとリレルに関わる人達にアポイントを取るのは至難の業。
 そこで、バークライスに『お願い』と言う形で、最も事情を知る人物を呼んで貰ったのだ。

「えーっと、ここの角を曲がってっと……あったあった」

 出会いから2時間後。
 サディエルは地図を片手に、とある場所を訪れていた。

 それは、隠れ家的な立地にある小さな喫茶店。

 店の名前に間違いがない事を確認し、彼は店のドアを開ける。
 カランコロン、と来客を告げるベルが鳴り響き、店の奥から店員らしき人物が顔を出す。

「いらっしゃいませー」
「すいません、バークライスで予約している者ですが……」
「はいはい、バークライス様でのご予約の方ですね。お連れ様は既にご到着されておりますよ」

 店員の言葉を聞いて、サディエルはギョッとして店内の時計を見る。
 約束の時間まで、まだ30分以上あることを確認して安堵のため息を吐くものの、彼の心境は穏やかではない。

(俺が先に来て、待っているのが礼儀なのに。もうちょっと早く、いや、それだとこの店の方々にも迷惑だな。それ以前に、結構な重役で仕事も沢山あるはずの人達が、何で俺より早く来ているんだ!?)

 時間にして2秒程度、必死に内心ツッコミを入れながらも店員の後ろを歩く。
 しばらく進み、個室のドアの前で店員が立ち止まった。

 コンコンコン、と軽くドアをノックして、サディエルの来訪を告げる。

「それでは、ごゆっくり」
「はい、ありがとうございます」

 一礼して去った店員を見送った後、サディエルは深呼吸をしてからドアノブを捻った。

 部屋に入ると、老年の男性と年頃の娘を持つにはやや若い女性が居た。
 並びと雰囲気だけならば、魔術省などの面接会場にも見えなくはない。

 ドアを閉めてから、サディエルは一礼する。

「遅れてしまい申し訳ありません。リューゲン様、クーリア様」

「あら、気にしないで。あたしとリューゲン爺様が早く来すぎたのよ」
「そうだな。どうせアルムが突撃して来ると分かっていたから、隠れ場所としては丁度良かったわけだし」
「あたしもそうよ。早めに手術を終わらせて、雲隠れさせて貰ったわ。だから、気にしないで頂戴。君だって30分前に来ているじゃない」

 座りなさい、とクーリアは自分たちの前の席へとサディエルを促す。
 失礼しますと一言断ってから、サディエルは2人に向かい合うように席に座った。

「まずは自己紹介から、ですよね。初めまして、サディエルと申します」

「噂は聞いているわ、バークライスがえらく気に入ってる子がいるって。初めまして、クーリアよ。君が先日まで入院していた病院の院長をしているわ。様付けはやめて頂戴、普通にクーリアと呼んで欲しいわね」
「リューゲンだ。聞いているは思うが、この国の軍師をやっている。それから、私も様付けはやめてくれ。とりあえず、飲み物を頼もう。詳しい話はそれからだ」

「喋っていると、喉が渇くものね。サディエル君、飲みたいものは?」
「え? えっと……」

 メニュー表を渡され、サディエルは慌てて内容を確認する。
 その間にクーリアが店員を呼び、各々が飲み物を注文した。

 飲み物が運ばれるまでの間、黙って待っているのもあれだからと、クーリアがサディエルに対してあれこれ質問を投げかける。

 内容はもっぱら、サディエルの人となりを推し量る内容。
 途中でそれに気付いたサディエルは、内心冷や汗ものであった。

(完全に面接じゃないかこれ!?)

 実際、ある意味では面接に違いない。

「なるほどね~、それでクレイン殿の護衛を受けていたってわけか。うんうん、だいたい分かったわ!」
「変わったやつだな、お前」

「……どう反応すればいいんでしょうか、その評価」

「年の割には達観しているって所かな? その癖、行動原理は直感的で子供っぽい。悪い意味じゃないわよ、子供のように後先考えないで動けるってのは大切なの。大人になればなるほど、そこはブレーキがかかってしまうからね」

 クーリアに見抜かれて、サディエルは体を強張らせる。
 この短い間、しかも僅かな内容でそこまで言われたのは、さすがのサディエルも初めてであった。

「言い得て妙だな、クーリア。私も同意見だ」
「リューゲン爺様も同じ感想かー、あたしの人を見る目もまだまだ捨てたもんじゃないってわけかな」

「……お2人とも、よく見ていらっしゃるんですね」

「まぁね。じゃないと、院長なんて務まらないわよ」
「全くだな。部下の命を背負う以上、必要な情報だ。それを疎かにするのは愚の骨頂というもの」

 リューゲンとクーリアの言葉に、サディエルは思わず関心してしまう。
 同時に疑問が浮かんだ。

(ここまでの人たちの一番弟子、愛弟子の2人が……どうしてあぁいう状態なんだ?)

 少なくとも、この2人の背中を見ているならば、先ほどのような行動は絶対にしないとサディエルは確信した。
 確信したからこそ、状況が理解出来ずに混乱してしまう。

 そんなサディエルの内心を見抜いたのか、リューゲンとクーリアは苦笑いする。

 このタイミングでドアがノックされ、店員が入室しそれぞれの前に飲み物が配られた。
 注文内容に間違いがない事を確認してから、店員は一礼して去っていく。

「さてと、飲み物も来たわけだし、こちらも色々語りましょうかね」
「そうだな。まずは私からでいいか? クーリア」
「どーぞどーぞ、お譲りいたしますよリューゲン爺様。むしろ、代わりに大半を語ってくれれば助かりまーす」

「相変わらず調子のいい小娘だ。さて、それじゃあ少しばかり聞いてくれるかね、サディエル君」
「はい。よろしくお願いします、リューゲンさん」
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