オレの異世界に対する常識は、異世界の非常識らしい

広原琉璃

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外伝 過去と未来の断片集

外伝6-5 彼らの「きっかけ」【5】

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 ―――共同生活を初めて1か月後

「で、こう部隊を動かすとして、これでどうだ!?」
「……雑」

「ざっ!?」
「雑過ぎる、ここをこう動かされるだけで終わる。相当間抜けな軍師でもなければ、すぐに気づく。これでお前の部隊は全滅っと」

 コツンと部隊を模した駒で、アルムはサディエル側の駒を転がした。

「ちょーっとまて! じゃあ、ここでこっちの部隊を」
「後手に回っている時点で、相手の意表を突いて大きな隙を作るような奇抜な策を講じれなければ負けだ。頭の回転がなってない」

「くっそー。5分くれ、挽回策を……あっ」

 ゴーン、ゴーンと家に備え付けられている時計が鳴る。
 時刻は21時、アルムのコアタイム終了の合図だった。

「あっちゃー、今日もダメだったか。じゃあ、明日また再戦ってことで」
「無駄だと思うけど」
「明日までに別の策を考えとくよ。それじゃあアルムさん、お休み」

 ひらひらと手を振って、サディエルはアルムの部屋を出る。
 慌ただしく自室に入り、着替えと出かける準備をした。

(家の鍵よし、荷物良しっと……さて、今日も頑張りますか)

 気合を入れて自室から出て、出来る限り静かに廊下を歩く。
 階段を下りて、念のためにと1階の各部屋に立ち寄り、窓の戸締り確認をし、玄関を出た。
 最後に家の鍵を掛けて、サディエルは夜道を走る。

 目的地は、家から走って10分ほどの距離にある酒場。

 既にお客さんでいっぱいの酒場の裏手に回り、従業員用に設けられているドアを開ける。

「こんばんわ、お疲れ様です。遅くなりました!」
「お、サディエル君来たね。今日は団体予約があるから、忙しくなるぞ」
「うわっ、そうでした。急いで着替えますね!」

 そのまま更衣室に行き、素早く制服に着替えたサディエルはバイト仲間たちに挨拶しながら、調理場へと足を運んだ。

「サディエル、まずはこっちの料理を5番テーブルへ!」
「了解です!」

 荷車に必要な料理と皿、取り箸や替えの水などを乗せて、5番テーブルまで運ぶ。
 到着すると、笑顔で一礼して

「5番テーブルのお客様、お待たせいたしました。こちら、ご注文の若鳥の黒焼き、串焼きの盛り合わせ、冷やしトマトのセロリ塩添えになります。それから、お飲み物の赤ワインとなります、グラスはこちらをお使いください」

 注文票を確認しながら、品物をテーブルに並べて行き、空いたグラスを回収。
 荷車を押して調理場へ戻りつつ、別テーブルからの注文を確認しとせわしなく動き回る。

 それを何度か繰り返し、途中で小休憩を挟みながらも4時間の労働。
 深夜2時を回ると店も閉店し、仲間たちとまかない料理を食べて小腹を満たす。

「では、俺はこれで。お先失礼します!」
「おぅ、お疲れ! 顔色が少し悪いんだから早く寝ろよ、また明日!」

 着替えて仲間たちに挨拶し、サディエルはそのまま深夜の街を駆け抜けて、今度は別の事務所へと入る。

「こんばんわ、お疲れ様です!」
「サディエル君! 来て早々悪いけど今日は荷物が多い、少し給料弾むから、今から動けないかな?」

「大丈夫です、行けます。どこの事務所に運ぶんですか?」
「そこの台車の奴を、北の事務所へ頼む。明日の朝一で配達しないといけないやつだそうだ」

「北ですね、それじゃあひとっ走り行ってきます! ついでに、あちらの事務所からの預かりものがあれば貰ってきますね」
「助かるよ、よろしく」

 指定された荷車を引きながら、サディエルはそのまま事務所を出て、再び街へと繰り出す。
 数キロ先にある北の事業所まで大量の荷物を運び、荷物を引き取ってとんぼ返り。
 持ち帰った荷物を住所ごとに仕分けして、午前シフトの人たちがすぐさま配達開始出来るように準備を整える。

 それが終われば、今度は牛乳瓶が入った箱を取り出し、担当地区ごとに割り振り再び街へ。

 担当地区分を配達し終える頃には、朝の6時を過ぎていた。

「それじゃあ、俺はこれで。お先失礼します!」
「ありがとうよサディエル君。今日も助かったよ! いつもの仮眠時間を潰してごめんな、早く帰って寝ときなよ!」
「いえいえ、また明日!」

 事業所を出て、サディエルは大きく背伸びをする。

「ふあぁぁ……さってと、朝市行って買い物して……っとと」

 歩き出そうとした瞬間、僅かに足がもつれてフラつく。
 軽く咳き込み、眠気を吹き飛ばしてから、サディエルは歩き始めた。

 早い時間から開いている朝市は、活気に満ち溢れ、様々な野菜や果物、肉などの食料品が多く並んでいる。

「今日の安い品物はっと、おっ、そっか、もうこの野菜の時期か。美味しかったら、父さんたちに仕入先候補として連絡しようかな」

 真っ赤に熟したトマトを手に取りながら、サディエルは呟く。

(よし、今日の昼飯か夕飯は、トマトを使った料理にするか。スープか、パスタか、まぁ他の食材見て決めるよう)

 露店の店員に購入の意思を伝え、3つのトマトを購入してそのまま市場を歩く。
 途中で安く仕入れたキャベツやピーマンなどを抱え、サディエルは帰路に着いた。
 鍵を開け、まだ寝ているであろう2人に配慮して、極力音を立てないようにドアを開ける。

「……ただいまー」

 小声でそれだけ言うと、サディエルはリビングダイニングへ向かう。

 時刻は6時30分。
 早い日だと、誰かしらが起きてくる時間帯である。

「さくっと朝食だけ準備してしまうか」

 欠伸を噛み殺しながら、前日のうちに作っておいたパンを取り出して、人数分切り分ける。
 倉庫から小分けにして塩漬け肉を取り出し、軽く塩抜き。
 フライパンを取り出して、野菜と共に軽く炒めてからサンドした。

 2枚目のまな板を重しにして圧力を掛けている間に、こちらも市場で購入した果物を取り出し、人数分に切り分ける。

「これでよしっと。さて、と……次は洗濯物をっと……ふぁぁ」

 再び欠伸をしながら、サディエルは自室へ向かう為に階段を上る。

(さっすがに睡眠時間少なすぎたかな。朝食食べ終わったら仮眠を取ろう……)

 静かに自室に戻り、自身の服とベッドのシーツを持つ。
 両手いっぱいになったそれらを抱えて、サディエルはゆっくりと階段を降り、中段あたりに差し掛かろうとした時だった。

(……あ、あれ?)

 ぐにゃりと、視界が歪む。
 それと同時に感じる浮遊感、そして……あっという間に意識が黒に染まったのだった。

=================================

「ん?」

 着替えを終え、顔を洗っていたアルムの耳に何かが倒れた音が届いた。

「こんな早朝に、物音?」

 眉を潜めて、アルムは部屋を出る。
 音がした方向に進んで、階段に差し掛かったところで、彼は大きく目を見開いた。

「え……は!? おい!」

 アルムの目に飛び込んできたのは、階段の下で倒れたサディエル。
 彼は慌てて階段を下りて、倒れたサディエルを軽く揺する。

「おい、しっかりしろ!」

 うつ伏せの状態から、ゆっくりと仰向けにする。
 そこで、アルムはある事に気がついた。

(ちょっとまて……こいつ、目の下の隈……こんな酷かったか?)

 必死に自身の記憶を手繰り寄せようとする。
 けれど、アルムの脳裏に浮かんだサディエルの顔は……

(嘘だろ、思い出せない。おかしいだろ、毎日こいつと顔を合わせてるだろ、何で、何で思い出せない……!)

「何があったのですか……え!? ちょっと、何が!?」
「僕にもわからない! それより、こいつ……!」

 アルムが唖然としていると、騒ぎに気づいたリレルが姿を現した。
 彼らの状態を見て、慌てて階段を駆け下りる。

「そのまま! どこの高さから落ちたかは分かりませんが、頭を打っていないかだけ……え? 何ですか、この隈」

 2人に近づいた所で、リレルもソレに気がついた。
 彼女の言葉に、アルムは無言で首を左右に振る。

「お前も思い出せないのか」
「………はい。おかしいです、何で………いえ、違います。多分、"見ていなかった" のかもしれません」

「見ていなかった……?」

「彼の顔ですよ! 確かに、私も貴方も毎日彼と話していました。だけど、私たち……"彼の顔を見ながら" 話していましたか?」

 その問いに、アルムは今日までを思い出す。
 そして気づく。

「見ていない……こいつの顔を、見て喋っていなかった」

 この1か月、共同生活をしていた。
 毎日特定の時間はほぼタイマンで話していたし、日中もリビングダイニングで時間を共有していたはず。

 それなのに、思い出せないという事実が2人を襲う。

「とりあえず、彼を……サディエルさんをそこのソファに」
「あ、あぁ」

 2人はサディエルを何とか抱えて、ソファまで運ぶ。
 運び終わった後、リレルはサディエルの体を確認する。

「頭はぶつけていないみたいです。それに、あそこに散らばっているシーツや服、あれが多少のクッションになってくれたのでしょう」
「そう、か……」

「ですが、なんでこんな……寝不足? いえ、彼は貴方との会話時間の後は、自室に戻っているのですよね」
「そのはずなんだが」

 彼らの中では、21時以降はサディエルも自室にいるはず。
 その認識でいたのだ。

「ダメだ、情報が足りない。いや、僕らが知らなさ過ぎたのか……?」
「……彼が起きるのを待ちましょう。話はそれからで」
「……そうだな」

 2人は不安な表情を浮かべながらも、サディエルが起きるのを待った。

 色々聞きたいことがある。
 だけど、どれから聞いたらいいのか、どう切り出せばいいのか。

(……今頃、目の下の隈に気づいた僕らが、わざわざ突っついていい事なのか?)
(顔を思い出せないぐらい、彼を見ていなかった私たちが、何を話せばいいのでしょう……)

 沈黙がその場を支配する。

「あのさ、リレルさん」
「あの、アルムさん」

 ふと、2人は同時に互いに声をかけた。

「そっちから」
「いえ、アルムさんからどうぞ」

「……じゃあ、僕から。こいつが……サディエルさんが起きた時、僕ら、どういう反応すればいいんだろうか」
「貴方も、それを気にしていたんですね」

「そりゃ、な。わからないんだよ、こういう時、どう接すればいいかって。師匠に聞きに行きたいけど、その間にこいつが起きたらって思うと、動けないし。都合よく、師匠が顔ださないもんかな」
「同じです。こういう時ばかりは、放浪癖な養母が都合よく通ってくれないかと思います」

 再び、彼らは沈黙する。
 結論が出ない。

 そんな2人の悩みを他所に……

「ん……あれ、俺……?」

 ゆっくりと、サディエルが目を覚ましたのだった。
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