ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

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「これと~…これか。うむ。エリナに釜を貸していたから久しぶりだな」

 師匠は手に二つの袋を持っていた。
 塩と小麦粉。
 小さい時は師匠と一緒に錬金釜に入れて、長い棒でグルグルかき混ぜていたのを思いだした。よく抱っこしてもらって『ね~るね~る』と言いながら釜をかき混ぜていたのが懐かしい。

「釜を貸して…いた?。ですか?師匠」

「そうだとも。私はお前に釜を貸していたから錬金術をしなかったんだ。気が付かなかったのか?」
 
 確かに、アカデミーに入る前から今日まで数年間師匠はいつの間にか錬金術をしなくなっていたけど、それは私が使っていて、練習していたから、だと思っていた。いつもお酒飲んで街の中フラフラ歩いて、帰って来ては良く寝てよく食べてたのはさぼっていたわけじゃないってこと?

「お前、その顔本当に理解してないって顔だな。…はぁ。確かにこれじゃFランクになってしまっても仕方ないか」

「えへへ・・・。その。ごめんなさい」

「いいか?錬金術師にとって錬金釜は一人一つ。自分の体のようなものなんだ。アカデミーにあるような誰でも使えます。という歴史の浅い安物の量販釜ではなく、本来は錬金術師が師匠の釜を使って初めて錬成し、独り立ちするものなんだ」

 なるほど。言いたいことはわかってきた。錬金術士として私は今日新たな一歩を踏み出した。今まで私は師匠の錬金釜を借りていた。そして錬金術士は自分の釜を持っている。師匠のちょっと真面目な顔。そして今錬金しようとしている姿。そして手に持っているのは…。

「い、いいいいいいやだいやいやいや!!絶対にイヤです!私、そんな釜いりません!!」

「ど、どうしたエリナ?釜?いらない??急に何を言っているんだ?」

「師匠、今私の釜を錬金しようとしてくれていますよね?手に持っているのは何ですか?塩と小麦粉ですよ!食べ物じゃないですか!いくら私がFランクの落ちこぼれだったっていっても、そんな錬金釜ひどすぎますよ!そこまでバカにしないでいいじゃないですか!」

「落ち着け、いいから落ち着け。これはお前のママゴト釜の材料じゃない。それにだ。なぜ私がお前の釜を作らにゃいけないのだ。釜のレシピ、知っているか?町で売られている材料じゃ作れないほど高価で、難しいものなんだぞ?今のお前はFランク、そもそも釜より先になにかやるべきことがあるだろう!!」

ぐはっ、刺さる。お前に作ってやらない、というのも刺さるけど、Fランクのくせに~とか、Fランクが釜持ってても仕方ないだろう、とかいろいろ刺さった。

「うぅ…そうでした。そんな貴重なものが塩と小麦粉でできるわけがないです。でも、師匠はそしたら何を作ろうとしているんですか?」

 自分が小麦粉と塩でできた錬金釜で仕事をしている姿を想像して取り乱してしまった。
 立派なものじゃなくてもいいけど、せめて誰かに見られたときに笑われないような釜を作りたいと思うし、作ったものが全部になっちゃいそう。

「おまえが私にくれた初めての贈り物だ」

 そういうと師匠は優しく笑いながら錬金釜に浮かぶ水面にゆっくりと小麦粉と塩を混ぜていった。
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