ひきこもり娘は前世の記憶を使って転生した世界で気ままな錬金術士として生きてきます!

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 この2日間、退屈だった。シギルたちがこの村に滞在している間、私はルーシーちゃんに、

『万が一村の中で鉢合わせしたらまたトラブルになるかもしれないから、エリーちゃんはぜぇったいにこの家から出たらダメ!絶対にダメ!わかった?あいつらが帰ったらまたすぐに来るから、それまで家にいて!』

 と言われて、窓の外から様子を見たり、ミーちゃんが来ないかソワソワしていたりしていたが、結局誰も来なかった。店の外も静かなもので、いつも人が歩いていたり立ち話をしている人がいるのにこの2日間はほとんどみなかった。

(退屈だなぁ。何にもやることがないなぁ)

 私は店の中に残っていた素材と井戸の水だけで、『虫よけ剤』と『初級回復薬ポーション』をいくつか作って店に並べていた。この間森にミーちゃんと行ったときの材料があって商品がひとつ増やせた。

「エリーちゃん!いる!?」

 店のドアを勢いよく開けると、そこには2日ぶりのルーシーちゃんがいた。

「あ、ルーシーちゃん。ひさしぶり~。ずっとひとりぼっちでつまらなかったよー。もうあの人たちは帰ったの?」

「ついさっきね。…はぁーー。今回は本当に疲れたわ。エリーちゃんごめん、お水ちょうだい」

「うん、ちょっと待っててね」

 ルーシーちゃんはカウンターの椅子に腰かけてお水を飲み干す。ため息をつく事なんてほとんどないのに、珍しいなと思ってみていると、この2日間のことをいろいろ話してくれた。
 とりあえず、今回はいつもの冒険者が違うクエストに出ているせいで村周囲のモンスター盗伐に来てもらう事ができなかった。その代わりに、南の町にある冒険者組合ギルドの方で代わりのベテラン2人組を派遣する、という約束だったのに、なぜかシギルがついてきたこと。シギルはヴェルスターデ南の町の商工ギルド、モルディノ商会のリーダーであるガルデン・ビュリオスの一人息子。シギルは父親とは無関係で冒険者をやっているつもりでも、周囲の目は父親のガルデンに怯えどうしても特別待遇になってしまい、あのようなわがままで独裁的な人間になってしまったそう。今回も本来は村に来る予定なんかなかったものを、冒険者2人に無理やりくっついてきたような形で、ルーシーちゃんのパパはそれを1日前に知らされたから急いで迎え入れの準備をしていた。ということだった。
 ルーシーちゃんが小さき妖精の森ピクシーの森に行くことができなくなったのはそのせいだったのか。

「いやぁ、出だしが最悪だったからどうなるかと思ったけど、無事に帰ってくれてよかった~」

 カランカランっ

「あ、いらっしゃいませー」

 ルーシーちゃんが安堵のため息をつきながらおかわりした水を飲み干したとき、店のドアが開いた。あの3人が帰ったから村の人が来てくれたのかな?

「じゃまするぜ…」

「んぐっ!!」

「えーと。こないだ来た、たしかさん。どうしたんですか?」

 ドアから入ってきた人物を見て水を軽く噴き出し驚くルーシーちゃん。私も驚いたけど、こないだみたいになんかイライラしていないし、まだ話しやすそう。こないだいた2人の冒険者の人も今はいないみたい。

「へぇ……怒らせ方だけは一人前になってきたじゃねぇか。俺はシギルだ。まぁいい。今日はお前に話が合って立ち寄ったんだ」

「わたしに…ですか?」

「あぁ、お前、錬金術士だった言ってたよな。なんでこんなとこ最果ての村にいる?」

「な、なんでって言われても…」

 急に連れてこられて置いて行かれました。とでもいうべきなのか。言っても信じてもらえるだろうか。

「お前はこの村からでて、ヴェルスターデ南の町で店をやらないか?こんなところにいたって、錬金術の無駄じゃないのか?」

「え?ヴェルスターデ南の町でお店、…ですか?」

「そうだ!こんな寂れた田舎の店じゃなく、王国北方でもっとも商業が栄えた街だ。錬金術士もたくさんいる、錬金術の店もある。冒険者組合ギルドもあるし、街の周りには錬金術士がよくいく遺跡なんかもある。こんなちっぽけな村にいるよりもよっぽどいいと思うぜ!」

 シギルは自分の親が取り仕切っている街を自慢げに話しだした。たしかに、この村よりも住みやすかったり、錬金術士としての研究なんかははかどるかもしれないけど…

「お断りします」

「あぁ。そうだろうそうだろう!そりゃあ行きたく…。あぁ?…いま、なんつった?」

「お断りします。私は、錬金術士ですけど、王立錬金術学園アカデミーの成績もFランクで、優等生なんかじゃありませんから、きっとヴェルスターデ南の町に行ってもうまくいきっこありません。それに、このアトリエは、師匠が私の夢を叶えればいい、と言って私にくれた大切な居場所です。この村も、村の人もとっても、親切にしてくれました。ヴェルスターデ南の町なんかよりも、よっぽどこの村はあたたかい場所だって私は知ってます。だから、お断りします」

「はぁ…チッ!下手に出てりゃ調子こきやがって。いいか!黙って俺の女になれ!俺とヴェルスターデ南の町へ行けば今よりもいい暮らしができるし、もっといい立地の店を用意してやる!将来は」

 ため息を吐いて少し考えると、舌打ちしてシギルはカウンター越しに私の前まで来て、私の腕を強引につかむ。

「いいいいいやです!私はあなたと、こ、ここ交際するつもりもありませんし、あなたと今話すことはもうありません。私はどこにも行きませんし、このアトリエの店主ですから!お店も、今の暮らしも気に入ってます!だから、だからやめて下さい!」

 腕をつかまれながらも、私は一歩もそこから動けなかった。私はシギルの顔を泣きそうになるのを我慢しながらずっと見続ける。シギルも私の事をずっと見ていたけど、隣のルーシーちゃんの興味津々な熱い視線が気になったのか、気まずそうに腕を放した。

「あーもう、ダルいわ……こんなガキに時間のムダだな。お前、人間1人だけの力じゃ生き残れねぇって知らねぇのか?ま、せいぜい信じてるこの村の連中やお師匠様に裏切られんなよ」

 カランカランっ

 シギルは店を出ていった。ルーシーちゃんがいなかったら、私は誘拐されていたのではないか。と思うと正直ものすごく怖かった。
「え、エリーちゃん。あのシギル相手にすごいね…。おっかなくなかったの?」

「こ、ここ怖っかったよ。こわいよ!あ、足が震えちゃって…」

 私はその場に座り込む。カウンターで見えなかっただろうけど、私の足はずっと前からガクガクと震えていたんだ。腰が抜ける寸前で、腕をつかまれたときなんて叫びそうだったけど、負けちゃダメだ!って思って我慢したんだ。

「でも、まさか驚いたねー。あのシギルがエリーちゃんをヴェルスターデ南の町に連れていこうとするだけじゃなくて、『俺の女になれー』とか。びっくりしちゃって声も出なかったよ」

「ちょ、ちょっとそれ、わたしで楽しんでませんか?」

「あ、バレた?目の前で告白とかされてるんだもん!びっくりして見てるこっちがドキドキしちゃったよー!」

 あははは!っと笑うルーシーちゃんとは反対に、どっと疲れてしまった。急にヴェルスターデ南の町へ来いとか、俺の女になれとか、『ぶっ飛んでて危ないやつ』っていうのは、本当の事かもしれない。
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